Dystopia

 さとる、と誰かが呼んでいる。悟、起きて、と。ということは、自分は寝ているらしい。まだ、眠い。寝ていたかった。目を瞑ったまま声に抗うように顔を背けるが、悟、と呼ぶ声が大きくなって、肩まで揺すられる。
 悟。誰のことだ。そういえば、昔はそんな名前だったような気もする。昔っていつだ。昔、子供時代。諜報員の養成学校に入ってからは、常に色んな名前と略歴を使って存在しない他人に成りすましていた。それが仕事だったから。だから、養成学校の学長以外でその名前を知っている者なんて――
「さとる、起きて」
 耳元で酷く冷たい声がした。声を聞いただけでぞくりとするような。反射的に目を開けた。身の危険を感じると、いくら眠くても脳が強引に身体を覚醒させる。そして今、身の危険を感じている。第六感とか、直感とか。そういうものは、よく当たる。そういう形のないものが、任務では特に大事だ。
 切れかけた蛍光灯の弱々しい光が、薄暗い室内を不安定に照らしている。窓はない。地下だろうか。天井も壁も打ちっぱなしのコンクリートで、照明の暗さも相俟って気が滅入りそうだ。仰向けに寝ているらしい。背中に感じる硬くて寝心地が最悪のベッドの感触は、彼ノ国の軍隊に入所してから慣れたいつもの寝床と同じだ。
「やっと起きた? 悟はお寝坊さんだね」
 薄らと笑う顔が、視界に飛び込む。口元は笑っているが、軍帽の奥に覗く切れ長の目は一切笑っていない。
 軍帽を目深に被り、黒い軍服に身を包んだ青年。後ろで纏めた長髪と耳に空いたピアスの大きな穴が、軍人らしくない。規律違反にならないのだろうかと初対面の時は思った。自国の軍であれば入所したその日に厳罰を課せられている。
「……すぐる、」
 ぼんやりと同僚を見つめ、舌足らずに名前を呼ぶ。のろのろと半身を起こしたその時、がしゃんと耳障りな音がした。見れば、簡易ベッドの柱に手錠と足枷で身体を拘束されている。枷から伸びた金属の鎖が柱に触れて不快な金属音を奏でていたようだ。
 脳が警鐘を鳴らす。何故拘束されているのか分からなかったが、起きたばかりの頭が徐々に回転を始めるに従い、置かれている状況に理解が追い付く。
 傑は彼ノ国――隣国の軍人だ。諜報員として偽名を使って潜伏した悟の名前を知る筈がない。名前を知っているということは、全てバレたということだ。敵国のスパイだということが。其ノ国と呼ばれる悟の母国の情報機関に情報を流しているということが。
 悟は慌てなかった。バレたらどうするのか、それは既に学校で習った。決して口を割らず、拷問に耐える。そして殺される。正体がバレた諜報員に、生き残る術はない。
「へえ? やっと俺の正体が分かったってワケ? 遅過ぎ。この国の軍も、間抜けな奴等ばかりだな」
 わざと挑発するようなことを言って、挑発するように唇の端を吊り上げる。傑がどういう反応を見せるのか気になった。この数ヶ月、同じ組織に所属していると思い込ませて一緒に任務に当たっていた同僚を殴るだろうか。多分、傑はそれ程単純ではない。でも、どうせ死ぬのだから、このいつも冷静で正論しか言わない男がキレるところを見たいと思った。
「実を言うとね、悟」
 傑はやはり安っぽい挑発には乗らない。笑みが能面のように貼り付いていて、気味が悪かった。胡散臭い笑顔だ。同僚の仮面を被っていた頃に向けられていた笑みとはまるで違う。
「君が其ノ国の諜報員だと、私達はとっくに気付いていたんだよ。知ってたから、君の存在を利用させて貰った。ここ数ヶ月、君には嘘の情報しか教えていない」
「……そうかよ」
 内心では動揺していたが、狼狽を顔には出さずに吐き捨てた。間抜けはどっちだと嘲笑われている気がした。
 傑のはったりだろうか。でももし本当に正体がとっくにバレていたのなら、自国に数ヶ月にも渡って偽の情報を流していたことになる。どう考えてもまずいが、どうせ国に戻ることも無くもう死ぬ。責任を問われることはない。なら別にいい。愛国心、なんてものはなく、ただ諜報員として陸軍に雇われ、言われた通り敵国に潜伏していただけだ。
「言っとくけど、俺は何も吐かねえぞ。好きなように痛め付けて試せばいい」
 愛国心なんてない筈だが、諜報員として情報を漏らさないよう徹底して教育を受けている。プライドがある。敵が欲している情報を渡すつもりはなかった。
「うん、そうだろうね。君は優秀な諜報員だ。拷問にも慣れているだろう。甚振っても無駄だと私にも分かるよ」
