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「はあ………………………………」
 これ以上ないくらいの巨大な溜息を吐いて、悟はだらっと食堂のテーブルに頬杖をついた。片手に持った携帯電話ではさっきから何度目かも分からないがネットのサーチエンジンを開き、同じようなワードばかりが並んだ検索履歴にまた似た言葉を入力する。

 男同士 セックス やり方

 他にも履歴には『男同士 エッチ』だの『ゲイ セックス』だの『同性愛』だの『男同士 恋愛感情』だの、挙句の果てには『ゲイ 風俗』だのと誰かに見られたら軽く死ねるワードがずらりと表示されている。自分でも何をやっているのか分からないまま検索ボタンを押せば、それ関連のサイトやら動画やらがヒットする。
 画面をスクロールしながら動画は見たくねえな、傑にしか興味ねえし。と考えて、はたと手が止まった。何だ、傑にしか興味ねえって。傑に興味なんかある訳ねえだろ。
「ねえ、何なのアレ。一人だけ死んでない?」
 少し離れた場所に硝子、冥冥と共に陣取った歌姫が、ひそ、と残り二人に耳打ちする。思い切り聞こえている。
「気持ち悪いですね。いつも煩いっていうかウザいのに。地球破滅するんじゃないすか」
「辛辣だねえ、二人とも。彼にだって悩みくらいあるだろうさ」
 気味悪がる硝子に、さして興味なさそうに言う冥冥。いつもは皆任務で忙しいが、今日は珍しく大勢揃っている。三人とも、まさかさっきから悟が一時間以上溜息を吐きながら椅子に座ったまま、男同士云々で検索を掛けまくっているなどとは思いもよらないだろう。
 傑はいねえのか。今日どっかで任務だったっけ、とまた傑のことを考えている自分がいい加減気持ち悪い。病気かも知れない。女装して傑のストーカーを追い払ったあの日から、傑のことばかり、いや正確には傑にされたことばかり思い出している。それをネタに何度か自慰に耽ったことは、墓場まで持って行かなければならない類の秘密だと思っている。
 こんなことばかり考えまくっているうちにあれから二週間が経過し、その間普通に任務に赴いたり授業に出たりしているが、頭の片隅には常に傑のことがある。なのに傑と来たら、互いに忙しく過ごしている合間にたまに顔を合わせても何事もなかったかのように接して来る。ムカつく。自分だけ悶々としていて馬鹿みたいだ。だが自分だけ悶々としているのがバレるのが嫌で、何であんなことしたんだなどとは切り出せない。
 というか多分、意味なんかない。あれは傑にとっては女をつまみ食いするのと何ら変わらない。女に飽きたから、ちょっと男も食ってみよう、くらいの軽い気持ちだろう。手出しするのにわざわざ親友の自分を選んだのも、きっと自分なら後腐れなくあっさりその場限りで流してくれると思われていたからだ。親友、という関係が壊れることもなく。
 壊してはいけない。その関係を壊したら、たった一人の親友を失ってしまうことになる。二人の仲が悪いとなると硝子達とだってぎくしゃくしてしまうかも知れない。それは頭では分かっている。だが、悟の中での傑との『親友』という関係は、既に崩壊している。親友は、普通親友をオカズに自慰なんかしない。そのくらいのことは分かる。だからこの関係は既に破綻している。修復不可能なくらいに。
 破綻したまま、破綻していないふりをして残りの学校生活を送らなければならない。下手をすると一生。呪術師でいる限り永遠に。
 そんなこと俺に出来るのかよ、と最強らしくもないことを考えるとまた鬱になって来て今世紀最大の溜息を吐いた。その時背後から肩に手を置かれ、聞き慣れた声が自分の名を呼んだ。
「悟、どうしたんだい? そんな大きな溜息を吐いて」
「うわっ!?」
