2

 天気がいい。十月にしては少し暑いくらいかも知れない。
 大学の構内に併設されたカフェテリア。天気に誘われて何となく屋外のテラス席に陣取ってみたが、長くいると暑くなってきそうだ。丸いテーブルの中央からパラソルが伸びて陰になっているとはいえ、さっさとパフェを食って帰ろうかと思う。この後は、今日は授業がない。暇だ。唯一の遊び相手だった親友は学生兼起業家なのでいつも忙しそうだし。というか親友とどういう態度で接すればいいのか分からないし。
 直射日光が肌を焼くのを嫌がる女生徒達が早足で大学の敷地内の広い庭を横切る。先程の講義の内容についてをやかましく議論しながら、真面目な男子生徒達が次の講義に向かっている。パフェ用の長いスプーンを容器に突っ込みながら何となく彼らを眺めていると、たまに、いや割と頻繁にサングラス越しに目が合う。そして目が合った者は、すぐに目を逸らす。顔を赤らめる者、あ、やべ、という表情をする者、見ていなかったふりをする者、反応は様々だが、もう慣れた。
 昔から、この容姿は人をギョッとさせると同時に惹き付けるらしい。顔の造形が奇跡だとかなんとか、たまによく分からないし別に嬉しくもない絶賛をされる。そして勝手に容姿の通り中身もいいのだと期待して近寄って来て、期待と全然違う人格だからと愛想を尽かして、皆離れていく。皆――小学生の時も中学生の時も高校生の時も、友達なんかいなかった。別にそれでもよかった。でも、大学に入って友達が初めて出来た。そいつは親友になった。生まれて初めての、そして多分、一生に一度の。
 ……傑、今何してんだろ。とぼんやり思いながら、何となくポケットから携帯を取り出す。操作して傑の連絡先を呼び出してはみるが、そこで手が止まる。……だって、傑に会ったら、あの会社の事務所で傑にされたことを思い出してしまう。会ってなくても思い出してしまうのに。……思い出したら多分身体が勝手に熱くなって、いや、現に今も、傑がこの場にいなくても記憶を呼び起こしているだけでドキドキして、あー駄目だ、と画面を暗くしたその時、悟の正面に誰かが立った。
「ここ、一緒にいい?」
 勿論、普段だったら断っている。他の席が空いてなかったから仕方なくだったとしても、関係ない。仲がいい訳でもない他人とスペースを共有するのは我慢がならない。だがその声には聞き覚えがある。聞き間違う筈もない親友の声だったから。
「すぐる、」
 目を上げれば、やっぱりそこには傑が立っている。黒いシャツも黒い緩めのサルエルパンツもトレンドを取り入れつつも真面目という印象の癖に、後ろで纏めた長髪と、耳に空いた大きなピアス穴の所為で、どうしても些か『悪い男』というイメージを抱かせる。その所為なのか、彼は女性によくモテた。一緒に街を歩いていて最初に注目されるのは悟の方だが、気付いたら傑の方が未成年や同年代の女性に告白されたり付き合いを迫られたり或いは年上の既婚から不倫を迫られたりなどしている。どれもこれも失礼にならないように丁寧に且つはっきりと断っているようだが。とんでもない女誑しで女泣かせだ。いや、人誑しで人泣かせかも知れない。
「だめだ」
 すかさず断る口調が拗ねた子供っぽくなってしまって恥ずかしい。傑は「そんな意地悪言わないでよ」と苦笑しながら、悟の拒否など意に介した様子はなくプラスチック製の椅子を引いてそこに腰掛けた。正面ではなく、斜め横の席に。彼は片手にアイスコーヒーの容器を持っている。思わずチッと舌打ちが漏れた。
 意地悪はどっちだよ、と思う。この前、普段と別人みたいに意地が悪かった癖に。傑に付き纏う女達があれを見たらどう思うのか。ドン引きじゃないのか。いや、逆に余計に恋心に火がつくのかも知れない。やだな、それ。この前みたいな顔、俺以外の奴に見せないで欲しい。
 だなんて、普通に考えれば意味不明だ。まるで醜い嫉妬と独占欲みたいで、それってつまり傑に恋してるみたいで、そんな訳はないのに何でそんなこと考えてんだよと混乱する。混乱していると、傑が頬杖をついてじっと悟を見つめながら口を開いた。
「ねえ悟、この後授業ないよね?」
「……ねえけど」
 傑とは同じ学部だし仲が良いので、悟の時間割を把握されていても不思議ではない。それに、確か今日、水曜は傑も同じようにこの後は授業が入ってなかった筈だ。――ということは、まさかまたバイトしろというのだろうか。それは、ちょっと無理だ。なんというか、心の準備が出来てない。いや身体の方もだ。
 かあ、と頬が熱くなる。
「っバ、バイトは、しねえからな!? またあんなの突っ込まれたらケツが裂けちまう!」
「裂ける? この前は随分馴染んで、よさそうだったのに」
 傑が面白そうにくすりと笑った。あの、少し意地の悪い顔で。その表情をされると、身体がこの前のことを勝手に思い出して体温が上がる。その事実を認めたくないから、気付いたら立ち上がって大声を出していた。
「んな訳ねえだろ馬鹿!」
「さとる、声大きいよ」
 特段慌てた風もなくのんびりと指摘されてハッと我に返る。周囲のテーブル席にいる学生達が、目を白黒させて悟の方を見ていた。じろ、と彼等に視線を向ければ慌てて俯くのも、いつものことだ。