 傑の手がすっと伸びて来て、頬に触れた。触れ方が、敵の諜報員に対するそれではない。嫌悪感と困惑とで、肌がぞわりと粟立った。
「……っすぐる、」
「でも、こっちも仕事なんだ。君の所属師団と班、それと上官の名前。それ等の情報を得るまでは、君を解放させられない」
「……教えないって言ったら?」
 どうせ教えたところで最初から殺すつもりの癖に。解放なんてする気は微塵もない癖に。
 歪んだ笑みで顎を反らせる。相手を小馬鹿にする仕草。相手が優位だなんて、絶対に思わせてやらない。
「体に訊くしかないだろうね」
 強がりを嘲笑うように、傑の手が腰に携帯したナイフに伸びる。だから、拷問なんかしても無駄だ。呆れて笑い声を上げそうになるが、傑が素早く鞘から抜き取ったナイフで悟の軍服の生地を裂いたので言葉を失う。しかも、皮膚には傷一つ付けず、服だけが破れて肩からずり落ちた。白い肩が露わになる。
「どこまで強気でいられるかな。私を愉しませてくれるくらいには、君が壊れるまで時間が掛かるといいな」
 傑はまるで天気の話をするように血生臭い台詞を吐きながら、ナイフで悟のベルトを簡単に切り落とした。革製の丈夫なベルトなのに、あっさり容易く切られてしまう。
「なっ……!」
 ようやく傑の言っている意味が分かり、悟の頬に赤みが差した。傑は面白そうにくすっと笑う。
「もしかしてこっちの拷問に耐えるようには訓練されてない?」
 傑の手が、ズボンの前を寛げる。振り払って逃げたいのに、この地下に逃げ場などない。どのみち手も足も拘束されている。しかも、薬を盛られた所為か、身体が思うように動かない。下着の上から性器に触れられ、ぴくん、と肩が小さく跳ねた。
「っや、」
「はは。可愛い」
 馬鹿にされるような口調に羞恥を煽られる。俯き、下唇を噛んで声を殺すが、逃げ場がないのでされるがままだ。弱い場所を握られて、ひ、とまた引き攣ったような声を漏らしてしまう。
「いい声で啼いてね、さとる」
 耳元で囁く傑の低い声に、地獄へと突き落とされる音が重なって聞こえる、ような気がした。


 光の差さない地下の空間に、ヴヴヴ……と低く唸るようなモーター音が木霊する。極小さな音だ。時折、金属同士が触れ合うような音と、くぐもったような微かな喘ぎも混じる。声は若い男のものだ。苦しんでいるように聞こえるが、苦痛を与えられて痛みに悶えている声だというには、その声は違和感がある。
「っく、う……♡ふあ、あ♡あ゛……ッ、」
 簡易ベッドの上で悟が身動ぎする度に、じゃらりと枷から伸びた鎖が鳴った。うつ伏せに身を横たえて、さながら芋虫のようにうねうねと身を動かす。動くと勃ったままの前がシーツに擦れて、後ろに咥え込まされた機械が粘膜を擦る。思わず前からの刺激から逃げるように腰を浮かす。機械の表面をびっしりと覆った細かい疣のような突起が、すっかり解されて柔らかくなった後孔の粘膜をごりっと擦り、熱く爛れるような快感にまたビクリと身体が跳ねた。
「は♡ふあ♡♡あ゛ッあ、あっ♡」
 動いたら、また中を機械が擦ってしまう。分かっていても、腰が勝手に動く。止まらなくて、快感が永遠に続く。無限ループだ。しかも、機械の振動が弱い所為で、絶頂には至らない。生殺しの快感だけをひたすら与えられ続けて、四つん這いのような姿勢で前はずっと勃ったまま、たらたらとシーツに先走り汁を零し続けている。
「っひ、う、う……っ♡」
 すぐる、と、思わず縋るように名前を呼んでしまいそうになる。すぐる、助けて、と。こんな風に悟を追い詰めている張本人に対して助けを求めるなんて馬鹿げていると頭では分かっているのに。
 何でこんなことに、と、ぼんやりし始めた頭で思う。無駄な思考だ。普通、そんな考えても仕方のないことを諜報員は考えない。それよりもいかにして拷問に耐えるか、または僅かな切り抜ける可能性があればそちらを模索する。にも関わらず無駄な思考に囚われ始めている。危険な兆候かも知れない。
 何で、と、また思う。全部上手く行っていたのに。彼ノ国の軍隊に潜入して、『夏油傑』に接近して有益な情報を盗み出す――上手く行っていた。傑は品行方正を絵に描いたような人間で、曲がったことが嫌いだった。性格が合わなさそうだと思っていたのに、いつの間にか傑の隣にいるのが心地好いと思うようになっていた。傑を親友だと――失いたくない相手だと思う程に、傑を好きだった。敵地に潜入した諜報員としてあるまじき感情だと分かってはいたが、思うことは止められなかった。勿論、仕事を疎かにするつもりもなかった。傑といるのは好きだったが、この任務が終われば彼との関係も終了。傑に正体がバレることもない。それで問題ない筈だった。
