Utopia

 ドアを開けば、暗い室内に廊下の明かりが薄く細く差し込んだ。ドアの向こう側へ音もなく身を滑り込ませて、ドアを閉じる。また、闇が部屋を支配する。この部屋に窓はない。理由は、ここが地下だから。それともう一つ、捕らえた獲物が逃げない為。
 真っ暗でも、特に恐くはない。自分の家だから間取りは把握しているし、昨日からここにいる獲物は、薬で弱らせている上に手錠で繋いでいる。もし万が一相手が何らかの方法で拘束を解いて襲い掛かって来たとしても、力でねじ伏せる自信はあった。だから何の心配もない。
「悟、遅くなってごめん。お腹空いたよね?」
 この薄気味の悪い空間にそぐわない、普段通りの明るく穏やかな声を出す。ドアと反対側の壁側のベッドの上で、黒い塊のように見える朧気な影が、ベッドの上に身を横たえたまま微かに身動ぎするような気配があった。いや、実際に身動ぎしたのだろう。その証拠に、安物の簡易ベッドがぎ、と耳障りな音を立てた。しかし黒っぽい塊から返事はない。元より返事など期待していなかったので、傑はドア横の蛍光灯のスイッチを押した。部屋が薄明るくなる。薄くしか明るくならないのは、蛍光灯の光が弱い所為だ。
 雑然とした部屋だった。壁に沿って本棚が並び、分厚い本が棚を埋め尽くしている。床には資料が散らばり、書き物をする為の机の上には乱雑に積まれたノートと本、それと電気スタンド。書架、もしくは資料室ような印象を受けるのに、ドアの反対側に何故か置かれた簡易ベッドだけが、この部屋の雰囲気にそぐわない。まるで急遽ベッドを運び込んだかのように、この空間から浮いている。
 というか、実際に普段はベッドなどここに置いていない。ここは傑の自宅にある地下室で、客人を迎える為にベッドを運び込んだ。客人というか捕虜。いや、捕虜ですらない。既に必要な情報を吐かせた用済みの元諜報員。通常なら、もう使い道はない。
「悟? ほら、ご飯持って来たよ」
 ベッドの上の塊に向かって呼び掛けながら、一歩近付く。ビク、と、用済みの人間の肩が恐れるように跳ねた。
「……っ、近付くな」
 恐怖に震えそうになるのを懸命に堪えようとしているような声が、嗜虐心を刺激する。傑はゆるりと口端を持ち上げて嗤った。
 力なくベッドに横たわっているのは、えらく綺麗な顔をした長身の男だ。銀色の髪と青い目の、美青年。目は傑を睨み付けてはいるものの、その目の奥に確かに恐怖の色が浮かんでいる。恐い癖に、恐いとは認めない。そういう反応が愉快だし、ぞくぞくする。
「近付かないと、君にご飯食べさせてあげられないでしょ」
 ベッドの端に腰掛けて、悟に起きてと言う。悟は起きない。ただじっと傑を睨んでいるだけだ。今は自国の軍服ではなく、傑が用意した簡素な部屋着のような衣類を身に付けている。何の飾りも模様もない、白い布の上下。悟の皮膚が白いのも相俟って、こうしてベッドに寝ているとまるで末期の患者みたいだ。――その表情は全く病人らしくないが。眼光に手負いの獣のような鋭さがある。怯えを隠す為に、必死に強気を装う。その無駄な努力がいじらしい。
 いいな、と思う。調教し甲斐がある。
 おもむろに悟の前髪を乱暴に掴んだ。
「ッい゛……ッ!」
 ぐっと引っ張り上げれば、悟が顔をしかめて呻く。ぶちぶちと、髪が頭皮から離れる悲惨な音がする。観念したように、そして苛立ったように悟が上半身を起こした。がしゃん、と、耳障りな金属音が響いた。悟の両手に掛けた手錠から伸びる長い鎖が、ベッドの柵に当たる音だ。
「っオマエ、どういうつもりなんだよ!?」
 怒りに顔を歪めた悟の顔の前に、持って来た握り飯を差し出す。悟は面食らったようにそれを見つめ、ほんの一瞬目の奥に飢餓感をちらつかせた。彼は丸一日何も食べていない。そろそろ、理性で空腹を制御するのは難しくなるだろう。
「ご飯食べないと、死んじゃうでしょ?」
 弱い犬ほどなんとやら、という東の某国の諺を思い出しながら、傑はわざと眉尻を下げて小さな子供に言い含めるような言い方をした。当然悟を益々苛立たせることになると、分かっての行動だ。案の定、悟は頭を掻き毟りたくて堪らないというようにぷるぷると頭を振った。蛍光灯に照らされた白い髪が、傑が引っ掴んでいた所為で数本抜け落ちて宙を舞った。
「そうじゃなくて、何でオマエの家に連れて来たんだよ!? もう情報持ってねえ諜報員なんか、さっさと殺せよ!」
「悟、かりかりするのはお腹空いてるからだよ。ほら食べて」
 質問に直接答えるのは避けて、なおもしつこく悟の口元に握り飯を近付ける。悟は意地でも食べない選択をするつもりらしく、唇を真一文字に引き結んで黙り込んだ。傑は溜息を吐いた。大人しく食べるとは思っていなかったので、用意しておいた脅迫をここで使う。
「食べないと、またお薬の注射するよ」
「……っ、」
 脅しは抜群に効いた。悟はびくりと身を竦ませて目を見開き、今や恐怖の感情を隠そうともせずおずおずと傑の顔色を窺う。
