3

 悟が風邪を引いた。

 ピピピピ、と小さな電子音が鳴る。貸してと悟に声を掛け、悟が脇に挟んでいた電子体温計を預かる。
「三十八度……」
 体温計を見下ろしながら溜息を吐くと、さむい、と悟が呟いてタオルケットに包まってしまった。こんなに暑いのに。朝だが既に外では蝉が鳴いている。けほ、とタオルケットの塊の中から咳き込む声がする。鼻を啜る音も。典型的な風邪の症状だ。
 悟のことを何処か人非ざる者のように思っていた節があった傑は、最強でも風邪を引くのかと、妙なところに安心した。原因は恐らく、この前の任務だ。大雨に濡れて冷えた身体を、長時間そのまま放置していたから。放置していたどころかそのままセックスしていたから。流石にあれは、無理矢理にでも先に風呂に入るべきだったと反省している。
 同じように濡れたのに風邪を引かなかった傑と違い、悟は普段は無限を張って雨を弾いているので雨で身体が冷えるという経験をしたことがないのだろう。免疫がないと、当然身体に不具合が起きる。
「風邪だね。薬飲んで寝とくしかないよ」
「えー……」
 芋虫みたいに丸まったまま顔だけをタオルケットから出して、悟が顔をしかめた。
 悟の部屋には体温計も風邪薬もない。まるで自分は風邪なんか引かないとでも言わんばかりなので、仕方なく傑が自分の部屋から体温計と薬と、あと熱さまシートも持って来た。母ちゃんみてえ、と悟がげらげら笑った。
 一応硝子から薬を貰った方がいいかも知れない。そう言えば、いいよただの風邪だしオマエが持って来たやつで、すぐ治るだろと拒否されてしまった。
「何で俺だけ風邪引いてんの。ナントカは風邪引かないって言うし、傑くんってもしかして馬鹿? あっ、言っちゃった。きゃは★」
「……悟、夏風邪はナントカしか引かないんだよ」
 怠そうにベッドに横になっている癖に悟が挑発するような笑みを浮かべて挑発するようなことを言うから、思わず言い返した。悟が「はあ!? 誰が馬鹿だよ!」と大声を出して起き上がろうとするので、急いで肩を掴んでベッドに引き戻す。むすっとしたまま悟は大人しくベッドに横になった。いつもより素直だ。やっぱり熱があって辛いのかも知れない。
「いいから薬飲んで寝てて。放課後また様子見に来るから」
 テーブルの上に水の入ったコップと薬を置く。腕時計にちらりと目を遣れば、そろそろ教室へ行かないと授業が始まってしまう。悟の部屋から出ようとして、制服の裾を掴んで引き止められた。振り返れば、悟がじっとこちらを見上げている。
「なあ、オマエも休めよ」
 寂しそうな声音でそんな可愛らしいことを言われると本当に休みたくなるから困る。
「何言ってんの。無理だよ。午後から任務だし」
「……知ってる。冗談だっつの」
 気まずそうに、裾をパッと離しながら目を逸らす。冗談と言いながらあながち冗談でもなさそうな癖に。顔が赤くて目元もとろりと潤んでいる。ムラ、と来そうになって、朝から煩悩にまみれた己の欲から目を逸らすように、悟からも目を背けた。
 じっと見ていたら休んで悟といたいという誘惑に勝てなくなってしまいそうだったから。それどころか悟とセックスしたい。裸に剥いて、色んな場所を触って声を上げさせて、秘部に自分の滾ったものを捻じ込んで、奥に欲を放つ――。
 病人相手に何を不埒な妄想しているんだと、慌てて煩悩を追い払う。とにかくもう行くからとやたら早口になりながら言って、急いで悟の部屋を出た。


「おはよ。あんたの恋人は?」
 教室のドアを開けると硝子が既に来ていて、窓際で堂々と煙草を吸っている。何度見ても、高校生ながら彼女が喫煙する姿は堂に入っている。
「風邪を引いたんだって。今日は一日休み」