 急に大声を出した悟の方を、硝子、冥冥が興味なさそうにちらりと、歌姫が露骨に迷惑そうに見た。悟は珍しく狼狽し、大慌てで携帯の画面を伏せて隠した。こんな検索画面を傑に見られたらもう終わりだ。死ぬしかない。
「すまない、驚かせたかな」
「……傑」
 がた、と椅子を引いて半身を捻れば、背後に傑が立っている。任務を終えて帰って来たのだろうか。簡単な任務だったのか、特に疲れた様子もなくいつもと何ら変わらない。だが悟は、何日かぶりに顔を合わせる彼の目をまともに見ることが出来ない。気まずそうに目を逸らせば、傑は明らかに意図的に画面を隠されたと気付いたらしくちらりと悟の携帯を見た。
「何見てたの?」
「べ、別に。そう、漫画だよ漫画! エロ漫画! なあ傑知ってる? 南太平洋のメラネシアにエロマンガ島っつう島があって、南緯18度48分50秒、東経169度7分22秒、ニューヘブリディーズ諸島の一つでそこはエロ漫画で溢れてんの! 何もかもがエロ漫画で作られてて、家も車も服も山も道路も何もかもエロ漫画なんだってさ! 嘘だけどな!」
 別に。だけでは何か隠しているとバレバレだと思って咄嗟に漫画だと嘘をついて、そうすると次々勝手に頭に浮かんで来るエロマンガ島に関する事実と途中から完全な嘘八百を並べ立てているうちに、女子三人の視線がツンドラの大地のように凍てついていく。傑はぽかんと口を開けて悟の弾丸のような言葉を聞いていたが、不意にふっと口元を笑みの形に歪めた。身を屈め、悟の耳元に唇を寄せると低い声でそっと囁く。
「悟、欲求不満なの? 可哀想に。私が相手してあげようか」
「……は、」
 歌姫と硝子からのドン引きしたような視線を肌に感じるが(冥冥は完全にスルーしてコーヒーを啜っている)、悟は硬直したまま何も言えなくなった。ドク、と心臓が変な音を立てて、嫌でもあの日のカラオケボックスの記憶が勝手に蘇る。
 駄目だ、赤くなったりしたらこの世の終わりだ。大声で笑って、「そういう傑クンも欲求不満じゃねえの? ついに女に相手にされなくなって俺を食いたくなった?」とかなんとか適当に言わなければならない。じゃないと、今赤くなったりしたら、『欲求不満で傑に相手して欲しい可哀想な五条悟』が出来上がってしまう。そう思えば思う程、頬に血が集まるのが自分でも分かる。頬が熱く、身体も熱い。
「ぶわはははは! 何言ってんだよ傑!」
 何とか切り抜けなければと焦った結果、悟は不自然に大きなわざとらしい声で笑いながら傑の手を振り払ってさっと立ち上がった。椅子ががたんと音を立てる。
「ついに脳味噌腐り果てたかよ!? いや頭にクソが詰まってんのか!? クソ頭! うんこ! ナマハゲ!」
 携帯をポケットに突っ込みながら傑の顔を見ずに訳の分からない言葉を連発し、傑が何か言うよりも先にそのまま大急ぎで食堂を出た。誰の顔も、見る勇気がなかった。


「クソ……ふざけんな傑。馬鹿。アホ。うんこ。ナマハゲ。禿げ星人」
 自室に戻り、低俗かつ意味不明な悪口をぶつくさ呟きながら携帯を見るも、閉じるのを忘れていたさっきの検索画面が目に飛び込んで来るや否や見るのをやめた。ベッドと反対側の壁に沿って置かれたパソコンデスクの上に殆ど投げ捨てるようにして携帯を置き、おもむろにノートパソコンを立ち上げる。とにかく傑のことを考えないようにしたかった。
「男同士だなんて死んでもごめんだし傑のことなんか別に何とも思ってねえしヤるなら女がいいに決まってるし俺はこんなに顔がいいんだからヤる相手なんかすぐ見つかるしすぐに上手くなるしだって俺は最強だから最強はセックスも上手いんだ当たり前だだって最強なんだから、」
 パソコンに向かってぶつぶつ呟いているのは傍から見ればさぞや異様な光景だろう。完全にヤバい奴だ。
