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 はぁ……っと熱っぽい息が、口から漏れる。無意識に少しでも体内に篭った熱を逃そうと息を吐いたのだが、全く無意味だった。熱は内に篭ったまま、むしろ時間の経過と共に身体が酷く疼いて気が狂いそうだ。
 ずく、ずく、と脈打つように疼く身体に力も入らず、五条悟はぐったりと車の後部座席の背もたれに身を預けた。窓の外を何処か無機質で機械的に彩られた都会の景色が流れていく。動く景色を見ていると気分が悪くなりそうだったので悟はそのまま目を閉じた。
「――さん、」
 迂闊だった。なんて今更後悔しても遅いが後悔せずにはいられない。
 廃墟となった雑居ビルでの、単独での任務だった。祓うべき呪霊は大して強くなく、仕事は簡単に終わるかのように思えた。だが肝試しでもしていたのか、戦闘現場に小学校低学年くらいの子供が突然現れた。呪霊はターゲットを呪術師から無害な子供に変更したようで、子供目掛けて襲い掛かって来た。
 悟は咄嗟に子供を背に庇った。びしゃ、と音がしたかと思えば、「は?」と思っているうちに頭の天辺からたらりと粘ついた液体が垂れ落ちた。何やら気持ち悪い粘液を頭から浴びてしまったようだった。
 ムカついて即座に祓ったが、身体に浴びてしまった粘液だけは消すことが出来ない。
「……さん、聞いてますか?」
 ただの下級呪霊の体液だ。気持ち悪いがそれ以外に害はないだろうとその時は特に気にしなかった。それよりもあんな程度の低い呪霊の攻撃をまともに食らってしまった己に腹が立った。
 無下限は、発動させていなかった。
 まあ、ぶっちゃけるとこの任務をナメていた、ということだ。悟にはこういうところがある。最強だという自負とプライドがある。その所為で、簡単な任務なら手を抜くし無下限も発動させない。今まではそれで失敗したことがない。
 子供を背に庇うだなんて、らしくない自分の行動にも納得がいかない。身を挺して守るなんて、術式も使えない愚かなパンピーがすることだ。
 ――だなんて、非術師を見下すような発言をすればまた傑に怒られるのだろうが。あいつは正論しか言わないから。子供を見殺しに出来なかったのも、多分傑なら迷いなく助けただろうと思ったからだ。
 傑に感化されているのだろうか? 馬鹿馬鹿しい。彼の正論に影響を受けた結果、自分が被害を被っていては話にならない。
「大丈夫ですか? 聞こえてます?」
 だが補助監督の運転で高専へと戻る途中から、身体が熱を帯びてじんじんと疼き始めた。
 熱い。汗が出る。頭もボーッとする。
 それでも悟は大して気にしていなかった。所詮下級の呪霊だ。もしかしたらあの粘液を浴びると数日間熱が出るのかも知れないが、粘液の作用なんてせいぜいそのくらいだろう。
「――五条さん!」
「は!? 何だよ、うるせえな」
 急に大声で呼ばれてハッとなった。見れば車は赤信号で止まり、運転席の補助監督が顔をこちらに向けている。
 フロントガラスの向こう側にはまさに『ド田舎』と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。高専の付近まで戻って来たらしい。
「さっきから何度も呼んでるのに貴方が返事しないからですよ。大丈夫ですか」
 訝しむような視線を投げ掛けていたが、悟の顔色を見るや補助監督の顔が曇った。
「……本当に大丈夫ですか。もうすぐ高専に着くので、家入さんに診て貰った方が」
「……何。そんなヤバそうなの、俺」
 身体の熱を誤魔化すように薄く笑みを浮かべた。サングラスをずらして青い瞳を覗かせて、挑発するように小首を傾げて見せる。  浴びた呪霊の粘液は入念に拭き取ったし、幸い着替えも積んであったので着替えた。髪だけはまだべたついていて不快ではあるが。身体の汚れを落としても、補助監督にはヤバそうに見えるらしい。
