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 ――好きだ。
 ――どうしてもお前のことが頭から離れない。
 ――諦められない。遊び相手でもいい。どうして俺じゃ駄目なんだ?

 次々と送られて来る文面に気が滅入りそうだ。というか気が滅入る。画面を眺めたままではあ、と盛大に溜息を吐いたその時、ずし、と背中に重みを感じた。人の身体の体温も。
「すーぐーる、何してんだよ? 陰気臭い顔で溜息なんか吐きやがって。葬式かっての」
「悟……」
「まあお前はいつも葬式みたいなツラしてっけどな。もっと俺を見習ってうえーいとか言えよ、うえーい」
「……」
 食堂の椅子に背を預けてだらりと座ったままで首から上だけで振り向く。胡乱な目を向けた先に同級生の親友が背中にもたれ掛っている。色素の薄い髪と白く透き通るような肌。綺麗な色の目はサングラスに隠され、口元はにい、と笑みの形に歪められている。
 五条悟。同じ呪術高専で学ぶ一年生だ。
 それはそうと重い。
 重い、どいてくれ、と言おうと口を開き掛けた時、不意に悟がぶは、と綺麗な顔に似合わず品のない笑い声を上げた。
「何」
「いや何って、そっちこそ何そのメール? 愛の告白にしちゃセンス無さ過ぎじゃね? ストーカーじみててキモいし。そこら辺にセフレ作りまくってるオマエがついに本気の愛に目覚めて暴走した? ウケる!」
 ぎゃははは、と爆笑する悟の姿にまた溜息が出た。本気の愛にならとっくに目覚めている。しかもこの色気のない笑い方をする同級生相手に。などとは勿論言えないので、とりあえず誤解を解くことにした。
「違う。付き纏われてるんだよ、私のことを好きな男に」
 悟は笑うのをやめて「は……?」と言ったきり固まったかと思うと、またぶはははと笑い始めた。ずれたサングラスの奥の目に、笑い過ぎて涙が浮いているのが目に入る。
「おま、マジ意味分かんねぇんだけど!? 女だけじゃなく男も食うのかよ? 趣味悪~! オッエー!」
「悟、そういう差別発言は止めた方がいい」
 男を食っている訳ではないのだが、という訂正も忘れて突っかかれば、案の定悟は「はあ? 正論振りかざすとかきっも」と言い返して来る。埒が明かない。また溜息を吐いたその時、新たなメールの着信を携帯電話が知らせた。

 ――お前に会いたい

「なあ、この男マジで何? お前何で付き纏われてんの」
 画面を覗き込んだ悟が疑問を口にする。メールのお陰でいつものように喧嘩になるのは防げたが、こうなれば悟は傑から真実を聞き出すまでしつこく半永久的に問い詰める。いつでも何処でも。となると傑が男に付き纏われているという話は硝子や担任の夜蛾の耳にまで入ってしまう可能性がある。硝子に嘲笑されるだけならまだしも、教師に知られれば問い詰められ、傑の自由奔放過ぎる不純な交友が招いたこのトラブルが原因で何かしらの処分があるかも知れない。それは避けたい。
「……前に引っ掛けた渋谷の高校の女生徒の同級生。私がその子と歩いているのを見て私に一目惚れしたそうだ。その女子に会いに行く度に待ち伏せしている。私には本命の彼女がいると嘘をついても、男には興味がないと言っても付き纏って来る。証拠に本命の彼女連れて来いだとか何だとか言って」
「マジで? 面倒臭い野郎だな。あとそいつオマエに惚れるとか趣味悪いな」
「どういう意味だ」
「そのまんまの意味。そいつ、オマエの術式で吹っ飛ばせばいいじゃん」
「そんなこと出来る訳がないだろう」
「はいはい分かってますよー冗談ですよーまーた正論かよ? オマエほんときっも」
「……」
 仕方なくとはいえ悟に話したのが間違いだったと後悔した。言い返す気力も失せて胡乱な目で悟を見て、無言で椅子から立ち上がった。
「そんなん着拒にしてその女にも会いに行かなければいいだろ。どーせ、女の一人や二人いなくなっても平気じゃん。正論振りかざす癖に外道の人でなしのタラシだもんなーオマエ」
「……」
 物凄い言われようだ。半分事実で半分は不正解。外道の人でなしのタラシは事実だが、女生徒に会えなくなるのは困る。
 彼女――チカは自身が通う渋谷の高校以外を待ち合わせ場所にはしたくないらしく、チカに会う為にはストーカー男のいる高校へ向かうしかない。そしてチカは傑とはただの遊びだと公言している。その所為でストーカー男は自分にもチャンスがあると思っているのだ。