 なのに、
 虚ろな目を傑に向ける。傑は悟の方には見向きもしない。ベッドの傍にある木製のテーブルの上にパソコンを置き、座って何やらキーボードで文字を打ち込んでいる。冷徹な切れ長の目がじっと画面に注がれ、画面から得る情報以外は全てシャットアウトしているかのように、悟のことなど眼中にない。
 軍隊とはいえ事務仕事も多い。傑のような頭の良い人間は、書類作成を頼まれることも多い。彼ノ国出身の若者になりすまして傑と同じ部隊に所属していたので、悟もそれは知っている。
「あ、あ……ッ♡」
 ぐり、と中で回転するバイブの突起が何度も擦られて蕩けた粘膜をまた擦る。甘く切ないような快感が背筋を貫き、ビク、ビク、と腰が痙攣した。また、殊更に弱い場所をわざと外したような中途半端な場所への弱い刺激の所為でイけない。
 もうどのくらい放置されているのかも分からない。もしかしたらたった数分かも知れないし、数時間かも知れない。時間の感覚がない。だって、放置された後で中を掻き回されて、言う気になったのかと問われてならないと突っぱねて、また放置される。それの繰り返しだ。永遠に終わらない。傑には急いで情報を吐かせる気はないようだ。じっくり時間を掛けて悟の気力を削いで、嬲り殺しにする気らしい。何をされても口を割る訳なんてないと思っていたが、こんな拷問をされたことがない。耐え方が、分からない。
「はふ♡あ……ッ♡♡」
「悟、静かにしてよ。仕事に集中出来ないだろ」
 ふっと傑が手を止めて、気のないような目を悟に向けた。罪悪感を植え付けるように、詰る。軍人には似合わない優しい笑みも、穏やかな態度も、今の彼にはない。何処までも冷たくて、温度を感じられない。傑が面倒くさそうに立ち上がれば、椅子ががたりと音を立てた。傑がベッドに近付いて来る。息を呑み、身が竦んだ。嫌だ、恐い、と本能が告げる。理性なんて本能が塗り潰して、頭に浮かんだ感情をそのまま口からぶちまけてしまいそうになる。でも出来ない。プライドがそれを邪魔した。恐がって泣き喚くなど、諜報員が取る行動ではない。
「それとも、謳う気になった?」
 所属部隊と上官の名前。誰の指示で送り込まれたの?
 悟に覆い被さるようにしてベッドに乗り上げ、身を寄せた傑が耳元で囁く。低くて冷たい声なのに、何処か甘さを含んでいる。その絶妙な匙加減の所為で、気を抜けば情報を吐露してしまいそうな危険な声音だ。口を噤むには理性を総動員させる必要があった。
「な、らねえ……ッ!」
「そう、残念だ」
 生理的な涙が浮いた目で精一杯睨みを利かせるも、相手はさして残念でもなさそうな口調で軽々しく残念だなどと言いながら、後ろに咥え込まされた太い張り型を掴むと腹の側にある硬くしこった部分に先端をごりっと押し当てた。さっきまでわざと避けられていた場所だ。身構える間もなく突然強い刺激を与えられ、悟の身体が悦ぶようにビクッビクッと痙攣した。
「あ、あ゛ッ♡や♡あぁ゛ッ!?」
 ぱちん、と摘みを弾くような小さな音を耳が拾う。訓練された諜報員でなければ聞き逃してしまいそうな程のその微かな音の後、ヴヴ、と鈍い音が大きくなって、中で暴れる張り型の振動が強くなった。ぶるぶる震えるそれを、ごり♡ごりゅ♡♡としこりに中てられ、擦られる。甘く痺れるような愉悦が背筋を駆けた。さっきから中途半端な刺激と快感だけを与えられ続けてじわじわと絶頂寸前まで追い込まれていた身体があっけなく限界を迎え、どぴゅ♡と精液が迸った。もう何度目かも分からない絶頂に眩暈がする。先走り汁と精液とでどろどろに汚れたシーツに、また新たな精液が汚れを上書きしていく。
「はひ、あ♡あ゛……ッ♡♡♡」
「はは。前立腺が気持ちいいってもう覚えたの? さっきまで指一本でもきつそうな処女だったのが信じられない」
「う、るさ、――っあ゛♡んッ♡あ♡あ゛っ♡♡♡」
 イき過ぎた身体が悲鳴を上げるのに、イッたばかりでも容赦なく傑が前立腺をバイブで抉る。ごりごりと押し潰され、擦られる感覚があまりにも気持ちいい。嫌だと思う気持ちとは裏腹に、達したばかりの身体の方はまた悦楽に侵されて精を吐き出す。頭も、下腹もじんじん熱い。意識がはっきりしなくなる。弛緩した身体がぐたりとベッドにうつ伏せになるが、傑が休息を与えてくれる筈もなく、くたりと力が抜けた瞬間にぐりゅっとバイブで奥まった場所まで一気に貫かれた。