 気に食わない。例え死にそうだったとしても、他人から具合が悪いように見えるだなんて、心底嫌だ。だって自分は最強だから。弱っている無様な姿など、他人の目に晒したくない。
「熱があるように見えます。廃ビルで何かあったんですか?」
 補助監督が前に向き直る。信号が青になり、車は再び高専近辺の辺鄙な田舎道を進み始める。
「別に」
 短く答えているうちにもずくん、と身体が疼いて、危うく変な声が口から漏れそうになった。反射的に口を手の平で覆う。補助監督は運転に集中している。見られていなくてよかったとホッとする。
 ホッとしたのも束の間、ずくずくと疼くような感覚が、だんだん短い間隔で訪れるようになって戸惑う。しかもじくじくと熱を持ったように疼く場所もピンポイントになってきて――悟は口を覆っていた手で制服の胸の辺りの生地を掴んだ。
 ……乳首が、じんじん熱い。
 何だこれはと混乱する。パニックに陥りかけたところで車が停まった。いつの間にか高専の敷地内に着いていた。目を上げればサングラス越しに補助監督と目が合って、悟は即座に制服を掴んでいた手を下ろした。
「本当に大丈夫ですか。家入さんのところまで連れて行きましょうか」
「いらねえよ。それと硝子にも言うな。言ったら殺す」
「……は。私を殺すより先に貴方が今にも死にそうな顔をしてますが」
「うるせえ言葉の綾だ。死ぬ訳ねえだろ。俺は最強なんだから」
 ゆっくりと不遜な笑みを浮かべ、気力を振り絞って車のドアを開けた。ふらふらしそうになる身体を何とか二本の足で支え、寮の方へと戻る。一歩踏み出すごとに乳首が服に擦れて痺れるような、引き攣れるような奇妙な感覚を生む。その度に口から声が漏れ出てしまいそうで、悟はぎゅっと下唇を噛み締めた。
 ――何だこれ。ひりひり痺れて、服に擦れただけで、なんか……、
 何でもないような顔を必死で装って歩きながら、頭の中はパニックに陥っている。想像以上にヤバいのかも知れない。とにかく早く自室に戻ろうと思った。明日からも授業があるのだ。さっさと治さなければならない。……どうやって?
 ところが誰にも出会いたくないと思っている時に限って出会ってしまう。自販機の前に差し掛かった時、向こうから見覚えのあるシルエットがこちらに歩いて来るのが見えて内心で「げ」と呻いてしまった。
 自分よりも少し低いくらいの長身。長い黒髪を後ろで団子にしている。特徴的なズボンのその男の切れ長の目が立ち尽くしている悟の姿を捉え、あ、と、口が一文字発した。
「悟、お帰り。お疲れ」
 こちらを労う言葉と共に、彼が歩み寄って来る。悟は逃げ出してしまいたい衝動に必死に耐えた。常であれば「はあ? あんな任務で最強の俺が疲れる訳ねえだろ」などと軽口を叩くがそんな余裕が一切ない。
 夏油傑。同じ高専二年の、たった一人の親友だ。だが、今はその親友と、いや彼だけでなく誰とも顔を合わせたくない。何しろ、身体が火照って熱くて乳首が疼いて死にそうだ。などと誰にも説明出来る訳がなく、かといっていきなり彼に背を向けて逃げるのもおかしいし、そもそも激しく動いたら更に服が乳首に擦れてヤバいことになってしまいそうで逃げることも出来ない。
 悟は傑と向き合って自販機の前に立ったまま、赤い顔を隠すように俯いた。白い髪が熱を持った頬をさらりと擽る。
 耳の奥でドクドクと血が流れている。何か言わなければ、普段通りにしなければと焦りが募る。だが、さっきから両方の乳首がじんじんして、普段通りに振る舞うことに集中出来ない。
「悟?」
 何も言わない悟を不審に思ったらしい傑が訝るように名前を呼び、少しだけ身を屈めて俯いた顔を覗き込む。悟はビクと身を竦ませて目を逸らした。何故か、傑の声が耳に届いただけで身体の疼きが酷くなる、気がする。
「悟、どうしたの。具合悪い?」
 心配そうに傑が悟の両肩を掴んだ。その拍子に悟の身体が大袈裟に跳ねた。熱い身体に制服越しに触れられただけで、ぞくぞくぞくっと背筋に痺れが走った。
「っさわんな、」