「それと今日はあんなのは突っ込まないから、安心していいよ」
 座り直した悟に向けて傑が微笑む。別に心配してないし。恐くもないし。とは、流石に言い訳じみていて言えないから、ぶすっとしたまま目を逸らした。
 というか、バイトじゃねえのかよ。自分だけ傑とは全く別のことを考えていたのが猛烈に恥ずかしい。別の、いやらしいことを、考えて期待していたのが。気温の高さとは関係なく、額や脇に汗が滲んだ。
「じゃ、何の用だよ」
「用がなきゃ話し掛けちゃいけないの? 私達親友なのに」
 すす、と傑の人差し指が悟の下唇を撫でる。ぞわっとした。反射的にその手を振り払った。
「……や、めろよ」
 顔が赤いのを隠すように俯いて、ずれたサングラスの弦を元の位置に戻して目を隠した。冷たいなあ、と傑が笑う。
 どう考えてもさっきのは親友への触れ方ではない。いやそもそも、親友の尻に大人の玩具を突っ込む親友なんていない。……じゃ、俺と傑は今どういう関係なんだ。――どういうって、雇い主とバイトだ。自分で思い至ったその解答に、何故かずきりと胸が痛んだ。
「まあいいや。用ならあるよ。ねえ、映画見に行かない?」
「っえ?」
 映画。……ああ、映画。
 一瞬、言われたことを理解出来なくて反応が鈍くなった。傑は今話題になっているアクション映画の名前を口に出した。去年上映された一作目がブレイクして、今は前作のスピンオフ作品が上映中だ。
「さとる、去年一緒に見て面白かったって言ってたよね。だから今作も一緒に見ない?」
 傑がチケットを二枚取り出して、一枚をすいと悟の前へ滑らせる。今から予定はないし、大好きな親友と久しぶりに映画なんて、見たいに決まっている。我ながら呆れる程に単純だ。見る、と言ったつもりが、感極まってう、と口から変な声が出ただけだった。
「見る! すぐる好き!!」
 思わずがばりと傑に抱きついてしまって周囲からのギョッとしたような視線を集めてしまったし、傑の体温を感じた途端に心臓がどくんと跳ねて、抱きついた時と同じ勢いでがばっと素早く傑から離れた。
「あっ、……ごめ、」
「私も好きだよ、さとる」
 髪に優しく触れられる。そんなことをされると頬の赤みがいつまでも引かない。――また、親友に対する触れ方ではない。それに好きだなんて、……そういう意味じゃないことは分かっていても、そういう意味なのかと思ってしまう。嬉しくなってしまう。
「じゃあ、行こうか。トイレへ」
 傑はにこやかに言って、椅子から立ち上がった。きょとんと傑を見上げる。
「え? トイレ? ……俺は別に行きたくねえけど」
「何言ってるの。悟も一緒に来なくちゃ意味ないでしょ」
「……?」
 意味が、よく分からない。分からないまま、まあ長時間椅子に座っとくからトイレ行っとくか、と特に疑問に思わず傑について行って、後悔した。


「……なあ、何でオマエと俺、一緒の個室に入ってんだよ」
 自分の背後に陣取った傑を、首から上だけで振り返る。傑を挟んでその後ろがドアだ。つまり、出口を塞がれている。嫌な予感しかしない。  映画館へ行く前にトイレに寄る。それはまあいいかと思って傑について行ったが、何故かトイレの個室に押し込まれて、傑と共に狭い個室に立っている。長身の野郎二人で。はっきり言ってかなり狭い。
 くすっと傑が唇を歪めて笑った。あの、普段決して浮かべることのない悪い笑みだ。背筋がぞわっとした。悪寒、の所為ではない。もっと別の……熱を帯びるような、危うい感覚。
「悟って、やっぱり警戒心が足りないね」
「何、言って、」
「ねえ、私は悟の雇い主なんだよ。ただ大人しく映画見るだけで終わらないって、気付かなかった?」
 する、と傑の手が悟の下半身へ伸びる。ドク、と耳の奥で自分の鼓動がやけに大きく聞こえた。
「す、傑……!」
 ベルトを外され、ジッパーを下ろされる音が、いやに大きく耳に届く。カチャカチャ、ジーッ。寛げられた前から萎えた性器を取り出されてしまい、肌が粟立った。普段他人に見られることも触られることもない場所を傑の目に晒して触られている。心臓の音がさっきから煩い。
「や……っ、さっきは、今日はしないって、」
「うん? 前みたいなバイブは挿れないって言っただけで、何もしないとは言ってないよ」
 しれっと悪びれもせず、傑がそんな台詞を吐く。目の前が真っ暗になるような絶望感と、甘く恋い焦がれるような期待とに、同時に襲われる。嫌、と身を捩れば、性器を握り混んだ傑の手に、緩く上下に扱かれた。ビク♡と簡単に反応する己の身体に嫌気が差す。
「う、嘘つき! さいあく……! ッあ゛……っ♡」
「何言ってるの、悟。嘘は言ってないし、私は悟のコーヒーに薬入れちゃうような男だよ。疑わずについて来た悟が悪い」
 そうだった。傑はそういう奴だ。善人の仮面を被っているが、本性は冷徹な策士で、ドSだ。
 抵抗したいのに、しこしこと性器を扱かれると力が入らない。忽ちそこが硬く張り詰め、ひくっ♡ひくっ♡と震えながら蜜を鈴口に滲ませ始めた。
「っひう♡あ、あ゛っ! やだ♡」
「いい子にしてて、悟」
 耳元で囁く傑の声が、暴れる意思も抵抗する気力も奪う。
