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 あれ以来、傑の目を見て話せなくなった。
 あれ、とは勿論、あの忌々しい霊障の所為で猛烈な乳首の疼きに襲われたあの日空き教室であったことだ。
 あれから三日経つが、三日のうちに傑のことを変に意識してしまい、傑を見る度にあの時の鮮烈な快感を如実に思い出してしまい、思い出すのが嫌なので傑を自然と避けるようになってしまった。
 傑の方はまるであの日の出来事などなかったかのようにいつも通りだったが、あれをどう思っているのか、などと彼に問い質す勇気は悟にはない。多分、彼の態度からして別に気にしていないんだろうとは思う。あれは不可抗力だし、悟とはこれからも親友だし。なんて思っていそうだ。
 悟も出来ればそう思いたかったが、そう思えないから困っている。結果、傑を避けるようなことをしてしまっている。傑は悟の不審な態度に気付いていると思うのだが、彼の方からも悟の態度について問い詰められることは今のところなかった。
 だが、傑のことを避けているのは自分の癖に、気付いたら傑を目で追っている。そして視線に気付いたように傑がこちらを向くと即座に目を逸らす。そういう時、必ず心臓が煩くなる。体温も急上昇する。そして封印しようと躍起になっているのに、空き教室で傑にされたことをはっきりと思い出してしまう。
 恥ずかしいし、消し去ってしまいたい記憶の筈だ。なのに、もう一度傑に触れられたいし、舐められたいし、後ろに指を入れられたい――と考えている自分がいて、それに気付いて愕然とするというのも、一回や二回の出来事ではなかった。


「うー駄目だ。集中出来ねえ……」
 夜、寮の自室でこの前の任務についてのレポートを書いていたのだが、また傑のこと、及び瘴気に中てられた所為で傑にされたこと、及びその時の快感などを思い出してしまいついに悟はペンを置いた。がしがしと白い髪を掻き毟る。  レポート明日までなのに、と焦る気持ちもあるのに、どうしても集中出来ない。うあーと呻きながら机の上に突っ伏した。机上に放置していたサングラスに腕が触れて、かたんと音を立てた。
「……すぐる、」
 無意識に小さく呟いてしまってハッと我に返った。慌てて頭を振った。そうすると傑のことを頭から追い出せるとでもいうかのように。全く効果はなかった。
 何だこれは。呪いみたいだ。――あの封印したいのに度々思い出してしまう出来事以来、乳首が耐え難い疼きに苛まれるということは起きていない。呪霊の粘液による呪いの効果はあれで切れたんだろうと思う。だが切れると同時に別の呪いを受けてしまった。傑のことばかり考えてしまう呪い。傑の所為だ。
 いや、馬鹿みたいに責任転嫁しているだけだとは分かっている。むしろ、傑は悪くない。助ける為にやってくれただけだし。
 ……でもあの時、傑のちんこ勃ってた。まだ粘液の効果が解けてなくて、乳首疼くって言ったらまたやってくれるのかな……
 どう考えても冷静さを欠いているような思考の渦に呑み込まれそうになっていることに気付き、また激しく頭を振った。お陰で髪がぼさぼさになるが、構いやしない。ちら、と反対側の壁を見る。その向こうは傑の部屋だ。壁を透かし見ることなどいくら六眼でも不可能だ。隣の部屋の様子など壁を見ても分からない。分からないことを分かっていたのに傑の部屋がある方向を見てしまった。病気だ。
「あークソ。寝よ」
 まだ寝るには早い時間だったが、風呂はもう済ませてある。レポートは……明日の朝、早く起きて仕上げようと思った。
 ぼふっとベッドにダイブしてから、あ、電気、と気付いて、しかしまた起き上がるのも面倒で点けっぱなしで寝てしまおうかとしばし逡巡する。傑がいたら寝る時は消しなよと呆れるかも知れない。――何でまた傑のことを考えてるんだ。
 妄想の中で傑に言われた言葉に対抗するように、電気を点けたままで寝ることにした。仰向けになり、布団も被らず目を閉じる。風邪を引くよと苦笑混じりに言いながら、布団を被せてくれる傑の姿が瞼の裏側に浮かび上がる。
 不意に、ずく、と両方の胸の突起に甘く鈍い痺れが走った。まさかと目を見開けば、どうやらそのまさからしい。あの三日前の任務の後と同じだ。乳首が疼いて、ひりひりして、触りたくて仕方なくなる。
「っあ……ッ、」
 何で、と混乱した。もう効果は切れたんじゃなかったのか。だってあれ以来激しい疼きに見舞われることなんて――
 考えている間にどんどん乳首が敏感になってひりついて、触りもしていないのに硬くなってつんと勃ち上がる。駄目だとか、他の対処法をだとか、そんなものを冷静に考える余裕などなかった。