 注射、は、十二時間程前に今と同じように悟に食事を与えようとして悟が拒否したので、悟に打ったものだ。媚薬を打って、尻にバイブを突っ込んで、そのまま放置した。だから悟は薬の効果が切れるまでの数時間、耐えがたいような身体の疼きに常に苛まれていなければならなかった。一体何回果てたのか、傑が再び部屋を訪れる頃には悟の下着もズボンも彼の体液でぐしょぐしょに濡れていた。その記憶に新しい恐怖を、身体が鮮明に覚えている。流石は元諜報員。物覚えがいい。
「ほら、食べて」
 微笑んだままで、悟の閉じたままの口に握り飯を押し付ける。観念したように、悟は小さく口を開いた。
「いい子」
 一口、二口と口に含み始めた悟の頭を優しく撫でる。急に優しくされて戸惑ったように目を伏せながら、しかし一度餌を口にしてしまうともう歯止めが効かないようで、悟は無心でむしゃむしゃと米を咀嚼している。あっという間に悟の胃の中に収まって、傑の指先についた米粒まで舐め取ろうとするので、そのまま指を舐めさせておいた。喉も渇いているだろうからと、ペットボトルの水を飲ませる。ごくごくと喉を鳴らして飲むのを眺めながら、たくさん飲ませる。余程喉が渇いていたのか、空になってしまったペットボトルを床に置く。
「美味しい? 悟」
「……いい加減に答えろよ。オマエの目的は何だ」
「目的?」
 本気で意味が分からないというように、小首を傾げて見せる。よく、悟がそうしていたように。自国の軍人と偽って、傑の隊にいた時のように。軍人らしからぬあざとい所作だった。それを真似てして見せれば、悟はまた苛立ったようだった。
「だから、俺のことさっさと殺せよ」
「悟は死にたいの?」
「……っ死ぬ以外に、もうどうも出来ねえだろ!」
 正体がバレた諜報員など、ましてやもう情報も吐いてしまった捕虜になど、生き残る術はない。用済みだと敵国の人間に殺されるか、例えその運命から逃れられても、自国へ帰還すれば敵に情報を売った裏切り者とされ処刑だ。生き残る方法も、帰る場所もない。なら殺せ。それが悟の望みらしい。
 確かに、傑も悟を殺すつもりだった。敵国の諜報員など生かしておいてもデメリットしかない。せいぜい薬漬けにして男しかいない軍隊の慰み者にでもして、廃人になれば廃棄すればいいだろうと思っていた。だが――悟は、拷問に耐えた。正気を保っていた。強い目で傑を睨み、殺せと言った。だから自宅に連れ帰った。殺せと言われると殺したくなくなるから。傑は天邪鬼だから。
「殺せ殺せって……君は死にたがりのメンヘラなの? 精神安定剤が必要みたいだね」
 ベッドの横にある棚の抽斗の中からアンプルを取り出す。悟の顔がさっと青ざめた。声を上げて笑いそうになる。
 傑の発した言葉や一つの動作だけで、悟は簡単に表情を変える。それが愉快で堪らない。だからもっと追い詰めたくなる。極限まで追い込んで、その綺麗な顔が恐怖や絶望で歪むのを見たい。
 ――だからだろうか。己の歪んだ欲望の為だけに、用無しの元諜報員を持ち帰ったのだろうか。これまで自分は至極まともな人間だと思っていた。捕虜を拷問することもあったが、それは仕事と割り切っていた。上からの命令でそうしていただけだ。自分の意思ではない。だが、悟に対する加虐心を抑えられないという理由で彼を自宅に監禁しているのだというのなら、それは常軌を逸している。
「これで、少しは大人しくなるかな?」
 透明な薬液が、注射器の管の中でゆらゆら揺れる。針の保護キャップを外す。蛍光灯の光を針が反射するのすら、悟には不気味に見えるのだろう。悟にはもはや見慣れた物だから。打たれるとどうなるのか、彼は既に知っている。
「な、んで……っ、食べたら注射しないって、」
「うん? 食べないと注射するとは言ったけど、食べたら注射しないとは一言も言ってないよ」
 小首を傾げ、しれっと嘯く。悟の目に絶望の色が浮かぶのを見て、口元が歪む。堪らなくそそる表情だと思った。そういう顔をもっと見たいと思った。欲望に歯止めが利かない。ブレーキを掛ける必要もない。ここは軍部ではなく、自宅なのだから。
「……ッや、」
 悟の腕を掴んで袖を捲り上げれば、悟は引き攣ったような声を出して身を捩った。手錠から伸びた鎖がじゃらりと耳障りな音を立てる。
 今度こそ、喉の奥から低く暗い笑い声が出る。悟の白い手首には細く赤い痕がくっきりと浮かび上がっている。少し血が滲んでいる箇所もあった。手錠が皮膚に擦れた所為だ。手首の少し上辺りに、赤く刺された痕跡のような腫れがある。それが十二時間前に打った注射の針の痕だ。
 正体がバレるまで、彼の腕の皮膚は滑らかで傷一つなかった。それを台無しにしたのが自分だと思うと、得も言われぬ愉悦と興奮にぞくぞくと背筋が震えた。――もっと、酷くしたい。綺麗だから。綺麗なものは、汚くしたい。汚くしたい。台無しにしたい。汚くする程、最初よりも綺麗だ。
「すぐ、る……っ!」
 鋭利な針の先端が、つぷりと悟の皮膚に埋まる。悟はぎくりと身を強張らせるが、抵抗しない。いや、正確には出来ない。軍部での拷問以降、ろくに休息を与えられていないのだ。体力の消耗が激しい。単に無抵抗な理由はそれだけなのに、大人しく傑に服従し、身を差し出しているかのように錯覚する。傑はぺろりと下唇を舐めた。