 後で様子見に行ってよと、悟は必要ないと言い張ったがそれでも一応硝子に頼んでおく。馬鹿のクズでも風邪引くんだねえと酷いことを言いながら、多分硝子のことなので傑に言われた通りに後で悟の部屋に行くだろう。とりあえずこれで安心だ。
「で、あんた五条とセックスしたの?」
 おもむろに硝子が窓の外に目を向けたままとんでもないことを言い出して、席についてペットボトルの茶を飲んでいた傑はありがちなギャグ漫画みたいに茶を噴き出しそうになった。噴き出すのは辛うじて阻止したが、代わりに噎せてげほげほと咳き込む。
「い、いきなり何言って、」
「この前五条があんたがセックスしてくれないって教室で喚いてたんだよ。うぜえったらありゃしない。さっさとヤれよ」
「……」
 もうヤッた。しかも二回も。  とは、勿論言える訳もなく傑は黙り込んだ。いや、硝子のことだからそれを聞かされても特に動じないのかも知れないが。とはいえ硝子は確かに親しい友人だが、悟のようにそんなセンシティブな内容を彼女に話す気にはなれない。悟にはデリカシーというものが全くないが、傑は違う。
「さっさと手出さないってことは、五条には本気なの?」
 硝子が教室に目を戻し、煙草の煙をくゆらせながら薄っすらと笑う。外で適当な男と遊んでいた悪癖が、やっぱり彼女にはとうにバレていたらしい。
「本気だよ、勿論」
 本気にさせられてしまったという方が正しいが。
 硝子に倣って緩く笑みを浮かべようとして、本気だなんて認めてしまった所為で顔が熱くなった。純情かよ、と自分に呆れる。当然硝子にも見られて、薄笑いできっしょと罵られてしまった。


 放課後になって悟の部屋を訪ねた。硝子に悟の様子はどうかと訊ねたかったが、任務の後で出会う機会がなかった。
「悟? 具合はどう?」
 ドアをノックすると、部屋の奥から鍵開いてるから入れと聞こえる。寝ているなら後で来ようかと思ったが、起きているらしい。
 悟の部屋は傑の部屋とは違って片付いている。これは何も傑がだらしないからではなく、悟が勝手に私物を傑の部屋に持ち込んでそのまま置いて帰る所為だ。結果、悟の部屋の方が物が少ない。
「ポカリとゼリー買って来たけど、どうする?」
「コーラがいい」
 廊下から声を掛ければ、心なしか元気がないような声が答えた。コーラはだめだよと呆れながら、冷蔵庫の中にゼリーを入れてポカリのペットボトルだけを持って廊下の奥の部屋に入る。
「大丈夫?」
「……うん。朝より熱下がった」
 声を掛けると、悟はボーッとしたような目を天井に向けたまま頷いた。顔がまだ赤い。朝はタオルケットに包まっていたのに、今はそのタオルケットは足元でぐしゃぐしゃに丸まっている。半袖のTシャツから伸びる白い腕が、無防備に冷房の風に晒されている。
「……悪化するよ」
「暑い」
 ベッドの傍に座って、タオルケットを悟にかけようとすると鬱陶しそうに振り払われてしまった。仕方がないので腹の辺りまでだけかけて、リモコンを操作して室温も少し上げた。汗を掻いて熱を下げなければならない。
 髪が、汗ばんだ額に貼り付いている。首筋にも少し汗が浮いて、舐めたらどんな反応をするんだろうと、また煩悩にまみれたことを考えていることに気付いて悟から視線を外した。
「これ、飲む?」
「……うん。口移しで飲ませて」
 ペットボトルを差し出すと、また煩悩を暴走させるような台詞を悟が口にした。目を向ければ、悟は半笑いで、じょ~だんだよじょ~だん、と酔っ払いみたいな怪しい呂律で言ってけらけら笑っている。人の気も知らないでどういうつもりなんだと思う。いや、知っているのか。知っていて挑発しているのだろうか。なら、挑発に乗ってみようか。