「あ゛……ッ♡」
 手が乳首に伸びて、服の上から擦り上げる。そこで得る快感を覚えてしまった身体がびくびく♡と跳ねて、口から上擦った甘い声が漏れた。服の上からだけでは到底足りない。パジャマ代わりにしている長袖Tシャツを捲り上げて、下から手を突っ込んだ。白い腹が露わになり、外気に晒される。左手の指先にかさりと触れる絆創膏を剥がすのももどかしく、尖った乳首を摘まみ上げた。
「ひっ、あ♡あ……っ♡」
 じん、と甘く切ないような痺れが身体を侵す。皮膚が異様に敏感になって、指先で擦る度に連動するようにビク♡ビク♡と腰が跳ねる。ベッドの上で身体の左側を下にして横向きになり、背を丸めながら指で乳首を挟み込む。
「あひ♡あ、あ゛ッ♡んっ♡あッ♡」
 身を捩るとぎ、とベッドが軋む音が、隣の部屋に聞こえるかも知れない。はしたなく喘ぐ自分の恥ずかしい声が、隣の部屋に聞こえるかも知れない。だが、一度触れてしまうともう歯止めが利かない。
 片手ですりすりと乳首を擦りながら、もう片方の手をスウェットの中に差し込む。下着の中に手を入れて、既に乳首と同じように硬く張り詰めていた性器を握り込んだ。
「あ♡あ、ッふあ♡あ゛ッ♡」
 反り返った性器を引っ張り出して、竿を上下に扱く。蕩けてしまいそうな快感が喉奥を震わせる。剥き出しになった亀頭の小さな窪みから先走り汁が零れ落ちて、シーツに染みを作った。尖った乳首を押し潰すとじんわりと甘い痺れに侵されて、指先が濡れる。やっぱり、母乳はまだ出るらしい。絶望と同時にひくんと腰が嬉しげに震えた。濡れた指で乳首を摘まみ、くにくにと左右に転がした。気持ちよくて、視界に映る自室の光景が霞む。
「あ、う……♡すぐ、る♡もっと、」
 余裕を失った声で、無意識にすぐると呼ぶ。ここにはいない傑の名を呼ぶと、連動するように実際に傑に乳首を捏ね回されている妄想が脳に浮かび上がった。妄想をより鮮明にしようと両目を閉じれば、触れているのは自分の手なのに傑に弄られているような感覚がする。傑の指の感触を必死に思い出しながら、爪先でかりかりと引っ掻いた。ビクン♡と腰が震えて、どっと溢れ出た先走り汁がシーツにぼとぼとと滴った。
「ん♡ひッ♡あ、あ゛……っ、」
 自分で自分を追い込むように鈴口にくちゅりと指先をめり込ませる。鋭い官能が背筋を貫く。しこしこしこ♡と尖った乳首を扱き続けていると、どろりとした液体が垂れて皮膚を伝う感触がした。
『悟、可愛いね』
『乳首、赤く腫れてやらしいね』
『気持ちいいの? 腰、ビクビクしてる』
 言われてもいない筈の卑猥な言葉が、傑の声で脳内再生され始める。耳元で低く甘く傑が囁いているという妄想のオプション付きで。
 訳の分からないような激しい快感が、身体中の神経を末端まで真っ黒に塗り潰していくようだった。
「あ゛ッ♡うあ、あ♡だ、だめ、イく、っひ♡あッ♡」
 頭がの中も目の前も真っ白に染まる。腰を前に突き出すと、びゅく♡と白濁が飛び散った。白く粘り気のある体液がどろどろとシーツに垂れて、卑猥な染みを形作る。何やってんだと思う。傑のことを考えながら自慰に耽るなんて。……しかも、
「っあ……ッ、なん、で、」
 イッたのに、乳首の激しい疼きだけは治まらない。じくじくと熱を持ったように脈打って、熱くて、燃えているみたいだ。触ると尖ったままのそこからじんと甘い痺れが腰に直接伝わるが、熱が引くことはない。むしろ、時間の経過と共に酷くなる。耐え難い程に。
「……ッや、やだ、ッ、すぐる、」
 身を更に丸めてすぐる、と口の中で助けを求めるように呟く。どうすればいいのか分からなくて恐い。泣きそうだ。と思った傍から目の端にじわりと涙が浮いた。
「……っすぐる、」
 もう一度傑の名を呼んで、突如そうだ傑だと思い至った。がばりと身を起こし、服を整えるのもそこそこに床に降り立つ。だが一瞬躊躇した。傑に、またこんな恥ずかしい姿を見られるのか。でも、乳首がじくじくと疼いて気が狂いそうだ。
 悟は躊躇う気持ちを封印して部屋を出た。
 無人の廊下は静まり返り、夜の空気が火照った肌をひやりと撫でる。すぐ隣にある部屋のドアを、出来るだけ普段通りにノックするつもりが全くそんな余裕がなくてどんどんと激しく叩いてしまった。
「傑、いる?」
 これでいなかったら一巻の終わりだ。いてくれと祈るような気持ちで部屋の中へ呼び掛ければ、すぐにドアが内側から開いた。まだ日付は変わっていないとはいえ、夜もそれなりに更けた時間だ。傑はいつもは纏めて団子にしている長い黒髪を解き、上下の黒いスウェット姿だった。