 チャンスなどないし、チカに会えなくなるのは困る。何故なら彼女は日本国籍の少女ではないらしく、悟に似た色素の薄い髪に白い肌、そして綺麗な目をしている。――抱いていると、まるで悟を犯しているようで興奮するのだ。悟に似た彼女を失えば、この行き場のない欲望を何処にぶつければいいのか分からない。
「あれえ? 何も言わないってことは傑、その女に本気なのか? ついに本気の愛を見つけたのか? あのヤリチンの傑クンが? マジ? なあなあ」
 なあなあと言いながら傑を肘でつついてニヤニヤ笑う。悟は完全に愉しんでいる。こちらは笑い事ではないのだが、と思いながらまた溜息を吐いた。これは硝子達にも言いふらされるな、やっぱり言うんじゃなかったと後悔しながら携帯をポケットに突っ込み、食堂の出口へと歩を進める。背後からすぐるうー何処行くんだよ? と声が掛かるが無視する。
 悟がいたのではゆっくり考えることも出来ない。部屋でこのストーカー男をどうするか考えよう。今のところチカに会わない、以外の選択肢を思い付かなくて絶望的だ。
 暗澹たる気分でドアノブに手を掛けた時、背後から悟が思いもよらぬことを提案した。
「なあ、俺が彼女のふりしてやろうか」
「――え?」
 目を瞬かせながら振り向けば、目の前に悟が立っていた。いつの間にこんなに肉薄していたのか。時たま気配を消し去って近付いて来るので心臓に悪い。
「……意味が分からない」
「分かれよ。俺が女装してオマエの彼女のふりして、オマエがそいつに俺を彼女だと紹介する。証拠見せりゃいいんだろ?」  ぽかんとして悟を見返した。やっぱり意味が分からない。
「は……? 女装? 君が……? 私と同じくらい背が高いのに?」
 悟の身長は百八十センチ近い。しかも高校生になってからもまだ伸び続けているという。傑と同じだ。一体何処まで伸びるのやら、二人して競い合っている。
 悟はニッと悪戯っぽく笑みを浮かべた。ずれたサングラスから覗く目が愉しそうに細められている。
「んなもん、外国人だってことにでもしとけよ! 俺って日本っぽくない色白美人だろ?」
「……」
 確かに、と一瞬納得しそうになった。確かにアリかも知れない。何より女装した悟を見たい。
 ――いや、やっぱりナシだ。悟は綺麗かも知れないが、女の格好をするのはどう考えても不自然だ。相手にも女装がバレてしまうかも知れない。それは面倒だ。
「いや、やっぱりそれは、」
「決まりな。明日にでもそいつと会う約束しろよ」
 有無を言わさぬ強引な口調に、反論の言葉を呑み込んでしまう。
「とびきり可愛くセクシーにキメてやるよ」
 ぎゃは、と全く可愛くもセクシーでもない声で笑って、悟は傑の横をすり抜けて食堂から出て行った。
 いつもそうだ。悟の行動には迷いも躊躇いもない。傑が迷っていると解決の道筋を示してくれる。いや、単に女装してみたかっただけなのかも知れないが。この男は黙っていればいっそ神々しい程に綺麗なのだが、悪ノリが大好きだ。悪ノリの為なら普通の男子が嫌がる女装でも進んでやる。そういう男だ。
 そんな悟のことが好きで、好きで、――好き過ぎて壊してしまいたい。


 二日後、渋谷のハチ公前で悟と待ち合わせることになった。明日にでもと悟は言っていたが、相手のストーカー男の都合がつかなかったのだ。
 今日は土曜日で、昼過ぎのハチ公前はいつも通り非術師達で溢れ返っていた。若い男女のカップルや、部活帰りなのか姦しい女子高生達が行き交う。休日出勤のサラリーマンが携帯で話している。携帯電話の着信音、話し声、笑い声、喧騒。雑踏は音の洪水で溢れている。
 一体悟はどんな格好をして現れるのかと不安になって来る。多分、高専で彼の出で立ちを一度確認すべきだったのだろうが、それじゃあ面白くねえからぶっつけ本番で行くぞと悟がまた訳の分からないことを言い出したのだ。
 やっぱりやめさせるべきだったか。悟は背も高く、身体は細いがそれでも女のようにという訳ではない。バレるんじゃないのか。
 とはいえ、悟と落ち合った十分後に、同じこのハチ公前でストーカー男と会うことになっている。証拠に彼女を連れて行くから、それで諦めてくれと既に連絡している。男は妙に素直に分かったと言ったが、『彼女』の正体が実は男だとバレればどういう行動に出るか分からない。
 やはり散々ネタにされるのを覚悟で硝子にでも頼めば良かったと軽く息を吐く。と、背後からぽんと肩を叩かれ、いつもの陽気な声が耳に届いた。
「お待たせー傑」
 聞き慣れた悟の声。慌てて振り向けば、そこに立っていたのは白い髪の長身の美女だ。
「悟……」
 傑は驚愕に目を見開いて絶句した。