「ッあ゛……っ!」
 注射器のポンプを押し込んで薬液を体内に流し込めば、悟が吐き気を催したようにぶるりと身を震わせた。嫌悪感に掠れた声が、まるで苦痛と紙一重の快感に必死に耐えている男娼のようだ。誘っている声にしか聞こえなくて、下腹が鈍く痺れる。
 怪しい薬を全て悟の血管に注入し、針を抜く。悟は力が抜けたようにぐたりと壁に身をもたせ掛け、唇を引き結んで俯いた。だが、傑が注射器を片付けている間に、徐々にその唇が解けていく。は、は、と吐き出す荒い息が、静かな室内にいやに大きく響いた。肩が小刻みに震えている。首筋に触れれば、熱くて皮膚が汗ばんでいる。そして少し触れただけで、大袈裟なくらいにビクリと身体が跳ね上がる。
「や……っ♡さわ、るな、」
 声がやけに艶っぽく、妙に甘ったるく何処となく媚びを含んでいる。
「あれ? 大人しくなったかと思ったけど、相変わらず口は達者だね」
 指を首の皮膚につつと滑らせて、おもむろにぐっと顎を掴んで持ち上げる。無理矢理顔を上げさせられて、悟がすぐに顔を背けようとした。すかさず前髪を引っ掴んでそれを阻止する。白く手触りのよい髪は、額に浮いた汗に濡れていた。潤んだ青い目と目が合う。
「も、離、せよ……っ!」
 涙の浮いた目が、精一杯傑を睨んでいる。睨みを利かせて怯ませようとでもいうのか、全くの逆効果だ。さっきまで青ざめていた顔は赤く染まり、目尻も唇も濡れている。視線を下にずらせば、ズボンの白い生地を、押し上げている悟の中心が目に入る。
「はな、せって……ッどっか行け、ッや♡あ゛っ……♡」
 空いた方の手の指を、布の上から性器に這わせる。軽く触れただけで悟は甘く掠れた声を上げた。びくびくと身を震わせて、戸惑ったような表情を浮かべる。さっき、この薬の所為でじくじくと身体が疼いたまま数時間放置された時の傑は薬を打ってすぐに出て行ったのに、まだ出て行かないどころか身体に触れて来る傑の行動に困惑しているらしい。
「なん、で……っひあ♡あ゛ッ♡だめ、」
 はっきりと勃ち上がって形を主張しているものを、布ごと握り込んで扱く。悟は身を捩っていやいやと首を横に振った。髪が手の中から滑り落ちて、ふるふると揺れる。髪でまた顔が隠れる。気に入らないので、悟の肩を掴んでぐっと後ろに押した。あっけなく倒れ込んだ身体がベッドに沈み込み、どさりと鈍い音と、じゃら、と鎖が金属音を奏でた。
「や、だ……ッ♡すぐ、る♡」
 下着ごとズボンをずらせば、硬くなったものがぶるんと飛び出す。歳の割には幼い色をした亀頭が露出して、表面を薄く覆った先走り汁が蛍光灯の光に反射している。
「何処がだめなの。触って欲しくて仕方ないんだろ」
「ちが、う、ッあ゛っ♡♡待ってやだ♡ひう♡あ゛ッ♡♡」
 先端に指を這わすとくちゅりと濡れた音が木霊した。どぷっと溢れ出た透明な蜜を、弱い部分に執拗に塗り込めながら下着もズボンも片足から抜き取る。薄ピンク色をした亀頭が濡れた傑の指に媚びるように吸い付いて、ビクッ♡ビクッ♡と悟の腰が期待するように何度も跳ねた。さっきアンプルを片付けるタイミングで抽斗から取り出したローションのボトルを傾けて、とろみのある液体で悟の性器をべとべとにする。冷たさに悟が身を竦ませるが、竿を容赦なく扱いてやれば、悟は悦楽に蕩けたような顔をして熱い息を吐き出した。
「あ゛っ♡♡うあ♡ひ♡」
 ぐちゅ♡ぬちゅ♡と卑猥な音が部屋に響く。先端からとろとろと零れ出た先走り汁がローションと混じり合い、竿を伝い落ちていく。膝の裏側に手を差し入れて足を開かせるのにも無抵抗で、大人しく大きく足を開いた悟の性器の更にその下の、後ろの穴まで眼前に暴いてやる。とろみのあるローションに濡れた穴が、ひく♡ひく♡と収縮しながらそこに何も埋まっていないのを寂しそうにしている。
「すぐる……っ♡やだ♡♡も、もうやだ……ッ♡」
「強情だな。嫌ならやめる?」
 ぐす、と泣きながら拒否するから、わざと突き放すように言った傑が性器から手を離そうとすると腰を前に突き出して手に勃起を擦り付けて来る。言葉と行動が噛み合っていなくて、思わず喉の奥から低い笑い声が漏れ出た。
「や、めないで……♡もっと、あ゛ッ♡ん、あっ♡あ゛ッ♡♡♡」
 存外に素直に可愛いことを口にして、淫猥に腰を前後に動かしながらすりすりと手に性器を押し付ける。潤んだ目が、先をねだるように傑を見上げる。下腹が重くじんと痺れるのを感じながら、ローションと先走り汁とで濡れた指を、ひくついている後孔にずぷりと埋め込んだ。
「あ゛……ッ♡♡♡ひ♡そ、そこおっ♡らめ゛♡あ゛ッ♡♡」
 びくびくびく♡と腰が跳ね、ずっとバイブに責め苛まれていた所為かまだ柔らかく熟れたままの穴の中で指を蠢かす度に、中の粘膜が指に絡み付く。男の悦ばせ方を知っている娼婦のような孔に、指を根元まで突っ込む。二本目の指も易々と呑み込んで、きゅんきゅん♡と収縮を繰り返す穴は、もはやどう見てもメスの器官だ。
「悟のここ、もう立派なまんこだね。指突っ込まれて嬉しそうに腰振って……とても前は軍部にいたなんて思えないよ」
