5

 建物の外観も部屋の内装もピンクだったが、風呂場もピンクだった。壁、床、天井、浴槽、それに小物類も。しつこく何処までもピンクだ。そしてピンクだらけのバスルームの、ピンク色のバスチェアの上にゆっくりと下ろされ、悟を抱えてここまで運んで来た傑がふうと溜息を吐いた。
「流石に腕が攣りそう」
「じゃあ一人で入れよ。俺は後で勝手に入るっつっただろ」
「そんな身体だけの関係みたいな寂しいこと言わないで」
 ぶすっとして言い返せば、傑が寂しそうに口を尖らせた。じゃあ今まで身体だけの関係の女と寝る時は別々で風呂に入ってたのかよ、と生々しい妄想が頭を過って、また嫉妬のような感情が脳内でぐるぐる渦巻いた。
 傑が好きだ、と思う。確信を持って好きだと言えないのは、人のことを好きになったことがないからだ。でも毎日傑のことを考えている。傑が誰か知らない女と会っていると考えるだけで嫉妬で気が狂いそうだった。だから、自分も女と遊ぶことにした。そうすれば傑のことを考えなくて済むと思ったから。なのに傑に好きだと言われてまだ混乱していた。同時に嬉しい、という思いが膨れ上がるのを無視出来ない。
 あの後散々傑に身体を貪られて声が枯れるくらい啼かされて、いつの間にか気絶するようにして眠っていたらしい。悟、起きてという声と共に肩を揺すられて、ゆっくり目を開けると半分寝惚けたままの身体を抱え上げられて風呂場へと運ばれてしまった。道中でやめろ下ろせ別々で入ると言ったが聞き入れては貰えなかった。しかも暴れようにも全身が怠くて力が入らない。まるで俎板の上の鯉だ。
 いつの間にか全裸にされて、目の前で悟と目線を合わせるように片膝をついた傑も殆ど裸だ。殆ど、というのは、タオルで前を隠しているということだ。フェアじゃないと思う。自分だけが恥ずかしい格好で、傑の前にいる。傑の長い髪が今は解かれて、そうすると普段は優しげな雰囲気なのに妙に野性味があって、ドキドキする。
 不意に落ち着かない気分になった。やっぱり、一緒に入浴するなんて無しだ。顔が赤くなるのを感じながら、傑の肩を掴んでぐいと自分から遠ざけるように押す。
「っなあ、やっぱり別々に入りたい、」
「駄目だよ、悟。さっき出した精液、ちゃんと全部掻き出さないといけないんだし」
 傑がピンク色のシャワーを掴み、蛇口を捻った。さあ、という水音と共に、丁度良い温度に温められた湯がシャワーヘッドから勢いよく流れ出す。湯を肩口に掛けられて、心地好い温度に身体が弛緩する。弛緩したところで乳首にシャワーヘッドを近付けられて、絶妙な水圧の湯がそこに掛かる。
「そんなの、じ、自分でするから、ッふ、」
 変な声が出てしまい、思わず口を手で押さえる。ビク、と痙攣した拍子、背中が浴室の壁に触れる。どうやら壁際に傑に追い詰められて、逃げられる状況ではないらしい。
「じゃあしてるところ見せて」
「い、嫌だ、」
 自分で掻き出しているのを傑に見られているのを想像して、身体が勝手に熱くなる。
「じゃあ恋人の私が処理するから」
 足開いて、と耳元で囁かれれば、何故か言葉通りに太腿を左右に開いてしまう。逆らえない。従順に言うことを聞いていれば気持ちよくなると、身体が覚えてしまっているから。
「こ、恋人って、何勝手に決めて、――ッひ、」
 湯で温められた傑の指が、ぬぷりと後ろに差し込まれる。反射のように身体がビクンと跳ねて、甲高い声が口をついて出る。唇を噛んで声を殺すが、ぬ゛、と奥へ埋め込まれた指が中でぐねぐねと蠢くと、ぐちゃ、ぐちゅ、と泡立った音をさせながら傑の精液が穴からゆっくりと這い出て来る。
「……ッ、」
 片手で口を押さえ、片手で傑の肩をぎゅうと掴んだ。
 勿体ないと咄嗟に思った。せっかく傑のが、中に入っていたのに。この身体が傑の所有物だと示す証だったのに、全部外へ出てしまう。でも、全部腹から出て空になったら、またその隙間を埋めて中に出してくれるのだろうか。恋人同士だから。
 ドクドクと心臓が煩い。近くにいる傑に音が聞こえてしまうかも知れない。
「酷いなあ。恋人同士でもないのに私とああいうことするの? 君は。とんだ魔性だな」
 のんびりと傑が言う。自分はどうなんだと思う。でも言い返すことは出来ない。指をもう一本入れられて、穴を左右に拡げるようにされながら白濁を掻き出されると、変な声が出てしまいそうだから。粘膜に触れる傑の指が、身体をどんどん敏感にしている気がする。
 どう考えても魔性は傑の方だろうと思う。傑の指先の動き一つで、いとも簡単に狂わされるのだから。溺れさせられて、這い上がれなくなるのだから。まるで傑の思いのまま、意のままに操られる玩具だ。
「っあ……ッ」
 ピクン、と身体が震えて声が漏れ出る。粘膜を引っ掻かれる度、小刻みに身体が跳ねる。掻き出される精液がシャワーに流され、床へ、そして排水溝へと流れていく。
