Trigger

 任務から戻った傑がいつものように出先で買った甘い物を持って悟の部屋を訪れたので、悟はドアを開けて挨拶もそこそこに傑を部屋に引っ張り込んだ。そんなに甘い物に飢えていたのかと傑が驚くが、その甘い物が入った可愛らしい箱を、悟がそのまま冷蔵庫に入れたので更に驚いたようだった。
 お土産食べないの? と訝しげな顔の傑をカーペットの上に座らせて、悟は傑の正面に座った。
「それよりさー傑、オマエを待ってたんだよ。これやって」
 これ、と携帯の画面を傑に見せた。傑は面食らって目を瞬かせていたが、携帯の画面を見て数秒後に固まった。え、と中途半端な声を出したきり、顔を強張らせている。悟が差し出した画面には、所謂『男の潮吹き』のやり方としてローションガーゼプレイがイラスト入りで紹介されていた。
 曰く、洗面器と大量のローションとガーゼを準備して、洗面器に張ったローションにガーゼを浸してから亀頭を擦るというものだ。自分一人でやっても刺激が強過ぎてやめてしまうので、パートナーにやって貰うのがおすすめ、と書かれている。
「……悟、これはやめた方がいいんじゃないかな」
 傑なら乗り気でやってくれるんじゃないかと期待していたのに、傑は顔を曇らせてやんわりと拒否した。傑の反応が悟には理解出来ない。
「は? 何で」
「きついと思うけど」
「え、何。気持ちよすぎて潮吹くって書いてあるけど違うの? てか、もしかして経験者? ヤられたことあんの?」
「ないけど……」
「じゃあやって」
 歯切れが悪い傑の声に被せるようにして強引な口調で言うが、何が「じゃあ」なのかは自分でもよく分からない。
「えー……」
「もう準備してあるんだ」
 それでもあまり気乗りしていなさそうな傑にお構い無しに、ベッドの下の隙間に手を突っ込んでネットに書かれている通りの物を取り出した。洗面器と、ローションのボトルと、白いガーゼ。ボトルの蓋を開けて、洗面器の中にぬるりと粘度のある液体をどぼどぼと勢いよく注いでいく。
「悟、本気?」
「今まで俺が本気じゃなかったことなんかないだろ」
「任務の時とか、いつも適当にやってるように見えるけど」
「いやいや本気。マジで、チョー本気」
「嫌がって暴れると思うけど」
「じゃあ手を縛れよ」
「術式使って抵抗するでしょ」
「使わねえよ。オマエと付き合い出してから、オマエといる時に使ったことねえだろ」
 傑がうぐ、と黙り込んだ。その隙に、ローションがたっぷり入った洗面器を傑の方へ押しやる。液面が揺れて、中のぬるぬるが零れそうになった。それでも傑は困ったように眉尻を下げ、まるで哀れな捨て犬のような目をして悟を見た。
「私、帰ったばかりで疲れているんだけど」
「じゃあ尚のこといいじゃん。オマエはただガーゼで俺のちんこ擦るだけでいいんだから」
「悟……」
「つーか、任務行っただけで疲れんの? そんなんで何処が最強なんだよ。へぼへぼじゃねえか。へぼ傑」
「は?」
 傑が剣呑な声を出した。表情も、さっきまでの困惑が消え去って口の端が怒りを堪えるようにひくついている。ぶち、と傑の堪忍袋の緒が切れる音が聞こえたような気がした。
「……そんなに言うならやるよ。泣いて許しを乞うてもやめないからな」
「はあ? そんな無様な真似する訳ねえだろ。いいからさっさとやれよ」
 肩を掴んで背後のベッドへと悟の身体を押さえ付ける傑に向かって、悟は挑発的に薄く笑った。


「……ッは、ッあ、はぁ……ッ♡」
 ぐちゅ、ぬちゅ、と卑猥な音が個室の壁に木霊する。水音に混じって、自身の吐息混じりの甘い声が響く。ローションと先走り汁でどろどろに濡れた竿を傑の手に扱かれる度、蕩けるような快感が背筋を駆けた。ビク♡と身を跳ねさせる度、ベッドの足に後ろ手に拘束された腕にロープが食い込んだ。
 まず勃たせないとね、と、服は全部着ているままで性器だけを露出させられた格好で、傑の手に性器を扱かれている。甘い痺れが脳を侵し、思考も理性も麻痺していく。
「悟、もしかしてもうイきそう? このままイく?」
 すす、と悟の横に身を寄せた傑が、耳元で甘く毒を含んだ声でそっと囁く。耳朶に息が掛かって、それだけの刺激でビクリと身が竦む。傑の声も、吐息も、毒でしかない。身体をどろどろに溶かしてしまう危険な毒だ。
 イきたい。欲に負けて素直に頷いてしまいそうになるのを必死で押し留め、悟は小さく首を横に振った。