「や♡あ゛ッ♡まんこじゃな、ッあんッ♡らめぇ゛っ♡♡♡」
 ぐり♡ぐりゅ♡と指で硬くしこった場所を押せば、悟はビクン♡ビクン♡と痙攣しながら触れずに放置されたままだった性器の先からびゅる♡と白濁を零した。そこが気持ちいいと、認めているも同然だ。射精しても構わずに前立腺を指でしつこく何度も擦る。こりこりと捏ねて、かりかりと引っ掻く。恍惚と絶望が入り交じったような苦悶の表情で、悟は断続的に精液をびゅくびゅくと吐き出した。
「あ♡う……ッ♡やら♡も、もう出ない♡♡やだあ゛っ……♡」
「もう? もっとたくさん出るでしょ、さとる」
 ずるんっと指を引き抜くのでさえ快感と認識してしまうらしい身体が跳ねる。己のベルトを緩めて前を寛げれば、既に臨戦態勢の雄が血管を浮き上がらせ、黒ずんだ亀頭を先走り汁で濡らしている。飢えた獣の涎のように。決して飢えている訳ではない。だが、この用済みの捕虜が辱められているのを見るとこうなってしまう。
 流石に、悟が色を失って狼狽えた。今までに散々陵辱して得体の知れない機械で弄んだが、悟に挿れたことはない。既に機械で穴を何度も犯されているのにそういえばまだ処女だったというのが、余計にいやらしいと思った。そんな風に悟を弄んでしまったのは自分だが。罪悪感も後悔もない。悟は敵国に自国の情報を売ろうとした元諜報員だ。
「や、だ……っ♡す、すぐる、待って無理、」
 ずるずる後退しようとする腰を引っ掴んで引き寄せて、指二本分の太さを記憶したままぽかりと空いた後孔に、己の猛ったものをぐっと押し当てた。強張る表情とは裏腹に穴は先端にちゅ♡と吸い付き、奥へ誘い込もうとする。ぐぷりと先端を埋め込む。
「あ゛……ッ!」
 悟が恐怖に目を見開いた。ぞくぞくするようないい表情だ。自然、薄らと口元を歪める。
 緩んだ穴に簡単に入るだろうと思っていたが意外にきつい。まあ、所詮これはただの性欲処理だ。処女だからゆっくり優しくするなんて気遣いも敵の犬には不要だろうと、切っ先だけを埋め込んだもので、そのまま一気に奥まで貫いた。
「あ、あぁ゛ッ!? ひ♡痛、ッあ゛ッ♡やら♡♡♡」
 悟が悲鳴を上げ、ビク♡ビク♡と身を震わせる。汗が額に浮き、目からぼろぼろと涙が零れ落ちている。きゅう♡と埋めたものに襞が吸い付くのが、堪らなく気持ちいい。思わず口から熱い息が漏れる程には。
「い、あ゛ッ♡いだ、ッも、やめ、ッあ゛ッ♡」
 痛いというのはもしかしたら嘘かも知れない。後ろはさっきからきゅうきゅうと締め付けて吸い付いて、射精して萎えていた筈の性器がゆるく勃ち上がって、軽く揺すぶる度にぶるぶると揺れ動いている。あれだけバイブで開発し尽くした上、媚薬まで盛られて、本当に痛いとは思えない。咄嗟に口走った嘘だろう。
「痛い? さとる」
 そんなつもりはなかったのに、気遣うような口調になった。自分でも何故なのか分からなくて、気遣ったような素振りを誤魔化すように、乱暴に抜き差しを繰り返す。ぐぷぐぷと濡れた音がする。肉を割り開いてみちみちと太いものを埋めるのは、思った以上の快感が得られた。ひょっとしたら、女よりもイイかも知れない。悟が身を捩る度、手首が手錠に擦れる自傷の痕のように痛々しいミミズ腫れが、白い肌に浮き上がっている。
「い、だい……ッう、あ♡あ、あぐ、」
「の割に、勃ってるけど」
 性器につつと指先を這わせ、ローションと先走り汁と精液の残滓とで汚れた先端をくりくりと弄る。赤くなってぷくりと腫れ上がった亀頭を虐められて、悟が快感に蕩けたような顔をして身を仰け反らせた。
「んッ♡あ、あう♡♡♡らめ♡ひい゛ッ♡」
 亀頭を左右に割り開き、奥の小さな穴を暴き、くちゅくちゅと卑猥な音をさせて敏感な場所を嬲る。悟は恍惚の表情で涎を垂らし、連動するみたいに後ろをきゅっと締め付けた。一旦浅い場所まで引き抜いた怒張の先で、膨らんだ前立腺をこりこりと刺激する。どぷどぷと溢れ出る先走り汁が、傑の指を汚しながら垂れ落ちてシーツに染みを作った。
「きもちい? さとる」
「よく、ないい゛……っ♡はあ♡あッ♡♡や゛♡んッ♡♡♡」
「つくなら、もう少しマシな嘘にしたら」
「うそ、じゃない゛……っあっ♡んッ♡あ゛っ♡らめ、」
 ごりゅ♡ぐりゅっ♡♡♡と酷い音をさせて、前立腺を抉る。亀頭で押し潰すようにして、ずりずりとカリの部分で擦り上げる。身悶えながら、悟がまた精液を吐き出した。
「あ゛ーッ♡♡♡らめ♡イッてりゅ♡♡♡ごりごり、らめ゛♡♡ん゛あ、あ゛ッ♡♡やう♡♡♡」
 びゅっ♡びゅっ♡と弧を描いた白濁が、びしゃびしゃと悟の腹や胸に掛かる。ビクンビクンと何度も腰を跳ねさせて、悦楽に浸る間もないまま、混乱したように悟がひゅっと息を呑んだ。傑を見上げる涙で濡れた目に、恐怖の色が滲んでいる。
「すぐ、る……ッ、あ、ッねえ、か、かゆい、」
「どこが?」
 悟を苛つかせる為だけに、ゆるりと小首を傾げながら訊く。勿論、何処が痒いのか分かっている。自分が仕掛けたのだから。小さな錠剤を管に直接流し入れて、耐え難い程の痒みに襲われるように仕向けたのは、傑だ。