 傑が指の埋まっている穴を覗き込むようにして、白濁をどんどん掻き出していく。そんなところを凝視されるのは死ぬ程恥ずかしいのに、見られていると意識すればする程心拍数が上がる。もっととねだるように腰を前に突き出してしまう。指より太いものを与えられるのを期待するようにそこがひくつく。傑の長い髪の先が太腿に触れて、ぞくぞくと身体に痺れが走った。
「も、あんま、見んな……っ、」
「でも見ないと、処理出来ないだろ?」
「も、いい、から、やめろ……!」
 傑が喋ると、息がそこに掛かって下腹が妖しく疼く。しなくていいと首を横に振れば、最後に残っていた精液の残滓と共に指が二本とも引き抜かれた。やめろと言ったのは自分の癖に、ぽかりと開いた空間を埋めるものが何もなくなってそこがきゅんと寂しげに疼いた。
「う、あ……、」
 はあ、と口から熱っぽい息を吐きながら身体を震わせ、傑の肩を爪が食い込むくらい強く掴む。中に入っていたものを出さなければ腹を下すから、必要なことだからしていただけだ。なのに、両足の間で中心が熱を持ち、緩く勃ち上がって露出した亀頭から切なげにこぽりと蜜を零していた。当然傑にも気付かれていて、傑の唇の両端がゆるりと笑みの形に持ち上がった。
「……へえ。悟、指突っ込まれて興奮したの?」
「っちが、――ッあ゛……っ」
 ざあ、とシャワーの湯を性器に向かって思い切り掛けられる。シャワーヘッドを敏感な亀頭に近付けられて、指とは違うさらさらの感触が刺激に不慣れな場所を嬲った。びくびくびく、と肩が大きく跳ねる。
「や、……っそれ、やめ、傑、ッあっ」
 声を殺そうにも唇を噛んだそばから刺激を加えられて、唇の戒めが勝手に解けてしまう。開いた口から出た上擦った声が、浴室にいる所為か普段よりもよく響いて余計に羞恥を煽られる。
「やめて欲しくなさそうな顔してるよ」
「ちが、ッも、マジでやだ、ッあ゛ッひあ、あっ」
 どぷりと溢れた先走り汁が湯と一緒に流れ落ちていく。手で刺激されるのとは別物だ。だが未知の、そして不慣れな感覚を身体は快感だと認識しているらしい。ビク、ビク、と歓喜に腰が跳ね、身体からどんどん力が抜けていく。背中を壁にもたせ掛けるようにしてずるずると身体が壁伝いに落ちていく。身体が熱くて、冷たい壁も火照った身体を冷やすことには全く役に立たない。
「す、すぐる、だめ、」
「相変わらず素直じゃないね。こんなに赤くして悦んでる癖にどこが駄目なの」
「ふあ゛ッ……あ、あっ、」
 くちゅ、と鈴口に親指を這わされて、眩暈がするような快感に襲われた。恍惚に喉が仰け反る。腰が跳ね、図らずも傑の手に押し付けるような格好になった。指が敏感な場所に食い込んで、どっと溢れ出た透明な蜜が湯と共に竿を伝い落ちる。
 さっきあれだけ出して我慢させられてまた出してしかも精液以外にも色々出す羽目になったのに、指と湯に嬲られてまたイきそうになっている。そんな、底無しの欲望なんかなかった筈なのに。殆ど興味もなかったのに。傑の所為だ。傑が、身体を作り変えてしまった。
「イきそう?」
「う、……っい、イく、」
 ぶるりと身体が痙攣し、びゅく、と白濁が飛んだ。どぷどぷと噴き出て、タイルの床を伝う。蕩けてしまいそうな快感の所為で身体が言うことを聞かない。ビク、ビク、と腰を震わせながら荒い息を吐くしか出来ないでいると、イッたばかりで敏感になった亀頭にまたシャワーを近付けられて、身体が勢いよく跳ねた。
「っひあ゛……ッ傑、も、イッた、から、ッあ゛っ、」
「イッたから、何? やめて欲しいの?」
 こくこくと何度も必死に頷く。感度が異様に高まった身体にシャワーの水圧は毒でしかない。
「じゃあやめられないな」
 なのに傑は意地悪く微笑みながら最低なことを言って蛇口を捻り、水圧を更に強くした。強さを増した湯が、赤く腫れた亀頭を容赦なく打つのが堪らなく気持ちいい。抑えの利かないものが、狭い尿管を競り上がって来るのが分かって焦る。
「すぐ、る、も、や゛め゛……ッ、で、出る、から、」
「何が出そうなのか教えてよ、悟」
 そっと膝立ちになった傑が耳に唇を寄せて教えてと低く問う。分かっている癖に訊くなんて最低で悪趣味だし、言いたくない。でも、と脳裏を別の考えが過る。言ったらどうなるのだろう。恥ずかしいことを言わされながら傑に恥ずかしい姿を見られる。その想像だけでぞわりと肌が粟立った。
「さとる」
 促すように優しい声音で名前を呼びながら、傑がシャワーヘッドの当たる角度を微妙に変える。裏筋に当てられながらぷくりと腫れた亀頭を指先で押され、ひう、と喉の奥から情けない声が出た。
「ッあ゛……傑、……っお、おしっこ、出る、出ちゃう、」
 おしっこ、だなんて口に出しているだけで羞恥と興奮でぞくぞくした。
 じょろ、と薄黄色の液体が迸ると同時、シャワーの湯を止められてしまう。その所為でとくとくと尿が出るのを傑に間近で観察される羽目になる。
「ッあ゛……ッも、見んな……、」
 傑が見ている前でするのはこれで三回目だ。恥ずかしいのに、見られていると気持ちいい。その証拠に性器が緩く勃ち上がり掛けている。被虐的な快感が身体中を駆ける。こんなの、癖になってしまいそうだ。変態だ。