「悟? どうしたの」
 驚いたように目を丸くして悟を見る。ここ数日、悟は傑の部屋を訪れていなかった。いつもは何も用がなくても入り浸り、傑のベッドを我が物顔で占領してゲームをしたり、読書中の傑にちょっかいかけたりしているのに。勿論あの日のあれが原因だ。そしてあの日のあれ以来、三日ぶりに傑とまともに目が合った。
 ドク、と心臓が鳴る。反射的に即座に目を逸らした。
「……」
 衝動のままに部屋を飛び出して傑を訪ねたが、どう説明すればいいのか分からず下唇を噛み締めた。乳首が疼くからまた吸ってくれだなんて、そんな恥ずかしい台詞を口に出来る筈がない。
 しばし出入口を挟んで部屋側と廊下側に佇んだまま、互いの間に沈黙が降りる。その間も乳首が熱くて、気を抜くと無意識に手を上げてそこに触りそうになる。傑から目を逸らしたまま、少しでも熱を逃そうとするかのように口から熱っぽい息を吐いた時、傑に腕を掴まれた。え、と傑を見遣れば、おいでと言って、彼は悟の腕を引いた。
「っあ、ちょ、」
 乳首がじんじんする所為で身体に力が入らなくて、あっけなく傑の腕の中に抱き寄せられる形になる。傑の身体に肩が触れるとぞわりと肌が粟立った。身体が熱を持つ。さっきまで自慰をしていた所為だけではない。傑といるのを、これまでにないくらい強く意識している。
「傑、」
 半ば強引に部屋へと招き入れられる。抵抗出来ない。何故って、傑にされたことをまたされたいと望んでいるから。いくらそんな訳はないと頭で否定しても、本能はあの病みつきになるような悦楽を求めている。
「なあ傑、俺、」
 短い廊下を横切りながら何も言わない傑の後ろ姿に向かって口を開くが、声に被せるようにして「座って」と有無を言わさぬ口調で言われる。向き合った傑の目が部屋に置かれた長ソファに向けられて、また悟へと視線が戻って来る。言葉は強くないが、口調は命令に近い。大人しくソファの片側に腰掛けてしまう。
「こっち向いて」
 傑が隣に腰掛けて、悟の方へ身体を向けながら悟にもこちらを向くようにと言う。やはり、声は静かなのに命令されているみたいだ。傑に――対等な親友の筈の男に大人しく従っていることに、何故かぞくぞくする。
「傑、――っひ!?」
 服の上から左の乳首を摘まれて、ビクンッと肩が大きく震えた。さっきまで自分でしつこく弄っていた方の乳首だ。硬度を保って勃ったままのそこを、こりこりと捏ねられて愉悦が背筋を駆ける。
「や……ッ♡待、何で、」
 何も説明していないのに。混乱したまま、思わず傑の腕の辺りをぎゅうと掴んだ。
「何でって、悟の顔見れば分かるよ。やらしい顔で物欲しそうに私を見て……また私にこうされたくて来たんだろ?」
「ちが……ッ、やっ♡んッ♡あ、あ゛ッ♡」
 本当はその通りだ。傑に気持ちいいことをされたい。だがそうだと認める訳にもいかず咄嗟に否定しようとして、最後まで言い終わる前にぐりゅっと強めに押し潰されて、口からは意味を為さない喘ぎ声ばかりが漏れ出た。じわ、と母乳が滲み出て、Tシャツの布地を濡らすのが自分でも分かる。恥ずかしくて頬に血が集まった。
「すぐる、」
 直接触って欲しい。口に出すのも憚られるような望みだ。口に出せないから、目を逸らしながらシャツを胸の上辺りまでたくし上げた。白い肌と、ぷくりと腫れて赤く色付いた左の乳首が露わになる。仄かに白い半透明の液体が乳輪の辺りまで濡らして、蛍光灯の下でぬらぬらと卑猥に光っている。そして反対側の乳首は――絆創膏に覆われていた。
「……悟、これは何?」
 流石に驚いたように傑が目を瞠る。そっと絆創膏に傑の手が触れて、肌に直接触れられてもいないのにぞくぞくする。むしろ焦らすようなその触り方が、余計に悟を飢えさせるようだった。お預けを食らった犬が餌のことしか考えられなくなるみたいに、乳首で得る快感のことしか考えられない。
「だって、……ふ、服に擦れただけで、きもちい、から、……ッん、あ……っ♡」
 かりかりかり♡と爪で絆創膏の上から引っ掻かれて、爪弾かれ音を奏でる弦楽器のように小刻みに震えながら口から媚びるように甘い声が出る。絆創膏の端を摘まれ、ゆっくりと剥がされる。少しずつ露わになる乳輪と、つんと勃った乳首を見られている。羞恥と、ぞわぞわと悦楽のようなものが背筋を駆けた。
「悟、見られて興奮してる?」
「ち、ちが、ッあ゛っ♡」
 見透かすような言葉を咄嗟に否定するが、絆創膏を剥がされ剥き出しになった赤い粒をぎゅうとつねられ、期待するようにビクン♡と腰が震えた。両方の乳首を指の腹で擦られ、押し潰され、転がされ、触れられてもいないのに両足の間で性器が形を主張し始めた。