「は、あ゛ッ♡やめ、あ、あ゛ッ♡やだ、」
 みちみちと肉が割り開かれ、太い物が狭い場所を埋め尽くす。突起がざりざりと粘膜を擦り、圧迫感と共に突然訪れた強い快感に悟は背を仰け反らせた。
「ッあ゛……ッ!? や♡あ゛っ♡離、ッあ゛ッ!」
「ここ、もうすっかりやらしい穴だね。悟、才能あるよ。諜報員より、男娼の方が似合ってるんじゃない?」
 嘲るような傑の声に、貶められていく。悔しかった。なのに傑が耳の傍で話すと息が耳朶に掛かって、びくりと身が竦む。耳まで性感帯になってしまったみたいに。傑の声が、さとると本当の名前を呼ぶ度に、それまでの偽の経歴が剥がされて全部暴かれて、丸裸にされるような恐ろしさがあるのにぞくぞくと背筋に官能が駆ける。
「穴、拡がってもう完全にメスだね。メスのまんこだよ、これ」
 女性器の俗称を傑が嘲るように口にする。メスだと覚え込ませるかのように、ゆっくりと耳元で囁く。囁きながら奥まで埋まった機械を円を描くようにぐるぐると回転させ、粘膜を突起で余すところなく擦り上げる。擦られる場所全てが火傷したように熱く、頭が麻痺する。傑の言う通りだと思ってしまいそうになる。
「ち、がうう……っ♡ひ、あ、あ゛ッ……♡♡♡」
「違わないだろ。悟はメスだよ」
 抗おうと必死で否定しても、傑の声が悟の脳に酷い事実を吹き込む。洗脳されかけている。でも、どうやって逃れたらいいのか分からない。
 傑の言う通りぽかりと開いた穴は、散々じっくり時間を掛けて傑の指と張り型とに解されて拡張され、もはや立派なメスの器官となり果てていた。後ろを犯す太いバイブを奥まで呑み込み、ずぷずぷと穿たれてひくひくと痙攣しながら玩具の機械に絡み付く。男根に媚びる女性器そのものだ。
「は、ッやら♡あ゛ッ♡らめ♡♡♡も、離せ、あ゛っん♡あ、あ゛っ♡」
 犯される快感を覚え込ませるかのように、抜き差しされる張り型が身体の内で暴れる。ぬぷぬぷと卑猥な音が鼓膜を犯す。バイブの張り出したカリの部分が内壁を引きずるようにして外へ出て行くのも、奥を暴かれこじ開けられ、粘膜を突起が擦るのも、時折思い出したように前立腺を押し潰されるのも、気持ちよくて仕方ない。刺激を与えられる度に腰が震えて、先走り汁が飛び散って、色の薄くなった精液がぴゅく♡ぴゅく♡と零れる。イき過ぎて恐いのに、イくのが止まらない。恐い。涙がぼろぼろと溢れ出た。
「ひ、う……っ♡やらあ゛ッ♡やだ、あ゛あ♡う、」
 身を捩る度に手枷と足枷から伸びた鎖が金属音を立てた。手錠に擦れて手首に赤い痣が出来ていて、そこに手錠が食い込むと痛い。だがそんなもの些細な痛みだと言わんばかりに、後ろを犯される快感の比重の方が遥かに大きい。
「ね、さとる」
 傑の声がまた名前を呼ぶ。呼ばれるとすぐる、と相手を呼んでしまいそうになる。隣国の、敵の軍人なのに。呼ぶのが嫌だから下唇を噛んで声を殺した。ぐいと身体を掴まれて、ベッドの上に仰向けに転がされた。安っぽいベッドがぎぎ、と派手に軋んだ。
「ッあ、あ゛あ゛……っ!?」
 仰向けにされた拍子に後ろに埋まった機械の先端がベッドと擦れて、ぐぷっと更に深い場所まで犯された。襞を押し潰されると気持ちよくて眩暈がする。後ろがきゅんと収縮し、媚びるように張り型に吸い付く。頭の中が真っ白に染まった。またイく、と恐怖で目を見開いた途端、ぷしゃ♡♡♡と間の抜けた音をさせて、性器の先から透明な液体が勢いよく飛び散った。
「ひ!? やら♡あ゛ッ♡♡♡ああッ!」
 何が起きたのかも分からないうちに、びゅーびゅーと透明な液が吹き上がる。止まらない。恐い。我を忘れて傑に縋り付こうとするが、生憎両手は手錠で繋がれている。金属ががしゃりと音を立てて手首に痛みが走っただけだった。とうとう皮膚が擦り切れて血が滲んで来たらしい。
「だめ、っあ゛ッ♡すぐる、やだ♡も、イくのやら゛♡」
「さとる、いい声で啼いてとは言ったけど、そろそろ私は別の唄を聞きたいんだ。いい加減お喋りしてくれる気になったかい?」
 薄らと笑みを浮かべた傑が、情報を吐けと迫る。甘く誘うような、いっそ優しいとさえ言える声音で。吐いたら楽になれるよと、悟を誘惑する。その声に従って全部ぶちまけてしまいたかった。言ったらその瞬間に殺されると分かっていても、もう楽になりたかった。でも言える訳はない。何故なら自分は諜報員だ。拷問されて情報を漏らすなんて、諜報員として有り得ない。