 顎を掴まれ、ぐいと顔を引き寄せられてキスされた。唇の間を強引に割って舌が差し込まれ、舌を絡め取られる。ビクリと身を竦ませる間に身体を壁に押し付けられて、舌同士を激しく擦り合わされる。
「ッう、……」
 未だにこういう時息の仕方が分からない。酸欠で頭がボーッとして、苦しくて目尻に涙が浮いた。苦しいのに下腹がじんと疼いて、前が触れて欲しそうにぴくんと震える。キスされながら傑の手がそこに伸びて、尿と精液と先走り汁で濡れた先端を指に擦られれば歓喜して腰が跳ねた。
「あ……ッ傑、も、それいいから、」
 ぎゅうと傑の肩を掴み、身を捩る。どちらの物なのかも判然としない唾液が口端から顎へとつうと伝った。
「す、傑のちんこで、イきたい……」
 口に出してしまってから猛烈な羞恥に襲われた。なんて大胆なことを口走ってしまったんだと、かーっと顔に血が集まる。傑から目を逸らそうとすると、獰猛な肉食獣が執拗に獲物を追うようにその目を覗き込まれた。いつもは温厚な筈の目が欲に塗れてぎらついて、心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。
「悟さあ、何処で覚えて来るの、そんなやらしい誘い文句」
 普段は何とも思わない筈の、髪を耳に掛ける傑の仕草にまでドキドキする。壁際に追い詰められるようにして、耳元に身を寄せた傑に「泣いて許しを乞うてもやめないからな」と低く囁かれて、期待するように喉が鳴った。視線を落とせば、傑の硬く張り詰めた前が、タオルの布地を押し上げている。


「あ゛ぁ……ッひあ、あ、あ゛ッすぐる、」
 ずる、と壁伝いに座り込んでしまいそうになる。そうはさせないとばかりに膝裏に手を差し込まれ、片足だけを高く上げさせられて不安定な体勢を取らされた。右足一本だけで立たされたまま、露わになった場所に太くて熱い楔を打ち込まれて喉が仰け反る。
「っあ゛……ッあ、あぐ、」
 欲を孕み上擦った声が浴室内に木霊する。普段の自分とはかけ離れたその余裕のない声を聞きたくなくて耳を塞いでしまいたいのに、傑の肩口に必死で縋り付く手を離した瞬間に頽れてしまいそうだ。
 苦しい。熱い。でも嫌じゃない。
 圧迫感があったのは一瞬だけだ。熟れて充分に柔らかくなった後孔は傑のものを難無く呑み込んで、快楽を貪ろうと貪欲に収縮を繰り返す。ず、ぬぷ、と抽挿を数度繰り返されただけで、性器がはち切れそうな程に膨らんだ。
「すぐる、……ッひあ、そこ、もっと、」
 ぐり、と前立腺を擦られてびくびくと身体が痙攣する。もっととねだれば、傑の硬い亀頭で執拗にそこを押し潰されて眩暈がした。とぷ、と先走りが零れて竿を伝う。
「悟は、ここが好き?」
「す、好き、そこ、ぐりぐりってされるの、気持ちい、」
「悟はやらしいね」
 素直に口に出すと快感が増す気がする。
 ぐりゅ、ごりゅ、と何度も執拗に抉られて下腹がじんじんと痺れた。どろどろに蕩けて、全部なくなってしまいそうだ。無意識に傑の背に腕を回し、爪痕が付きそうなくらいぎゅうと強く掴んで引き寄せてしまう。悟に引き寄せられた傑が首筋に顔を埋めるようにして、がぶりとそこに歯を立てた。ビリ、と電気を流されるような鋭い痛みが皮膚を這う。
「い゛ッ!?」
 がぶ、がり、と何度も噛まれる。痛い。傑の濡れた髪が鎖骨の辺りに触れてこそばゆい。噛まれながらぬぷりと性器を奥へ差し込まれて、痛いのとこそばゆいのと気持ちいいのとが同時に襲って来て訳が分からなくなる。
「っちょ、傑、――っあ゛ッんっあ、あ゛っ」
 じゅる、と皮膚を吸われながら中で円を描くように攪拌される。びくびくびく、と身体が大きく仰け反った。奥を無理矢理こじ開けられて拡げられていく感覚に、淫らな快感がどんどん蓄積されていく。張り出したカリが内壁を擦ると、頭の芯が痺れた。
「すぐる、も、イく……!」
 頭の中も目の前も白く染まる。どぴゅ、と白濁が飛んで傑の腹や自分の腹に卑猥な白い花を咲かせた。びゅくびゅくと粘り気のある白濁が吐き出されて、悦楽に腰が何度も跳ねる。 「はひ、っあ゛ッあ、……」  何回イかされてるんだと思う。これ以上イくのは無理だとも思う。どろどろのぐちゃぐちゃだ。脳内も、身体も、何もかも。  とろんとした目でぼんやりイッている途中でまた傑にキスされた。獰猛な獣のようにキスに容赦がない。本能的に食われると思った。食われて、骨の髄までしゃぶり尽くされて、全部傑の物になってしまう。悪くないな、と頭がどうかしているようなことを考えていると唇を離されて、好きだと切なげに囁かれる。
「悟、好きだ」
「……」
 今それを言うのは反則だという気がした。好きと言われただけで顔が熱くなって、心臓の鼓動が激しくなって、身体の奥底で熱が燻る。それに好きだと言われれば言われる程俺も好きと言ってしまいそうで、単純すぎる自分に呆れた。
「悟、」
「うるさ、い――ッうあ、あ゛っ」