 悟は焦燥感に駆られたような顔をして、はく、と震える吐息を吐き出した。目を逸らして黙り込む。すす、と下唇を撫でると、びくんと肩を跳ねさせるのが、嗜虐心に火をつける。
「……っ」
「言ったら掻いてあげる」
 優しく、ねとりと耳元で囁く。極上の餌をちらつかせるように、竿で前立腺を擦りながら、ゆるゆると亀頭を撫でる。萎えずに勃ったままの前が、その奥が、痒くて痒くて仕方ないのだと訴えるように、悟が腰をもぞもぞと動かした。
「は……ッ♡ふ、」
「言わないの?」
 ぐりっと指先を穴にめり込ませて、抉る。とどめの一撃に、ギリギリのラインで保っていた理性が崩壊した。悟が耐えかねたように喉を反らした。
「あ、あ゛っ♡やあ゛ッ♡♡かゆい♡ちんこのなか、かゆいい……ッ♡♡♡掻いて、お願い♡♡♡すぐる♡」
 お願いと泣きながら、性器の先を指に擦り付ける。中を掻く、というのがどういうことか、分かっていても強烈な痒みには耐えられないのだ。狭い管の中に棒を差し込まれてイけなくなるのだと、分かっていて自分からそれをねだる姿に劣情を煽られる。可愛いなと思ってしまう。ぞくぞくと背筋が痺れる。
「はは。そんなやらしいことねだる諜報員なんて、何処探しても悟以外にいないよ。ああ、悟はもう諜報員じゃなくて娼婦だったよね」
「ち、がう、誰が、」
 細く、不気味に光る銀色の棒。びっしりと生えた細かい突起が棒の表面を覆っている。取り出したそれを、ひくつく悟の尿道口に近付ける。自分からねだっておいて恐怖に息を呑んで逃げようとするから、腰を思い切り突き出して深い場所をぐりっと抉った。
「っひ♡あ、あ゛……ッ♡」
 抵抗する意思を根こそぎ奪われたかのように、悟がぐたりとベッドに身を投げ出す。絡み付いて来る粘膜の熱さに、今すぐぐちゃぐちゃに掻き回してやりたいのを堪えながら、細い尿道バイブの先端を尿道口へと押し当てた。ひやりとした金属質の感触に身を竦ませる悟の狭い管の中に、ずず♡とバイブの先端を数センチめり込ませる。
「あ゛ッ♡♡あっ♡♡らめ♡あ゛ー……っ!?」
 ず♡ぬぷ♡ぬぷぷ♡♡♡
 奥へ奥へと狭い場所を暴いてバイブを押し込めば、悟は口端から涎を垂らしながらがくがく身悶えした。イッてしまったかのように身体が震えるが、勿論精液の出口を棒に塞がれている所為で、白濁液は一滴も出せない。身体から少しでも快感を逃そうとでもしているのか、後ろをきゅんきゅんと何度も締め付ける所為で、暴発してしまいそうな己の欲を押さえ込まなければなからなかった。しかも後ろを締め付けた所為でそこに埋まっているものの質量をダイレクトに感じてしまうのか、悟は蕩けたような顔をして塞がれた尿道口とバイブの隙間からたらりと透明な蜜を零した。
「ひあ、あ゛っ♡だめ♡♡ちんこあつい♡ひい゛ッ♡♡♡」
「……っさとる、気持ちいい? もしかしてイッてる?」
「はぁ゛っ……♡わ、わかんな、い♡でもイッてう、みたい♡♡きもちい♡♡♡なか、とけそう♡♡♡ああ゛ッ♡♡♡」
 ぐちゅんッ♡と性器を深くまで突き刺してやれば、悟は言葉の途中で甘く媚びるような喘ぎ声を上げた。撹拌するようにぐりぐりと掻き回す。首を横に振りながら、無意識なのか悟が手錠の所為で思うように動かせない腕を無理に伸ばして傑の腕をぎゅっと掴んだ。
「や……ッ♡も、うごかないれ♡らめ゛♡♡あ゛ッ♡んあ、あ゛ッ♡」
 弱い場所を暴いて一方的に嬲るのは、言葉にし難い快感だった。征服し、支配し、服従させているという悦楽。ほの暗い愉悦が満たされる。にも関わらず、すぐに飢える。もっと虐めたくなる。水が満たされたと思う傍からまた干からびていくかのように。
 足りない。
 恐ろしい程の飢餓感に自分でも戸惑いながら、悟の背中に腕を回して抱き起こす。今や従順な飼い犬のように大人しくなった悟は、殆ど力の入らない上半身を傑が引き起こすのに抗わず、それどころか傑に従うようにのろのろと身を起こした。
「うあ♡あ゛ッ♡♡ひ♡♡あ……っ」
「自分で動かしてみて」
 繋がったまま向き合って座り、ねえ、と耳に息を吹き込むように囁きながら、手錠に繋がれた悟の手を性器に突き刺さった細いバイブへと誘導する。悟が驚いたように目を見開いて、ふる、と首を横に振った。
「や♡あ、でき、ない……っ!」
「もっといっぱい注射する?」
「や、だ……っ♡あ、あ゛ッ♡ああ、う♡♡」
 低い声で脅しを利かせれば、悟はさっきよりも激しく頭を振って、そろそろと尿道バイブの先端を掴んだ。服従するしか道がないと、観念したように唇を噛み締める。奥まで入り込んだ細い棒を、ず、ずず……♡とゆっくりと引き抜きながら、悟の顔が苦悶に歪んだ。噛み締めた傍から唇が綻んで、いやらしい声が漏れ出ている。
「はあ、あ……ッ♡なか、こひゅれて、あ、あ゛ッ♡♡♡きもひ、いい……♡」
「抜いちゃだめだよ」
「はあ♡う、あ♡いぼいぼ、きもちいい、すき♡♡あ♡あ゛ッ♡」