 ぱし、と手を払いのけると傑は呆然と悟を見つめた。ハッと我に返った時にはもう遅い。悟はのろのろと顔を上げた。頬が上気し、少し開いた口から熱い息が漏れる。少し目尻に涙が浮いている気がして、即座に顔を伏せた。
 違うんだと誤解を解きたかった。だがどう説明するのか。違うんだオマエに触られたくないんじゃなくて今は身体が熱くて乳首が疼くから駄目だとでも言うのか。言える訳がない。頭おかしいんじゃないかこいつという目で見られるのがオチだ。
「悟、調子が悪いなら医務室に、」
 慎重に様子を見ながら、だがゆっくりこちらに手を伸ばして来る。悟に、親友に本気で拒絶される訳がないと思っているからこその行動だろう。
 だめだ、と強く思う。触れられたら、だめだ。名前を呼ばれただけで身体の奥が甘い痺れに侵されることが、混乱に輪を掛ける。危険から身を守る手段は闘争か逃走か――逃走だ。
「煩い触んなあっち行け馬鹿追って来たら殺す」
 あっち行けと言い放った癖に自分がその場から逃げた。
 素早く傑の横をすり抜けて、脇目も振らず校舎へ猛ダッシュする。ここからなら校舎の方が寮より近い。とにかく傑から逃げて隠れたかった。傑が追いかけて来ているのかは分からなかった。振り返って確かめる余裕がないくらい、服に擦れた乳首が疼いて、痺れて、紛れもない快感を脳へと伝えている。異常な状況に寒気がするのに身体は熱く、走りながら口から「っひあ」と掠れた声が漏れた。
 適当な空き教室へ入って壁に背を預けたところで大きく息を吐き出した。
 この学校は無駄に敷地がだだっ広いので、どの学年の授業にも使っていない教室が幾らでもあるのだ。たまに雨の日になどはこういう空いている教室で体術の訓練をしたりする。大抵誰かが吹っ飛ばされるので、この教室も例に漏れず机は倒され壁の一部が大きく凹んでいた。荒れ放題だ。
 校舎に人気はなく静まり返っている。外で訓練しているのか、或いは傑以外は出払っているのか。知る由もないし、そんなことよりさっきから乳首の疼きがもう限界だ。
「クソ……っ何だよ、これ」
 当然こんな状況に陥ったことなど今までにないので訳が分からない。悪態をつきながら袖で額の汗を拭う。両腕を身体の横にだらりと下げ、参ったというように大きく息を吐き出す。こんな最強らしからぬ姿、誰にも見せたくない。
 じくじくと乳首が、そして腰の奥が不穏に疼く。適当に少し休んだら自室に戻ろうと思っていたのに、その気持ちに身体がついて行かない。床に座り込んでしまいそうだった。
「もう、何で、クソ、最悪、」
 文章にもなっていないような悪態を忌々し気に吐き捨てながら苛立ち紛れに髪を掻き毟ろうと腕を上げた時、その腕が偶然制服越しに乳首を擦った。ビク、と肩が跳ねて、「あ……ッ♡」と自分の口から出たとはとても思えないような上擦った声が、紛れもなく今自分の口から漏れた。
 じん、と甘く痺れるような快感が脳を蕩かす。もっとさわりたい、と、脳より先に身体がそう訴えることに混乱した。それは、駄目だ。触ったら、なんか色々マズい気しかしない。でもさわりたい。
 触るなと押し留める理性の声に、さわりたいと別の自分の声が反論する。
 こんな、偶然少し触れただけでおかしくなりそうなのに、じゃあ直に触ったらどうなるのだろう。そう思うと一層強くそこが疼く気がして、触りたくて触りたくて仕方がない。悟は恐る恐る学ランの上からすり♡と指で擦ってみた。未知の感覚への恐怖と期待とで、指先が僅かに震える。
「ん……っ♡あ、あう♡」
 ビリ、と電気を流し込まれたような刺激が走り、誰の前でも出したことのないような声が出る。触れれば触れる程足りなくなる。学ランのボタンを外してはだけ、今度は白いワイシャツの上から撫でた。
「あ♡あ♡ひあ♡はぁ……ッ♡」
 未知の快感に腰が蕩けたようになり、喉が仰け反る。ビクビクと身体が跳ねて、指が止まらない。すりすりと指の腹で撫でる度に腰が浮く。次第に硬くなりつんと勃ち上がって来た乳首を親指と人差し指で摘めば、甘く切ない快感が足の指の先まで貫く。