 身体を強引に反転させられて、今度は壁に手をついて身体を支える不安定な体勢を取らされた。ぬぷ、とまた硬さを保ったままの傑の雄が深い場所へ入り込んで来て、びくびくと身が仰け反る。
「傑、も、無理、」
「好き。悟のことが好き」
「黙れ、煩い、ッひあ、あ゛ッあ、あ゛っ」
 抽挿を繰り返され、喉から嬌声が上がる。また勃起した前がつるりとした壁の表面に擦れて、冷たいのが気持ちよくてどんどん身体が快感を拾っていく。
「好きだ」
「い、言うな、もう、ッあ゛ッん、あ、あ……っ!」
 何で、好きなんて今まで一度も言わなかった癖にしつこく言うんだ。言わないで欲しいと思う。だって言われたら気持ちいいのが止まらなくなって、自分も好きだと口走ってしまいそうだ。単純過ぎる自分に呆れる。好きと言われたから好きになるだなんんて、安っぽくて馬鹿で都合のいい女みたいだ。
「すぐる……ッ、」
「っねえ、悟は? 私のこと、好きじゃない?」
「ッあ゛……ッだめ、ッだ、ッあ゛っ」
 前に伸びて来た手に乳首をぎゅうと摘まれた。こりこりに勃起した乳首を強めに引っ張られると鋭い官能が背筋を貫く。身を仰け反らせると腰を前に突き出すような格好になり、冷たい壁に勃起が擦れる感触に眩暈がした。
「あ゛ッ……」
 びく、びく、と腰が震える。どぷりと吐き出される先走り汁が硝子面をべとべとに汚した。
 多分、傑のことが好きだと思う。でも言いたくない。何故って、恥ずかしい。だから言わない。
「ここ、こりこりになってる。悟は何処触っても反応するね」
 可愛い、と囁かれながら指に乳首を押し潰され、甘く切ないような快感が身体の奥を疼かせた。かと思えば焦らすようにすりすりと指に突起を撫でられて、むず痒いようなもどかしさに襲われる。思わず鼻に掛かったような声を漏らした。
「ん……っ」
 乳首を弄られながら後ろに性器が出たり入ったりを繰り返す。鏡面に上半身を押し付けるようにして、傑の方へ尻を突き出すような無様な格好でどろどろになりそうな快感を享受することしか出来ない。
「はひ、ッあ゛ッすぐる、やら、」
「……やらしい顔。見て」
 見たくもない。なのに壁に取り付けられた鏡を見るように促されるままに、ぼんやりと鏡に視線をやってしまう。蕩けた自分の顔が自分を見返して来る。耐えられなくて目を逸らすと、傑に噛み付かれた場所が赤く充血しているのが目に入る。白い皮膚の中でそこだけ赤い斑点が浮いたようになっていて、こんなのどうやって隠すんだと途方に暮れると同時に傑の物だと主張されているようできゅんと嬉しくなる。
 傑は、どんな顔をしているんだろう。自分の後ろにいる所為で顔が見えない。だからその顔が見たくてそっと鏡越しに背後に目をやった。
 途端、傑と目が合う。すぐに目が合うということは、傑も悟の顔をずっと見ていたということだ。羞恥が募る。
「……へえ。悟、指突っ込まれて興奮したの?」
「っちが、――ッあ゛……っ」
 ざあ、とシャワーの湯を性器に向かって思い切り掛けられる。シャワーヘッドを敏感な亀頭に近付けられて、指とは違うさらさらの感触が刺激に不慣れな場所を嬲った。びくびくびく、と肩が大きく跳ねる。
「や、……っそれ、やめ、傑、ッあっ」
 声を殺そうにも唇を噛んだそばから刺激を咥えられて、唇の戒めが勝手に解けてしまう。開いた口から出た上擦った声が、浴室にいる所為か普段よりもよく響いて余計に羞恥を煽られる。
「やめて欲しくなさそうな顔してるよ」
「ちが、ッも、マジでやだ、ッあ゛ッひあ、あっ」
 どぷりと溢れた先走り汁が湯と一緒に流れ落ちていく。手で刺激されるのとは別物だ。だが未知の、そして不慣れな感覚を身体は快感だと認識しているらしい。ビク、ビク、と歓喜に腰が跳ね、身体からどんどん力が抜けていく。背中を壁にもたせ掛けるようにしてずるずると壁伝いに落ちていく。壁は冷たいのに、火照った身体にはむしろ心地好く感じる。
「す、すぐる、だめ、」
「相変わらず素直じゃないね。こんなに赤くして悦んでる癖にどこが駄目なの」
「ふあ゛ッ……あ、あっ、」
 くちゅ、と鈴口に親指を這わされて、眩暈がするような快感に襲われた。恍惚に喉が仰け反る。腰が跳ね、図らずも傑の手に押し付けるような格好になった。指が敏感な場所に食い込んで、どっと溢れ出た透明な蜜が湯と共に竿を伝い落ちる。
 さっきあれだけ出して我慢させられてまた出してしかも精液以外にも色々出す羽目になったのに、指と湯に嬲られてまたイきそうになっている。そんな、底無しの欲望なんかなかった筈なのに。傑の所為だ。傑が、身体を作り変えてしまった。
「イきそう?」
「う、……っい、イく、」
 ぶるりと身体が痙攣し、びゅく、と白濁が飛んだ。どぷどぷと噴き出て、タイルの床を伝う。蕩けてしまいそうな快感の所為で身体が言うことを聞かない。ビク、ビク、と腰を震わせながら荒い息を吐くしか出来ないでいると、イッたばかりで敏感になった亀頭にまたシャワーを近付けられて、身体が勢いよく跳ねた。