「なら、ねえよ馬鹿……!」
 ありったけの憎しみと殺気を込めて、相手を睨み上げた。恐怖なんて一瞬消え去っていた。
「度胸だけはあるね」
 傑が得体の知れない笑みを顔に貼り付けたまま、何処までも光の差さない暗闇のような黒い目を細めた。ぞっとするような表情と、不穏な発言に背筋が凍る。バイブの電源を落とされて、身体の内側を責め苛んでいた振動がなくなるがまるで安心出来なかった。すぐに復活してしまった恐怖心がぐるぐると渦巻く。
 傑は一旦ベッドから降りると、机の横の小さな引き出しを開けて中を探り始めた。息を詰めたまま、傑から目を離せない。何をするつもりなのか。程なくしてまた戻って来た傑は、琥珀色の液体がなみなみと入った注射器と、細い金属の棒のような物を手に持っていた。
 血の気が引く。棒の方は用途が想像もつかないが、自白剤を使われたら終わりだ。
 クスリへ耐性を付ける訓練を受けてはいる。自白剤は一般人への効果は強力だが、軍人や諜報員など特殊な職種の人間にはそれ程脅威ではない。コツは知られたら困る情報を深層意識に隠すことだ。訓練すればそれ程難しくはない。でも今、このボロボロの状態でクスリを打たれたら隠し通す自身がない。全部吐いて廃人になって殺される未来が、目の前の映像と重なって見える気がした。
「……すぐる、」
「心配しているの? 悟。大丈夫だよ。自白剤を使って強制的にお喋りさせようという気はない。私は優しいからね、そんな趣味はないんだよ」
 傑がにこりと微笑む。上辺だけの優しい笑みだ。
 傑が中の薬液を確かめるようにシリンジを軽く指で弾いた。よく見れば注射器には針が付いていない。益々不安になる。
「悟が自然にお喋りしたいと思えるように、手助けするお薬だからさ」
「な、に、――っひ!?」
 性器を握られ、亀頭をぐいと左右に押し開くようにして、小さな鈴口を暴かれる。先走り汁と精液とで汚れた小さな穴の入り口に、傑がアンプルの先の部分をぬぷりと押し込んだ。背筋が粟立った。
「や、やだ♡ッうあ、あ゛っ……♡」
 傑の指先が、ゆっくりとプランジャーを押し込む。冷たい薬液が狭い管の中へと入って来るのが分かった。鳥肌が立ち、額に汗が浮く。恐怖が限界まで膨れ上がった。叫び出したい衝動を抑えるので精一杯だ。闇雲に暴れたくても、万が一そんな場所を傷付けてしまったらと思うと恐くて出来ない。息を詰めたまま、大人しく誰にも暴かれたことなどない場所に得体の知れない薬を流し込まれていることに吐き気が込み上げた。
「や、だ……っ♡も、嫌、――っあ゛ッ、」
 薬を全部流し入れた傑がアンプルを外し、蓋をするみたいに指先をぐちゅりと鈴口にめり込ませた。入りきらなかったのか、少量の琥珀色の液体がとぷりと指の隙間から零れる。ビク、と鋭い官能に腰が跳ね、次いで、指の触れている場所が、その奥の手など到底届かない狭い場所が、強烈な違和感に襲われる。
「待っ、何、ッひ!? や、あ゛ッ」
 痒い。
 猛烈な痒みが悟を苛む。中が、かゆい。今まで経験したことのない尿道の痒みに、悟は身を仰け反らせて悲鳴を上げた。傑の手に性器を押し付けるような格好になり、指先が穴にぐちゅりとめり込む。堪らないような快感が一瞬痒みを和らげるが、それよりも更に奥が痒い所為で、痒みの方が遥かに快感を凌駕している。余計にもどかしくて物足りなくて、尿管の疼きがどんどん酷くなる。
「ひ、う、あ゛ッやら♡かゆい♡すぐる♡やだ、やだ……♡」
 淫猥に腰が揺れ、痒い掻いてとねだるように腰を前に突き出すのに、無情にも傑は尿道口から指をすっと離してしまった。ほんの僅かでも痒みを和らげるものがなくなって、空気に触れているだけでも痒くて痒くて気が狂いそうだ。手錠の所為で自分で慰めることも出来ず、じくじく、ずくずくと中が疼いて、身を捩ればまだ中に埋まったままになっているバイブの突起が蕩かされた粘膜を擦る。死にそうだった。
「あ゛ッ♡やら♡だ、だめ♡すぐ、う……♡」
「苦しそうだね、悟。ねえ、お喋りする気になった?」
 目を覗き込まれ、熱い頬を撫でられ、すり、と耳に指を這わされる。何処もかしこも性感帯になってしまったかのようにビクンと身が跳ねた。苦しみから解放されたいという思いが募り、傑を見ていると情報を吐いてしまいそうだった。
「ならねえって言っ、んあ゛♡あ……ッ♡♡♡」