「……っも、それ、いいから……はやく、」
 ちらりと視線だけを動かして、洗面器の中でゆらゆらと海月よろしく揺蕩っている白いガーゼに目を向ける。扱くのはもういいから、早くネットに書いてあった通りにしろと、傑に目で訴える。傑は最初あまり乗り気ではなかった癖に、何処か面白そうに悟の潤んだ目を見て、愉しそうに両目を細めた。
「後悔しても知らないよ」
 ローションの海に手を突っ込んで、傑が濡れたガーゼを取り出した。冷たい液体でべとべとのガーゼで露出した亀頭全体を覆われて、ビクと身体が震えた。
「は、……っ、」
 身体の後ろに片手を回され、傑の両腕に身体を囲まれるような形になる。傑の手がガーゼの左右の端をそれぞれ掴んだ。濡れたガーゼの表面に、亀頭のピンク色が透けて、卑猥な光景を作っている。じっとそこに視線を注がれているのを感じてドキドキしていると、する、とガーゼを片側に引っ張られて表面が敏感な亀頭に擦れた。
「――ッあ゛ッ!?」
 途端、たったそれだけの動きで凄まじいまでの快感が脳天まで一気に突き抜けた。身を仰け反らせ、悲鳴のような嬌声が喉奥から漏れ出た。
「すぐ、……ッや゛♡待、それ、待ッ♡やめ、」
「『待て』も『やめろ』も無しだよ。悟がそう言ったんだから」
「あ゛ッ♡ひあ、あ゛っ♡だめ、ッマジで、だめ♡あ゛ッ♡」
 無情にも冷静な声で却下されながら、ガーゼを左右に引っ張られる。ガーゼに擦れられる亀頭が燃えるように熱く、そこから全身に鋭い官能が広がっていく。目を見開いて無意識に足をばたつかせようとして、始めからその動きを見越していたかのように傑の足で太腿を押さえ込まれた。更にガーゼの動きを激しくされ、経験したことのないような強い快感に目の前が真っ白に染まる。
「あ゛ぁ……ッ♡」
 身を仰け反らせて腰を前に突き出すと、ガーゼが亀頭に更に擦れる。どぷ、と零れ出た白濁が、ガーゼに邪魔されて飛散せずにガーゼの表面をどろどろに汚した。
「は、ッふあ゛♡や♡あ゛……ッ!」
 強制的にイかされて訳も分からないままで、白い布の表面に白く浮き上がる精液ごと、容赦なくガーゼで左右に擦られる。ぬちゅ♡ぐちゅ♡といやらしい音をさせながら、精液が纏わり付いた濡れた布がイッたばかりで敏感になった亀頭を小刻みに擦る。気持ちよすぎて、キャパを遥かに超えた快感に両目からぼろぼろと涙が零れた。
「すぐりゅ、ッあ゛っ♡らめ、やだ♡やら゛♡」
「泣いてもやめないよ。潮吹きしたいんだろ? このまま続けたら出ると思う?」
「知らな、ッあ゛っ♡あひ、ッあ゛ッ♡も、離、ッだ、だめ、」
 何か、得体の知れないものが競り上がって来る。まさかと目を見開き、ぶわりと肌が粟立った。
「や、やだ、すぐる、だめ♡出ちゃう♡ッあ゛っ、だめえ゛……っ♡」
 びゅーーーーーーー♡びゅく♡びゅく♡びゅる♡
 透明でさらりとした液体がガーゼ越しに迸った。弧を描いて飛び、床やカーペットにびちゃびちゃと飛び散って染みを作る。
「あ゛……ッう、あ……♡」
「潮、いっぱい出たね。気持ちよかった?」  傑がガーゼを離すと、潮と精液とローションが混じり合った液体がどろりと垂れた。時折名残のようにびゅ♡と潮を吹いて、ひくひくと性器が震えている。酷い有様だ。
「も、だめって、言った、のに、……ッあ、あ゛……♡」
 呆然としたまま、ビクッ♡ビクッ♡と余韻に腰を震わせる。あまりの快感に何も考えられないのに、傑が汚れたガーゼを洗面器に浸すとまた悟の性器に被せて来て、悟はギョッとして息を呑んだ。
「す、傑……ッな、何で、」
 恐怖に引き攣ったような顔になりながら隣を見れば、傑は人の悪い笑みを浮かべ、ゆるりと小首を傾げる仕草をした。動きに合わせて、顔の横の後れ毛がゆらりと揺れる。
「何でって、まさか一回潮吹きして終わると思った? 私、さっき言ったよね。泣いて許しを乞うてもやめないって」
「は、……」
 冗談だろと思った。しゅ、とまたガーゼで擦られ、ビクッ♡と腰が跳ねた。どうやら冗談ではなかったらしい。一気にさっきの悪夢のような強過ぎる快感が襲って来て、左右にガーゼを引っ張られる度に腰が何度も何度もびくびくと跳ねる。
「や、ッあ゛……ッ! すぐる、ッも、やだ♡っあッ♡」
「悟、やらしいね。先っぽ真っ赤になってガーゼに透けて、ひくひくしてる」