 何をどうやったのやら、いつも好きな方向に跳ねている悟の短い髪は触り心地のようさそうなストレートのショートヘアになっている。化粧などなくとも充分綺麗な肌をしているが、頬に少し紅を差したらしくほんのりと赤い。唇も、色の付いたリップクリームでも塗ったのか可愛らしいピンク色に光っている。紺色のジャケットと白いシャツ、秋らしい濃い赤のスカート姿で、短いスカートからすらりと伸びる白い足は、膝から下は茶色のブーツに覆われていた。背は女にしてはかなり高いが、何処か日本人離れした悟の容姿のお陰で違和感がない。というか、完璧な女装と元の素材がいい所為で、女にしか見えなかった。
「どう? 俺可愛い?」
 悟はぺろりと舌を出し、小首を傾げた。動きに合わせて直毛になった白い髪がさらりと揺れる。綺麗な青色の目は、薄いピンク色のレンズの入った眼鏡により紫色に見える。可愛い。
「可愛い……」
「は!? きっしょ!」
 思わずぽろりと本音を零せば、悟は引いたような顔で勢いよく傑から後退った。と、悟の背後にいた通行人と悟の背がぶつかりそうになる。
「危ないよ、悟」
 傑はすかさず悟の腕を掴んでぐいと自分の方へ引き寄せた。咄嗟の行動だ。お陰で悟が人とぶつかるのは避けられたが、悟の身体を抱き寄せるような格好になった。いくら上手く擬態していてもやはり男だ。抱き寄せても女のように柔らかくはない。だが中に何か詰め物でもしているのか、男の身体にしては不自然に膨らんだ悟の胸が傑の腕に触れ、服越しに微かに体温を感じる。
 ドク、と心臓が音を立てた。すぐ近くにいる悟にも聞こえてしまうんじゃないかと危惧するくらい、心臓の音が煩い。
「悟……」
 不意に触れたくなって、真っ直ぐ伸びた髪につと手を伸ばす。さらりとした白い髪が指の間をすり抜けていく。
「……ッな、何だよ、」
 触るなと振り払われるかと思ったが、予想に反して悟は僅かに居心地悪そうに身じろぎしただけだった。何故か傑に抱き寄せられた格好のまま、傑から離れようとしない。それをいいことに、綺麗な髪を指に絡め、くるくると弄んでみる。
「この髪とか化粧とか服とか、自分でやったの?」
「硝子にやって貰った」
 成る程と納得すると同時、硝子が悟に女装させたということは、硝子も傑の女癖の悪さが招いたこの事態について知っているということだと気付く。帰ったらまた特大の舌打ちをされて睨まれるのだろうかと、少々気が重くはなるが、今更だ。
 傑の女癖の悪さは今に始まったことではない。あちこちの非術師の女に手を出して、同年代にも年上にも身体だけの関係の女が何人もいる。まさに悪癖だが、高専の仲間はとやかく言わない。硝子などは顔をしかめてクズだと罵るが、本気で止めさせようとはしない。それどころか相手が嫌がったらやめろだとか避妊だけはしろよとアドバイス(?)して来る始末だ。勿論その通りにしている。悟は無関心でゲームと術式の研究ばかりやっている。
 皆ドライというか、任務に支障がなければいいと思っているらしい。だから何故そんなことをするのかと、誰も傑に訊かない。  何故。訊かれたとしても本当の理由は答えられない。親友の――今目の前にいるこの偽物の『彼女』を好きだから、少しでもこの親友のことを考えないようにする為。だが、女と肌を重ねる程、悟のことばかり考えてしまう。悟なら、どんな声で喘ぐのか。どんな顔で乱れるのか。悟の中に自分のものを突っ込んで、中に欲を放ったら――。
「つーか硝子、俺が女装するって言ったらドン引きしてた癖にノリノリでさあ、パッド入りのブラジャーとか付けさせられるし、しかもパンツも女物なんだけど、見る?」
 ようやくひらりと傑から離れた悟が、見る? と悪戯っぽく小首を傾げた。傑はよからぬことを考えていた所為で一瞬反応が遅れた。
「……は、」
 悟はニヤニヤ笑いながら、濃い赤のスカートの裾を掴むとゆっくり焦らすように捲り上げていく。こんな場所で何をと思うのに、露わになる白い太腿に、目が釘付けになる。見てはいけないと思うのに、目が離せない。スカートの中の下着と、その中に窮屈そうに収まっている悟のもの。妄想だけが先走って、見えない部分を脳が勝手に想像し始める。
「お、おい、何かツッコめよ馬鹿」
 悟の動揺したような声と共に、スカートが際どい部分まで見えていた太腿をまた隠してしまう。我に返って顔を上げれば、悟は少し赤くなって傑を睨んでいる。加虐心を刺激されるような顔だ。
「見るなよ馬鹿」
「見るかって訊いたのは君じゃないか」