「傑……っ、」
 腰が浮く。太腿が震える。震えながら膝立ちになって、傑の目線の高さに自分の胸が来るようにして、そこを前に突き出した。
「おね、がい、……舐めて」
 消え入りそうな声でねだれば、傑はあっさりと願いを叶えてくれた。
 ぬろ、と濡れた熱い舌が、乳首を下から舐め上げた。指とは違う唾液で濡れた舌が、ぷくりと腫れた乳首を覆う。びくびくびく♡と歓喜して腰が跳ねるのを、止めることが出来ない。
「あ゛ー……ッ♡すぐ、ッんッ♡あ゛っ♡や♡だめ♡」
 だめ、と口走りながら傑の黒髪をぎゅうと掴んで引き寄せて、傑の唇に胸を押し付ける。舌に押し潰され、じんじんと身体が痺れたようになる。腰を揺らせばスウェットの中で性器の先端が下着の布地に擦れて、ますます身体が甘く切ないような痺れに侵された。
「ッあ♡あ、あッ♡らめ、も、離、」
「だめって、悟が言い出したんだろ? 舐めてって」
 くぐもった声が胸元で喋る。ふ、と傑の息が尖った乳首に掛かるだけで理性が蕩けてなくなってしまいそうだ。だめ、とまた小さく零しながら首を横に振る癖に、傑の髪は離さない。発言と行動が矛盾していることにも気付かないまま、じゅる、と音を立てて吸われてビクン♡と身体が仰け反った。
「や……っ♡吸っちゃ、だめ♡あ゛……ッ♡」
 じゅる♡じゅぷ♡と卑猥な唾液の音が、余計に背徳感を煽るようだった。まるで噴水みたいに、びゅく♡と母乳が勢いよく迸るのが自分でも分かった。傑の口内へと次々発射されるのを、傑が口を離してくれない所為で全部傑の口の中に注ぎ込む羽目になる。身動きが出来ないような快感で、死にそうだ。
「すぐる……♡」
 なんで。また出た。元に戻ってない。
 絶望しながら気持ちよくなって、訳が分からない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 するすると下へ伸ばされた傑の手が、スウェットと下着のゴムの部分を掴んでずり下ろした。さっき出したのにまた硬く張り詰めて先走り汁を零している性器がぶるんと震えながら外気に晒される。先端の窪みに透明な蜜と、さっきの精液の残滓がまだ纏わり付いている。これだと部屋で自慰をしていたんだと、傑にバレバレだ。猛烈に恥ずかしい。
「へえ。してたの? オナニー」
 案の定、傑に指摘されて益々羞恥が募った。ぽてりと腫れた乳首から口を離した傑がこちらを見上げて来て、目が合いそうになって慌てて目を逸らした。見たかったな、だなんて趣味の悪いことを言いながら、傑の手が溜まった水と精液を掬い取るようにする。膝から頽れてしまいそうだ。
「っあ、……ッ♡」
 期待するように、喉が鳴る。心臓が煩い。視界の端で、傑が長い髪を耳に掛ける仕草をする。正視している訳でもないのに、その色気にドキドキする。
 ……傑に虐めて欲しい。だが傑は性器から手を離してしまった。何でと泣きそうになるが、たっぷりの先走り汁で濡れた指がすすっと後ろへ移動して来て、ぞわりと肌が粟立った。
「す、傑、そこ、待っ――ッあ゛……ッ!?」
 つぷ、と傑の指が穴に差し入れられてしまう。嫌だと首を横に振るが、力が抜けて傑を押し退けることが出来ない。逆に恐怖で傑の肩に置いた手でぎゅうとしがみ付いてしまい、ぬ、と更に深くまで差し込まれれば白い喉が仰け反った。
「や……っ♡だ、だめ、」
「悟、こっちは自分で弄らなかったの?」
 ふるふると首を横に振る。そんな場所、弄る訳がない。恐くてあの日指を突っ込まれて以来触れていない。だが時折、特に自慰に耽っている時に、そこがむずむずと疼いたりは、する。そして今、傑の指が狭い穴の中でぐねぐねと動いて粘膜を擦るのが、むず痒くてぞわぞわする。
「そ、な場所、触る訳ねえ、だろ……ッ」
「でも、気持ちいいんだろ?」
「よく、ねえよ……!」
「そう? その割には萎えないね」
 ふふ、と面白そうに笑われながら、傑の手が萎えずに勃ったままの前に触れる。途端、ビクン♡と腰が痙攣して、膝立ちの体勢を保つのが難しくなる。
「すぐ、う♡あ゛ッ……♡」
 立ってて、と囁かれながら前を扱かれ、とろとろと先走り汁が溢れ出て来る。傑にしがみ付いたまま必死に快感に耐えているうちに指をもう一本後ろに挿入されてしまって、中が指を追い出そうとするかのようにぎゅうと収縮した。
「~~~~っひあ、あ゛♡だ、だめ♡」
 後ろの動きの所為で傑の指の長さや太さをダイレクトに感じる。嫌だと思うのに前と後ろを同時に弄られると訳が分からなくなって、ぼろ、と涙が零れて頬を伝った。
「可愛い、悟」