「っひあ゛……ッ傑、も、イッた、から、ッあ゛っ、」
「イッたから、何? やめて欲しいの?」
 こくこくと何度も必死に頷く。感度が異様に高まった身体にシャワーの水圧は毒でしかない。
「じゃあやめられないな」
 なのに傑は意地悪く微笑みながら最低なことを言って蛇口を捻り、水圧を更に強くした。強さを増した湯が、赤く腫れた亀頭を容赦なく打つのが堪らなく気持ちいい。抑えの利かないものが、狭い尿管を競り上がって来るのが分かって焦る。
「すぐ、る、も、や゛め゛……ッ、で、出る、から、」
「何が出そうなのか教えてよ、悟」
 そっと膝立ちになった傑が耳に唇を寄せて教えてと低く問う。分かっている癖に訊くなんて最低で悪趣味だし、言いたくない。でも、と脳裏を別の考えが過る。言ったらどうなるのだろう。恥ずかしいことを言わされながら傑に恥ずかしい姿を見られる。その想像だけでぞわりと肌が粟立った。
「さとる」
 促すように優しい声音で名前を呼びながら、傑がシャワーヘッドの当たる角度を微妙に変える。裏筋に当てられながらぷくりと腫れた亀頭を指先で押され、ひう、と喉の奥から情けない声が出た。
「ッあ゛……傑、……っお、おしっこ、出る、出ちゃう、」
 おしっこ、だなんて口に出しているだけで羞恥と興奮でぞくぞくした。
 じょろ、と薄黄色の液体が迸ると同時、シャワーの湯を止められてしまう。その所為でとくとくと尿が出るのを傑に間近で観察される羽目になる。
「ッあ゛……ッも、見んな……、」
 傑が見ている前でするのはこれで三回目だ。恥ずかしいのに、見られていると気持ちいい。その証拠に性器が緩く勃ち上がり掛けている。被虐的な快感が身体中を駆ける。こんなの、癖になってしまいそうだ。変態だ。
 顎を掴まれ、ぐいと顔を引き寄せられてキスされた。唇の間を強引に割って舌が差し込まれ、舌を絡め取られる。ビクリと身を竦ませる間に身体を壁に押し付けられて、舌同士を激しく擦り合わされる。
「ッう、……」
 未だにこういう時息の仕方が分からない。酸欠で頭がボーッとして、苦しくて目尻に涙が浮いた。苦しいのに下腹がじんと疼いて、前が触れて欲しそうにぴくんと震える。キスされながら傑の手がそこに伸びて、尿と精液と先走り汁で濡れた先端を指に擦られれば歓喜して腰が跳ねた。
「あ……ッ傑、も、それいいから、」
 ぎゅうと傑の肩を掴み、身を捩る。どちらの物なのかも判然としない唾液が口端から顎へとつうと伝った。
「す、傑のちんこで、イきたい……」
 口に出してしまってから猛烈な羞恥に襲われた。なんて大胆なことを口走ってしまったんだと、かーっと顔に血が集まる。傑から目を逸らそうとすると、獰猛な肉食獣が執拗に獲物を追うようにその目を覗き込まれた。いつもは温厚な筈の目が欲に塗れてぎらついて、心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。
「悟さあ、何処で覚えて来るの、そんなやらしい誘い文句」
 普段は何とも思わない筈の、髪を耳に掛ける傑の仕草にまでドキドキする。壁際に追い詰められるようにして、耳元に身を寄せた傑に「泣いて許しを乞うてもやめないからな」と低く囁かれて、期待するように喉が鳴った。視線を落とせば、傑の硬く張り詰めた前が、タオルの布地を押し上げている。


 ざあ、と水音が響く。出しっぱなしのシャワーから勢いよく放たれる湯が床を打ち、湯気が立ち込める。水音に混じって自分の喘ぎ声がよく響くのがとんでもなく恥ずかしい。
「あ゛ぁ……ッひあ、あ、あ゛ッすぐる、」
 ずる、と壁伝いに座り込んでしまいそうになる。そうはさせないとばかりに膝裏に手を差し込まれ、片足だけを高く上げさせられて不安定な体勢を取らされた。右足一本だけで立たされたまま、露わになった場所に太くて熱い楔を打ち込まれて喉が仰け反る。
「っあ゛……ッあ、あぐ、」
 欲を孕み上擦った声が浴室内に木霊する。普段の自分とはかけ離れたその余裕のない声を聞きたくなくて耳を塞いでしまいたいのに、傑の肩口に必死で縋り付く手を離した瞬間に頽れてしまいそうだ。
 苦しい。熱い。でも嫌じゃない。
 圧迫感があったのは一瞬だけで、熟れて充分に柔らかくなった後孔は傑のものを難無く呑み込んで、快楽を貪ろうと貪欲に収縮を繰り返す。ず、ぬぷ、と抽挿を数度繰り返されただけで、性器がはち切れそうな程に膨らんだ。
「すぐる、……ッひあ、そこ、もっと、」
 ぐり、と前立腺を擦られてびくびくと身体が痙攣する。もっととねだれば、傑の硬い亀頭で執拗にそこを押し潰されて眩暈がした。とぷ、と先走りが零れて竿を伝う。
「悟は、ここが好き?」
「す、好き、そこ、ぐりぐりってされるの、気持ちい、」
「悟はやらしいね」
 素直に口に出すと快感が増す気がする。
 ぐりゅ、ごりゅ、と何度も執拗に抉られて下腹がじんじんと痺れた。どろどろに蕩けて、全部なくなってしまいそうだ。無意識に傑の背に腕を回し、爪痕が付きそうなくらいぎゅうと強く掴んで引き寄せてしまう。悟に引き寄せられた傑が首筋に顔を埋めるようにして、がぶりとそこに歯を立てた。ビリ、と電気を流されるような鋭い痛みが皮膚を這う。