「うるせー馬鹿。つーかオマエのストーカーまだ来ねえのかよ?」
「もうすぐ来る筈だけど……」
 三回も馬鹿と言われた。
 妙に居たたまれないような沈黙が降り立った。勿論ハチ公前は相変わらず喧しく煩いが、二人の間だけ会話がない。悟はそっぽを向いて口を閉じているし、傑はさっき見た太腿の光景が脳裏に焼き付いて落ち着かない。童貞でもあるまいしと自分に呆れるが、どうしようもなく隣に立つ偽物の『彼女』のことが気になって仕方がない。これ以上気にしなくて済むように、早く来てくれと、いつもなら会いたくもないストーカー男の存在を求め始めるくらいには。
「なあ傑」
「えっ、」
 悟のことばかり考えていた所為でまた反応が遅れた。だが悟が綺麗な瞳をこちらに向けて発した言葉に、更に動揺する羽目になる。
「セックスって気持ちいいの?」
「……………………………………………………えっ?」
 悟は傑の反応の鈍さになどお構いなしに、綺麗な顔ではあ、と溜息を吐くと言葉を続ける。
「俺さあ、分かんねーんだよ、そういうの。傑がしまくってるってことは傑にとっては気持ちいいんだろうけど、俺は他人にちんこ突っ込むなんてめんどくさそうだとしか思えないし、一人でしてても気持ちいいのかよく分かんねえし、でも溜まるからたまに出さなきゃいけないし、」
「悟、もう少し声落として」
「なあ、セックスって気持ちいいの? 一人でやるのと何が違うんだ?」
「……」
 何だこれは、どういう状況なんだ。何で女装した親友にハチ公前でセックスについて質問責めされているんだ。
「傑、」
 答えに窮していると、背後から粘っこい声に名前を呼ばれた。ぞわりと肌が粟立つ。振り向けば、果たしてそこにストーカー男が立っていた。冴えない猫背の男。肌が弱いのか、単に手入れを怠っているのか、顔中ニキビだらけだ。
 悟は即座にこいつが例の男だと理解したらしい。男に見せつけるように、傑の腕に自身の腕を絡ませてこちらにしなだれかかって来る。腕に偽物の胸が当たる感触がする。偽物だと分かっている筈なのに、ぞくりと背筋が震える。不快感からではなく、むしろ逆だ。女装した悟に胸を押し付けられて、ぞわぞわと興奮している。
「……そいつが、彼女か」
 男の目が剣呑に細められて、声が低く威嚇するような色を帯びる。傑もそれらしく見えるよう、悟の腰に手を添えた。ただのふりでも、悟の恋人を演じられるのは嬉しくて思わず笑みを浮かべそうになる。
「そうだ。私はこの人のことが好きだ。だから君をそういう目では見れない」
「は……っ、そんなこと言って、チカとも寝てるんだろ。彼女はそれも承諾してるのかよ?」
「恋愛は自由だろ」
 相手を逆撫でするようににこ、と微笑む。案の定男は気色ばんだ。
「なら、俺の恋愛だって自由だろ!」
「でもそれは、互いが納得していればの話だろ? 私は君と恋愛する気はない」
「納得出来ねえな! だいたい、そいつほんとに彼女かよ? 彼女のふりしてるだけじゃねえのか」
 ストーカー男の癖に鋭いところを突く。女装した男だとはバレていないようだが、彼女かどうか疑われている。偽物だが本物の彼女だと信じて貰うにはどうすればいいのか。素早く思案していると、横からぐいと肩を掴まれ、悟の方へと引き寄せられる。
「え、ちょ、」
「なら証拠、見せてやるよ」
 悟は眼鏡を外し、思い切り男言葉でストーカーに向かってにいっと笑みを浮かべた。そのまま傑の唇に唇を押し付ける。きゃ、と近くを歩いていた若い女から声が上がるが、傑の耳には周囲の音が一切聞こえない。音だけでなく、周囲の景色も見えなくなった。ストーカー男が目を見開いて自分達を見ているのも目に入らないかのように。自分と、悟しかいないみたいに、他の情報が頭に入って来ない。
 悟にキスされている。脳が痺れたように、その事実だけを反芻する。柔らかな悟の唇が触れている己の唇から全身に電気を流されたようにビリビリする。強烈で鮮烈な感覚に、下腹が重くなりそうだ。だが悟の唇はすぐに傑から離れていこうとする。嫌だ、と反射的に強く思った。咄嗟に悟の肩を掴み、悟の唇の間を強引にこじ開けて舌を突っ込んだ。リップクリームの味だろうか、甘い味が舌を掠める。
「ッん゛……っ!?」
 悟がビクッと肩を跳ねさせて、傑を引き離そうと肩を押す。だがそうされると余計に離すまいという思いが強くなり、悟の口内に侵入させた舌で悟の舌を絡め取る。熱く濡れた舌が舌に触れた途端、ぞくぞくと背筋が震えた。