 後少しで全て抜けるという場所まで抜け出ていた尿道バイブを、悟の手ごと掴んでまた奥へ押し込む。外へ出掛かっていた精液をまた押し込まれる感覚にビクッ♡ビクッ♡と腰を痙攣させながら、悟が後ろを締め付ける。仕返しとばかりにぐぷりと埋まった楔で奥を突いてやれば、悟はイッてしまったかのようにがくがくと痙攣を繰り返した。
「や♡らめえ゛ッ♡♡ふあ、あ゛っ♡♡♡」
 溶けた砂糖菓子のようにどろりと甘ったるい声で啼きながら、悟が涙を零す。腰を掴んで奥へ亀頭をねじ込んで、絡み付いて来る粘膜を何度も穿った。耐えかねたように悟がバイブから手を離し、じゃらりと金属音を響かせながら枷の付いた腕を伸ばして傑にぎゅうと縋り付いた。わざと呆れたように笑いながら、悟の汗で濡れた前髪を梳く。髪で少し隠れていた目に涙の膜が張っているのが露わになり、ぞくぞくと痺れるような感覚が腰に走った。
「さとる、痒いとこ、自分で動かして掻いて」
 おざなりになったままのバイブを動かせと指摘するが、悟はいやいやと首を横に振りながら傑の肩を掴む手に力を込めた。
「も、無理ぃ゛ッ、すぐる、」
「無理かどうかは、悟じゃなく私が判断するんだよ」
 静かに手を伸ばし、ぱちん、と、尿道バイブの先に付いた小さな摘まみを指先で弾く。ひ、と悟が引き攣ったような声を漏らした。――この音が、引き金になると身体が覚えている。さながらパブロフの犬だ。
「はあ、あッ♡♡♡らめ、あ゛ッ♡やだぁ゛ッ♡♡ひあ、あ゛ッ♡♡♡」
 ヴヴ、と細かく振動し始めた尿道バイブが、狭い尿管の中を隙間なくみちりと埋め尽くしたままで悟の敏感な内側を徹底的に蹂躙する。表面を覆ういくつもの突起が粘膜をごりごりと刺激し、快感だけをひたすら与え続ける。バイブが邪魔でイくことは叶わないままで、イッてる時そのものの快感だけを延々と享受し続ける羽目になる――想像しただけで、拷問だと容易に分かる。目の前の相手が今そんな拷問を受けていて、そしてそれを受けさせているのは他でもない自分だ。くく、と思わず笑い声を漏らしてしまう。
「あ♡♡あ゛ひい゛ッ♡♡♡やら♡も、抜いてぇ゛……っ♡♡おね、がい゛♡♡」
「まだ痒い? もっと掻いてあげるよ」
「も、かゆ゛く、ない゛、から゛、あ゛あ゛ッ♡♡♡」
 ゆるりと小首を傾げながら、悟の性器を片手で掴みもう一方の手でずぷずぷと細いバイブを出し入れする。粘膜を念入りに突起でざりざりと擦り上げ、ぐるりと円を描くように撹拌する。穴が僅かに拡がって、こぽりと濁った先走り汁が滲み出た。後少しで全て抜けるという場所まで移動させて、全て抜くと期待させてからまた奥へ押し込む。その時の悟の絶望と快感と屈辱に染まったぐちゃぐちゃの顔が可笑しくて、何度もそれを繰り返してしまう。
「ひいッ♡やだやだ♡♡♡すぐりゅ♡イきたい♡イかせて♡♡も、やだぁ゛っ♡」
「……おねだりの仕方がなってないね、さとる。まだ注射が必要かな?」
 悟の顎を掴み、意地悪く微笑みながら目を覗き込む。もはや『注射』という言葉を聞いただけで我を忘れるのか、悟が目を見開いて息を呑んだ。ひぐ、と、空気を呑み込み損なったような奇妙な音が悟の喉から発せられる。
「っあ、……っイ、かせて、くらさい♡おねがい、します……ッ♡♡♡はあ、あ゛ッ♡♡♡」
 透明感のある青い目からぽろぽろと涙が零れる。すぐる、と舌足らずで呂律の怪しい声が名前を呼ぶ。助けを求めるように傑を見る目と目が合う。腰の奥が、鈍く痺れた。頭の奥も、じんと痺れた。思考が一瞬麻痺したかのように。
 この男のことが、よく分からない。
 麻痺した筈の頭の別の場所が、冷静に考える。
 ……何故、名前を呼ぶのか。用済みの諜報員を生かして監禁などしている異常者に対して。
 何故、縋るような目で見るのか。いや、見るだけに留まらず、実際に縋ってさえいる。優しくされるのを望んでいるみたいに。敵国の犬になど、優しくする筈がないと分かりきっているのに。――いや、逆かも知れない。目の中に浮かぶ怯えと期待は、酷くされるのを望んでいるからだろうか。
 ――まあ、何を望んでいるにしても優しくするつもりなどないし、この男の本心などどうでもいい。飽きるまで遊んで、飽きたら、或いはこの男が廃人になればその後は、――廃棄だろう。良心も痛まない。痛むべき良心など持ち合わせていないから。
 半分程埋まった尿道バイブの先端をそっと掴み、ゆっくり焦らすように、引き抜く。その動きに合わせて精液が競り上がって来るのを悟に認識させるようにゆっくりと。あ、と悟の唇の間から中途半端な声が漏れた。期待と恐怖とが綯い交ぜになったような目が、傑の指の動きを追う。もうすぐ全て抜けるという場所で一旦動きを止めれば、また押し込まれると思ったらしい悟がひ、と情けないような声を漏らした。
「す、ぐる、」
 奥へ埋めてまた虐めたくなる衝動を抑えて、一気に引き抜く。同時に、己の怒張で悟の前立腺をごりっと削り取るように抉る。ちょろ、と悟の性器の先から薄黄色の液体が少量零れるが、悟の腰を掴んでごちゅ♡ぐちゅっ♡と奥を突くと、今度は濁った精液がどろりと垂れ落ちた。
「ッあ゛♡♡♡やぇ゛、ッうあ、あ゛ッ♡らめ゛ぇ♡♡♡」
「っく、」