 平素なら何言ってんだと鼻で笑うような台詞だ。そもそも平素なら傑はこんなことを言わない。このどうかしているとしか思えない状況と傑の発言とに、身体の奥底がきゅん♡と甘く疼いた。また乳首が硬く尖り始めて、空気に触れているだけでもひりひりして辛い。
「傑、……っち、ちくびも、さわってほし、」
 竿を扱いていた傑の手に、こりこりと尖った乳首を捏ねられる。甘い官能が末端神経までを蕩かせるように快楽の波紋が全身へと広がっていく。じゅわりと滲んだ母乳を塗り込めるようにして薄い皮膚の上を傑の指が這う。
 後孔に埋められた二本の指でぐぱ♡と穴を左右に拡げるようにされて、そこがひくひくと物欲しそうに蠢いた。
「あ、あ゛ッ♡や、そこ、拡げるなッ、あ゛っ♡」
「でも悟の穴、嬉しそうにひくひくしてる」
 穴、だなんて露骨なことを言われながら、自分が一番よく分かっている状況を傑にまで指摘されて、顔が真っ赤に染まった。そんな場所で気持ちよくなるなんて、もう元の場所に戻って来れなくなりそうで恐い。なのに、拡げられた場所にまた指をずぷりと突き立てられるときゅうんと下腹が甘く疼いた。
「や……っ♡や、やら゛ッ♡ッあ゛っ!? あ゛ッ♡はあ゛……ッ♡」
「あーあ。悟、ここが気持ちいいってもう覚えちゃったね? そのうちもっと太いので擦られたくなるんじゃないの」
「何言っ、ひ♡あ♡あ゛ッ♡あっ♡」
 指をずぷずぷと出し入れされて、腰が蕩けてしまいそうな程の快感に襲われる。粘膜を擦られる程、指二本分の太さに穴の中が徐々に馴染んでいくようだった。とぷ、と先走り汁が溢れて竿を伝い落ちていく。
 必死に傑の肩に掴みながら、傑が涼しげに微笑んでいるのに腹が立つ。こっちは余裕なんて全くないのに。傑の目がちらりとこちらを見上げる気配があって、悟は慌ててまた目を逸らした。
 もっと太いのって何だよ。
 言葉につられるようにして、ちら、と傑の股間に目を向けてしまう。そこは勃ち上がって、スウェットの布地を押し上げていた。
「っあ……♡」
 ぞく、と悪寒が走ったと思ったのに、身体は熱くて溶けそうだ。太いので、――傑ので、後孔の中を擦られたら、どうなってしまうんだろう。有り得ない想像に腰の奥が鈍く痺れた。
「悟、私に挿れられたいの? ……私はもっと太いのと言っただけで、それがナニを指すかなんて一言も言ってないよ」
 こり、と傑の指がしこりのようなものに触れる。電気を身体に流されたみたいに、身体が大きく痙攣した。奥深い場所までを全部貫くような凄まじい快感が、身体の内側からぶわりと沸き上がって来る。初めての感覚に戸惑いながら、恐怖にヒッと喉が鳴った。
「すぐる、……ッ待って、だめ゛♡ッあ゛ッ!」
「ねえ、もしかしてここに挿れられるの想像した? 深い場所まで突っ込まれて、奥を突いて欲しい? 粘膜をずりずり擦られて、火傷しそうなくらい気持ちよくなりたい? 中に精液注ぎ込まれて、メスになってしまいたい?」
「や゛♡あッ♡やだ、ッあ゛ッ♡」
 こりこりこり、と執拗にピンポイントでしこりばかり引っ掻かれるだけでも気が狂いそうなのに、傑の言葉につられるようにそこに指よりも遥かに太い傑の勃起を捻じ込まれているのを想像して、ぞくぞくするような快感に脳を支配される。
 挿れられて擦られて奥にぶつけられて、挙句傑の欲をそこに放たれる……だなんて、有り得ないことなのにじんじんと身体の奥が痺れて、限界まで張り詰めた前がもう射精しそうになっている。
 後ろに指を突っ込まれてイくなんて嫌だ。なのに乳首を捏ね回されながらしこりの部分を指で挟み込むようにして擦られて、欲を解放することで頭が一杯になる。
「すぐ、……ッあ゛♡や♡イく♡あ゛ッ……♡♡♡」
 しこしこしこしこ♡こすこすこす♡
 びゅく♡びゅるるるる♡♡♡
 乳首から乳白色の液体が、性器からは濁った白い液体が弧を描いて飛び散った。
「ひあ、あ゛……っ♡だめ、も、ッあ゛ッ♡」
 乳首と性器から同時に白いものを放出させながらイッている。イッているのに、傑が勃った乳首を扱く所為で、新たな母乳がびゅるびゅると迸る。びゅ♡びゅく♡と勢いよく飛び散らせながら、あまりの快感に視界が白く染まった。向き合った傑の服にも、ソファにも飛沫が付着するのが申し訳ない気持ちになるが、イくのが止まらない。
「すぐう、……っ♡きもちいの、とまんな、い、」
「止まるまでして傍にいるから、安心して」
 優しく言われながら首筋にちゅ、とキスを落とされた。軽く触れる唇と、肌を撫でる傑の髪の感触にぞくぞくする。ずる、と指を引き抜かれると、空洞になった穴が寂しそうにひくんと震えた。
「っや、」
 咄嗟に抜かないでと言いそうになって、慌てて口を噤んだ。