「あ゛ッ……」
 ビクン♡
 腰が跳ね、恍惚に脳を支配される。一度乳首での快感を覚えてしまうと、そこを刺激せずにはいられなかった。頭の隅の方には僅かにまだ理性が残っていて駄目だと訴えるのに、指がもう言うことを聞かない。快楽の虜になった悟の指が乳首を撫で、引っ張り、押し潰す。ビク♡ビク♡ビク♡と何度も腰が震え、口端から涎が垂れた。
「う、あ♡だめ♡ひあ゛ッ、だ、だめ♡だめなのに、あ゛ッ♡きもちい、」
 声を抑えられない。抑えなければと思うと同時、どうせ誰もいないんだから別にいいんじゃないかという気もしてくる。それに、恥ずかしい声を出して卑猥なことを言った方が快感が増す、気がする。
「ちくび、こひゅるの、きもちい♡あぁ゛ッ、あ、あ゛っ♡」
 変態なんじゃないかと思いながら手は止まらない。
 じゅわ、と指先に濡れた感触がある。快感のあまり涙の浮いた目で見下ろせば、確かに指もワイシャツの胸元も濡れている。
 胸から謎の液体が出ているだなんて、普通は焦るところだ。さっきの呪霊の悪質な呪いかも知れないと、恐くなるところだ。だが淫らなことが思考の殆どを埋め尽くしている所為で、そういうまともなことを一切考えられない。むしろ、濡れて透けたシャツに赤い乳首が透けて貼り付き、卑猥な光景にぞくぞくした。
「はー……♡も、もっと、」
 ぐり、と強めにつねる。あまりの快感に眩暈がして、その場に座り込んでしまいそうになった。
「あ゛……ッ♡♡♡」
「悟、」
 がら、と教室のドアが開くと同時、聞き慣れた親友の声が飛び込んで来た。流石に我に返った。ギョッとして身を凍らせたまま、首から上だけで振り返る。
 自分が立っている廊下側の壁の真横にあるドアが開けられて、心配そうな顔の傑が顔を覗かせていた。傑の目が無人に見える教室内をさっと見回し、壁に身を貼り付けるようにして立っている悟の姿を捉える。
「こんなところにいたのか、悟。今硝子はいないみたいだけど一旦医務室で休んで硝子が戻って来たら診て貰えば――」
 あからさまにホッとした顔をして傑が教室に足を踏み入れるが、すぐに異常な光景に悟と同じくギョッとした表情で固まった。それもそうだろう。なにせ、誰もいない教室でこんな陽のある時間帯から発情した顔を晒し、シャツの上から乳首を弄っていたのだから。ドン引き以外のなにものでもない。
「傑……ッ、こ、これはその、ちがくて、」
 咄嗟に言い訳のような台詞を口走るが、続きの言葉が出て来なくて口籠ってしまう。だって任務に赴いた先で呪霊の体液を浴びてから乳首が疼くから触ったら気持ちよくてなんて説明出来る訳がない。
 ――もう駄目だ。終わりだ。傑だけが唯一の親友だったのに、友情に亀裂が入って仲はここで終わりだ。最悪の場合絶縁を言い渡される。消えたい。死にたい。
 傑は何も言わずに教室の鍵を内側から掛けた。意味が分からない。今すぐ出て行って欲しいのに。というか傑だって今すぐ出て行きたいだろう。親友のこんな間抜けな姿なんて見ていたくないだろうから。
「違うって、何が」
 正面に立った傑に真っ直ぐ見つめられて、目を逸らす。言いたくないが、昼間から発情して空き教室で乳首を弄っている変態だなんて親友に思われたままなのも嫌だった。悟はともすれば変な声が出てしまいそうなのを必死で堪えながら、震える唇を開いた。
「それは、……に、任務で、呪霊に変な粘液浴びせられて、……そ、そっから、なんかち、……乳首、が、」
 乳首、なんて傑の前で口にしているだけで羞恥で死んでしまいそうだ。かあ、と頬が赤く染まるのが分かる。
「う、疼いて、それで……も、もういいだろ。出てけよ」
 耐えられないと思った。俯いて顔を隠しながら傑の両肩を掴んでぐいと引き離そうとした。のに、傑はその場から一歩も動いてくれなかった。どころか更に身を寄せて来て、逆に肩を掴まれて壁に身を押し付けられた。
「すぐる……?」