「い゛ッ!?」
 がぶ、がり、と何度も噛まれる。痛い。傑の濡れた髪が鎖骨の辺りに触れてこそばゆい。噛まれながらぬぷりと性器を奥へ差し込まれて、痛いのとこそばゆいのと気持ちいいのとが同時に襲って来て訳が分からなくなる。
「っちょ、傑、――っあ゛ッんっあ、あ゛っ」
 じゅる、と皮膚を吸われながら中で円を描くように攪拌される。びくびくびく、と身体が大きく仰け反った。奥を無理矢理こじ開けられて拡げられていく感覚に、淫らな快感がどんどん蓄積されていく。張り出したカリが内壁を擦ると、頭の芯が痺れた。
「すぐる、も、イく……!」
 頭の中も目の前も白く染まる。どぴゅ、と白濁が飛んで傑の腹や自分の腹に卑猥な白い花を咲かせた。びゅくびゅくと粘り気のある白濁が吐き出されて、悦楽に腰が何度も跳ねる。
「はひ、っあ゛ッあ、……」
 何回イかされてるんだと思う。これ以上イくのは無理だとも思う。どろどろのぐちゃぐちゃだ。脳内も、身体も、何もかも。  とろんとした目でぼんやりイッている途中でまた傑にキスされた。獰猛な獣のようにキスに容赦がない。本能的に食われると思った。食われて、骨の髄までしゃぶり尽くされて、全部傑の物になってしまう。悪くないな、と頭がどうかしているようなことを考えていると唇を離されて、好きだと切なげに囁かれる。
「悟、好きだ」
「……」
 今それを言うのは反則だという気がした。好きと言われただけで顔が熱くなって、心臓の鼓動が激しくなって、身体の奥底で熱が燻る。それに好きだと言われれば言われる程俺も好きと言ってしまいそうで、単純過ぎる自分に呆れた。
「悟、」
「うるさ、い――ッうあ、あ゛っ」
 身体を強引に反転させられて、今度は壁に手をついて身体を支える不安定な体勢を取らされた。ぬぷ、とまた硬さを保ったままの傑の雄が深い場所へ入り込んで来て、びくびくと身が仰け反る。
「傑、も、無理、」
「好き。悟のことが好き」
「黙れ、煩い、ッひあ、あ゛ッあ、あ゛っ」
 抽挿を繰り返され、喉から嬌声が上がる。また勃起した前が壁に擦れて、冷たいのが気持ちよくてどんどん身体が快感を拾っていく。
「好きだ」
「い、言うな、もう、ッあ゛ッん、あ、あ……っ!」
 何で、好きなんて今まで一度も言わなかった癖にしつこく言うんだ。言わないで欲しいと思う。だって言われたら気持ちいいのが止まらなくなって、自分も好きだと口走ってしまいそうだ。好きと言われたから好きになるだなんんて、安っぽくて馬鹿で都合のいい女みたいだ。
「すぐる……ッ、」
「っねえ、悟は? 私のこと、好きじゃない?」
「ッあ゛……ッだめ、ッだ、ッあ゛っ」
 前に伸びて来た手に乳首をぎゅうと摘まれた。こりこりに勃起した乳首を強めに引っ張られると鋭い官能が背筋を貫く。身を仰け反らせると腰を前に突き出すような格好になり、冷たいつるりとした壁に勃起がぐりっと擦れる感触に眩暈がした。
「あ゛ッ……」
 びく、びく、と腰が震える。どぷりと吐き出される先走り汁が壁をべとべとに汚した。
 多分、傑のことが好きだと思う。だがそれを口に出したくない。恥ずかしいから。耐えられない。
「ここ、こりこりになってる。悟は何処触っても反応するね」  可愛いと囁かれながら乳首を押し潰されて、甘く切ないような快感が身を焦がした。かと思えば焦らすようにすりすりと指の腹に撫でられて、むず痒いような物足りないようなもどかしさに眉根が寄る。
「んっ……」
 思わず鼻に掛かったような声を漏らせば、壁に取り付けられた鏡の前へと身体を向けさせられた。
「……やらしい顔。見て」
 見たい訳がないのに、傑に促されるがままにぼんやりと鏡に映る自分の顔を見てしまう。蕩けたようなその顔を見たくなくて即座に目を逸らせば、傑に噛み付かれた場所が赤く充血しているのが目に入る。白い皮膚の中でそこだけ赤い斑点が浮いたようになっていて、こんなのどうやって隠すんだと途方に暮れると同時に傑の物だと主張されているようできゅんと嬉しくなる。
「……ッふあ、」
 傑はどんな顔をしているんだろうと気になる。自分の背後にいる所為で顔が見えないのは、寂しい。そっと鏡越しに背後を見遣れば、即座に傑と目が合った。
 解けた長い黒髪が濡れて、水滴が滴っている。目が、いつもの温厚さからは想像出来ない程ぎらついて、悟の目を真っ直ぐ見ている。余裕なんてその目の何処にもない癖に、口元を無理に笑みの形に歪めて無理に余裕があるふりをしようとしている。その表情に余計にぞくぞくと煽られた。
 すぐに目が合うということは、傑も悟の顔を見ていたということだ。羞恥が募るのに、見られると後ろがきゅんと疼く。見られるのが気持ちいいと身体が認識している。
「っ私に見られて興奮してるのかい、悟」
「ッしてな、」
「これはどう見ても興奮してる顔だろ」