 はー♡はー♡と息を乱れさせ、涙の浮いた目で再びそろりと傑の股間へと視線をやった。そこはまだ勃ったまま、むしろさっきよりも大きくなっている気がしないでもないし、スウェットの布地が微かに濡れて色が濃くなっている。
 これを、後ろに挿れられたら……
 ひくりと喉が鳴った。恐怖や嫌悪ではなく、期待で身体が疼く。あってはならないことなのに。流石にそれくらいは分かる。それをしたら、親友という関係に戻れなくなる。でも、
「傑、」
 そろ、と傑の股間に手を伸ばす。服の上から触れると、別の生き物のようにビクリと大きく蠢く。
「っ悟、」
 止めようとする傑の手を逆に押さえ付け、片手をスウェットのゴムの部分に掛ける。血が、ドクドクと煩い。心臓の音も煩い。汗が額に滲む。自分がしようとしていることが、自分でも信じられない。
「悟、離して、」
 傑の声を無視して、傑のスウェットを下着ごとずるりと引き下げた。引き下げても、傑が座っている所為でずり落ちてはくれなかったが。反り返った雄が下着の中から現れて、眩暈が起きそうになった。カリが張り出した凶悪な雄は既に臨戦態勢で、太い竿を握ると脈打っているのが分かる。血管が浮き出て、亀頭の表面を先走り汁で濡らしている。数度扱いただけで、どぷりと透明な汁が零れて竿を伝った。
「悟……っ、」
「は……、オマエも、挿れたいんだろ?」
 挑発的に口元を笑みの形に歪め、頽れてぺたりと座り込んでいた体勢からもう一度膝立ちになる。傑の両肩を掴んでにじり寄り、半ば傑の背をソファの背もたれに押しつける格好になりながら、丁度傑の勃起が自分の穴の下に来るような位置に陣取った。
 ぺろ、と下唇を舐める。傑が息を呑み、信じられないものを見るような目で自分の上に乗っている悟を見上げた。
「さとる、だめだ」
 散々煽っていた癖に、その一線を越えるつもりは元々なかったらしい。あくまで呪霊の瘴気にあてられた悟を助けていただけ、ということか。でも勃ってるなら、親友とセックス出来るってことじゃないのか。……分からない。セックス出来る=恋愛感情、ではないだろうし、でも、じゃあ傑はどういうつもりで悟を手助けしていたのか。
 真意を確かめる勇気がない。その癖一線を越えることには勇気なんて必要なかった。だってコレが欲しい。隙間を埋めたい。何も埋めるものがなくなってしまった場所を満たして、むしろもっと拡げて欲しい。
 慎重に腰を沈めながら傑の勃起を掴んで、さっきまで指で犯されていた場所の入り口にひたりと宛がう。亀頭がそこに吸い付いただけで、ぞわりと肌が粟立った。
「……ねえ、流石にそれは間違ってると思うけど」
「何、言ってんだよ。もうちんこバッキバキじゃねえか……ッん♡あ……っ」
 ぬぷ、と先端を埋め込むと、上擦った声が漏れた。
「っ、さとる、ゴム、」
 諦めたように、せめて避妊具をつけさせろと傑が言う。だが今更引き返せない。引き返したくなかった。だって奥まで突かれて、精液を注ぎ込まれたい。思考がどうかしてしまっていることさえ、もうどうでもよかった。考えるのを放棄した方が、気持ちいい。  傑の肩を無意識に強く掴みながら、更に腰を落とす。徐々に深い場所まで入って来る。指とは比較にならない程太い。痛くはないが、圧迫感に息が詰まった。
「は、ッあ、あ……♡」
 みち、と内壁が少しずつ拡げられていく。自分の中に埋まっていく親友の一部に、襞が絡み付いてきゅん♡と収縮する。少し恐いのに、前が硬さを取り戻して、ビクビクと痙攣した。何故か涙が出た。
「すぐる、」
 全部挿れたいのに、挿れてしまうのがやっぱり不意に恐ろしくなって親友の名を呼んだ。傑は苦しそうに顔を歪めて悟にされるがままになっていたが、悟ののろのろした動きに焦れたように腰を掴んだ。
「悟、君の所為だからな」
「ッあ……っ」
 ぼんやりした頭でなにが、と緩慢に考える。掴んだ腰を乱暴に引きずりおろされて、ずぷんっ♡と深い場所まで一気に性器が入り込んでしまった。
「あ゛……ッ!?」
 声にならない悲鳴が出た。喉を仰け反らせると、前がびゅる、と透明な蜜を迸らせた。息が詰まって、今間違いなく一瞬心臓が止まった気がする。中が、一部の隙もなく傑のもので埋め尽くされている。息が出来なくて、ひゅ、と喉奥から奇妙な音とも声ともつかぬものが漏れた。
「すぐりゅ、ッあ゛ッ♡や♡それ、らめ♡」
「悟が、煽ったから、だろ」