 傑から目を逸らしてぎゅうと目を閉じれば、くぷ、と小さな穴に何かを埋められた感覚があった。痒くて仕方のない場所にひやりと冷たい金属の感触が思いの他心地好くて、びくびくびく♡と腰が跳ね上がる。見れば、傑が持っていた金属の細い棒の先が鈴口に少しだけ埋まっている。棒の表面は後ろのバイブ同様に小さな突起にびっしりと覆われていた。
「は♡あ゛ッ♡やら♡ひ……♡」
「教えてくれたら、この中掻いてあげるんだけどね」
 ざり、と入り口で棒を小刻みに揺すられ、脳を直接揺すられているかのような快感に身悶えした。鈴口が棒に必死に吸い付いて、健気に奥へ誘い込もうとする。だが棒はそれ以上奥を掻いてはくれない。中、この棒で擦られたらどのくらい気持ちいいんだろう、とぼんやり考える。
「あ♡あッ♡あ♡あ゛ッ……♡」
 焦らすように、期待を持たせるように、傑が入り口ばかりを小さく擽る。さりさりと擦られ、赤くなった小さな穴から透明な汁がとろとろと零れる。腰がビクビクと震えるのが止まらない。
 きもちいい。でも、そこじゃなく、その奥がもっと痒い。掻いて欲しい。
 最初は薄らと考えていただけの思考に、気付いたら脳の大半を占領されている。かゆい。掻いて欲しい。中を棒で掻き混ぜて欲しい。ぐちゃぐちゃにして欲しい。暴発しそうな思考が、理性を崩壊させにかかっているようだった。
「悟、私は何も、全部教えてくれとは言わないよ。一つだけでいいんだ」
「はひ……♡ひと、つ……?」
 どういう意味だと蕩けた目で傑を見る。傑は悟の方へ顔を寄せ、小さな子供に言い含めるようにして、口調だけは優しく囁いた。 「そうだね。じゃあまずは所属部隊を教えて貰おうか」
 そしたらこの中、いっぱい掻いてあげるよ。
 ご褒美をちらつかせて、服従させようとする。言えば極上の餌を貰えると教え込んで、白状するように誘導している。そんな誘いに乗ってはいけないと頭では分かっていても、痒みを我慢出来ない。しかも意図したかのようなタイミングで、傑が棒の先を鈴口から抜いてしまった。
「あ、……っ待って、い、言う♡言うから、」
 もはやこの痒みから逃れる為に情報を吐く、それしか頭になかった。ひく♡ひく♡と寂しそうに口を開ける尿道口に再びぴたりと押し当てられる金属棒の感触に歓喜しながら、悟はその奥を貫かれる快感を想像してぞくぞく身を震わせた。
「ふあ♡あ゛ッ♡り、陸軍、の、第七師団の、ッうあ♡あ゛ッ♡第二五班、っひあああ゛♡♡♡」
 傑の気が変わってしまうんじゃないかと恐くて一気に所属班までを白状した拍子に、ずぷぷ……♡と棒を狭い尿道の中へと押し込まれた。痛みはない。それどころか、痒くて気が狂いそうだった場所を突起にざりざり擦られながら徐々に奥を犯されるのは信じられない程の快感だった。絶頂したかのような愉悦に舌先まで痺れ、ビク♡ビク♡ビク♡と跳ねる腰が蕩けそうだ。
「はひ♡あ゛ッ♡あ♡それ、きもちい♡あ゛ッ……♡」
「っはは。悟、これがイイの? スキモノだねえ」
「あッ♡んっあ゛っ♡やあ゛っ♡ちんこ、溶ける♡ひう♡あ゛ッ♡」
 ずりり……と先走り汁に濡れた棒を浅い場所まで引き上げられれば、未開発の尿道の粘膜がいくつもの突起に押し潰されて、眩暈がする。イッてる時そのものの甘い快感が背筋を震わせるが、棒が邪魔で射精出来ない。浅い場所まで抜けていたそれをまたざりざりと押し戻されて、がくがくと身が仰け反った。
「や、あ゛♡あッ♡なか、こひゅれて、っふあ♡あ゛っ♡」
「そんなに好きなら、もっと気持ちいいことしてあげるよ」
 何、と蕩けた頭で考えるより先に、また耳がぱちんという小さな音を拾った。その音は恐怖の対象だと、さっきから嫌という程身に刻まれている。条件反射のように身が竦んだ。まるでパブロフの犬だ。摘みを弾く音から一拍遅れて、後ろではなく前に刺さっている細い棒がぶるぶると細かく震え始めた。未知の感覚にビクッ♡と身体が跳ねて、口から勝手に声が漏れる。
「は、あ゛……ッ♡や♡ッあ、あ゛っだめ、」
 竿を握られ、扱かれる。そうされると外から擦られる感覚と合わせて内側を突起に押し潰される感覚をよりダイレクトに感じる羽目になり、外と内から同時に与えられる快感に背が弓なりに仰け反った。
「っひいッ!? や゛ぁ゛♡らめ、すぐう、ッあ゛ッ♡あ゛っ♡」