 傑はペットボトルの蓋を捩って開けて、飲み口に口をつけるとそのまま大きく傾けた。冷たく、すっきりとした味が舌に広がる。す、傑? と驚いたように自分を呼ぶ悟のうなじとベッドとの隙間に手を差し込んで、ぐいと引き寄せながら自分も悟に顔を近付けた。
「ちょ、オマエ、んッ!?」
 まさか本当に実行するとは思っていなかったらしい。ポカリを口に含んだまま悟の唇に口付けると、悟は抗議の声を上げる途中でビクリと身を竦ませた。微かに開いたままの口の中に、すかさず自分の口の中にある液体を流し込む。少しだけ温くなったペットボトルの中身が自分の口の中から悟の口の中へと移動する。口一杯に溢れそうになるそれを、悟が両目をぎゅうと閉じたまま必死に受け止めて、喉を鳴らして飲んでいる。
「っん、ふ、……ッん♡」
 全部流し込んでから、舌も捻じ込んで悟の舌を吸う。ビク♡と悟の肩が跳ねた。弱々しく震える手に抗議するように肩を掴まれるが、離してなんかやらない。キスをしたままベッドの上に移動して、悟を押し倒すような格好になりながら舌の粘膜同士を擦り合わせる。ちゅ♡ちゅく♡と唾液の音をさせながら上顎にまで舌を這わせた。悟の顔がさっきよりも赤いのは、熱の所為だけではないだろう。
 必死に傑にしがみ付いて激しいキスを受け続ける悟が可愛くて、下腹がずくりと重くなる。もっと、と更に悟の口の中を貪ろうとして、やめろというように背中を何度も叩かれた。そんな可愛らしい抵抗なんて封じることは容易だったが、傑は悟から唇を離した。糸を引く唾液が蛍光灯の光に照らされて、いやらしい。
「は、……♡馬鹿、風邪うつる、だろ」
 息を荒げた悟が濡れた唇を腕で拭いながら目を逸らした。唇から私の痕跡を消さないで欲しいんだけどな、と思いながら、やわく腕を掴んで拭うのを阻止して、下唇にそっと指を這わせる。
「っすぐる、」
「いいよ、うつっても」
「よくねえ、だろ、――っあ、ちょっと、傑……!」
 指をすすすと移動させ、汗ばんだ首筋に触れると悟の身体がぴくんと跳ねる。敏感で可愛いと思いながら、反対の手でTシャツを胸元までたくし上げる。露わになる白い肌と、薄い色の乳首とにどうしようもなく劣情を刺激された。小さな右の乳首を摘んで、こりこりと指先で弄ぶ。ぴく、と悟の身体が震えて、居心地悪そうに身を捩った。
「傑……オマエ、何して、っひ……♡」
 反対側の乳首を口に含んで、舌先で転がす。勿論右の乳首への愛撫もやめない。指と舌とで同時に刺激する。指で擦って、押し潰し、爪先で引っ掻く。ビクリと震える悟の身体を押さえ込んだまま、しつこく舐めて、吸う。ぴく、ぴく……♡と悟の身体が何度も小さく跳ねて、次第に乳首が硬く尖っていく。
 元々素質があったのか、熱の所為で少しの刺激にも敏感になっているのか、或いは自分で弄っていたのか。妄想を膨らませているだけでも愉しくて、じゅるじゅる音をさせて舐りながら小さく笑みを浮かべた。
「す、ぐる……♡なあ、待てって、う、あ、あ……っ♡」
 ぷくりと腫れた粒を押し潰せば、ビク♡ビク♡と悟が腰を震わせた。覆い被さった傑の腹に、確かに芯を持って勃ち上がっているものがごりっと触れる。触れた所為で、また身体に悦楽が走ったのか悟が身を震わせた。必死に傑の肩を掴んで引き離そうとしているが、腕に殆ど力が入っていない。
「ひ♡あ、あ゛ッ♡や……♡すぐる、やだ……♡お、俺、まだ熱が、ッあ゛っ♡」
「分かってるよ。病人だから、少しは手加減してあげる」
 硬く尖った乳首を摘んで扱く。舐めていた方は唾液で濡れて、弄り倒されて少し色が濃くなった乳首がぷくりと膨らんでいる。
「少しはって、ど、何処までヤんだよ、」