 見透かすような口調と共に顔を無理矢理鏡の正面に向けさせられた。口の中に指を突っ込まれて、好きに動かされる。苦しくて目に涙が浮いて、口を閉じることが出来ない所為で涎が垂れる。
「……っうぐ、」
「私のが入ってるのも、見たい?」
 そんなもの見たい訳がないのに、指を舌の上で転がされている所為で反論出来ない。反論出来ないまま片足だけを高く上げさせられて、またも不安定な体勢で立たされてしまった。
「ほら、見て、悟のエロい穴」
「っう、」
 見たくないのに目がそこに吸い寄せられる。赤くなった後ろの穴に、傑の太いものを呑み込まされている。穴が貪欲にひくひく収縮して、傑のをもっと奥まった場所へ誘い込もうと蠢くのも、傑の太い雄に血管が浮いて脈打っているのも、更に穴からさっき出された精液が逆流してたらりと太腿に垂れるのも、全て鏡に映し出されている。入っている、という事実をより鮮明に実感して、身体がどんどん昂ってしまう。
 視界の暴力だ。猛烈な羞恥と沸き上がるような快感とに同時に襲われ、穴がきゅうと傑の性器を締め付けた。指を口から抜いた傑に腰を掴まれ、どちゅ、と躊躇なく深くまで突き刺された。一瞬景色が白む。
「ッあ゛……っ!?」
「悟、好きだ」
「っひ、」
 耳に顔を寄せた傑に甘い声で囁かれながらぐぷ、と更に性器を捻じ込まれて息が詰まった。奥が火傷を負ったみたいに熱くて、頭も身体もじんじんする。
「すぐる、……ッらめ゛、そ、なおく、ッあ゛……ッ!」
 舌先まで痺れるような快感が全身を支配する。頭の中が真っ白に染まった。どろ、と白い液体が流れ出るが、すぐには射精したことにも気付かない。とろとろと吐き出される精液が鏡面に白く卑猥な模様を描いた。
「あ゛ッあ、あ゛っやだ、ッあ゛っすぐりゅ、」
 イッてるのに、イくのが止まらない。勢いのない精液が力なく流れ出て、深い闇に突き落とされるような快感が延々続く。  あ、これ入っちゃ駄目な場所に入ってる。
 気付いたが、鏡面と傑に押さえ込まれて抵抗など出来ない。ず、と一旦浅い場所まで引き抜かれた太い楔をまた駄目な場所へ打ち込まれて目の奥に火花が散った。びゅ、と先走り汁なのか精液なのかももはや分からない白く濁った半透明の液体が飛ぶ。
「ひ、っあ゛っ、だめ、ッあ゛ッ」
「っだめ、な時の声じゃないよね、それ」
「だ、だめぇ゛……っ、」
 背筋が、腰が、太腿が、痙攣する。恐い。気持ちいいのが止まらないのが恐い。
 張り出したカリが内壁をずりずりと擦りながら抜けていくのを、寂しがるように穴が楔を締め付ける。ごりゅ、と前立腺を擦られると身体の奥がびりびりと痺れたようになる。更にその奥を狂暴な雄で犯されると、壊れたように性器から半透明な蜜がとぷりと零れた。
「っあ゛あ゛……ッ! も、だめ、きもちいいの、止まらな、」
「悟って、素直じゃないのにたまに素直になるよね」
 笑いを含んだ声が耳元で可愛い、と囁く。
 ずぷ、ぬぷ、と鏡の中で自分の穴に出たり入ったりを繰り返す傑の性器から目が離せない。そこが傑のものの大きさや形に馴染んでしまいそうだ。完全に、メスの穴だ。傑専用のメス。傑の所有物。そう考えるとぞく、と被虐の悦びが体内を蝕む。
 不可侵の領域だった場所を傑に容赦なく暴かれて、穿たれて、抉られて、全部傑の物になってしまったみたいに自分の意志では身体をどうにも出来ない。ただされるがままに犯されて、許容量を超えたような快感に酔い痴れて、好きとか可愛いとか安っぽい言葉に嬉しくなって、傑のことしか考えられない。
 ――好きに、ならない方が無理だ。とっくになっている。
「さとる、好き」
「ひあ、あ゛……っ!」
 びゅる、と傑の熱い精液を体内に注ぎ込まれると同時、また悟の性器からも色の薄くなった白濁が飛んだ。どくどくと中に注ぎ込まれるものを体内に取り込もうとでもするかのように、襞が収縮を繰り返す。媚びるように傑のものを締め付けて、切なげに身体が疼いて、頭がボーッとなった。
「す、すぐる……、」
 すき、と口走ってしまった、ような気がする。ぼんやりしていて自分が何を喋ったのかも朧気だ。
 最悪だと思う。処理したのに、意味がない。そう思う一方で、中に出されるのを悦んでいる自分がいる。もっと、何度もいっぱいぶちまけて、傑の色に染めて欲しいと願っている。
 どうしようもないくらい傑が好きだ。とは、結局言えないままだった。


「さっきの質問の答えをまだ聞いていないんだけど、」
「……は?」
 浴槽の縁に腕を乗せ、その上に顎を乗せたまま、悟はしゃがれた声を発した。散々傑に啼かされた所為で声が枯れていた。  ざぷ、と入浴剤の泡まみれの湯を掻き分ける音と共に、傑がこちらに身を寄せて来る気配がある。それでも悟は頑なに傑の方を見なかった。浴槽は広くて、長身の男二人で入っても余裕がある。それをいいことに傑から出来る限り距離を取っていたのに、傑が悟の傍に移動した所為で台無しだ。
「悟は、私のことを好きじゃない?」
「……っ」