 駄目だ。抗えない。逆らえないまま、ずぽ、と性器に何かを被せられてしまった。透明な、筒のようなもの。温かい海の中のような不思議な感触に性器が包まれている。
「や♡何……っ!?」
 しー、と悟の耳元で囁きながら、傑がかちかちとリモコンを操作する。ヴヴヴ……と静かなモーター音と共に、筒が小さく震え始める。この前使われたバイブよりも、遙かに音が小さい。注意して聞いていなければ聞き漏らす程度の音量だ。だが音は小さくても、快楽を得る為に作られた玩具だ。小刻みに、神経の一本一本をじっくり嬲って炙られるような感覚に追い込まれて、性器は確実に快感を拾う。特に敏感なカリより上の部分を不思議な感触に擦られると、あっという間に性器が完勃ちし、身体から力が抜けた。
「ッあ……っ♡」
「静音タイプのオナホールで、細かく震えて振動する。オナホールは、オナホって略されることも多いね」
 くた、と傑の方へ身をもたせかけるようにすれば、後ろから傑が悟の身体を支えながら低くて心地の良い声で玩具の解説をする。だから、どう考えてもそんな知識要らない。いや、ある意味これは親切なのだろうか。自分を責め苛んでいる物の正体を、開発者自らが詳しく教えてくれるというのは。
「特にここ、カリと、亀頭」
 ここ、と言いながら、つつつ、と傑が指先をオナホール越しに滑らせて、亀頭をくりくりと撫でる。振動がダイレクトに伝わって、悟は甘いのに焼け付くような鋭い官能にビクン♡と身を震わせた。先走り汁がピンク亀頭の表面に滲むのが、玩具が透明な所為で傑にもバレバレだ。
「あ゛ッ♡やあ、あ゛っ♡すぐ、」
「この部分を重点的に刺激する。ここが一番気持ちいい場所だからね」
 傑が喋る度に、息が耳に掛かる。耳なんて、傑の声なんて、今までどうとも思っていなかった筈なのに、この前から変だ。傑が耳の傍で何か言う度、身体の温度が上がる気がする。暑くて、熱くて、下腹がじんじんと疼く。
「勿論、自分で動かしてもいい」
 オナホールの竿の部分を掴み、傑が上下に動かした。中に予めローションが入っているのか、ぐぷ♡ぐちょ♡と濡れた音が個室に響いた。未知の感触が竿を擦り上げるのは、抗い難い程に気持ちいい。もっととねだるみたいに腰を前に突き出せば、先走り汁がどんどん溢れてローションと混ざる。
「んあ、あ゛っ♡らめ♡あ゛ッ♡♡♡」
「次は後ろね」
「はあ……ッ!?」
 眉をひそめて振り返ろうとした時、ちゅぷ♡と傑の指が後孔に差し込まれた。濡れた指は思いのほかすんなりと悟の内側に入ってしまって、追い出したくても中を解すようにぐぷぐぷと動いてびくびくびく♡と腰が跳ねる。前からの刺激の所為で、後ろまで緩くなっているかのように。
「待っ、あっ♡だ、だめ、」
「ほら、だめじゃないよ。悟の穴、ローターくらいならすぐ挿っちゃうから」
 指が出て行き、言葉通り小さな丸い物体がそこに押し込まれるのが分かった。つるりとした表面の、前に乳首を虐めていたあの玩具が。嫌がるどころか丸型のそれを迎え入れるように襞が絡んで、きゅんと吸い付く。ぶるぶると震え始めたそれから伸びているコードとリモコンを、傑が不織布テープで太股の付け根に固定した。手際が良過ぎる。最初からこのつもりだったことがよく分かる。
「は、あッ♡あ゛っ♡やらあ……ッ♡」
 前も後ろも玩具に挟まれたまま、再びズボンを履かされる。身体を反転させられて、ずれたサングラスを外される。何でそんなことをと思っていると、目尻に浮いていた涙を傑の指で拭われた。泣いているのがバレていたらしい。最悪だ。指で触れられた場所が熱を帯びる。ビク、と身を竦ませれば、傑に腕を取られた。
「大丈夫。泣かないで。ほら行こうか」
「っえ……?」
 行くって、何処へ。続き、してくれないのか。
 ぼんやりとこの行為の継続を望んでいることの、異常性にももはや気付かない。傑は無情にも、個室の鍵を開けた。
「映画、見るんだろ」
「は……? い、いや、無理、無理だって、すぐる、あ゛ッ♡」
 手を引かれて少し歩いただけで、ぐりゅっとローターが中の粘膜を擦った。ビクンッ♡と身体が跳ねて、思わず立ち止まる。前も勃ったままで、絶えず甘い官能を与えて来るオナホールが、じわじわと身を焼いているようだった。……こんな状態で映画なんて、無理だ。
「そのオナホの音、殆ど聞こえないし、貫通式じゃないから、映画の途中でイッても大丈夫だよ。薄型だから今みたいに下着の中にも収まるしね」
 頬を撫でながら傑が安心させるような声音で言うが、全然安心できないしそういう問題じゃない。でもドSな策士が予定を変更する気なんて毛頭なくて、――傑に籠絡されて、身体も心も絡め取られていく。
 没収されてしまったサングラスを返せと言うことも出来ず、玩具の所為で傑を振り切ることも出来ず、逆らえなかった。


「……っう、……んく♡う、……ッ、」
 尻の中に入り込んだ異物が、じわじわとろ火で肌を炙るみたいに弱い振動を内側に伝える。すっかり蕩かされ、柔らかくなった粘膜が表面のつるりとしたローターに擦られ、嬲られ、奥がじんじんする。さっき性器に被せられたオナホールが静かに震えながら、前まで責め苛む。勿論、隣に傑が座っていて逃げられる状況ではない。例え逃げたとして、走るどころかまともに歩くのも難しい。退路を断たれる、とはこのことだろう。  イく程の刺激ではない。だがそれが厄介だ。甘く、弱く、いつまでも続く官能が腰を震わせ、時折声が漏れてしまう。生かさず殺さず、生殺し。当然映画になど集中出来ない。