 不安そうな、いや心なしか期待の色が滲む声音に聞こえなくもない声には答えず、指を腹に滑らせて、今度はスウェットのゴムの部分に手を掛ける。さっき自分が掛けてやったばかりのタオルケットを取ると、膨らんだものが生地を押し上げて、布に小さく染みが出来ているのが目に入る。唇の端が持ち上がるのを止めることが出来ない。
「さあ? 何処までにしようかな」
「こ、の、人でなし、クソ……!」
「悟には言われたくないよ」
 人に媚薬を盛ったり、人の上に乗っかって襲い掛かった癖に、よく言う。
「っすぐる、」
 やだやめろ触んなと赤い顔の悟が抵抗らしき言葉を口にするが、口先だけなので簡単にズボンも下着もずり下ろしてしまった。ぶるんっ♡と震えながら、屹立が飛び出す。竿は白くて、少しだけ覗いている亀頭が薄ピンク色で、子供みたいだ。幼い見た目が余計に卑猥で興奮する。
 くつくつと喉の奥で笑いながら、自分でも何処までやるつもりなのか図りかねていた。悟の言うように、本当に人でなしかも知れない。体調の悪い人間にこんなことをするなんて。だが、体調の悪い悟の表情や、汗で濡れた熱い身体にそそられる。己のものを捻じ込んで犯したら、熱に浮かされたような顔で喘ぐのだろうか。流石に、それは自重すべき畜生の所業だろう。
「くっそ……ッあ゛ッ♡んっ♡あ、あ゛っ♡」
 悪態を吐く癖に、竿を握ってゆるゆると扱いてやると忽ち悟は上擦った甘い声を上げ始めた。立てた膝が震えて、裸足の爪先がシーツの上でぎゅうと丸まる。亀頭が露出して、ふるりと震えながら蜜を零す。それを指先に絡めながら、ねえ、うつ伏せになってと悟に声を掛ける。潤んだ目でこちらを見上げる悟に、もはや抵抗する気があるのかどうか甚だ怪しい。
「は……♡なん、で、」
「いいから、ほら」
 軽く力を入れただけで、悟は殆ど言われるがままにうつ伏せになる。どう見ても、期待している。何も埋まっていない後ろが、ひくんとひくついて、何かを咥えたそうにしている。そこに悟の先走り汁で濡れた指を差し込めば、指は易々とピンク色の肉が見えている穴に呑み込まれていく。
「っあ、ひう……ッ!? や、やだ♡」
 ビク♡と腰を浮かせて、四つん這いになって逃げようとする。だから逃げられる前に尻たぶを左右にぐぱ♡と開いて、指を根元まで一気に押し込んだ。
「あ゛……ッ♡すぐ、う、あ゛ッ♡だめ、」
「だめなの?」
 ずるんっと指を引き抜けば、悟の穴はあからさまに寂しそうに、誘うように蠢く。ビク♡ビク♡と気持ちよさそうに腰を震わせて、逃げる気も失せたように悟が枕に顔を埋める。その所為で、余計に尻を高く上げるような格好になっていることに気付いているのだろうか。多分、気付いていない。
「も、俺今日、体調悪い、から……ッんあ、あ゛ッ♡」
 穴の周辺にぬろりと舌を這わせる。形を確かめるように、周囲を一周する。悟の背中がびくびくと仰け反って、枕からがばりと顔を上げて後ろを振り返る。
「す、傑、やだ舐めんな、ッあ゛……ッ♡」
 焦らされたようにひくん♡と蠢く入り口に、舌先をほんの少し埋める。悟が弛緩したように、またくたりと上半身をベッドに預けた。
「ま、待って……ッ♡あ、汗掻いてるから♡や、やだ……っ!」
 くぷ♡と舌をもう少し奥に進めれば、悟が枕をぎゅうと抱き締めて身を捩った。頬をシーツにべたりと付けて、口の端から涎を零している。嫌がっていないのは、明白だった。
「この前、私が洗ってないからって言ってもやめてくれなかったよね」
「っも、そこでしゃべんなってぇ……♡や♡あ、あ゛ッ♡あっ♡♡」
 濡れた舌で穴をしつこく蹂躙する。穴の周りを舐めて、焦れたように悟が腰を震わせると、中に舌を尖らせて捻じ込む。徐々に入り口が緩んで広がっていくのが分かる。浅い場所の粘膜が、きゅん♡と悦んで舌を迎え入れる。わざと舌を抜くと、緩んだ穴が寂しげにひくん♡ひくん♡と震える。