 見上げれば、目を隠しているサングラスを外される。六眼が無防備に傑の眼前に晒されるのが、普段なら別にどうということもないのに今は嫌だ。全部暴かれてしまう気がして。
 返せよと言う間もなくサングラスが傑の制服のポケットに収められて、両足の間に膝を差し込まれ身動きが取れない。訳が分からなくて混乱した。
「傑、離せ、」
 オマエがいたんじゃ続きが出来ない。
 触れるのを一旦やめた所為で、またじくじくと乳首の疼きが強くなっていた。小さな胸の突起が二つとも刺激を欲している。早く触りたくて顔が歪んだ。
「そんなことになってたんだね。それは辛かっただろう」
 労わるような言い方をされながら髪を優しく撫でられてぞくりとする。酷く身体が熱い。それに傑がどんどんこちらに顔を近付けて来て、混乱する。心臓の音が煩い。こんなに近いと、傑にも心音が聞こえてしまうかも知れない。
「あの、傑、」
 不意に、傑の手にさっきまで自分で弄っていた突起を摘まれた。ぷくりと腫れて形を主張していた赤い粒が濡れたシャツ越しに指に引っ張られ、引き攣れるような快感が乳首から全身へと伝播した。ぞくぞくぞくっ♡と腰が震えて、悟は咄嗟に傑の腕をぎゅうと掴んだ。
「や゛♡あ゛ッ♡なに、してっあ゛ッ!?」
「私達は親友だろ? 親友が困っているんだから、助けるのが筋だ」
 そうなのだろうか。一瞬納得しかけるが、いやどう考えてもおかしい。親友の乳首が疼くから助ける為に触るだなんて意味が分からない。
「すぐ、ッあっ♡や、あ゛っ♡だめ♡」
 悟は冷静さを欠いているのに傑の方は至って冷静で、切れ長の目でじっと悟を見ながらくりくりと乳首を指で転がしている。もう片方の手でシャツのボタンを器用に外し、悟の前をはだけていく。露わになる白い肌が外気に晒され、ぞわぞわと肌が粟立った。  やめさせなければと思うのに、身体に力が入らない。それどころかどんどん力が抜けて壁伝いにずるずると座り込んでしまいそうなのに、両足の間に差し込まれた傑の膝の所為でそれも叶わない。
「悟、乳首濡れてるけど、これは何?」
 シャツ越しに左の乳首を弾きながら、露出させられた右の乳首に視線を注がれる。濡れてると思ったのはやっぱり錯覚ではないらしい。悟は弱々しく首を横に振った。
「し、知らな、――ッあ゛ッ!? ひぃ゛っ!?」
 身を屈めた傑の濡れた舌が、ぬろりと右の乳首を舐め上げた。悟は悲鳴を上げながら身を仰け反らせ、そうすると胸を傑の方へ突き出すような格好になり、傑が尖った乳首を口に含んだ。何を考えているんだこいつは正気じゃないと驚愕するも、それよりも舌先にくびり出た乳頭を押し潰され、悦楽が身体中の神経を麻痺させる。
「傑……ッ♡も、離せ、ッあっ♡あッ♡やだ♡あ゛ッ♡」
 今まで体感したことのないような感覚が背筋を貫く。得体の知れない感覚なのにそれは紛れもない快感で、片側の乳首を爪先にかりかりと引っ掻かれながらもう片方には軽く歯を立てられて、鋭い痛みとそれを凌駕する程の甘い快感が身体中を支配する。傑の腕を掴んで引き離そうとしていた筈が、無意識のうちにしがみ付くようにして腕に爪を立てている。
「やぁ゛……ッ♡す、すぐる、だめ♡も、吸うな、ッあ゛っ♡」
 じゅるじゅると唾液の音をさせて吸われると、乳首と下腹部に蕩けるような感覚が走る。いやいやと首を横に振るが、傑はわざとかと思うくらいじゅる♡じゅぷ♡といやらしい音をさせながら尖った粒を吸い上げている。
 シャツを完全にはだけさせられて、直接手で弄られる。傑の垂れた黒髪が素肌に触れる感覚にさえもビクッ♡と身が竦む。感度が異様に高まっている自分の身体に困惑し、羞恥で死んでしまいそうだった。
 堪らなく気持ちよくて、涙で視界が霞んだ。下腹がじんじんと痺れたようになっていて、傑の所為で腰が勝手に動く度にごり、と硬い感触が傑の太腿に触れた。
「ひ、ッあ……♡すぐる、おねが、ッやめ゛ッ♡あッ♡」
 有り得ない。こんな、同性の親友に乳首を吸われて下半身を反応させているなんて。悪夢だ。本当に悪夢なら醒めて欲しいのに、醒めるどころか不意に乳首の奥から何かが競り上がって来るような奇妙な感覚が走ってギョッとする。