 マウスを操作してネットを開く。検索欄に『エロ動画 無料』と打って、一番最初に出たサイトにアクセスした。傑のことを考えないようにするにはこれが一番手っ取り早い。男女ものの動画を見て欲を吐き出すのだ。それしかない。
 画面をスクロールして、適当に目についた動画をクリックする。音が漏れるといけないと、慌ててヘッドフォンをパソコンに繋いだ。ヘッドフォンを耳に押し当てれば、耳の内側に無音が強く押し寄せる気がした。程なくして画面に映像が映し出され、同時に音声もヘッドフォンを通して耳に届く。
 何処かの学校の教室のような場所。席についたセーラー服姿の、明らかに二十歳を越えていそうな女優が映し出され、カメラが彼女に近付いていく。女優が「せんせぇ」と舌足らずに呼ぶ。ボーッと眺めている間に陳腐なストーリーが進んでいき、制服を脱がされて恥じらう女優の胸がアップで映る。
「……」
 別に興奮しなかったが、動画を止めることはせず無心に見続けた。一瞬止めようかと思ったが意地でも見ることにする。もはやこれは一種の苦行。しかも自分で自分を苦しめるセルフ拷問だ。何の意味があるのかは自分でも分からない。
 動画は教師が女子高生を襲って処女喪失といういかにもAVでありがちなシチュエーションのストーリーらしかった。スカートを捲られて、女優の生足と白い下着が露わになる。白い下着。この前自分が身に付けていたのと同じ色。
「――ッ、」
 不意にせっかく隅に押しやっていた記憶がまた蘇り、ドクリと心臓が脈打った。
 駄目だ思い出すな。脳が警鐘を鳴らすのに、その脳が勝手にあの時の記憶を再生し始めて、パンツの中に手を入れられてビクついている女優と自分の姿が重なる。手に――傑の手に性器を弄られて、ぞくぞくと興奮して変な声が出て、卑猥な言葉を言うように強要されて、
「クソ、」
 苛立たしげに呟きながら、手が勝手に股間に伸びる。映像を見た所為ではなくあの日の記憶の所為で緩やかに勃ってしまった性器を制服の上からそっと撫でるとビクッと肩が跳ねた。ベルトを緩めて前を寛げる。下着の中から取り出したものを、握り込んで上下に扱く。触っているのは自分なのに、傑に扱かれているのを想像してしまう。
「は、……ッん、あ、あ……っ、」
 女優のわざとらしい喘ぎ声に、自分の上擦ったような声が重なる。
 嫌だ。傑のことを考えて発情しているなんて嫌だ。だが手が止まらない。数度扱いただけで完勃ちした性器の亀頭がひくひく震えながら露出して、たらりと透明な汁を零している。竿を伝い落ちるそれを指に絡め、鈴口に指の腹を這わせる。痺れるような快感が背筋を駆け、びくびくと腰が震えた。動きに合わせてぎ、と椅子が軋む耳障りな音がする。
「ッあ゛……ッ、はぁ゛ッ、あ、あッ」
 どっと溢れ出た先走り汁が指を濡らした。敏感な場所に濡れた指をぬるぬる這わせ、もう一方の手で竿を扱く。ぬちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音をさせて扱きながら、悟は目を閉じた。動画なんて目を閉じる前からとっくに目に入らなくて、女優の喘ぎ声もただのBGMと化している。目を閉じると瞼の裏に意地悪く微笑む傑の姿が浮かんで、傑にぬちゃぬちゃと性器を扱かれているのを想像するとぞくぞくぞくっと背筋が震える。
「すぐ、る、」
 舌足らずに名前を呼ぶ声が、中空に虚しく霧散する。
 傑に触って欲しい。傑に恥ずかしいことをされたい。傑に意地悪いことを囁かれたい。
『せんせえと、えっちしたい……』
 傑とエッチしたい。
 耳に飛び込んで来た女優の媚びるような声での台詞につられるようにして、反射的に思った。傑とエッチしたい。散々検索エンジンで調べまくった男同士のセックスの方法が連動するように頭に浮かぶ。確か、尻の穴に性器を突っ込むのだ。有り得ないと思った。なのに傑のだったら挿れられてもいいと考えている。どうかしている。