「あ、あっ♡すぐるう……ッ♡」
 がくがくと悟が震える。触れていないのに、勃ったままの性器の先が先走り汁でびしょびしょに濡れそぼり、シーツの上に雫を零している。手を伸ばしてそこに触れると、びくびくびく♡と悟が身を震わせた。目を見開いて、甘く切ない痺れに侵されたようにぶるりと痙攣する。
「だ、だめ♡やだいく♡イッ……ッ♡♡♡」
 どぴゅっ♡♡♡びゅ♡びゅびゅ♡びゅくびゅく♡
 粘り気のある白濁が勢いよくシーツに零れた。どろどろの精液がシーツを汚す。穴が、挿れて欲しそうにくぱくぱと収縮しているのが卑猥だ。
「も、見んな♡や、ッあ゛ッ♡」
 まだ時折びゅく♡と精子を飛ばしながら悟が逃げようとする。この狭いベッドの上で逃げ場なんかないと分かっている癖に。だから悟の、自分よりも少し細い腰を掴んで動きを封じた。
「悟、そのままにしてて」
「な、んで、やだ、や……っ♡」
 片手だけでベルトを外そうとして、たどたどしい手付きになってしまう。焦っているみたいで格好悪いが、悟の前では格好悪いところしか見せたことがない気がする。とりわけ、彼が恋人になってからは特に。
 ベルトを外して前を寛げ、とっくに勃起した己の怒張を引っ張り出す。血管が太い竿にビキビキと浮いて、亀頭が先走り汁で濡れている。悟のは何度見ても可愛くて、自分のとは似ても似つかないなと思う。
「す、すぐる、」
 こちらを振り返り、悟が恐怖に竦んだような引き攣った声を出した。熱の所為で顔は赤いままだが、目は恐怖に見開かれている。どうやらこのまま突っ込まれると思っているらしかった。流石に病人相手にそこまでする程けだものではないつもりだ。傑は苦笑して、悟の太腿の間に自分の勃起を割り込ませた。
「悟足閉じて。……そう」
「っえ、や♡何、っひ!?」
 白い太腿の間にしっかり勃起を挟み込んで、腰を前に突き出す。ずり♡と悟の腿と性器が擦られながら、足の間に埋まっていく。熱い楔が腿の皮膚を擦る初めての生々しい感触に、悟がビクッ♡と身を跳ねさせた。
「あ、すぐ、る……♡これ、やだ、」
「……嫌? じゃあ、挿れる?」
「あ♡それは、もっとやだ、っうあ、あ゛……っ♡」
 後ろは緩んでて嫌そうでもないけど、と思いながら、太腿に擦り付けるようにして腰を前後させる。悟のしっとりとした肌に擦れて、硬度も質量も増す。先走り汁がたらりと零れて、悟の精液で汚れたシーツに垂れ落ちた。一度腿の間から抜いて、先端を濡らしている蜜を塗り込めるように竿を扱く。ぐちゅぐちゅと濡れた音が立った。
「っすぐる、あ、また、だめ……っ♡」
 ふる、と悟が首を横に振る。もう一度足の間に差し込んで、腰を動かす。濡れた性器が擦れてず♡ぬぷ♡とまるで挿入しているような卑猥な音がして興奮した。ぬぷ♡と奥まで差し込めば、悟の玉の部分に傑の亀頭がこつんと触れる。
「ひ!? あ、あ゛ッ♡すぐ、あ゛っ♡や、やだ♡」
 更に奥に腰をぶつけてみる。ずりずりと悟の竿と擦れる感触があった。すっかり硬くなった悟のものに亀頭が擦れた途端、どっと蜜が溢れて悟の竿を濡らした。
「や、やめ……っ♡すぐ、る……♡」
「は……、これ、ほんとにセックスしてるみたいで、興奮するね」
 悟の背に覆い被さりながら、耳元で囁く。同じことを考えていたのか、悟は耳まで赤く染めてびくびく震えた。恥ずかしいのか、また枕に顔を埋めてしまう。白い肌に指を這わせ、乳首を摘む。くにくにと刺激すると、悟の腰がビクッ♡ビクッ♡と小刻みに痙攣した。
「んッ♡や、あ゛……ッ♡すぐる♡ち、ちくび、らめ♡」
「だめじゃないんだろ? こりこりになってる」