 羞恥を煽るような言葉にかあっと頬に血が集まった。思わず見下ろせば、傑の言葉通りに嬲られて赤くなった亀頭が濡れたガーゼに貼り付いて透けている。ひくん♡と震えながら鈴口までガーゼに透けさせているそこから目を逸らそうとすると首筋をべろりと舐められて、ぞくぞくぞくっと背筋に痺れが走った。
「やぁ゛……ッ♡すぐ、る……だめ、って言っ、ッあ゛っ♡」
 びゅる♡とまた潮が飛び散る。今度は傑は手を止めず、ぬるぬるのガーゼでそこを擦り続ける。亀頭がじんじん熱くて、舌の先までじんじん痺れる。ひっきりなしに喘がされている所為で、開いたままの唇の端から涎が垂れた。
「あ゛ッ……♡らめ♡あひ♡あっ♡も、馬鹿に、なるう……♡」
「いいよ。悟が馬鹿になって呪術師続けられなくなっても、私が一生面倒見てあげるから」
 耳元で囁かれる度に、ぞわぞわと産毛まで逆立つような心地になる。そんなことになっていい筈がないのに、このまま延々快感だけを与えられ続けて傑専用の玩具になってしまう未来を想像して、何故かきゅんと身体が悦んだ。既に馬鹿になっているのかも知れない。
 しゅっしゅっしゅっしゅ♡ぬちゅ♡ぐちゅ♡ぐちゅ♡
 濡れた音をさせてしつこく擦られ、先走り汁なのか潮なのかももはや判然としない液体が飛ぶ。ずっとイッてるみたいに気持ちいい。なのに精液を出せない性器が萎えることはなく、とぷとぷと透明な液体ばかりが流れ出る。気が狂いそうだ。
「あ゛ー……っ♡すぐりゅ、も、やだ♡らめ゛♡も、無理♡死んじゃう、しんじゃう♡」
「死なないよ、悟は最強なんだから」
 こんなところで最強を使うなと怒りたくても、呂律も怪しくなってきた舌ではまともな言葉を紡ぎ出せない。性器が壊れたみたいにまたびゅ♡と潮を吹いて、今や潮でべたべたになった床がまた濡れる。力の抜けた身体ががくがく痙攣しながらぐたりとベッドにもたれ掛かった。
 もうこれ以上出ないと思う傍から、擦られると潮が飛ぶ。一体自分の身体はどうなってしまったのか、本当に馬鹿になって元に戻らないんじゃないかと思うと恐くなる。恐くて、気持ちよくて、頭の中がぐちゃぐちゃで、涙が溢れた。
「しゅぐりゅ、……ッごめ、なざ、ッあ゛ッ♡ゆるじて、ゆうじで……っ♡」
 普段なら絶対恋人に言わないような哀願の言葉を無意識に吐きながら、ビクン♡ビクン♡と身を震わせる。
 泣いて許しを乞うような無様な真似なんてする訳がないと言い張ったのは自分の癖に、今まさに泣いて許しを乞う無様な姿を晒している。プライドもクソもない。でもそんなことどうでもいい。とにかくこの甘く苦しい地獄のような責め苦から解放されたい一心だった。  不意に傑が手を止めて、ぐいと悟の後頭部を掴んだかと思うとそのまま引き寄せられてキスされた。ビク、と身を硬直させている間に舌を差し込まれ、熱い舌に自分の舌を絡め取られる。頭の奥が痺れたようになる。傑のキスは、いつも気持ちいい。頭の芯がボーッとして、理性が蕩けてなくなるくらいに。
「……悟、……ねえ、お願いがあるんだけど」
 さっきまで自分を追い込んでいたのと同一人物だとは思えないような、切羽詰まったような表情で、傑が両腕の戒めを解く。解かれても、すぐには腕が自由になったことに気付かないくらい、悟はまだ強過ぎる快感の余韻で呆然としていた。
「悟、」
 名前を呼ばれながら右腕を掴まれ、傑の股間へと手を誘導された。手の平に、傑の硬くなった中心が触れて我に返った。
「っえ、」
「手でいいから、して」
 優しい恋人は、体力の消耗が激しい悟に繋がることを強要しない。
 ――傑は優しい。それは彼の美点の筈だ。だが優しくされる度、もっと酷くしていいのにと思う自分は壊れているのだろうか。
「……手じゃなくて、こっちで、しろよ」
 逆に傑の腕を掴んで、大きく広げた両足の間に誘導する。潮と精液とローションで汚れた性器のその下、後孔に傑の指が触れれば、その先を期待するようにそこがひくりと震えた。生唾が口内に沸いて来るのを感じながら、傑を見て不敵に笑う。
「こっちの方がイイだろ?」
「……ッ」
 傑が息を呑み、次いで、はあ、と溜息を吐いた。困ったような顔で、だが目にさっきまではなかった獣のような鋭い色と欲を滲ませて、悟を見る。
「ほんとに、君、どうなっても知らないからね」
 傑の所為でどうにかなるなら、本望だと思った。

(終)