「傑……ッ」
 尻を浮かせてズボンも下着も片足から抜き取り、デスクチェアの上で両足をM字になるように開く。指に先走り汁をたっぷりと絡め取り、恐る恐る震える指を、性器の更にその下へと近付けていく。割れ目に指を差し入れて、つぷりと穴に中指を挿入した。 「ん……ッあ……っ」
 ひく、と喉が震える。きゅう、と後ろの粘膜が指を締め付けて、甘く切ないような愉悦が腰の奥からぞわぞわと沸き上がる。もう一本差し込むと、後孔は難なく呑み込んで収縮した。痛みはない。むしろ足りない。飢えを満たそうとする獣のように、根元まで一気に突き刺した。
「あ゛ッ、あ、ッあ、あ゛ッ……!」
 がくがくと身体が痙攣する。もっと、と貪欲に求める身体に応えるように指で内部を掻き混ぜる。ぐちゅ、ぬちゅ、と音を立てて、捏ね回す度に粘膜が悦んで指に絡む。指を折り曲げてしこりに触れれば、びくびくびく、と腰が跳ねた。触れていないのに透明な蜜がどんどん溢れて、竿をどろどろに濡らしている。
「あ゛……ッ、すぐる……ッ」
 足りない。
 実は、自分で指を挿れたのはこれが初めてではない。あの日――カラオケボックスで傑に散々恥ずかしいことをされたあの日以来、一人で処理をする時にたまに弄っている。弄る度に拡がっていく気がして恐いのだが、弄る度に気持ちよくて、その快感に病みつきになっている。そして弄る度に、足りなくなっていく。
 もっと、と敏感になった身体が貪欲に求める。
 もっとどうしたいのだろうか。決まっている。頭はそれを認めたくないと拒絶しているのに、本能の部分だけが理解し、欲している。もっと指より太いもので、もっと指では届かない場所を貫かれたい、と。誰でもいい訳じゃなく、それをして欲しい相手も、実はとっくに決まっている。
「傑……、」
 目を閉じて、そこに傑のものを咥え込まされているのを想像しながら震える声で切なげに傑を呼ぶ。と、不意に両耳を塞いでいるヘッドフォンが、頭から外された。ヘッドフォンの重みが消失し、耳の中を常時満たしていた女優の喘ぎ声が、聞こえなくなる。代わりに雑音が消えてクリアになった鼓膜を、さとる、と自分を呼ぶ聞き慣れた声が震わせる。心臓が止まりそうになった。
「は、」
 まさか、と椅子の上で大きく足を開いたまま顔を上げる。いつの間にか背後に立った傑が悟を見下ろして、にこりと微笑んでいる。束の間、悟は何も言えなかった。頭を殴られたような衝撃と共に、猛烈な羞恥に襲われる。
「――っな、何で、」
「一応ノックはしたんだよ。でも返事がなかったから」
 悪びれもせずしれっと言い放った傑が、不意に爽やかな笑みを意地の悪い笑みにすり替えた。返事がないからといって勝手に入っていい訳じゃないだろ。とは、よく勝手に傑の部屋に入っている悟に傑が呆れて言う言葉だ。それをそのまま言い返したくなる。
 傑が悟の頭から取り上げたヘッドフォンをデスクの上に置いて、まだ動画が流れたままになっているノートパソコンを静かに閉じる。
 無音の部屋で傑と二人。何をされるのかと恐いのに、身体が期待するみたいに疼いている。
 そういえば部屋の鍵を掛けていない。普段そんな物掛けずに過ごしているから。だが鍵を開けた状態でヘッドフォンで喘ぎ声を聞いていれば、当然部屋の外から誰かに呼ばれても気付かない。間抜けにも程がある。最強の癖に間抜けだ。むしろ最強の間抜けだ。
 さあ、と血の気が引く悟の首筋に、傑の指が怪しく這う。自慰で火照った身体に傑の指が冷たくて、冷たい、だけではない得体の知れない感覚と共に、ぞわ、と肌が粟立つ。
「ッや、」
「悟さあ、欲求不満なんだろ? それに、私に相手して欲しくて仕方がない。素直にそう言いなよ」