 ぐり♡ぐりゅ♡と少し痛いくらいの力で捏ねながら、腰を動かして悟の竿にずりずりと擦り付けるのを繰り返す。動きに合わせるように悟が腰を振る。腹に指を滑らせて悟の性器に触れると、びしょびしょに濡れている。
「あ♡すぐる、ひう♡あ゛ッ♡」
 すぐる、と上擦った声に呼ばれるとぞくぞくする。顔が見たいな、と思った。悟は枕をぎゅうと抱き締めて俯いたままだ。悟の濡れた前を弄りながら、腰を打ち付ける。ぱちゅ♡とまるで悟の奥に亀頭をぶつけているようないやらしい音がして、悟の勃起に己のものが触れる。触れた場所が熱を孕んで、溶けそうに熱い。
「さとる、好きだよ」
 悟の赤い耳の傍で囁いてみる。びくびくびく♡と悟が身悶えて、ふるふると首を横に振る。
「も、待って♡お、俺、イきそ♡またイッちゃ、う、から♡」
「……私もイきそう。ねえ悟、一緒にイこう」
「や、やだ♡や、」
 悟の耳朶を軽く掴んでふにふにと揉む。何処を触っても気持ちいいのか、悟は白い皮膚を朱に染め上げて悦んでいる。
「イこうね。気持ちいい場所擦られながらイくとこ私に見せて」
 耳に息を吹き込むようにして、飛び切り甘い声を出す。ぶるりと悟が身を震わせて、ぐりゅ♡と悟の性器に自分の怒張を擦り付けた途端に悟の性器から白濁が飛んだ。
「ん゛ッ♡あ、あ゛ッ♡ひあ、あ゛ッ♡♡♡」
「っは……。さとる、いっぱい出てるね。素股するの、気持ちよかったんだ?」
 びゅ♡びゅるる♡とシーツに精液を飛ばす白い性器に、傑の白濁がびゅるびゅる♡と掛かる。興奮した。中に出すのも勿論興奮するが、悟の身体に掛けるのもイイなと、一人でほくそ笑みながらぐいと悟の性器に押し付ける。ビク♡ビク♡ビク♡と悟が震えるのが、悟の身体と触れている自分の一部にも伝わる。
「ふあ、あ゛……っ♡きもちい♡♡すぐるの、あ、あつい♡」
「悟にそういうやらしいこと言わせるの、燃えるね」
「は、ッあ゛ッ♡っの、変態……!」
「悦んでる悟も、同類だと思うけど」
「同類じゃ、な――っや♡離せ、」
 顔が見たかったから、弛緩しきった悟の身体を仰向けに転がす。あっけなく転がされて仰向けになった悟の蕩けたような顔に、また下腹が重くなった。目尻に涙が浮いて、唇が唾液で濡れている。汗で額に貼り付いた前髪でさえ艶めかしい。
「すぐ、る、やだ♡見んな、」
 腕で顔を隠そうとするのを、腕を掴んで阻止する。綺麗な顔を隠すなんて論外だ。それに今更だ。今更恥じている悟が可愛くて、獲物を仕留めた肉食獣のように舌なめずりをしてしまう。
 無防備な顔に顔を近付けて、キスをした。とろりと蕩けた顔で口を半開きにしたままの悟の口の中に舌を入れるのは容易い。素直に口をもう少し開いた悟の舌を貪る。飢えた獣のように。ちゅ♡ちゅく♡と唾液の音をさせて、吸って、濡れた粘膜をなぞって、撫でる。悟の身体が小さく跳ねて、傑の身体の下でまた性器が硬さを取り戻しかけている。自分も同じだったが。
「っん、ふ♡は……ッ♡はあ、く、苦しい、だろ、」
 潤んだ目で見上げながら文句を言われる。未だにディープキスで酸欠になってしまうらしい。いつまでも不慣れで可愛い。
「さとる、ねえ、挿れてもいい?」
 悟の足を掴んで左右に開く。両足の間で震えながら緩く勃ち上がっている性器が、傑の精液で竿がどろどろに汚れて、先っぽは悟の精液の残滓が纏わり付いている。指先で鈴口の白濁を掬い取ると、ビクリと悟が跳ねた。
 綺麗なものを汚しているかのような背徳感が、そのまま快感に繋がる。もっとどろどろに汚したくなる。悟が言うように、確かに変態かも知れない。
「……俺、風邪引いてんだけど、」
「ローションある?」
「話聞けよ、馬鹿」