 更に深く口付けて、口内を貪り、蹂躙する。上顎をなぞり、歯の裏側を舐め、くちゅ、と唾液の音をさせて舌同士を擦り合わせる。悟の身体から力が抜けて、ろくに抵抗しなくなる。座り込んでしまいそうになる悟の腰を支えて、ようやく唇を離した。唇の間を透明な唾液が繋いで、午後の爽やかな日差しに照らされて全く爽やかではない体液がきらきらと光る。
「す、ぐる……っ」
 頬紅の所為だけでなく悟の頬は上気し、青い目は潤んでいる。目が合うと気まずそうに目を逸らし、荒い息を吐きながらごしごしと唇を拭った。普段自信に満ち溢れた表情しか見たことがない悟の初心な反応に、ずくりと腰の奥が疼く。
 同時に周囲の音と景色が戻って来る。目の前にいる男はぽかんと口を開けて見入っていたが、傑が彼に向き直ると慌てて口を閉じた。
「という訳で、私達はラブラブなんだ。悪いけど諦めてくれるかい?」
「クソッ! 死ね!」
 男は何の捻りもない短絡的な罵倒の言葉を吐き出し、苛立たしげに髪を掻き毟りながら身を翻して雑踏の中へ消えてしまった。周囲の人間がまだ好奇の目でこちらを見ていることに気付かないふりをしながら、にこりと微笑みながら悟の顔を覗き込む。 「さ、帰ろうか悟」
 悟は返事をせず、目も逸らしたままだった。だが傑が駅の方へ向かおうとすると、傑の服の裾を掴んで引き止めた。振り向くと、悟はその場にしゃがみ込んでしまった。


「大丈夫? 悟。体調が悪いなら言ってくれればいいのに」
 悟の前にコーラの入ったグラスを置くが、悟は無言で俯いたまま壁に沿って置かれた長ソファの端に座っている。両手を剥き出しの太腿の上に置き、身動きしない。
 体調不良にコーラっていいのかな、と思うが、コーラとポテチとケーキ最強~俺最強~などと言いながら部屋でコーラをがぶ飲みしながらポテチとクリームたっぷりのホールケーキなどという身体に悪そうな物を貪り食っている悟に渡す飲み物といえばやっぱりコーラだ。
 というか、本当に体調が悪いだけなのか。話し掛けても反応がないので心配になって来る。そもそも悟は自他共に認める最強だ。「俺達は最強」などと最強に傑のことも分類してくれているが、傑にとっては最強は悟だ。自分は最強と一緒にいるから強いだけに過ぎないと思っている。
 そんな最強の悟が普段の生活で体調を崩したところなんて見たことがない。任務の後でさえ滅多に疲れを見せないのに。別の理由だろうか。といっても別の何が理由なのか全く思い当たらない。
 とりあえず悟を休ませようと近くのカラオケボックスに来たが、悟は一言も喋らない。だが自分といたくないのかと思って先に帰っていようかと言えば、さっきと同じように服の裾を掴んで引き止める。途方に暮れたまま、とりあえず飲み物を汲んで来て今に至る。
「悟、大丈夫かい」
 隣に腰掛けそっと肩に手を添えると、悟の肩がビクリと大きく跳ねた。今までにない反応に、いよいよ本気で心配になって来る。
「悟、」
 顔を覗き込もうとすると思い切り顔を背けられた。傑はしばし無言で悟を見ていたが、――反対側の肩を抱き、ぐ、と自分の方へ引き寄せた。耳元に顔を寄せ、低い声で問う。
「悟、何で勃起しているの」
 悟の肩がまたビクッと跳ねた。傑の方を振り向いたその顔は、真っ赤に染まっている。
「ッしてな、」
「してるだろ」
「やめ、」
 ぐ、と腕を掴んで膝の上からどけさせれば、悟が隠していたものが露わになる。スカートに隠された股間が、僅かに膨らんでいる。女が穿く短いスカートの中から女には生えている筈もないものが形を主張していることに、訳が分からないような興奮が背筋を駆けた。
「ねえ、何故勃起しているんだい? さっきのキスの所為?」
「ちが……ッ傑……!」
 スカートの上から手の平で勃起を包み込むようにして触れれば、悟はビクリを身を跳ねさせた。包み込んだまま軽く擦れば、悟は真っ赤な顔をして小さく首を横に振る。
「あ、……ッすぐる、待て、待、っあ゛……ッ、」
 余裕のない声にすぐる、と呼ばれ、掠れたような小さな喘ぎ声に、腰の奥が重くなる。もっと乱れさせたくなってスカートをゆっくり捲り上げた。白い女性用ショーツの中に窮屈そうに収まっている勃起に、ぞくぞくと背筋が震えた。倒錯的で卑猥な光景に眩暈がしそうだ。
「違うの? じゃあ女装してる所為とか? 悟って、実は女装して興奮するような変態だったの」
 耳元で囁きながらショーツの上に手を添えて、指先でつつと性器を撫でる。悟はちがう、と小さく零しながら、傑の指がそこに触れた途端にビクビクビク、と腰を震わせた。腰を跳ねさせた所為で傑の指先が敏感な先端に食い込んで、どぷりと溢れた先走り汁が下着の布を濡らしている。