「ちがう、」  するりと身を屈めた傑に背後から上半身を抱きすくめられるような格好になり、傑の手が前へと伸びる。既にはち切れそうだった性器を傑に握り込まれると、それだけの刺激でイきそうだ。
「や゛……ッさわ、るな、ッあ、」
 変な声が出てしまい、慌てて口を押さえる。硝子達に聞こえてしまうと思った。その考えを見透かすように、「硝子と歌姫と冥さんは三人で映画のレイトショーを見に行ったよ」と言われた。だから声出し放題だよと言われた気がして、かあっと頬に血が集まる。
 三人が寮にいてもいなくても、傑とこんなことをするのは駄目だ。理性はそう告げるのに、どろどろに溶けた身体の方は、簡単に流されて堕ちていく。
「すぐる、……やだ、や、」
「さっきは私の名前を呼んでいただろう」
「呼んで、ねえ、ッひあ、あ゛ッ」
 ぐちゅ、と先走り汁を絡めて扱かれ、あまりの快感に眩暈がした。喉が仰け反り、仰け反った白い喉にもう一方の手の指先をつつと這わされて、訳が分からないような快感に身体が支配される。
「君ねえ、そんな嘘通用するとでも?」
 ふっと笑われ、息が耳に掛かる。それだけで、ビクッと身体が跳ねる。傑の唇が耳に触れそうなくらい近くにあり、悟、と呼ばれただけで、頭の中が沸騰する。
 耳元で呼ばないで欲しい。鼓膜を震わせる傑の声と、耳朶に掛かる息とに、脳がぐらぐら揺れて妙なことを口走ってしまいそうだから。例えば、傑とエッチしたい、だとか。
「何を考えていたんだい、悟」
「何も、……ッあ゛ッうあ、あ、やだ、あ゛ッ!?」
 敏感な亀頭に指を這わされ、蕩けたように身体から力が抜けていく。とろとろと零れ落ちる先走り汁を指に絡めて撫で擦られ、そこが燃えるように熱い。
 熱い。傑に触れられている場所が、全部あつい。
「私に犯される妄想でもしてた? じゃないと、こんな場所まで触らないよね」
「ひゃめ、あ゛ッひぃッ!?」
 ぬぷ、と、入ったままだった自分の二本の指に加えて傑の指までが後ろに差し込まれた。少しの圧迫感に一瞬だけ息が詰まるが、それよりも、穴に自分の指と傑の指が同時に入っているというこの異常な状況にパニックに陥る。なのに、すぐに三本分の指の太さに馴染んだ穴がきゅうと嬉しげに収縮する。粘膜が指に吸い付いて、傑の指にかりかりと引っ掻かれると、ビクッビクッと腰が痙攣した。濡れそぼった前から透明な汁がぽたりと椅子の上に落ちて、いやらしい染みを広げる。
「すぐる……ッ、や゛っ、やめ゛ッあ゛っ」
「すごい声。指も、三本も入ってるし。悟、自分で拡げてたの?」
「っしてな、っあ、あ゛ッんあ、あっ」
「悟は嘘が下手だね」
 くすくすと耳元で可笑しそうに笑いながら、傑の指が中で蠢く。三本の指をぎちぎちに咥え込んだ穴の中を解すように動いて、前立腺に指が触れる。耳の穴に舌を差し込まれれば、ぬめる熱い舌のざらりとした感触に、ぞくぞくと背筋に震えが走った。
「ふあ、あ゛……ッだめ、傑、」
 ぐりゅ、としこりの部分を押し潰される。頭の中が真っ白に染まり、腰の奥が鈍くじんと痺れた。
「あ゛ー……ッ」
 どろりと粘り気のある精液が流れ出て、竿を伝う。後ろだけでイかされた所為なのか、精液に勢いがない。濃い白濁がとろとろと流れ出て、指を食んでひくついている穴にまで到達する。ずる、と引き抜かれた傑の指にまで白濁が掛かって、羞恥と快感とで指から目を逸らした。指を抜くと、空間を埋めていた物がなくなった場所がじくじくと疼く。まるでもっととねだっているみたいに。そんな自分の身体の反応が恨めしい。
「悟、ほら、悟の」
 わざわざ言わなくても、見せなくても分かっているのに、傑は悟の精液が掛かった指を悟の目の前に持って来る。デスクチェアをくるりと回転させて、デスクに背を向け傑と向き合うような形にさせ、「舐めて」と優しく、且つ有無を言わさぬ口調で要求される。思わず「はあ!?」と大声を上げた。