 後ろの機械のスイッチまで入れられた。蕩けて柔らかくなった粘膜をごつごつと捏ね回され、ビクン♡ビクン♡と腰が震える。忘れていた感触が一気に蘇り、後ろも前も同時に虐められる初めての感覚に訳が分からなくなる。とっくにイッてしまっていてもおかしくないのに、棒に塞がれた場所から精液が迸ることはない。身体の内で熱だけがどんどん溜まる。与えられる快楽ばかりがひたすら蓄積して、気が変になりそうだった。暴れまわりたい。出来ない。鎖がじゃらじゃらと音を立てる音が虚しく木霊する。
「っあ、あ゛ー……ッ♡だめ、これ……♡おかじぐ、なる……♡」
「情けない顔だね、悟。写真に撮って君の上官に送ってやりたいくらいだよ」
 涎と涙でぐしゃぐしゃになった顔を傑が笑う。悔しい。言い返そうにも、震える棒をゆっくり焦らすように引き抜かれると、擦られる尿道が熱く、精液が棒を抜くスピードに合わせて競り上がって来る。ぞぞぞ……っと怖気が走る感覚だった。だが、全て抜ければ射精出来ると、頭の中が期待で一杯になる。射精への欲求が膨れ上がる。イきたいと、出したいと、身体が切に訴える。なのに、もう少しで全部抜けるという場所で、傑はまた棒をずず、と奥へ埋めてしまった。
「は、あ゛……♡やら、それ無理……っ!」
 出掛かっていた精液を押し戻される。未知の感覚に肌が粟立つ。腰の奥が鈍く重く、解放されていない筈なのに脈打つような快感だけがずっと続く。続くと、もはや苦痛だ。涙が溢れ出て頬を伝った。
「や♡やだ♡抜いて、おねがい゛♡」
「悟がこの中掻いてっておねだりしたんだろ」
 そうだっただろうか。そうだったような気もする。でももう抜いて欲しかった。イきたかった。だが傑は尿道の中をぐるぐると円を描くようにして棒で犯しながら、後ろのバイブまでぬぷぬぷと抜き差しする。ごりゅ♡と前立腺を擦られ、目を見開いた。絶頂したかのような官能が全身を駆けたが、棒と尿道口の間に出来た僅かな隙間からたらりと透明な先走り汁が零れただけだ。
「はひ♡あ゛ッ♡だめ、あ゛ッ♡」
 ぬぷ♡ぬぽ♡ぐちゅ♡ぬちゅ♡
 バイブを動かされる度に卑猥な音がする。それだけでも死にそうなのに、前に刺さった棒まで抜き差しされて、細かな突起に敏感な粘膜を押し潰され、神経を一本一本焼かれているかのような甘く苦しい快感が引っ切り無しに悟を襲う。イッてる、と思うのに、精液は出ない。ずっとイッているみたいな快感だけが延々と続く。
 嫌だ、恐い。発狂しそうだ。そんな悟の恐怖心などお構い無しに、後ろも前も気持ちいい。身体が自分のものではないみたいに、ずっとびくびく震えている。傑にコントロールされているみたいだ。そうだ、この身は今や傑のもの。生かすも殺すも傑次第。傑の気分一つで、悟の運命は簡単に変わる。ゾッとするような話の筈なのに、何故か身体の奥に鈍く痺れるような感覚が走った。――嬉しいと思っているかのように。
「すぐ、る、やだ……♡ぬ、抜いてぇ゛……ッ♡精液、出したい、からぁ゛♡」
「こっちも慈善事業じゃないからさ。悟の言うことだけを聞いてあげられないなあ」
 わざとらしく語尾を間延びさせて、傑がこれ見よがしに溜息を吐く。芝居掛かったその仕草は状況を愉しんでいるというよりは、自分の思い描いたように事が進むように、悟を誘導している。誘導されている。それを分かっていても、この地獄のような快感から一刻も早く解放されたいということしか考えられない。その思考に支配されるように、傑によって誘導されているというのに。
「な、なんでも、する、から……♡おねがい、します、ッあ゛ッ♡うあ♡なんでも、します、ん゛っ♡あ、あ゛ッ♡ああ゛っ♡♡」
「何でも? 本当に?」
 片眉を吊り上げ、小首を傾げながら、傑がまた尿道の棒を小さく揺する。ビクッ♡ビクッ♡と壊れた玩具みたいに、悟の身体が何度も跳ねた。
「す、する♡なんでも、ッあ゛♡も、やら゛♡おねがい……♡」
 何でもする、だなんて、拷問で絶対に口にしてはいけない台詞だ。だがもうそんなことどうでも良かった。とにかく解放されたかった。射精出来るなら、死んでもいい。理性なんて、とっくに崩壊していた。
 縋るように目を向けた先にいるのは、親友、と思っていた人間の形をした別の誰かだ。頬を撫でる手からは人の体温が感じられないのに、触れられた頬が熱く、身体の奥も熱い。
「うん、いいよ。でも、勿論条件がある」
「じょう、けん……?」
「そう。悟にもう一つ教えて欲しいことがあるんだ」
 す、と傑がこちらに身を寄せ、優しく囁く。
 君の上官の名前。賢い悟なら言えるよね?