 責任取れよと、いつもよりも荒っぽい口調で傑が言う。普段は温厚な笑みを浮かべていることが多いその顔も、今は余裕が感じられない。その顔にドキドキしている場合ではなくて、無意識に逃げようと腰を浮かせばぎちぎちに傑の性器を咥え込んだ後孔の中が傑の太い竿に擦れて熱と鈍痛にも似た快感を生む。それ以上逃げられないように腰を掴まれている所為で、半分程が抜けた場所で動きを止めざるを得ない。
「あ゛ぁあ゛ぅ……っ♡♡♡も、無理、それ無理♡」
 ずんっと傑に下から突き上げられ、深い場所に亀頭がごちゅっと当たる。頭の中も目の前も真っ白に染まった。ぶしゅ、と間の抜けた音をさせて性器の先から透明な汁が迸った。
「はひ……ッ♡あ゛っ♡おく、だめ♡あ゛ッっ♡♡♡」
「奥が、いいんだろ。私のを締め付けて、離さない」
 ふっと傑が目を細めて意地悪く笑った。熱い頬に傑の息が掛かる。ぞくりと身体が震えた。
 信じられない程の悦楽が背筋を駆ける。ともすれば意識を手放してしまいそうなのに、奥を突かれる度に意識をこっち側に無理矢理繋ぎ止められているようだった。その所為で快感を逃しようもなく、体内にどんどん溜め込まされていく。死にそうだ。
 最奥を熱い楔で穿たれると腰から下が蕩けてしまいそうになる。浅い場所まで引き抜かれる時にはカリの張り出した部分がざりざりと内壁に擦れて、死ぬ程気持ちいい。たまに思い出したようにしこりの部分を亀頭に押し潰されるのも堪らない。
「ッん゛っ♡あ♡そこ、や゛あ……ッ♡」
「前立腺も気に入ったの? 悟はやらしいね」
 こり♡こり♡と前立腺を擦られながら腫れ上がった乳首にまた爪を立てられて、ビクン♡と腰が震えた。不意打ちのようにまた深い場所にずぷりと突き立てられて、許容量を超えた快感が全身に襲い掛かって来る。
「ふあ゛ッ♡あ♡やら♡すぐる……っ、」
 びゅく♡と白濁が飛ぶ。あまりの快感に放心しそうなのに、イッても傑は動きを止めてくれない。ず♡ぬぷ♡ぬぶ♡と酷い音をさせて身体の内側を擦られて、火傷しそうな程の熱がイッたばかりの身体の内側に籠る。乳首の皮膚が異様なまでに敏感になって、こすこすと指に擦られる度にビクンビクンと身が震える。すぐにまた前が勃起して、先走り汁と精液で既にどろどろの鈴口から透明な蜜を溢れさせている。
「や゛……っ、待っ、あ゛ッ♡傑、ひい゛ッ♡」
 ぎゅうと傑の両肩に爪を食い込ませるようにしてしがみ付いたまま、いつの間にか傑の動きに合わせるようにして腰を上下させている自分がいた。動く度にぐちゅぐちゅと泡立った音がする。どろどろの前が傑の黒いスウェットの腹の辺りに擦れて、そこからも火種が生まれている。
 熱い。前も、後ろも、酸素が足りてないような脳も、何処もかしこも、あつい。
「ッあ、う……ッ♡すぐる、あつい、」
 傑の腹に擦り付けるようにして腰を動かしながら傑の頭を抱き寄せる。長い黒髪が指の間をさらさらと滑り落ちていく。すぐる、と唇の間から切羽詰まった声で呼ぶ。何? と切れ長の目で悟を見上げて、傑が熱い頬に手を添えた。
「傑、キス、……キスして」
 何でこんなことをねだったのか分からない。言ってしまってから猛烈な羞恥に襲われた。だって恋人同士でもないのに。親友なのに。でも、親友とは普通はセックスしない。じゃあ、親友じゃなくなったのだろうか。だったら傑と自分は一体何なのか。恋人、と考えるのは虫が良すぎるだろうか。だって好きと言われていないし、言ってもいないし。でもでも、セックス出来るくらいには、傑からは好意的に思われている訳で……。
 頭の中がぐちゃぐちゃで思考が纏まらない。全部ばらばらの方向に散らばっていく。それを丁寧に一つ一つ拾い集めるようにそっと顎を掴まれ、傑にキスされた。しかも軽く触れるだけのものではなく、思い切り激しいやつを。
 唇の間を割って強引に傑の舌が口内へ入り込んで来る。目を見開いて硬直するが、慣れたような傑の目と目が間近で合うのが恥ずかしくて思わず目を閉じた。
「んッ……♡」
 息が出来ない。鼻で息をすればいいなんて、そんな冷静なことを考える余裕がない。舌を傑の舌に絡め取られて濡れた粘膜同士を擦り合わされて、恍惚感が思考力を奪う。酸欠で頭がくらくらする。眩暈がするのは酸欠の所為なのか快楽の所為なのか、もはや分からない。両方かも知れない。
 キスされたままで乳首を指先に転がされ、下から突き上げられて、もう訳が分からない。全身が性感帯になってしまったみたいに、何をされても快感の波が押し寄せる。細い身体だけでそれを全て受け止めさせられながら、あのイきそうな感覚がまた襲って来て腰が浮き上がった。
「っ、あ、」
 舌が、唇が、離れる。互いの口の間で糸を引く唾液がぬらぬらと光る。唾を呑み込むことも出来なかった所為で口端から涎が垂れた。
「すぐ、る♡も、イく、」
「……っ私、も、」