「あ゛……ッ」
 悟が白い喉を仰け反らせる。傑は容赦なく追撃した。布の上から指を亀頭にめり込ませ、指の腹でぐりぐりと敏感な場所を刺激する。どぷどぷと先走り汁が溢れ出て白い布に染みを広げていく。その所為で布が透けて、亀頭の色やくびれの形が丸分かりになる。
「や゛、ッあ゛ッ、傑、離、ッあ、あひ、あ゛ッやだ、」
 悟はこれまでに聞いたことのないような上擦った声を上げながら腰を震わせ、震える手で傑の腕をぎゅうと掴んだ。嫌なら力ずくで引き離せばいいのにと思うのに、悟はどういう訳かされるがままになっている。傑の腕にしがみ付くようにして、潤んだ目でこちらを見上げるその表情は目に毒でしかない。理性が崩壊しそうだ。いや、悟にこんなことをしている時点で既に崩壊している。しかもこんな場所で、見られでもしたら終わりなのに。
「悟さあ、こんなとろとろにしておいて嫌だって言っても、全然説得力ないよ」
 濡れた下着の中に手を突っ込み、悟の性器を外へと引っ張り出す。色白の悟はそこも色が白くて、露出した亀頭は綺麗なピンク色をしてひくひくと震えている。見られると興奮するのか、鈴口からまたとぷりと零れ出た先走り汁が既にべとべとに濡れている竿を伝ってたらりと落ちる。
「煩い……、オマエが、さわるから、ふあ゛っあ、あ゛ッ」
 握り込み、濡れた亀頭を指の腹で直接擦る。ぐちゅぐちゅと濡れた音が室内に響いた。鈴口に指先をめり込ませれば、悟はビクンッと腰を震わせて悦ぶ。蕩けたような顔をして、目に涙を溜める悟が可愛くて仕方ない。片手で執拗に亀頭を刺激しながら、もう片方の手で器用にシャツのボタンを外していく。半分程ボタンを外したシャツの中に手を突っ込んで、偽の膨らみを揉み込むようにする。パッドが乳首に擦れる度に、悟はびくびくと身悶えした。
「やぁ゛……ッやだ、すぐる、やだ、や」
「私の所為? でも、悟から私の指に押し付けているだろ? ここ、指で犯されるのがそんなにイイのかい?」  濡れた指で尿道口をしつこく抉る。ぬちゃぬちゃといやらしい音が鼓膜を犯す。先走りがどんどん溢れて傑の指を濡らし、革張りのソファにも小さな水溜りを作っている。脳が沸騰しそうだ。
「やら゛……っも、さきっぽばっか、やだ、」
「そう? でも悟は今女の子だろ? 女の子はこうやって、クリトリスばかり虐められるのが好きなんだよ」
「はあ゛ッ、あ、あ゛……っ」
 いやいやと悟が首を横に振る。イきたいの? と問えば、傑の顔を見ずに小さく頷く。素直に頷くのが可愛いと思う反面、もっと虐めたいという思いがむくむくと沸き上がって来る所作だとも思う。悟の顎を掴んで、無理矢理顔を上げさせる。涙の膜が張った蕩けた目と目が合うと、今以上に泣かせたいと思ってしまう。どうやら自分は好きな子には優しく出来ないタイプのようだった。
「じゃあさ悟、『クリトリス気持ちいい』って言ってよ」
 そしたらお望み通りイかせてあげる。
 にこりと微笑んで、悟に隠語を言わせるのを強要する。
 薄々気付いてはいたが悟は性に疎い。あまり興味もなさそうだと思っていた。それはさっきのハチ公前での悟の発言で確信に変わった。だから多分悟はその隠語の意味もよく分かっていないだろう。だが卑猥な単語だということくらいは分かる筈だ。案の定言葉の意味に勘付いたらしい悟が、涙目で傑を睨み付ける。
「誰、がそんなこと……!」
「あ、そう。私は別にこのまま悟がイけなくてもいいんだよ」
 意地悪く微笑み、今や嬲られ過ぎて赤く腫れてしまった亀頭に指を滑らせる。傑の指に好き勝手に蹂躙される快感を覚え込まされて、そこはひくひく震えながら指に吸い付いて快楽を必死で貪ろうとする。
「ひあ、あ゛ッ……傑、すぐる、やめ、ッあ゛ッ、」
「悟、何を言えばいいか、さっき教えたよね?」
 すぐる、と切羽詰まったような声に呼ばれると今すぐ犯したくなる。その衝動を抑え込み、悟の綺麗な目を覗き込む。目を逸らそうとするタイミングで阻止するように鈴口に爪先をめり込ませる。ひくりと喉を鳴らし、悟が小さく唇を震わせた。
「あ……ッ、く、クリトリス、きもちい、……ッ」
「いい子だね、悟」
「ッあぁ゛……ッ!?」
 クリトリス、などという隠語を悟の口から言わせているだけで腰の奥に鈍い疼きが走る。
 手を滑らせて強めに竿を扱けば、悟は身をぶるりと痙攣させてあっけなく欲を放った。びゅる、と飛んだ白濁が弧を描き、透明なガラスのテーブルに飛び散る。後で綺麗に拭き取っとかないとまずいな、と何処か冷静な部分で考えながら、女の格好をした悟が女が出せる筈もないものを放出してビクンビクンと震えているのを見るとその冷静さを欠いてしまいそうだった。