 それは、絶対に言ってはいけない。言ったら終わる。僅かに残っていた理性が、傑の要求に応えるのを躊躇した。下唇を噛んで黙り込む。だが、傑の前ではそんなささやかな抵抗など、無抵抗と等しかった。
「何でもするんでしょ? 言ったら、ご褒美に好きなだけ射精させてあげる」
 餌を前にした飢えた豚のように、一時も耐えられそうになかった。震える唇を開くと、また新たな涙がぼろぼろと零れてシーツに落ちた。
「……な、名前、は、……ひ♡う……ッ♡や、夜蛾……正道、師団長……」
 終わったと思った。手練れの拷問官に、堕とされていく。目の前が真っ暗に染まる。だが、これでイかせて貰える。そう思うと笑みが零れた。壊れていると思う。
「そう。夜蛾正道……」
 傑は何かを考え込むような表情だ。顎に手を当て、黒い目が虚空を見つめている。自分との約束を忘れたのだろうかと不安に駆られる。
「す、すぐる……、」
「ん? ああ、そうだった」
 ふと我に返ったように、傑がぶるぶる震える棒の先端を掴む。ずず、ず、と抜かれていくそれを、思わず目で追った。精液が、何度往復させられたかもはや分からない管の中をまた棒の動きに合わせて競り上がる。またイかせて貰えないのだろうかと、期待を持たせては裏切られてを繰り返されて来たお陰ですっかり疑心暗鬼に陥った頭で考える。だがそうはならず、きゅぽ、と軽い音をさせて存外にあっさりと全てが性器の中から出て行った。
「っあ♡あぁ♡ひあ、あ゛……♡♡♡」
 散々溜め込まされていたどろりとした白濁がようやく放出を許されて、とろとろと流れ落ちるように性器の先から零れる。鈍く、長く尾を引くような快感が続いた。ずっとイッているみたいな感覚が長く続いて、しかも、棒は出て行った筈なのにまだ何かが埋まっている気がする小さな穴から別のものが出そうになっていることに気付いてギョッとする。
「あ、待って、うそ、だめ、っあ……ッ♡」
 それが強烈な尿意だと認識して狼狽するが、止める間もなかった。濁った白濁に続いてしょろ、と薄黄色の液体が零れ出て、しょわわわ……と生温い温度と共に体外へと放出される。つんと鼻をつくアンモニア臭が余計に羞恥を掻き立てた。
「や、やだ……♡と、とまんな、っあ♡なんで……?」
 最悪だ。最悪過ぎて尿だけでなく涙も止まらない。ぎゅうと目を閉じるが、それだけで羞恥に耐えうる筈もない。閉じた瞼の奥から次々と涙が溢れた。
 いっそ、死にたかった。いや、殺してくれと思う。傑は、と閉じたばかりの目を開ける。傑はこれから自分をどうするつもりだろう。視線の先にいる傑の表情から感情を読み取ることが出来ない。能面のようだ。
「粗相をしたのかい、悟。悪い子だね」
「あ、……っご、ごめん、なさい、ゆるし、――っうあ゛ああッ!?」
 ぐぷ♡とバイブを深くまで捻じ込まれ、身を仰け反らせれば今度は尿と精液と先走り汁とで濡れて酷い有様になっている性器を掴まれる。開いたままになってひく♡ひく♡と切なげに震える尿道口にまた棒の先端を宛がわれ、ずぷりと切っ先を埋められた。目の奥で星が弾け飛んだ。
「あ゛ー……ッ!? ごめんなひゃ♡♡♡やら♡ゆるひて♡もおやら゛♡」
 隙間を縫って僅かに零れる先走り汁に、濁った白いものが混ざっている。がくがくと腰が震えて、手を振り回そうとして手錠が血が滲んだ手首に食い込んで痛い思いをしただけだった。
「何でもするんだろ?」
「し、します♡しますからあ゛……ッ!」
「じゃあ、あと五時間くらいそのままにしてて」
「は、ひゅ……!?」
 五時間、という信じられない時間を冷ややかに告げて、傑は無情にもベッドを降りた。
「壊れないでね」
 さらりと無茶な要求をして背を向ける。待ってと呼び止めても、振り向きもしない。机の上に仕事道具を放置したまま、傑は本当に部屋から出て行ってしまった。がしゃん、と重い金属製のドアが閉じる音が、絶望しろと言わんばかりに部屋に響いた。
「すぐる……!」
 閉じられたドアは、恐らく傑が言うようにあと五時間は開くことはない。玩具が絶えず身体を苛む所為で気絶することも許されない。自害、という二文字が頭に浮かぶ。舌を嚙み切って死んでしまおうか。でも……
 傑が戻って来たら何をされるんだろう、と考えて、ぞわりと得体の知れないものが背筋を撫でた。嫌悪感とか悪寒の類ではなかった。もっと別の……期待しているかのような熱い塊。
 壊れている。とっくに。


 やがまさみち、と口の中で呟く。有益な情報だ。上官に報告しなくてはならない。それと、部隊に戻って訓練に参加。終わったらまた書類を纏めて、ミーティング。同じ隊で泳がせていた捕虜は、その間に壊れるか自死しているかのどちらかだろう。どちらでもいい。もし生きていたら廃人同然だろう。もう聞き出すべき情報もないし、後輩にでもまわそうかと思う。あの容姿だ。後輩達も喜ぶに違いない。
 だが万が一正気を保っていたらどうだろう。その場合は、まだ少し遊べるかも知れない。
「……壊れないでね、さとる」
 壊れてなければ、また遊んであげる。
 ゆっくりと笑みを浮かべ、傑は軍帽を目深に被り直してから上官の部屋へ向かった。

(終)