 快感に耐えるように顔を歪め、傑が悟の腰を引き上げさせようとする。ずろ、と勃起が身体の外へと少しずつ出て行く。そんなことをしたら全部抜けてしまう。嫌だから、必死にもっと腰を落とした。
「っや、抜かないれ♡」
「でも、」
「い、いからぁ……ッ♡中に、出して♡おねがい♡」
 きゅん♡と搾り取るように穴が収縮する。種子を欲しがる雌のように。
 う、と短く呻いて、傑が諦めたように下から奥深くへと突き刺した。激しく、強く。無理矢理こじ開けられた場所の一番奥にごちゅっと亀頭がぶつかって、意識が飛びそうになる。
「あ゛ひぃ゛ッ♡あ゛ッ♡♡♡イく、イッちゃ、ッあ゛ッ♡♡♡」
 どろ、と白濁が流れ出た。精液に勢いはないのに、母乳だけは相変わらず凄い勢いでびゅーーーー♡と迸っている。
「っさとる、」
 ぎゅうと抱き寄せられて心拍数が跳ね上がった。殆ど力の入らない腕を上げて傑の髪を掻き抱くようにする。熱くてどろどろしたものが、身体の奥に注ぎ込まれているのを感じる。自分の中で傑の性器がどくどく脈打っているのが分かる。それが嬉しくて、傑のものになってしまったような気がして、被虐的な悦びが身体中を満たした。
「は、ッあ゛……っ♡すぐる、……すき♡」
 身体が弛緩して、怠くなって目を閉じた。「……私も」と傑が小さく呟いたような気がしたが、それはおめでたい自分の脳が作り上げた妄想かも知れない。


 目を開ければ、白い天井が目に入った。ぱちくりと一度瞬きをしてから首を横に向ける。窓に掛かった白いカーテンの向こうから陽が差し込んでいた。ベッドで寝ているらしい。黒いシーツは自分の物ではない。傑のベッドだ。
 あれ? 俺何で傑の部屋に、とボーッと考えながらのろのろと上半身を起こせば、腰の辺りに鈍い痛みを感じて短く呻く羽目になった。そこで一気に記憶が蘇る。――と言っても、ところどころ抜け落ちていて断片的で、あやふやな部分もある。酒は飲めないが、酒に酔うとはこんな感じなのかも知れないと思う。
 あやふやで有耶無耶で朧気でも、自分が恐ろしく恥ずかしい姿を親友の前で晒してしまったことは覚えている。しかも越えてはいけない一線まで越えて、しかも好きとか言った気がするし、傑ともう顔を合わせるのも無理かも知れない。
 どうしよう、と頭を抱えた。解決策など思い付く筈もなく、どうしよう、という思いだけがぐるぐると頭の中で無限ループする。  昨夜あんなに乱れて散々傑の前で痴態を晒したとは思えない程自分の身体に汚れた部分はなく、傑のなので多少サイズは合わないが着れないこともない部屋着に身を包まれている。腰の痛みと朧気な記憶だけが、昨夜何があったのかをはっきりと示している。
 ということは、あの後意識をブラックアウトさせてしまった自分を傑が綺麗にして服も着替えさせてくれてしかも傑のベッドに寝かせてくれたということだろう。罪悪感やら羞恥やらが襲って来て顔が赤くなる。叫び出したくなった。
「起きたの? 大丈夫?」
 赤面しているなんてバレたくないという時にタイミング悪く傑が部屋に入って来た。高専の黒い制服に身を包み、髪もいつものように後ろで纏められている。咄嗟に掛布団を鼻の下辺りまで引きずり上げた。隠す物なんてないのに。純情な乙女みたいでキショイ、と自分にツッコミを入れる。
「……あんまり大丈夫じゃない」
 布団の中からくぐもった声で答えた。声が掠れている。
 もうすぐ授業が始まるのだろうか。正直身体が怠くてこのまま寝ていたいと思った。
「今日は休みなよ。私から先生に体調不良と言っておくから。この部屋にも好きなだけいていいし。冷蔵庫の中の物も食べていいから。……確かプリンもあったし」
「……ん」
 優しい傑の言葉に赤い顔のまま小さく頷いた。
 不意にじっと視線を注がれて、悟は傑から目を逸らした。見ないで欲しかった。心臓が煩いから。身体が熱くなって、額にじわりと汗が浮いた。
「悟……」
 手を伸ばして、頭に触れようとする。ビク、と身を竦ませると、傑は一瞬動きを止めて、思い直したように手を引っ込めてしまった。
「じゃあ私は授業に行くから」
 背を向けて、傑が部屋を出て行ってしまう。ドアが閉まって自分一人になると、悟は詰めていた息をはあーーーーと大きく吐き出した。
 触れて欲しかったのに、と思う。
 躊躇うなよ馬鹿、昨日は触れるどころかちんこ突っ込んでた癖に、と思った途端にまた昨日のことを思い出してしまった。耐えられなくてぼふっとベッドに身を投げ出した。
 最悪なことが起きた。親友を、好きになってしまったかも知れない。
 不毛過ぎる自分の感情に絶望したまま、重く長い溜息を吐いた。