「傑、ッ待、っあ゛っ♡離せ、離、」
「どうしたの?」
 焦りを含んだ声に流石に傑が疑問を投げ掛けた。涼しい目元をしたままで、余裕など一切ない悟の顔を見上げている。唇が、彼の唾液で濡れて光る。目を合わせるのに耐えられない。悟は目を逸らした。
 どうしたもこうしたもオマエの方こそどうしたんだよと思い切りツッコミを入れてやりたいのにそれどころではなく、何か出そうな感覚は更に如実に切実に、悟を追い詰めていく。
 だめだと直感が告げる。傑にこれ以上触られるのも、勿論口に含まれるのもだめだ。何かが壊れてしまう。
「わ、分かんねえけど、……な、なんか、出そう……乳首、から」
「……へえ? そう」
 だからやめろと言ったつもりなのに、傑は何を思ったのかにやりと人の悪い笑みを浮かべた。嫌な予感に固まる間に、傑の唇が再び悟の硬く尖った乳首を食んだ。ビリ、と電流のような快感が背筋を震わせる。
「あ゛ッ!? はぁ゛♡やめ、ッあ゛ッ♡」
 ぐり、と片側を強めに指で押し潰されながら反対側は舌先に鋭く吸い上げられて、頭の中が真っ白に染まった。
「すぐ、……ッあ゛~~~~……ッ♡はぁ゛……っ♡♡♡」
 びゅる、と乳首の先から何かが迸る。しかも一度では止まらずに、びゅく♡びゅくく♡と左の乳首から弧を描いて飛んで床を濡らす。右から出たのは、傑の口の中へと注ぎ込まれている。訳が分からないまま、視界に乳首から迸り出る白い液体が映る。
 あまりにも現実味がない光景と、その自分の身体から出た得体の知れないものを傑が何の抵抗も示さず飲んでいるという事実とに失神しそうになった。
 何なんだこれは。乳首から出る白い液体なんて、……まるで母乳みたいじゃないか。そんなものが出る筈がないのに。
「ふあ゛……ッ♡すぐる、それ、飲むな……、馬鹿、」
 パニックと恐怖が頭の中をぐるぐる回る。なのに恐いのと同じくらい気持ちいい。気持ちいいのが恐い。身体が言うことを聞かなくて、傑の方に乳首を押し付けるように胸を突き出しながら、腰も勝手に動く。勃起が傑の太腿に擦れる度に、ビク♡と身体が跳ねた。
「……ほんとに出たんだね。これ、そういう呪いなのかな。変わってる」
 ようやく母乳が出なくなって傑が乳首から唇を離した。普通、男の親友の乳首から母乳が出るところなんて気持ち悪い以外のなにものでもないのに、傑は平然としている。いや普通は男の乳首から母乳なんて出ない。
 謎のボケツッコミを内心でかましつつ、何で傑はこんなに冷静なんだと思う。頭のネジがぶっ飛んでいる、と自分を差し置いてそう評価せざるを得ない。
「ッあ……♡」
 悟は力が抜けて、傑の方へ身をもたせ掛けたまま震えることしか出来ない。傑が離してくれたらいいのにと思う。太腿が邪魔で、座り込むことも出来ない。それに太腿に当たって、身体の奥でじくじくと燻る熱が、まだ治まらない。
「ねえ悟、」
 口の端から少し零れ落ちた白い液体を指先で拭いながら、傑が静かに名を呼んだ。びく、と身が震えるが、悟は顔を背けたまま返事をしなかった。
 もう嫌だと思った。傑にこんなことをさせて、しかも勃起していて、泣いてしまいそうだ。
「まだそのままにしててね」
 傑が悟の前でしゃがみ込む。丁度、制服の布地を押し上げているものの正面に傑の顔が来るような高さに――。
「すぐる、」
 慌てて逃げようとする悟の腰を、驚く程強引に傑が掴んだ。押さえ込まれて、低い声で「逃げないで」と囁かれながら制服の上から硬くなったものを焦らすように撫でられて、また身体から力が抜ける。
「や、やめ……っ♡」
「いいから。このままだと辛いだろ。私の所為でもあるし」
 カチャカチャと、ベルトの金具を外す金属音が低い位置から聞こえる。
 また、言いくるめられてしまいそうになっている。傑の所為でこんなことになっている、のだろうか。そうかも知れないと納得しかけるが、そもそも自分が呪霊の体液を浴びてしまったからで、傑は関係ない、筈だ。その筈なのに、