「ぜってー嫌だ! ――っん゛む、」
 嫌だと拒絶しているのに、嫌だと言う為に口を開けた瞬間に指を突っ込まれた。舌の上に広がる苦味に吐き気が込み上げた。不味い。その不味い味を覚え込ませるかのように、薄く笑みを浮かべた傑の指が、悟の舌をゆっくりなぞる。指の触れた場所に不味い味が広がって、その度に吐きそうだ。
「う゛ぇ、」
「いい子」
 空いた手に髪を優しく撫でられるとぞわぞわする。顔をしかめる悟の口の中を執拗に指が這う。さぞや指は悟の精液と唾液でべとべとになっていることだろう。その指を口から離されると、白い精液と透明な唾液が唇と指の間で糸を引いた。
「エロい顔」
 は、は、と浅く呼吸を繰り返しながら潤んだ目で見上げれば、傑は両目を細めて愉しげに笑いながら悟の熱い頬を撫でた。傑の手は冷たいのに、頬は手の温度で冷やされるどころか傑に触れられただけで余計に熱くなる。ぼんやりしたまま視線をずらせば、傑の制服の前を、傑のものが押し上げているのが目に入る。
 ――犯されるのだろうか。親友に。
 ひくりと喉が鳴った。嫌だとか恐いよりも、期待の色が目に滲む。親友に犯されるのを期待するなんてどうかしていると思うのに、指よりも太い傑の雄を自分の後ろに捻じ込まれているのを想像すると、ぞくりと身体が震えた。
「……すぐる、」
 頬を撫でていた手に顎を掴まれ、顔を無理矢理上げさせられた。傑と目が合うと、恥ずかしくて緊張する。なのに、目を逸らせない。
「物欲しそうな顔だな。でも、」
 傑はすぐに手を離してしまった。すっと身を起こして、悟からも離れる。
「君からねだるまで、私はしないよ」
 何だそれ。
 部屋の出口へと一歩踏み出した傑の腕を素早く掴んだ。ぐ、と思い切り引き寄せて、体重を掛けて傑をデスクの横の床へ押し倒した。ごと、と鈍い音が響く。多分、傑なら難無く避けられた筈なのに、傑はそうしなかった。ただ悟にされるがまま仰向けに床に倒れ込み、上に乗り上げた悟の赤い顔を見上げている。
 したい、とねだる言葉を口に出せない。負けたみたいで嫌だ。
 黙り込んだまま、悟は下唇を噛んだ。ふー、と荒く息を吐きながら、傑の膨らんだものに、自身の股間を擦り付ける。ごり、と硬い感触と共に身体の奥がじんと痺れる。あ、と声が漏れ出て、精液と先走り汁とで汚れた性器がまた硬さを取り戻す。
「ん、あ……ッ、」
 腰が、止まらない。恥ずかしくて目を閉じた。傑の視線を感じながら傑の勃起に押し当てるようにして動かす度、甘い愉悦が身体を駆ける。濡れた性器からまたたらりと蜜が滴って、口の端からも涎が垂れた。
「はぁ……っ、」
「悟、君ねえ、ちょっと簡単に堕ち過ぎじゃない? 流石に心配になるんだけど」
「うる、さい……、」
 身体を後ろにずらし、震える手で傑のベルトを緩めてズボンのチャックを下ろす。取り出した傑の性器は太くて長くて、ビキビキに血管が浮き出ている。カリの部分が張り出したグロテスクな凶器に、恐怖に身が竦むどころか後ろがきゅんと疼いた。
「ここでするの? せめてベッドに移動しなよ」
「煩い……」
 少し呆れたような傑にそっけなく呟き、手を伸ばしてデスクの引き出しを開ける。探り出した透明な瓶の蓋を開けて、どろりと冷たい透明な液体を、傑の勃起に振りかける。ぴく、と生き物のように蠢くのを見て、少し可笑しくなる。 「そんな物まで用意してたの? 準備万端だな」
「は……、オマエも、だろ」
 そそり立つ雄を指ではじきながら、挑発するように薄く笑う。たら、と涎のように先走り汁を垂らす勃起の上に跨って、竿を掴んで自身の割れ目に先端を宛がう。ちゅ、と吸い付く亀頭に、ぞくぞく興奮した。