 蒸し返されて、言葉に詰まる。
 好きだ、とても。だが言えない。今まで、冗談半分で「すぐるー好きー!」などと言って傑に抱き着くことはあった。でもそれは傑を親友だと思っていたから気安く言えたのだ。恋愛対象としての「好き」なんて、そのたった二文字を口に出来ない。
「悟、さっき好きと言ってただろ? もう言ってくれないのか」
「あ、あれは、嘘、」
 やっぱり言ってしまっていたらしい。思わず嘘だと弁明しながら振り向けば、すぐ近くに傑の顔があった。額に一房だけ垂れた髪から雫が滴っている。目が合うと心臓が跳ねた。
「嘘? 私は好きなのに」
「……ッああ、そうだよ!」
 やけくそになって叫びながら傑から目を逸らした。悟の不自然に大きな声が浴室に木霊した。
「オマエのこと、好きで好きで仕方ないし、オマエが他の女とこういうことしてるのもすけー嫌! 俺だけのものだったらって思ってる!」
 言いながら顔に血が集まった。のぼせそうだ。顔を見られたくなくて俯きながら立ち上がると、ざぱりと湯が音を立てた。
「悟、何処行くの」
「答えたからこれで満足だろ! もう上がる!」
 浴槽から出ようと片足を上げると腕を掴まれた。ぐいと引かれてバランスを崩し、傑の方へ派手に倒れ込む。ざっぱーん! と大きな飛沫が上がった。
「オ、マエ……あぶねえだろ!?」
 ぶる、と濡れた犬のように頭を振って水気を飛ばす。と、傑に背後から抱き寄せられる形になって、……尻の辺りに硬いものが当たった。
「満足? 悟の返事の所為で、全く足りなくなった」
「は……?」
 鼓膜に息を吹き込むようにして低く囁かれた言葉に血の気が引く。恐る恐る振り向けば、傑はさっきの飛沫の所為で髪も顔も濡らしたままじっと悟の方を見ている。目の奥にあの獣のようなぎらつきがある。
「ちょっ、と待、それは流石に、――っひ、」
 ぬろ、と首筋を舐められてぞわりと肌を粟立たせているうちに、柔らかくなった後孔に湯の中で勃起を押し込まれた。ぬぷ、と簡単に入ってしまった傑の勃起に熟れた粘膜が絡み付いて、ビク、と腰が揺れる。
「っあ……!」
 身体を押さえ込まれながら、亀頭に前立腺を擦られる。単純で快楽に従順な身体はまたビクンと震え、前を勃起させている。逃げなければと思うのに、まるで猛毒を持つ蜘蛛の糸に絡め取られた獲物みたいに身動きが取れない。
「さとる、私を独占して」
 抱き締められながら、中で更に質量を増したものを深い場所へ埋められていく。
「あ゛ひ、あ、ッだめ、あ゛……っ、」
 独占したいし、独占して欲しい。雁字搦めに束縛して、どろどろの身体に作り変えて、互いがいないと生きられなくして欲しい。
 傑は毒牙を持つ蛇だ。致死量の毒に侵されて、もう傑のことしか考えられない。


「で、お前達、無断外泊は禁止だと分かっているよな?」
 翌日高専に帰ると校門のところで夜蛾が待ち構えていて、そのまま屋外でたっぷり三十分の説教を食らった上に反省文を書くようにと言い渡された。勿論何処で何をしていたのかを言えないので、二人とも何も反論せずしおらしく反省しているふりなどをしていた。
 後で気付いたが、どちらの携帯にも高専から何度も電話が掛かっていた。全く気付かず爛れた情事に耽っており、その後は疲れて殆ど喋らず昼近くまで爆睡していた。今日授業も任務もなくて良かったと心底思う。
「なんか、疲れたな」
 寮の部屋に向かって廊下を歩きながら、長ったらしい説教を聞かされていた所為かぐったりしている傑がぼやいた。悟には全く同調出来ない。
「はぁ? 俺の方が散々ヤられて疲労困憊なんですけど!?」
「……すまない」
 傑は本当に申し訳なさそうな表情だ。素直に謝られるとは思っていなくて調子が狂う。
「……別にいいけど」
「え、いいの?」
「……」
 いや良くはないのだが、腰も痛くて重いし。でも傑だったらいいか、などと考えてしまう。絆されているなあと呆れる。こんな常識人ぶった顔で中身はケダモノなのに。
 もうすぐ部屋に着いてしまう。着いたら一旦互いの部屋に荷物を置いたりで解散だろう。それが何だか嫌だ。寮の部屋なんてすぐ行き来出来る距離なのに。
 離れたくなくて、悟はそっと傑の手を握った。傑から驚いたような目を向けられているのを感じながら、傑と目を合わすことが出来ず俯いた。
「……悟さあ、」
 傑の部屋の前まで来て、傑が立ち止まって溜息を吐いた。何かを言いたげに悟を見るが、悟はぎゅうと傑の手を握った。
「俺もオマエの部屋に行く」
「……いいけど、また私に襲われるかも知れないよ」
 中身はただのケダモノの癖に、気まずそうに悟から目を逸らして頬を赤らめたりしている。
 悟はふっと不遜な笑みを浮かべ、ぐるぐるに巻き付けたマフラーをぐいと引っ張って傑に首元を見せた。そこには昨日の噛み痕が、まだ赤くなって浮き上がっている。
「だから、それを期待してんだけど」
 早く部屋へ入ろうぜと顎でドアを指し示す。
 ケダモノは傑だけじゃなく、自分もかも知れない。

【完】