 きゅうきゅうと締め付ける内壁の動きに耐え切れず、どくどくと悟の中に欲望を注ぎ込む。快感が、危険な麻薬のように全身を巡る。射精に満足するどころか、まるで凶暴さに拍車を掛けるかのように、飢えが酷くなっていく。
 悟の肩を掴んでベッドに乱暴に押し倒した。ぎ、とベッドが軋む耳障りな音と、悟の腕から伸びる鎖がじゃらりと鳴る金属音とが不協和音を奏でる。抜かないまま、更に奥を無理矢理こじ開けるように腰をぐっと前に突き出した。苦しげに悟の顔が歪む。
「や……ッ♡ひ♡何、ッあ、あ゛ッ!?」
 片足を掴んで高く上げさせながら、ごちゅごちゅと奥を穿つ。力なく垂れ落ちるように射精していた悟の性器からは、びゅるびゅると勢いよく白濁が飛んだ。弧を描いて悟の腹に飛び散る。さっき中に出した精液が、己のものに掻き混ぜられて悟の体内でごぷりと濁った音を立てた。
「ま、って♡いまむり♡イッてう♡♡♡あ゛ッ♡♡♡イッてう♡♡♡」
 舌足らずな声が劣情を煽る。イッてると何回も訴える言葉通り、奥を突く度に精液がびゅくびゅくと飛ぶ。飛距離があり過ぎて、悟の白い頬にまで掛かっている。
「も、う出ない……っ♡れない、からあ゛っ♡やら゛……ッ♡」
 顔をしかめる悟の頬に手を伸ばし、親指でべたつく白濁を頬に塗り付けた。顔を背けようとするので、ずっと喘いでいる所為で開いたままになっている口に精液で汚れた指を突っ込む。舌の上に広がる不快な味に不味そうに歪んだ顔を眺めながら、何度も突いて少しずつ緩んできた場所に亀頭を押し付ける。ぐぐ、とこじ開けるように動かして、更にその奥へと入り込もうとする。
「あ、ぐ……っ、くる、し、ッひ♡やめ゛、」
「勘違いしないで、さとる。……君に拒否権なんて、ないんだよ」
 優しい声で優しくないことを言う。最奥の入り口にぴたりと押し当てた亀頭を、僅かに開いた狭い隙間に向かって一気にねじ込む。ぐぷんっ♡♡♡と奇妙な音が鳴った。
「――ッあ、あ゛ー……ッ♡♡♡♡」
 何が起きたのかも分かっていないような低い経験値しかない癖に、悟の身体は従順にビクビクと反応した。そこで快感を拾おうと、入り口の粘膜がきゅんきゅんと健気に亀頭に吸い付いて来る。びゅく♡と薄くなった精液が飛んで、悟の綺麗な顔をまた汚した。今や涙と涎と精液でぐしゃぐしゃに汚れた顔が、とても汚くて綺麗だ。一種の芸術作品であるかのように。
 己の作り上げた作品に陶酔するような気分で薄笑いを浮かべ、結腸の入り口のリング状になった部分にぴたりと嵌まり込んだカリ首より先を、軽く前後させる。入り口をずりずりと通過する度に、ぐぷぐぷと奇妙な音が鳴る。身を捩って逃げようと無意味な行動に走る悟の腰を押さえ込んで、気持ちいい場所に気持ちいい感覚だけをひたすら叩き込む。
 ぐぷっ♡ぬぷっ♡♡ぬちゅ♡ぐちゅっ♡♡♡
 ビクンッ♡ビクンッ♡ビクンッ♡ビクンッ♡
「や、だ……っ♡すぐりゅ♡♡そこらめ゛、ッひ♡あ、あ゛ん゛ッ♡♡おぐ、やらあ゛ッ……♡」
「勃たせたままそんな淫売みたいな声出して、何処が駄目なの」
 だめ、と言いながら甘い声を上げ、勃ったままの前から先走り汁をとろとろと零すから、まだ拡がったままの濡れた尿道口に指の腹をゆるゆると這わせた。悟が目を見開き、腰を跳ねさせた。鈴口が指に食い込む。
「っだ、め、ッあ゛あ゛ッ……♡」
 ぶしゃ、と指と鈴口の間に出来た僅かな隙間から透明な飛沫が散った。緩んだ小さな穴をすりすりと撫でさすり、もっと出るように促す。読みが当たって、ぷしゅ♡ぷしゃ♡と間抜けな音をさせて潮が次々と飛んだ。シーツや悟の身体を濡らしていく。
「や、あ゛ッ♡やだ♡♡やだやだ♡うあ♡も、さきっぽらめえ゛っ♡♡♡♡」
 再び腰を両手で掴み、結腸口をカリ首で擦る。何度も往復させ、擦り上げて、抉って押し潰す。ぐっぽぐっぽと異音が鳴り、遮る物がなくなった尿道口からはぷしゃああ……と噴水のように潮が噴き上がった。
「はは。潮吹くくらい気持ちいい? さとるは奥のお口が大好きなやらしいメスだね」
「ひい゛ッ♡ああ、あ゛ッ♡♡♡ちが、ッんあ、あ゛ッ♡」
「違わないだろ? ほら、『メスまんこに種付けして下さい』って言ってみな」
「や、ッ言わな、――はあ゛ッ♡あ゛ッ♡あ゛ッあ゛っ♡♡♡」
「さとる、」
 悟に覆い被さるようにして、ゆっくり低い声で名前を呼ぶ。名を呼んだだけだ。何も命令していない。けれど悟は服従を刷り込まれた賢い飼い犬のように、とろりと目を蕩かせた。まるで本当に種付けをねだるかのように、両足を傑の腰に絡ませる。
「あ、……っ♡おく、気持ちいい……♡俺、の、めしゅまんこ、に、種付けして、くらしゃい……っ♡♡」
「……」
 かわいい、と言いそうになった。揶揄する為ではなく、本心で。慌てて言うのを留まった。悟は、恋人ではない。ただの性欲処理の為のメスだ。優しくするつもりはないし、愛を囁く気もない。気まぐれに可愛がるくらいならまだしも、対等な人間として扱うなど有り得ない。
 己の感情に苛立って、紛らわそうとわざと乱暴に結腸を穿った。ぐぷっ♡ごぷっ♡という音が大きくなり、快感が腰の奥に蓄積されて膨れ上がる。悟の身体がびくびくと跳ね、ベッドの上で身が仰け反った。