「あ゛……ッ!」
 前を手早く寛げられて、先走り汁が大きな染みを作っている下着の中にまで手を入れられると手に勃起が触れてビクリと震える。無意識に腰が逃げを打つが、尻が思い切り背後の壁にぶつかっただけだった。下着をずらされ、反り返ったものがぶるんと飛び出す。既にほぼ最大まで勃起して、先走り汁が露出した亀頭を濡らしていた。
「可哀想に、悟。ずっと触って欲しかったんだね」
「ちが、ッあ゛……ッ♡」
 傑の大きな手で竿を扱き上げられて、眩暈がするような快感に喉が仰け反った。しゅっしゅっ♡と少し強めに擦られる度、透明な汁がどんどん表面を濡らしていく。零れ落ちそうになっているそれを指に絡め取られて、先端の窪んだ場所を抉られる。甘く痺れるような感覚が、腰の奥をぐずぐず蕩かせた。
「すぐ、る……♡も、やあ゛ッ、らめ゛♡ひあ、あ……ッ♡」
 思わず傑の髪を掴むと、後ろで引っ詰められた黒髪がくしゃりと乱れた。思ったよりもさらさらとした手触りに、ついもっと触れたくなって髪の間に指を差し込む。自分でも何をしているんだと呆れた。手を離そうとすると、敏感な場所を容赦なく暴くようにぐちゅりと爪先をめり込まされて、びくびくびく♡と腰が震えた。
「あ゛♡やら♡傑……ッ、だ、だめ、あ゛ッ♡」
 どっと溢れた先走り汁が傑の指を汚し、竿を伝ってぼたぼたと床にも垂れ落ちる。手を離そうとしていた筈が、また傑の頭をぎゅうと掴んでいる。
「だめ? こんなにとろとろにしておいて?」
 くす、と人の悪い顔で傑が笑う。頬に血が集まった。切れ長の目で悟を見上げながら勃起に顔を近付けて、――おもむろに、それの先端をべろ、と舐めた。
 途端、ぞわわっと肌が粟立った。ビク、と肩が跳ねて、信じられない傑の行動に目を見開いた。
「何、して、ッあ゛ッ♡ひあ、あ゛っ!?」
 さっきまで指で犯されていた場所を、濡れた舌が這う。ぬろ、と赤くなった亀頭を舐められ、ビクビクと腰が震える。小さな鈴口を尖らせた舌先に抉られれば、そこからとろとろと蜜が溢れ出て来る。指とは違う濡れた柔らかい感触が、細い神経を一本一本全部溶かすみたいに敏感な場所から身体中に広がっていく。
「すぐりゅ……ッ♡も、離せ、汚い、から、ッあ゛っ♡」
 舌に先走り汁を掬い取られ、性器を支え持つ片手の指に掬い取られる。汚くないよ、と傑が言って、あろうことか舐めるだけでは飽き足らず口の中に迎え入れてしまった。
「ッ!? はあ゛……っ♡♡♡」
 温かな口内が性器を包み込み、快感が背筋をビリビリと震わせた。
 何でそんなことをと思っている間に、今度は先走り汁で濡れた指が身体の後ろに回されて、尻の割れ目に指を差し入れられてしまった。
「や゛……ッ♡なに、ッあ゛っ♡うあ、あ、あ゛ッ♡」
 排泄する場所から指をぬぷりと突っ込まれる異物感に眉根が寄る。気持ち悪い。嫌だ。なのに咥えられた前をじゅるじゅると吸い上げられると腰から下が溶けてなくなってしまいそうな程の快感に襲われる。
 頭の中はひたすらパニックで、何で、という疑問だけがぐるぐると何度も何度も渦巻いている。だって、おかしい。傑とは親友なのに、こんなことおかしい。
「ひあ、あ゛♡だめ♡しゅぐる、ッあ、あ゛っ♡」
 ぬぶ、と更に指を奥へ突っ込まれて、指から逃れるように傑の髪を掴んだまま思わず腰を前に突き出した。そうすると更に深く咥えられてしまって先端が喉奥に当たる気配があった。
 あ、これ、気持ちいい……♡♡♡
 恍惚の表情で喉を仰け反らせながら、何故か後ろがきゅうと指を締め付けた。
 ビクビクビク♡と身体をしならせながら、両方の乳首がまたむず痒くなる。何かを考えるよりも先に手が勝手に動いて、両手の指を乳首に伸ばした。つんと勃ったままだった突起を摘まみ、転がし、押し潰す。じわ、と母乳が滲んで、指先が湿った。
「っう、あ……っ♡はひ、あ゛ッ♡」