 幸い、というか傑の計算通り、機械の振動音は映画の音に掻き消されて全くと言っていい程聞こえない。自分の声も、平日の昼過ぎの時間帯で、一番後ろの端のこの席の周囲に客が座っていないお陰で、他人にバレる危険は少ないだろう。でも絶対バレないという保証はない。
 こんな場所でイッてしまったら……と想像して、ぞわっと鳥肌が立った。怖気が走る。熱に浮かされたように身体が熱いにも関わらず。ここで玩具に絶頂させられるのは、しかも周囲にバレるのは、社会的に死ぬ。
「っん……♡あ、う……ッ、」
 ぶる、とオナホが搾り取るような動きをして、ビクッ♡と椅子の上で腰が跳ねた。ぎ、と椅子が軋んだ。先走り汁が出ているのが自分でも分かる。それが下着を濡らすのではなく玩具に吸い取られているのがなんだか奇妙な感覚だった。
「悟、食べないの? いつも映画を見る時はポップコーン大盛りで買って食べてるのに」
 すいと隣の席から傑がポップコーンの容器を差し出すが、食事など出来る状況ではない。勿論、傑もそれを分かっていてやっている。スクリーンから発せられる光に微かに照らされる表情が、愉しそうだ。目がらんらんと輝いている。小さな子供が玩具に夢中になるように。……俺は、傑のオモチャか。
 傑のオモチャ、という自分で考えたフレーズに、ぞわっとした。傑に手慰みに弄ばれて可愛がられるだけの、オモチャ。酷くされればされる程、悦んで傑に身を差し出す。その想像は毒だ。酷く甘い果実のような毒が体内を蝕むように、脳内を侵す。慌てて、妄想を振り払った。  悟は恨みがましい目を傑に向ける。傑は悟の視線など意に介した様子はなく、ポップコーンの容器を椅子の手すりに取り付けられた専用の差し込み口にずぽっと突っ込んでいる。
「ほら。悟も食べて」
「……っうる、さい……ちょっと黙、ひ!?」
 急に前にぴたりと吸い付いているオナホの振動が強くなって、敏感な亀頭を玩具にぐりぐりと捏ね回される。思わず大きな声が出てしまい慌てて口を押さえるが、振動が止まらず、気持ちいい場所への甘く蕩けるような悦楽に、悟は椅子の背もたれに身をもたせ掛けたまま為す術なくびくびくびく♡と腰を震わせた。
「や……♡も、やめ、っあ、あ……ッ♡」
 傑の手がかちかちとリモコンを操作する。ウインウインと悟にだけ聞こえる不気味な音を響かせて、オナホがカリから上の特に敏感な部分ばかり執拗に責め苛む。声を抑えられない。声を殺そうと唇を噛んでも、その瞬間に官能に襲われて噛み締めた傍から綻ぶ。気持ちよくなっている場合ではないのに、傑に弄ばれて、身体から力が抜ける一方だ。
「すぐ、る……っ♡も、それやめ、」
 震えながら身を乗り出し、傑の手からリモコンを奪おうとする。傑が主導権をこちらに引き渡す筈がない。頭で分かっていても、とにかく振動を止めて欲しくて必死だった。
「だめだよ、さとる」
 案の定、傑はするっと悟の手を躱してリモコンを遠ざけてしまう。それどころか、逆に悟の方へ顔を寄せ、耳元で低い声で「悪い子だねえ」なんて囁いた。ただでさえ感度が鋭くなっているところに耳を甘い声で擽られて、ぞくぞくと身体が痺れた。
「あ、……っすぐる待って、お願い、」
「だめ。お仕置きだよ」
 傑が口端を笑みの形に歪めてリモコンを操作する。ヴヴ、と不吉な音と共に、カリの括れを擦られ亀頭を指で捏ねられているような感覚が強くなる。剥き出しになった敏感な場所を火で炙られるみたいな強烈な快感に、思わず喉が仰け反る。
「あ゛ッ……♡や、やら゛……っ♡♡♡そ、それ、だめ、」
 必死で限界まで声を落としながらいやいやと首を横に振る。性器の先端が燃えているように熱く、耳の奥で血がどくどく騒いだ。目に涙が浮かぶ。縋り付くようにして傑の腕にしがみつくが、傑は無情にもゆるりと微笑んだままで、リモコンをもう一つ取り出した。
「悦さそうだから、後ろも虐めてあげるよ」
「っあ゛……っ!?♡」
 腫れた前立腺をぶるぶる震えるローターに擦られ、理性が溶ける。下腹部が熱い。前も後ろも、身体の中も外も、全部熱い。どこもかしこも熱い。手の平に汗が滲んで、掴んだ傑のシャツの腕の部分を湿らせる。汗で前髪が額に貼り付いた。
「す、ぐる……っ♡も、や……♡つ、つよく、しないでぇ♡」
「もしかして、イきそう? 悟はやっぱり悪い子だねえ。こんな場所で玩具で気持ちよくなってるなんて。恥ずかしくないの? そんな顔晒して」
「……う、」
 傑の長い指先に顎を捉えられて、潤んで蕩けた目を間近で覗き込まれた。羞恥を煽られ、かあっと頬に血が集まった。顔が近いとドキドキする。キスされる、と思わず身を固くするが、傑の唇が悟の唇と触れることはなく傑が身体を離した。それを残念に思っていることには、気付かないふりをする他ない。
 こんな場所で玩具を使われて気持ちよくなっていることが恥ずかしいのに、恥ずかしいのを傑に見られているのが気持ちいい。いや、違う。恥ずかしい。傑に見られて気持ちよくて更に感度が上がっているなんて、――見られて、興奮しているのだろうか。