「ッん、あ、あ゛……ッ」
 悟はくたりとソファの背もたれに身を預け、悦楽に染まった淫らな顔ではぁはぁと息を荒げている。時折名残のようにびゅ、と精液を吐き出して、僅かに勢いを失ったそれがソファに卑猥な白い染みを作った。
「ねえ悟」
 耳元で低く悟の名を呼びながら悟の足を開かせて、白いショーツの隙間から指を差し込む。そっと割れ目を撫でて、その奥にある穴へとゆっくり指を伸ばす。悟は射精直後で放心しているらしく、無抵抗のままとろりと目を潤ませている。
「悟はいい子だから、こっちでも気持ちよくなれると思うよ」
「な、何、――っうあ゛……っ!?」
 つぷ、と指を本来であれば出す以外の用途には使わない場所へと挿入すれば、悟はビクンと身を跳ねさせて悲鳴を上げた。未知の場所への未知の感覚に顔を歪め、困惑やら嫌悪感やら異物感やらが綯い交ぜになったような表情をして、弱々しく傑の腕を掴んだ。
「すぐ、……ッや、だ、……ッそこ、やだ……っ」
 ぬぷ、と悟の先走り汁と精液でべとべとになった指を更に奥へと差し込めば、悟は恐怖に喉を引き攣らせた。息も忘れたような顔で硬直している悟の身体を掴み、ソファの上に仰向けに押し倒す。
「悟、息ちゃんとして」
「ひあ、あ゛ッ……も、離せ、馬鹿……っ!」
 悟を片手で押さえ付けたまま、片手の指を根元まで穴に突っ込んだ。当然今まで排泄以外に使ったことがないその場所は狭い。ぎちぎちに指を締め付けて、必死で抗うように指を吐き出そうと収縮する。そこに更にもう一本指を無理矢理捻じ込んだ。二本の指を使ってぐちゅぐちゅと掻き混ぜる。出し入れを繰り返し、指を折り曲げて感触を確かめる。悟は恐怖と嫌悪と屈辱に顔を歪めていたが、指先を内側に折り曲げるとビクリと腰を震わせた。
「あぐ、っあ゛……ッ、」
 こり、と指がしこりに触れる。こりこりこり、とその部分を何度も引っ掻くようにする。悟は恐怖と嫌悪以外にも何かが混じったような複雑な表情で、しこりの部分を擦られる度にビク、ビク、と腰を跳ねさせた。萎えていた性器が緩く勃ち上がり、たらりと透明な汁を零している。
「悟、おまんこの中気持ちいいの?」
「は、……ッよくな、あ゛ッ、やめ、っあ゛っ!」
 ぐり、と指でしこりを押し潰せば、悟は喉を仰け反らせた。困惑と快楽とに顔を歪め、初めて前立腺で得る快感に前を勃起させている癖に、よくないと嘘をつく。可愛いなあと思いながら微笑んで、下唇を舐めた。
「よくないの? でも悟、おまんこの中指で犯されて、またクリトリス勃起してるじゃない。ほら」
 悟の身体を押さえ込んでいた手を不意に性器へ伸ばし、剥き出しになった赤い亀頭を指先で弄ぶ。精液の残滓が纏わり付いたまま、先走り汁をたらたらと零す小さな穴に蓋をするようにして、小刻みに揺すった。
「あ゛ッ!? らめ、それらめ゛っ、ひあ、あっ」
 敏感な場所ばかりを重点的に嬲られて、悟が目をとろりと潤ませて悲鳴を上げる。どっと溢れ出た先走り汁が傑の指の間からぷしゃっと飛び散り、悟の白い太腿にも卑猥な模様を描いた。追い詰めるように亀頭を抉りながら後ろを弄る手の動きも緩めない。しつこく前立腺を引っ掻き、押し潰し、指で中を左右に拡げる。赤い媚肉がひくひく震えながら指を食み、吐き出そうとしていた筈なのにいつの間にかもっと奥へ誘い込もうと蠢いている。
「あぁ゛……ッ、すぐる、だめ、やらぁ゛……っゆび、離してぇ゛……ッ」
 ビク、ビク、と悟の腰が前後に揺れる。イきたい出したいと全身で訴えているがしかし、傑の指が出口を塞いでいる所為で射精することは叶わない。
「悟、何処がどんな風に駄目なの? ちゃんと私に教えて」
 悟の顔を覗き込んで、キス出来そうな程の至近距離で問う。
 今や身体を押さえ付けられてはいないのだから、術式でも何でも使って強行突破で逃げればいい。なのに悟は逃げようとしない。ソファの上で押し倒されたまま、前と後ろを同時に責められて何もまともなことなど考えられないみたいに蕩けた顔で卑猥なことを口走る。
「わ、分かんな、……うあ、く、クリトリス、ぐりぐりされるの、と、……おまんこの中、一緒にされるの、やだ……」
 ひく、としゃくり上げ、両目から涙を零しながらやだと繰り返し呟く。美少女のような出で立ちで。