「悟が可愛いから勃起してるんだよ。どうするのさ、ゴムも用意してないのに、そんなことして」
 だったら中にぶちまければいい。男同士で調べた時も、そういう動画が上がっていた。中に、どくどくと注ぎ込まれているのを想像する。その鮮烈な妄想だけで、触れていない性器から先走り汁が零れる。でも自分だけがいいようにされるのも嫌で、わざと冷たく微笑んだ。
「ならオマエは、イくの我慢しろ」
「酷いなあ、悟」
 どっちが、と思う。こんなことをして、親友じゃなくなったのは傑の所為だ。
「初めてが騎乗位って、悟は変態だね」
「も、オマエ、ちょっと黙れ……!」
 ぬぷ、と浅い場所に勃起を挿れる。一瞬息が止まる。太い。全然、指の比ではない。
 内壁が亀頭に絡み付き、もっと奥へ誘い込もうとする。一気に深くまで突き刺すのが恐くて、ゆっくり慎重に、少しずつ腰を落としていく。みちみちと肉を拡げるようにして、徐々に深くまで埋まっていく。じんじんと舌先まで痺れるような快感に、喉の奥が震えた。
「あ゛……ッふあ、あ、あ゛っ」
 傑のが、入ってる。
 多幸感に頭がぼーっとした。傑のが入ってるということしか考えられない。半分程埋まったままで腰を止めて、少し快感を逃そうと息を吐く。と、それまでされるがままになっていた傑が、不意に悟の腰を両手で掴んだ。
「悟、自分で挿れてるのも可愛いけど、あんまり私を焦らさないで欲しい」
「っえ、」
 何のこと、と目を瞬かせた直後、ずん、と一気に下から突き上げられた。根元まで埋まった太い雄に、奥まった場所を容赦なく一気にこじ開けられる。意識が飛びそうな程の強い快感が全身の神経に電気のようにびりびりと流れ込んで、悟は目を見開いた。
「――ッあ゛ッ!?」
 声にならない悲鳴が口から漏れる。傑は腰を掴んだまま、ずるりと浅い場所まで引き抜いた怒張をまた奥深くまで突き刺した。全く知らないような深く激しい快感に、頭の中も目の前も白く染まる。質量も長さも指とは全然違うものがみっちりと中を埋めて、太い竿が粘膜を擦る。度を越した快感がひっきりなしに襲って来て、恐い。本能的な恐怖心から悟は必死で身を捩って逃げようとした。 「や゛ッ、待、すぐる、ッあ゛っ! やだ、あッ、あ、あ゛っ」
 逃げたくても腰をがっちりと掴まれている所為で、恐ろしいまでの快楽の波から逃れられない。擦られる粘膜が熱く、中で掻き混ぜるように円を描かれて、腰が何度も何度も痙攣する。ず、ぬぷ、ぬぶ、と酷い音をさせて奥まった場所を穿たれれば、揺すられる身体の動きに合わせてぶるぶる震える勃起からびゅ、と透明な汁が飛び散った。
「すぐる……ッやら、だめ、ッあ゛ッひ、」
 ぼろぼろと涙が零れる。首を小さく横に振るが、傑が行為を止めてくれる気配はまるでない。普段決して見ることのないようなぎらついた目で悟を見上げながら、熱い楔を容赦なく打ち込む。そんな目に見られているということが、心の奥底では嬉しい。でも、嬉しくなっている単純な自分に嫌気が差す。
 ――傑にとっては、悟は他に大勢いる遊び相手のうちの一人なのに。たまたま同じ高専に通う親友の男に手を出してみただけなのに。傑を独占したいという気持ちばかりどんどん膨れ上がって、収拾がつかない。
「悟、だめなの? どう見ても、だめそうに見えない、けど」
 ごちゅ、と亀頭を奥へとぶつけられ、両足から力が抜ける。力が抜けた所為で、自重が掛かって更に深い場所を亀頭に抉られる。訳が分からないくらい気持ちよくて、イく、と思った瞬間びゅ、びゅく、と白濁が飛び散った。
「ッあ゛ぁ゛……ッひあ、あ、あ゛っ」
 びく、びく、びく、と身体が痙攣を繰り返す。死にそうなくらい気持ちよくて、気持ちいいということしか考えられない。イきながら、傑に肩を掴まれてあっけなくごろりと床に転がされてしまう。まだイッている途中なのに、ずぷ、ぬぷ、と抽挿を再開されて、ひぎ、と悟の口から潰れた蛙のような無様な悲鳴が漏れた。