「……すぐる♡や♡もう、待って無理、」
 見られるのがきもちいい、と意識した途端に、快感がぶわりと競り上がって来て混乱した。イく、というかイきたい。イく準備をするかのように、無意識に足を椅子に座ったまま限界まで広げて腰を前に突き出した。映画館に入るまでは勃起しているのを隠すのに必死だったが、今や隠す必要もない前が張って、ジーパンの生地を押し上げている。
「は、っあ、あ……♡♡♡」
 もはや射精して気持ちよくなることしか考えられなくて、その快感を想像して口内に唾が沸く。イきたい。公共の場にいることも、傑が見ていることも、もはやどうでもよかった。脳味噌の理性を司る部分が役割を放棄して、欲望のままにここで射精することしか考えられない。  のに、イきそうな絶妙のタイミングを推し量ったかのように傑が玩具の振動を弱めてしまった。しゅう、と空気の抜けた風船が萎むみたいに射精への期待感も沈む。混乱と、そこまで出かかっていたものに蓋をされたかのような生殺しの感覚に眉根が寄った。まるで空腹の犬が、餌をお預けにされているかのようだった。
「や……っ、な、んで、……すぐる、」
「イきたい?」
「う、ん……♡」
 溶かされた理性には、傑の提案を阻むという選択肢がもはやない。素直にこくりと頷けば、傑は意地悪く微笑みながらまた悟の顎を掴んだ。至近距離で、優しく、だが決して有無を言わさぬ口調で、要求を突き付ける。「じゃあ、賢い悟ならどうすればいいか分かるだろ?」
「っえ……?」
「バイト代、欲しくないの?」
 傑が何を言っているのか分からなくてぼんやりと訊き返せば、鋭い質問が返って来る。一拍遅れて理解した。――つまり、ここで玩具の使用感をモニターしろと言うのだ。映画館の中で、恥ずかしい言葉を言う。出来る訳がない。
「む、無理……っあ♡あ、」
 真っ赤な顔でぷるぷると首を横に振れば、唾液で濡れた唇につつ、と指を這わされる。ぞくぞくした。キスして欲しい、と思った。言える訳がない。
「無理? じゃあバイト代も無しだよ?」
 ねえいいのと追い打ちを掛けるように訊かれ、追い込まれ、モニターする以外に選択の余地がない。だって、金は必要だ。そう、金が要るから仕方なくやっているだけだ。決して傑に強要されたから、イきたいから恥ずかしいことを言う訳じゃない。全ては金の為だ。
 自分に言い聞かせながら、震える唇を開いた。
「あ、……ッう、後ろ、の穴、のなか、」
「アナルね」
 傑が子供に教えるような優しい声で全然子供に教えるべきではない不健全な単語を悟に教えながら身を起こし、さあ言ってと無言で促して来る。ひくん、と名前を教えられた場所が疼くような心地がした。
「……あ、アナル、の、ローター……が、」
「うん」
「ぜ、前立腺、ごりごり擦って……、き、きもちい、」
「こういう風に?」
 かち、と傑がリモコンのボタンを押すと、蕩けた中の粘膜をローターがヴヴヴと震えながら何度も小刻みに擦って往復する。待てを言い渡されていた犬が餌に飛び付くように、好きな場所に当たるように淫蕩に腰が蠢く。こりこりに膨れた前立腺を刺激され、ビクッ♡ビクッ♡と腰が痙攣を繰り返した。
「あ♡♡あ、あ゛ッ♡あう、」
「悟、モニター続けないとバイト代払えないよ? ほら、こっちはどうなの?」
 こっち、と傑の手がズボンの上からぱんぱんに腫れた股間に添えられる。傑の手に擦り付けるようにうねうねと腰が動くが、傑はすっとそこから手を離してしまう。
 餌を、貰う為には玩具のモニターをしなければならないようだと、次第に身体に刷り込まれていく。そう、この世はギブアンドテイクで成り立っている。等価交換。欲しい物を得るには金が必要だ。快感を得る為には、恥ずかしい言葉でモニターするのが必要だ。
「う、あ……ッ♡……オナホ、に、ち、ちんこの、」
「ちんぽって呼ぼうか」
「……ちんぽの、」
 恥ずかしいことを言わされると淫らな気分に拍車が掛かる。そうなってしまった。死んでもそんなことを認めたくないのに、傑に教えられた通りにちんぽと口に出すと腰の奥が疼いて脳が溶ける。言いなりになるのを身体が悦ぶ。最悪だ。
「ちんぽの先っぽの、きもちいとこ、ぐりぐりってされるの、すき……♡あ、っん♡あ、あっ……♡」
 傑がリモコンを弄る。先っぽの敏感な場所に柔らかい素材のオナホが吸い付き、ヴヴと震えて快感を与える。甘く蕩けるような感覚が走り抜けて、恥ずかしい声が口から漏れる。
「ひ♡あ゛っ♡あ゛んッ♡♡♡ぶるぶる、きもちいい♡すき♡」
 ――覚えてはいけないことを、覚え込まされている。いつ他人にバレるとも知れぬ場所での羞恥プレイとか、恥ずかしいことを言わされるとか、自分一人で処理するよりも興奮することとか、諸々。普通に生きていく上で全く必要のないことを、どんどん覚えさせられている。
 傑の所為で、今まで知らなかったことを知ってしまう。知ったら、そればかり追い求めてしまいそうで、恐い。
「素直でいい子だね」