 泣かせてしまったことへの罪悪感よりも、興奮の方が勝つ。このまま指なんかよりも太いものを突っ込んでぐちゃぐちゃに犯してしまおうかと一瞬本気で思った。しかし、と傑は躊躇した。場所が場所だし、今日はゴムを持っていない。女と会う時には持ち歩いているのだが、そんな予定がなかったので、今日は何の準備もしていない。
 中に出してしまおうか――。
 いや、と考え直して傑はずるりと指を引き抜いた。抜かれる感触にも悟はビクッと反応する。敏感過ぎて、あと何回か解したら犯されることも悦んでくれそうだなと考えて、一人でほくそ笑みそうになった。
 中出しは悟に負担が掛かるし、それにじっくり時間を掛けて解す方が愉しそうだと思った。楽しみは最後まで取っておくタイプだから。
「す、すぐる……?」
「悟、私のと、一緒にしよう」
 自分で思っていたより余裕のないような掠れた声が出た。余裕がないのを誤魔化すように、手早くベルトのバックルを外す。前を寛げ、さっきからの悟の痴態の所為でとっくに臨戦態勢の雄を取り出すと、悟がヒッと情けないような悲鳴を上げた。
「っちょっと待て……、む、無理、無理無理無――」
 何を想像してるんだと意地悪く問い質してやりたかったがそんな余裕がない。悟の中途半端に勃ったままの前を掴み、自身のビキビキに勃起したものと合わせて二本の竿を擦り上げる。ビクン、と悟が身を跳ねさせ、甘く切羽詰まったような声で傑を呼んだ。
「あ゛……ッ待、すぐる、やめ、」
「……っやめた方が、いいか? 本当に?」
 悟に覆い被さるようにして前後に腰を動かせば、ず、ぬちゅ、にちゅ、と粘液が粟立つ音と共に竿が擦れて熱を生む。擦れた場所が気持ちよくて、互いの先端から透明な汁がどろりと溢れた。まるで女装した悟を組み敷いて犯しているみたいで興奮する。
「も、うるさ、い……ッは、ッあ、あ゛ッあ、」
 自分の下で喘いでいるのは女装した悟で、スカートの下から女にはある筈のないものが生えて、傑の性器と擦り合わされながら先走り汁を零していることに倒錯的な快感を覚える。ずちゅ、ぬちゅ、と水音を立てて擦り合わせる度、悟の白い腹に卑猥な透明な汁が溜まっていく。
「悟、二人でするのもめんどくさそうだし、一人でしても気持ちいいのか分からないって言ってた、よね」
「ん゛ッ、あ、あッ、あ、」
 悟は今や自分から二本の竿を握り込み、恍惚の表情で上下に扱いている。涎が口端から零れ出て、つうとソファへ伝い落ちていく。
「私と二人でするのは、気持ちよくない?」
「ひあ、あ゛ッ……すぐる、と、するの……きもひい、」
 呂律も怪しいような口調で、イく、と悟がうわ言のように呟いた。身をぶるりと震わせて、射精する直前の身体が仰け反る。びゅ、と最初の一吹きの後すぐに、びゅるびゅると濃い精液が悟の腹や胸に掛かった。
「ふあ、あ゛……ッ」
「……っう、」
 あまりにも目に毒過ぎて、傑もつられるようにして射精した。どろりと粘つく白濁が悟の性器に掛かり、二人分の精液がどろどろと流れ落ちていく。服を胸元までたくし上げていたお陰で汚さずに済んだが、たくし上げた所為で見える白いブラジャーと白い肌と白い精液とが卑猥でしかなくて、また反応してしまいそうだ。
「悟、」
「ふざ、けんな……傑のアホ……」
 ひぐ、と泣きながら腕で目を隠す悟を見ていると、ムラムラと身体が疼くのを抑えられそうもなかった。


「ほんとオマエさー、何してくれてるワケ? 俺の清純なイメージが台無しじゃん! こんな穢れた身体になって、もうお嫁に行けない! びええええん!」
 カラオケボックスを出て駅の方へと人通りの多い道を歩きながら、悟が突然堰を切ったように吠えた。しかもわざとらしく嘘泣きまで始める始末だ。傑は弱い犬程なんとやら、という言葉を思い出しながらのほほんと笑う。
「大丈夫だよ、私が責任持ってお嫁に貰ってあげるから」
「死んでも嫌だっつーの!」
「そんなに嫌なのか、さっきは私とするのが気持ちいいなんて言っていた癖に」
 さらっと指摘すれば、忽ち悟の顔が真っ赤に染まる。こんなに顔色ころころ変わる奴だったかと驚くが、すぐ赤くなる悟も可愛いなあという結論に達する。
「あ、あれは……嘘だよバーカ! もう二度としねーよバーカ! アーホ! うんこ!」
「……」
 小学生より低レベルな罵倒の言葉はいつも通りだ。黙っていれば長身の美女にしか見えないのに、残念なことこの上ない。
 ――悟が二度としないと言っていても、私が君を逃す筈はないんだけど。
 さてどうやって堕とそうか、と考えながら、傑はふっと唇を歪めた。お陰で悟に何ニヤついてんだよきっしょとドン引きされてしまった。