 竿を舐められ、先端を舐られ、びゅく♡と先走り汁が飛ぶ。いつの間にか指を根元まで突っ込まれていて、後ろの狭い場所でぐねぐねと動く傑の指が気持ち悪い筈なのに、粘膜を指に擦られる感覚に身体の奥が鈍く疼く。
 傑の指が入ってると思うと、ぞわぞわする。嫌というのではなく、むしろ逆に、心臓がどくどく鳴って、血が耳の奥で騒いで、下腹がじんと痺れるような――。
 そう認識した途端、異物感しかなかったそこがどういう訳か気持ちよくなる。ぶわりと肌が粟立った。
「す、すぐる、……っひあ♡あ゛、あッ♡だめ、」
 前も後ろもぐずぐずに蕩かされて、壁と傑とに挟まれて逃げられない。乳首が疼いて気持ちよくて、じんじんする。自分でそこを押し潰しながら、ビク♡ビク♡と腰が痙攣した。
「ッあ、あ゛……ッ♡も、らめ♡あ゛ッん、あ、あッ♡」
 じゅぷ♡じゅる♡ぬぷ♡ぬぽ♡ぐぷ♡
 卑猥な音をさせて吸われ、指で中を攪拌され、射精直前のあの甘く痺れるような快感が、背筋を脳天までせり上がって来る。
「すぐる♡あ゛ッ♡っも、だめ、イ、イく♡」
 口を離せという意味で言ったのに、傑は余計にきつく先端を吸い上げた。伏せられていた切れ長の目が、不意に悟の反応を確かめるようにこちらを見上げる。目が合うと、心臓が止まりそうになった。
「ッあ゛あ……ッ♡」
 頭が空っぽになるような凄まじい快感が脳を真っ白に塗り潰した。
 びゅる♡びゅっ♡びゅっ♡びゅくく♡
 精液と母乳が同時に飛ぶ。弧を描いて飛んだ母乳は床に飛び散り、傑の口の中に思い切り欲をぶちまけてしまう。傑はそれを吐き出すどころか、喉を鳴らして飲んでいる。やめろと言って力ずくで引き離したいのに、腰を掴まれて身動きが取れない。そもそも、身体に力も入らない。
「も、飲むなぁ゛……ッ♡すぐる、の、ばか♡あひ、あ、あ゛っ♡」
 ぼろ、と目尻から涙が零れ落ちた。拭うこともせず、放心したようにイき続ける。ようやく全部出し切って、傑が全部飲んで口を離す頃には悟は今度こそずるずると壁伝いに座り込んでしまった。ぬぽ♡と音をさせて、傑の指が中から抜け出るのさえ身体にむず痒いような快感が走る。
 はー♡はー♡と荒い息を吐きながら、目線の高さが同じになってしまった所為で、傑とまた目が合う。
「悟、」
「う、あ……ッ、なんで、さいあく……」
 伸ばされた手を力なく振り払って俯いた。泣き顔を見られたくない。
 さいあく、は自分のことだ。親友の前でこんな醜態を晒して、親友にこんなことをさせてしまった自分が最悪だと思った。だから、「悟、すまない」と謝られて、悟は目を瞬かせた。
 何で傑が謝るのか。むしろこっちが謝るべきだ。思わず顔を上げると、傑の目は心配そうに自分を見ていた。
「……恐かった? もう、しないから」
 ああそうかと急に納得した。
 こいつはこういう奴だった。真面目で考え過ぎで割と何でもかんでも自分が悪いと思い込む。要するに根暗だ。
 傑が根暗なのは今更なのでどうでもいいが、見られたくない場面を見られて有り得ないことまでされたのに嫌われてはいなかったらしいということにホッとした。ホッとしたら更に涙が溢れて来そうで、悟は慌ててまた目を伏せた。
「も、オマエ帰れ」
「え? でも、」
「い、いから……ちょっと一人にさせろ」
 頭に触れた傑の手を、今度はバシッと力強く払いのけた。拒絶するかのように。傑が黙り込み、気まずい沈黙が教室内に漂う。
「悟……ごめん」
 小さく謝って、傑が立ち上がる気配がする。だから何でオマエが謝るんだよ、と思いながら悟は顔を伏せたままで固まっていた。傑が教室から出て行って、一人きりになる。
 なんで、とまたさっきから何回脳内で繰り返したか分からない疑問がループする。しかしその疑問は、何でこんなことするんだ、というさっきまでのとは違う。
 ……なんで、あいつ勃ってたんだよ。
 ずく、と身体の奥が、熱を孕んだように疼く気がした。

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