 頭を撫でられ、とろりと目が潤む。これでイけると、背もたれにもたれ掛かった背中が半分ずり落ちるような形になりながら腰を前に突き出した。と、傑の手が悟の下半身に伸びて、ベルトに触れる。金属のかちゃかちゃという音が、いやに耳に響いた。
「な、何して、――っ傑、」
 前を寛げられて、下着に手を突っ込まれる。止める間もなく、オナホに覆われたままの性器を外に引っ張り出されてしまった。ぶるりと震えながら勃ったまま、透明なオナホの先端部分にローションと先走り汁が混ざってぐちゃぐちゃになっているのまで薄闇に慣れた目には容易に視認出来る。流石に、映画館の中でこんなものを出しているのは有り得ない。常識外れなことばかり平気でしでかしている悟だが、これはいくら何でも御法度だ。社会的に死ぬ未来予想図が、頭の中に描かれる。
「傑やめ、っやだ、」
「ご褒美だよ」
「待ってすぐ、――っひ♡あ、あ゛あ、あ……ッ♡」
 ぐちゅ♡ぬちゅ♡とくぐもった水音をさせてオナホごと扱かれ、ビクンビクンと身が仰け反った。オナホの振動がよりダイレクトに伝わって、恍惚に目の奥で火花が散る。さっきまで先端部分だけだった刺激が、今や傑に扱かれて性器全体に伝わっている。びくびく動く度にローターがぐりぐりと前立腺を擦って、もはや前も後ろも気持ちよくて収拾がつかない。イきそうだ。震える手で傑の手を掴み、弱々しく首を横に振る。
「す、すぐる……♡だ、だめ、も、イきそ、あ゛っ♡だめ、」
「イきたかったんでしょ?」
 ゆるりと小首を傾げながら訊かれ、俯いてぷるぷると頭を振った。そうだけど、そうじゃない。ここでイくのはマズい。
「正気に戻っちゃった?」
 苦笑混じりに言いながら、傑が親指をぐっと亀頭に強く押し付ける。ヴヴ……♡と小刻みに震えるオナホごと、指に敏感な場所をぐりゅぐりゅと押し潰され、腰が浮く。先端に溜まった自分の先走り汁とローションが、冷たくて酷く気持ち悪いのに、傑の指にそこを虐められるのは虜になってしまいそうだった。
「や゛……♡♡♡も、だめ♡イっちゃ、」
「イッてよ、さとる。正気になんて戻らないで。こんな場所で気持ちよくなってるとこ、私に見せて」
「ッあ……っ♡」
 耳元で囁かれながらトドメとばかりにぐちゅん♡と先端の小さな穴を指先で犯されて、身体も心もあっという間に陥落した。ビク♡ビク♡ビク♡と腰を痙攣させながら、どろどろの精液をどぴゅりと吐き出す。透明なオナホの中が一気に白く濁って、粘ついた白濁が性器の表面と玩具の内側を白く塗った。
「はあ♡あ、あ゛……ッ♡」
「上手にイけたね」
 間近で蕩けた顔を見られて、熱い頬を撫でられて、目尻に浮いた涙を指で拭われて――唇が近いのに、キスはしてくれない。ぼんやりと傑の顔を見つめたまま、スイッチを切られてしまって静止したローターが埋まったままの後ろが、ひくん♡ひくん♡と疼いていた。
「すぐる……♡」
「何?」
「…………う、しろ、」
「ん?」
 聞こえないというように傑が少し眉根を寄せる。映画の音が、煩い。そして、自分が言おうとしていることが、自分でも信じられない。  震える手で傑の腕をぎゅうと掴んで、傑の方へ身を寄せた。目を伏せて傑の顔を見ないようにしながら、さっきよりも少しだけ声を張り上げる。
「あ、アナル、……に、もっと、太いやつ、欲しい、」
 傑が驚いたようにえ、とだけ言うのが聞こえた。


「もっと太いやつ、ね」
 何処か感慨深げな調子で呟きながら、傑が先程指で拡げた後孔にバイブをねじ込む。ぐちゅん♡と濡れた音をさせて体内に入って来た太い異物の表面を覆った細かな突起が、柔らかくなった粘膜をごりごりと擦るのがあまりにも気持ちよくて、悟は挿れられただけで絶頂してしまった。
「っひ♡あ、あ゛ッ♡♡♡」
 びゅっ♡びゅる♡びゅっ♡びゅっ♡♡♡
 性器全体を覆っていた玩具がなくなり、遮る物が何もなくなった精液が勢いよく弧を描いて飛ぶ。飛んで、様式便器の蓋の裏側をびしゃびしゃと汚す。
「はあ、あ゛ッ♡バイブ、きもちいいい……♡せえし、止まんないい♡♡♡あんッ♡いっぱい出ちゃ♡ひあ、あッ♡♡♡」
 傑にしがみつきたかったが傑が自分の背後にいるから仕方なく、タンクを握って快感に耐える。いや、全然耐え切れていない。後ろに玩具を挿れられてすぐイくなんて、到底信じられない。それを言うなら映画館で傑にもっと太いのがいいなんてねだったのも信じられないが。どうかしている。傑の所為だ。
 太いのがいいとねだった後、傑はあっさりその願いを叶えてくれる気になったらしい。その結果、さっきのトイレの個室で、ローターとは比較にならないくらい太いバイブを後ろに突っ込まれて、即射精してしまった。後ろが――アナルが気持ちいいと、身体がもう完全に覚えてしまったみたいだった。
 実は傑の会社に行って初めてバイブを突っ込まれたあの日、あの後から、こっそり玩具を買って自分の後ろに挿れていた。当然、穴はどんどんバイブの形に馴染んで拡がって、悟は今やすっかり後ろの快感の虜だった。などと、傑に言える筈もないのだが。でも、映画館でバイブをねだった時点で、自分で拡げているのはバレたかも知れない。
「あは。バイブ挿れられただけでイッちゃうんだ? それ、トコロテンって言うんだよ。実際はちんぽ挿れられてイくことだけど、バイブもちんぽも似たような物だろ?」