「や゛……ッ♡らめ♡♡♡またイッちゃう♡しゅぐう、ッあ゛っ♡♡出ひゃう、」
「――イけよ、淫乱」
「っひ♡♡♡あ゛ッ♡あ゛あ、ッあッ♡♡でて、ッあ゛っ♡あつい♡」
 命令され、悟の性器からびゅるびゅると白濁が迸った。締め付けがきつくなり、傑も悟の奥まった場所へと精液を注ぎ込む。どぷどぷと出るものを、全部悟の中に注ぎたかった。一滴も漏らさず中へ出したかった。そんなことをしても種付けなど出来はしない。だが、苛立ちが少しだけ紛れるし悟を征服しているという暗い満足感を覚えた。仄暗い欲望が満たされ、無意識のうちに口元にうっそりとした笑みを浮かべる。
 この男は、自分のものだ。
 今、決めた。他の誰にも渡したくない。誰かがこの男に触れただけで、その誰かを殺してしまいそうだ。だが決して恋愛感情やましてや愛情などでもない。ただ、この男を支配したい。服従させたい。快楽に溺れさせ、自分に依存させたい。そして滅茶苦茶にしてしまいたい。耐え難い程の衝動が身体を巡る。綺麗なものを一番最初にどろどろに汚したいという欲求。本能。
「ふあ、あ゛ッ♡や♡ッ出る、」
 しょろ、と精液で汚れた悟の性器から薄黄色の液体が零れ出た。一度出てしまうと後はもう歯止めが利かない。しょろしょろしょろ、と流れ出た生暖かい尿が結合部にも垂れて、シーツに黄色い染みを広げる。アンモニア臭がつんと鼻をついた。
「あ、っう、あ、……ッごめん、なざい……っ、ゆる、じで、くらさ、ッひ♡う、……っ」
 悟が両腕で目元を覆ってぐすぐすと泣いた。以前、尿を漏らしてしまった時に後ろの穴にも前の穴にも玩具を仕込まれたまま数時間放置されたのが、すっかりトラウマになっているようだ。手錠に擦れて擦り切れた手首から血が滲んでいるのも、痛々しさに拍車を掛けている。庇護欲を搔き立てられるような姿に、思わず悟の唇に自身の唇を近付けた。
「さとる、」
 自分が何をしようとしているのか、自分でも信じられない。手錠を掴んで顔の前から腕をどかすと、涙で濡れた青い目が傑を見上げた。衝動のままにキスをする。柔らかな悟の唇の感触にぞくぞくした。身を強張らせる悟の髪の中に指を入れてくしゃりと掻き混ぜ、反対の手を首筋に滑らせて、

 殺気。

 悟の両腕が素早く持ち上がり、じゃら、と鎖が音を立てた。
 首に白い手が巻き付く。こちらの息の根を止めようという明確な意思を持った手が。冥界から迎えに来た使者の手に黄泉の国へと誘われるように、死の予感を覚えた。
「――ッ!」
 慌ててがばりと身を起こしながら、手を乱暴に振り払う。思いの外あっさりと、手は首から離れた。じゃらりと聞き慣れた耳障りな音が鼓膜を擽る。
 鋭利な刃物のような殺気が、存在していた痕跡すらなく消え失せていた。どくどくと心臓が鳴っていた。悟相手に取り乱している現実を受け入れ難くて、動揺を必死で押し隠しながら悟を見下ろした。先程まで弱々しく泣いていた筈の男は、人を喰ったような笑みを浮かべて傑を見ている。酷く美しく、目が離せなくなると同時に、ぞわりと鳥肌が立つような笑顔だった。
「ざーんねん。殺れるかと思ったんだけどなあ」
 やっぱ、そんな簡単じゃねえか。
 両腕をぱたりとベッドの上に投げ出して、悟は殆どどうでもよさそうにぼやいた。傑に向けた言葉というよりも独り言のように。いや、他人事のように。そのまま、傑が何か言うよりも先に両目を閉じて、すう、と寝入ってしまう。寝たふりではなく本当に寝ているようだった。一瞬で寝る程に体力の限界だったのかも知れない。
 ――全部、芝居だったのだろうか。堕ちたふりをして、傑を殺す一瞬の隙を得るチャンスをずっと窺っていたのだろうか。だとしたら恐ろしい男だと思った。侮っていたとも思い知った。だが不思議と恐くはない。泡を食わされたことにも怒りも沸かない。
 くく、と喉の奥から笑い声が漏れた。愉快な気分だった。思っていたよりも、五条悟というこの男は興味深い。性欲処理にだけ使おうと思っていたが、もしかしたら、別の感情が芽生えてしまうかも知れない。それは、悟が傑には決して抱く筈のない感情だ。
「……もうとっくに、私は君に殺されてるよ」
 気を失うようにして寝入ってしまった悟には、傑の言葉は聞こえない。聞こえていたとしても、意味は分からないだろう。
 しばらくは目を覚まさないだろう悟の中に、まだ埋まったままだったものをずるりと引き抜く。寝ているののに、縁が赤く染まった穴の入り口は抜かれる刺激に僅かにひくついている。奥まった場所に出し過ぎて、己の精液は逆流して来ない。悟が起きたら掻き出そうと思った。その方が、羞恥に染まった悟の顔を見れて面白いだろうから。
 まだ、解放させられない。
「壊れないでね」
 そっと囁き、頬を撫でる。
 勿論、すぐに壊すつもりはない。ギリギリの状態を保たせる。そして危うい場所で留まっていた理性を崩壊させる、その瞬間を見たい。その時まで、もう少しこのままで。
 こちらを殺そうとしている男を監禁するなんて、スリリングで興奮する。己の趣味の悪さに思わず苦笑してしまった。

(終)