「や゛……ッ、すぐる、も、だめ、あ゛っ」
「私のことは、イかせてくれないの? 悟は意地悪、だね」
 余裕のないような掠れた声が、耳を犯す。意地悪はオマエだ。でもそう言い返すような余裕がない。
 背中に腕回していいよ、と言われて、誰がそんなことと思った。そんな恋人同士みたいな真似、死んでも嫌だ。だが腰を何度もぶつけられ、休む間もなく強制的にまた勃起させられた前が、傑の腹と擦れて喉が仰け反る。太いもので貫かれるのは苦しい筈なのに、傑の性器の形に馴染み始めた媚肉が媚びるように性器に絡み付いて、快感を貪る。恐い。
「傑……っ、ふあ゛、あ゛ッん、あ、あっ」
 殆ど無意識に傑の背中に腕を回してしがみついた。すぐる、と呼ぶと、中でそれ以上大きくなりようもないと思っていたものがまた脈打って大きくなる。擦られる度にどんどん気持ちよくなるのが恐いのに、恐いだけじゃない。
「悟、……ねえ、出す、よ」
「……っ、」
 嫌だと即答出来ない。出されたいとでも望んでいるのか、傑の性器の形に拡がってしまった後ろが、絞り出すようにきゅうと蠢く。ずぷ、と一際深い場所へ突き入れられて、意識が飛びそうになった。
「ッあ゛あ……ッ!」
 びゅく、と少し色が薄くなった精液が飛ぶ。殆ど同時に傑の雄が中でドクリと脈打って、どろりと熱い液体を注ぎ込まれるのを感じる。
「あ、熱、……っうあ、あ……、」
 無意識に熱いと口に出せば、傑の手に汗で濡れた前髪を掻き分けられる。涙でぼやける視界に映し出される傑の目は獣のようにぎらついて、支配する悦びに酔い痴れるように、その口元が笑みの形に歪んだ。
「これで私の物だね」
 私の物、という言葉に、注ぎ込まれる傑の精液に、傑の所有物だという烙印を押された気がした。被虐的な歓喜がぞくぞくと身体を満たす。そんな趣味が自分にあったなんて、一生知りたくなかった。


「後ろだけで何度もイくなんて、悟は女の子みたいだね」
「女じゃねえよ馬鹿」
 悟はぶすっと答えた。傑には背を向けたままだ。というか傑の方を見る勇気がない。永遠に見れない。死ぬまで見れない。見たらまた勃起しそうだ。
 すす、と傑が身を寄せて来る気配があった。一人用の寮のベッドがぎ、と軋む。はっきり言ってかなり狭い。何でこんな狭い思いをしなきゃいけないんだと思いながら、悟は傑を追い払うことも出来ず、身を固くしたまま背中に傑の身体が密着するのを感じた。
「でも女の子より可愛い」
「……っ比較すんな」
「なら、私を好きだと言えばいい」
「……は、」
 馬鹿じゃねーの、と鼻で笑ってやりたかった。笑おうとして振り向けば、思いの他真剣な目をした傑と目が合う。解いた長い髪が顔の輪郭をなぞり、髪の間から僅かに覗く耳の、巨大なピアスを蛍光灯の光が照らしている。
 ドク、とまた心臓が煩くなって、悟はすぐに目を逸らした。
「何言ってんだよ」
「私を好きだから付き合えと言えばいい。そうしたら私を束縛出来る」
 何だそれ、意味分かんねえ。付き合えと言ったら付き合うのかよ。女遊びもやめるのかよ。
 実質その通りのことを傑が今言ったとふと気付いて、かあ、と顔が赤く染まった。蛍光灯がぎらぎら室内を照らしている所為で赤いのがすぐバレてしまう。慌ててがばりと布団を頭から被った。つーか電気消せよ、と今更ながら思う。夜だし、電気代勿体ないし。電気代のことなど今まで気にしたこともない癖に。
「悟」
 静かな声で名前を呼ばれるが、悟は返事もせず、振り返りもしなかった。
 狡い。
 傑は狡い。好きだと言わせようとするのは、狡い。言ったら負けたみたいで嫌だ。
 心臓がばくばくして、永遠に眠気など訪れそうもない。