 傑がおかしそうにくすくす笑う。
 そんなこと俺が知る訳ねえだろと思う。でも、傑にちんぽ突っ込まれたらどんな感じなんだろうと思う。似たようなもの、なのだろうか。ちんぽの方が気持ちいいんじゃないだろうか。だってバイブはバイブだけど、ちんぽは傑のだし。
 思考が、有り得ない方向に向かって暴走している。
 傑にちんぽ突っ込まれるって、それもうセックスじゃん。……傑とセックスしたらどんな感じなんだろう。太くて硬いのが、奥をごりごり擦る。それ、多分覚えちゃ駄目なやつだ。覚えたら非合法なドラッグみたいに、それ無しで生きられなくなる。傑のちんぽのことしか考えられなくなってしまう。……そうなってしまいたい、かも知れない。
「考え事? もしかして、ちんぽ挿れられるの想像した?」
「し、してな、ッあ゛ッ♡やめ゛♡うあ……ッ♡」
 バイブのスイッチを入れられたらしい。ヴヴヴ……と低く唸るような音を発しながら、機械が体内で暴れ始めた。表面を覆った突起がごつごつと内壁を擦りながら、身体の内側を蹂躙する。それをぐぷっ♡とねじ込まれ、膨れ上がった前立腺をごりゅごりゅと押し潰され、イッたばかりの身体がびくびく跳ねる。性器がまた硬くなって張り詰めて、とろとろと先走り汁を零し始めた。
「ッあ゛っ♡♡♡や、あ゛ッ♡太いの、奥、はいってくるう♡ああ゛ッ♡う♡前立腺、ごりごりされてう♡きもちい♡♡♡」
「偉いね。私がモニターしてって言わなくても、ちゃんと詳しく説明出来るなんて」
 思わず殆ど無意識に状況説明してしまったのをくすくすと傑に笑われた。猛烈に恥ずかしい。そして玩具の使用感を自ずと口に出すように、傑によって刷り込まれてしまっているのが恐ろしい。
「っあ゛ッ♡ち、ちが、っんひ♡あ、あッ♡あん゛ッ♡おく、らめえ゛っ♡♡」
 バイブの亀頭部分がぐぷぐぷと前立腺よりも更に奥へ侵入し、太いカリに擦られて息が詰まった。恐い。撹拌されてももはや痛みはないが、逆に痛くもなく受け入れてしまっていることが恐い。痛覚、というまともな感覚が消え失せて、代わりに全部快感に塗り替えられてしまったみたいだ。
「ほら、悟のアナルに、太いちんぽ入ってる。こんな太いちんぽにアナル犯されて、どんな気分?」
「っひ♡う♡♡♡やあ゛ッ♡ちんぽ、奥挿れちゃらめ♡♡♡ちんぽのことしか、考えられなく、なるう♡♡♡」
 ちんぽじゃねえよ、と反論したくて口を開いた筈が、およそ言おうとしていたこととかけ離れた内容の馬鹿みたいなことしか言えない。だって、傑が背に覆い被さるようにして後ろに埋まったバイブをぬぷぬぷと出し入れするから、中が火傷したようにどろどろで熱くて、傑のがそこに挿ってるみたいに錯覚する。
「なってるだろ、もう」
「や、あ゛あ、う♡ちんぽ、ずぽずぽしちゃやら゛♡ひ♡だめ♡も、またイッひゃう♡♡♡せーえき出ちゃうからあッ♡♡」
「また出ちゃうの? 私のちんぽで?」
「ッあ゛♡う、あっ♡すぐるの……♡すぐうの、ちんぽでイく……♡♡♡♡」
 傑が変なことを言う所為で、そこに傑のを受け入れているかのように錯覚してしまう。何故か傑に挿入されていると考えると感度が異様に増した。既にイきそうだった身体が、傑とセックスしてるという妄想によって限界を迎えた。
 びゅ♡♡♡びゅっ♡びゅっ♡♡♡
 白濁がまた飛んで、便座を汚す。目眩がした。映画館でイかされたのも合わせると三回目なのに、精液は濃くて粘り気があるままだ。
「あ、あ゛♡はひ♡きもちいい……♡♡♡」
「いっぱい出るね、さとる。さっきのだけでは物足りなかったんだ?」
 背後から傑が感心したように言いながら、バイブのスイッチを切った。奥まで刺さったバイブをずにゅっと勢いよく引き抜かれ、いきなり埋まっていた物を喪失して空洞になった穴が、寂しげにひくん♡ひくん♡と蠢く。柔らかくなったその場所の肉を、傑の指がくぱりと左右に割り拓く。今やアナルはすっかり蕩かされ、バイブの形を覚え込まされたかのように拡がって、玩具の挿入を待ち侘びるようにひくついている立派な性器だった。
「ピンクの肉がひくついてるの、丸見えでやらしい」
「っや……♡見んな……っ!」
 見られる以上に触られたりイかされたりしている訳だが、見られて、しかも感想まで言われるのは強烈に恥ずかしい。見られたくないから、力の入らない身体を無理矢理引き起こした。傑から離れようと思ったのに、傑に後ろから腹の辺りに腕を回されぐいと引き寄せられて、傑の手が、するっと前へと伸びて来る。その手の中に小さくて丸い物体が握られ、ぶるぶると小刻みに震えているのを見てひ、と喉の奥から情けないような悲鳴が漏れた。
「す、すぐる待ってそれ今だめ、やだ、……ッあ゛ー……ッ♡♡♡」
 精液と先走り汁とが混じり合ってべとべとの性器の裏筋に、傑が震えるローターを押し当てた。腰の奥にじんじんと甘く痺れるような快感が走る。萎えていた筈の性器がすぐに硬くなって、ふるんと天を向く。透明な涙を流すように先走り汁を零し始めた先端にローターを滑らされ、ぷくりと腫れた亀頭を震える玩具に押し潰されるあまりにも鮮烈な快楽に、悟の身体がビクッ♡ビクッ♡と何度も痙攣した。
「や゛♡♡待ってらめ゛♡俺今イッたばっか、ッあ゛ッ♡」
「うん。イッたばかりでここ虐められるのが気持ちいいって、悟に覚えて貰おうと思って」
 傑が耳のすぐ近くで喋る所為で、息まで耳朶に掛かる。低く、酷く色気のある声と、息。ぞわっと肌が粟立った。ぐり♡ぐりゅっ♡と鈴口をローターに抉られ、身体が腰の奥からどろどろに蕩けてなくなってしまいそうだった。
「やあ゛♡う♡だ、だめ♡も、覚えた、から♡離、ひう♡♡♡」
 びゅる♡と少量の精液が飛び散った。流石に、色が薄くなっている。イッたのに、覚えたって言ってるのに、傑はローターを押し当てるのをやめてくれない。それどころか更に強くぐりぐりと当てて捏ね回しながら、かり、と悟の耳朶を甘噛みした。ぞくぞくぞくっ♡と耳から、性器から、というか、傑が触れている場所全部から、快楽が末端神経までを素早く伝っていくみたいだ。
「まだ覚えてないでしょ」
「うあ゛♡お、おぼえたあ♡あ゛っ♡も、離せ……っ」
「だめ」
 耳の鼓膜を擽る有無を言わさぬ口調が、心なしか愉しそうなのが悔しい。涙が目尻に浮かんだ。むず痒くて何だか別のものが出てしまいそうな訳の分からない感覚が走るのが、いよいよ限界に近付いて来て恐い。身を捩ってローターから逃げようとするのに、傑に抱きすくめられたまま耳の穴に舌先を差し込まれて、くたっと力が抜けてしまう。
「あ……ッ♡離せ、よお……っ! な、なんか、出そう、だからあ……っ」
「なんかって? ちゃんとモニターしてよ」
「わ、分かんねえ、けど……ッ、お、おしっこ、出そう、かも……、」
 声が震える。口に出した途端に、傑が見ている前で尿を漏らしている自分の姿を想像してしまう。それはあまりにもプライドがずたずたになる想像で、あまりにも甘美な毒のような背徳感があった。同時に湧き上がる真逆の感情に当惑する。
「ふうん。出てるとこ見せてよ」
 耳元で傑が囁く。悪趣味だ。
 更に混乱に輪を掛けるように、鈴口にローターをぐりっとめり込まされて、視界が一瞬白く染まった。
「――ッあ゛あ゛……ッ!?♡」
 ぶしゃ♡と派手な水音と共に、ローターに塞がれた尿道口から透明なさらさらした液体が迸った。しかも一度では止まらず、ぷしゅっ♡ぷしゃ♡と断続的に飛び散る。ついに漏らしてしまったと絶望するが、尿特有のアンモニア臭もなく、色も透明だ。それがびゅくびゅくと飛んで、顔にまで掛かった。
「や……ッ♡」
 思わず眉根を寄せて顔を背ければ、にやにや笑う傑と目が合った。下唇をぺろ、と舐める赤い舌先に、腹の底がカッと熱くなる。
「あー、おしっこじゃなくて、潮の方だったね」
「っす、すぐる、っふあ♡あッ♡も、だめ、あ゛ッ♡♡」
「さとる、潮吹きしてるとこ、詳しくモニターして」
 傑が手を緩めてくれない所為で、透明な液がまた飛ぶ。気絶しそうなくらい気持ちよくて、もはや苦痛と紙一重のこの凄まじい快感から逃れる為ならと悟は必死で言われるがままに震える声でモニターした。
「っあ♡さ、さきっぽ、ちんぽの先っぽのきもちいとこ、っうあ♡ローターでぐりぐりされて♡潮、いっぱい出ちゃ、っあ゛ッ♡♡んっ♡♡あッ♡♡♡」
「いい子」
 頬に掛かった潮をべろりと舐め取られながら、尿道口の小さな窪みをぐりぐりとローターで犯される。緩んでひくひく震えている穴からびゅーーーーー♡♡♡と潮が飛んで、髪にまで掛かった。
「ひ♡あ、止まらな、ッあ゛♡♡……すぐる、やだ♡」
 ローターをカリの部分にずらされる。ぞくぞくした。頬も、身体も、性器も、全部熱い。頭がぼーっとする。イき過ぎて感覚が麻痺しているのか、イくという予兆もないまま、どぷ♡と潮に続いて白濁が勢いなく零れ落ちた。とろとろと竿を伝い落ちて、便器の中へと吸い込まれていく。
 傑が電源を落としたローターをカリから離すと、ねと、と白濁が糸を引いた。
「ん♡あ……っ♡はあ……ッ、」
 ぐたりと傑の方へ身をもたせ掛けたまま、キスをねだるように蕩けた目を傑に向けてしまう。無意識の行動だった。キスして欲しいと思っているなんて、自分でも気付いていなかった。傑はキスはせずに、そっと悟の体液で濡れた白い髪を指で梳いた。
 切なくなる。半開きの濡れた唇と傑の唇が近い場所にあるのに、決して触れることは叶わない。傑から触れようとしないから。キスして欲しいと素直にねだれないから。
「あーあ。びしょびしょだね」
 くすっと笑いながら、赤くなった尿道口にもう一方の手の指先をくちゅりと這わせる。緩んだ穴が期待するようにひくっと震えて、傑の指にちゅ♡と吸い付く。
「……ッあ……♡」
 ふるりと身を震わせながら、身体を捻って傑のシャツにぎゅっとしがみついた。傑が優しく頭を撫でてくれるから、すき、と思わず口に出しそうになって、下唇を噛んだ。多分言ってはいけないと、直感が告げていた。だから、その二文字を口に出す代わりに、俯いて低く呟いた。
「……帰り、どうすんだよ……」
「うん? 着替え持って来てるよ。こういうこともあるかと想定して」
 しれっと言い放たれた台詞に、どういう状況を想定してんだよ、と胸中でツッコミを入れてしまった。映画を見に来た筈なのに、映画の内容は結局一ミリも頭に入っていない。