 そう言いながらも悟は身体を捻ってベッドの横の引き出しを開けて、ローションの容器をこちらに差し出す。発言と行動が全然噛み合っていない。非難するような目を向ける癖に、その目の中に同時に期待の色が隠し切れていない。
「さっき、手加減するって言ってた、のに、」
「手加減して欲しいの?」
「……ッ」
 赤い顔をして、悟が目を逸らす。だんまり、ということは、手加減して欲しくないということだ。分かりやすくて、本当に手加減出来なくなりそうだ。
 本当に、何処まで人でなしなんだろうと思う。最初は病人相手に流石に最後まではしないと思っていたのに。でも、ここで嫌だと言わずに、あまつさえ挿入の為の道具まで寄越すなんて、悟も同類じゃないのか。いや、そもそも悟は薬を使って既成事実を作ったことからも分かる通りの人でなしだ。
 悟も、自分も人でなし。同類。同じ穴の狢。運命共同体みたいだ。
 服を脱ぐ。目を逸らしている癖に、ちらちらとこちらを窺う悟の視線を感じる。笑ったら怒られそうだが、口元が緩む。
 ローションの容器を傾けて、見せつけるように垂らして中身を手の平で受け止める。精液が付いた指先に絡めて、悟の尻の窄まりに指を滑らせる。指を挿入すると、あっさりと呑み込んで吸い付き始めた。
「っん♡あ、はぁ゛……っ♡」
 二本目の指も簡単に埋まる。抜き差しを繰り返せば、くちゅくちゅと濡れた音が立つ。悟の潤んだ目が虚空を見つめ、唇の間から甘い声が漏れ出ている。熱の所為で、少しぼんやりしているのかも知れない。ふるんと天を向いた屹立が、触れて欲しそうにまた蜜を零している。
 名前呼んでくれないかなと思いながら勃起に手を伸ばして、扱く。ぐちゅ♡ぬちゅ♡と音をさせて扱けば、悟はビクンビクンと身を跳ねさせて悦んだ。
「すぐ、りゅ♡も、指、いいから、」
「うん」
 先を促すように返事をするが、悟は下唇を噛んで躊躇した。言わせたくて、中を掻き回していた指の一本で腹側にあるしこりを押す。こり♡くりゅ♡と愛撫すると、くぱりと開いた尿道口からとろとろと蜜が零れ出て来る。
「あ゛ッ♡ら、らめ♡それ、イッひゃう、やだ♡」
「イきなよ」
「や、やら……ッ♡お、俺、ッあ゛っ♡ゆび、じゃなくて♡すぐる、の、ちんこが、いい♡」
 下腹がずくりと疼く。今すぐに奥まで突っ込みたいと身の内でけだものが頭をもたげるが、顔をしかめて無理矢理欲望を押さえ込む。指を引き抜くと、緩んだままの穴がひくん♡と蠢く。まるで、挿入を待ち侘びるメスのように。
「……っねえ、あんまり煽らないで。私今ゴム持ってないんだけど、ゴムは?」
「も、いいから♡……っナマで、挿れろ」
「さとる、」
 流石に病人相手にそれは、と、ここまでしておいて今更躊躇するが、悟が両足で傑の腰をがちりと固定してずりずりとシーツの上に身を滑らせて近付いて来た上に、ガチガチに勃起した傑の性器を掴んで自分のひくつく場所へと誘導する。亀頭が入り口に触れて、ぞわりと肌が粟立った。悟がにたりと不敵に笑う。
「は……っ♡今更、手加減すんなって、」
 ず♡と先っぽが穴に埋まる。温かい肉壺に亀頭が包まれて、う、と呻いた瞬間、理性の糸がぷつんと切れた、ように思う。
「悟、」
 腰を掴んで一気に奥まで埋めた。ぐぷ♡と音がして、悟の身体がビクンッ♡と跳ねた。
「ッあ゛ー……ッ♡!?」
 どぴゅ♡びゅ♡びゅく♡びゅるっ♡♡♡
 挿れられた瞬間に押し出されるようにして射精してしまった悟の腰を掴んだまま、入り口近くまで引き抜いた怒張をまた奥へと突き刺す。イきながら深いところを抉られて、悟が目を見開いて悲鳴を上げた。
「や♡あ゛ッ♡あひ♡すぐ、ッあ゛んッ♡あッ♡あっ♡」
 萎える暇もなく勃ったままの前が、びゅ♡とまた精液を飛ばす。
 襞をこじ開けて己の性器を擦り付けながら悟の中を自分で埋め尽くすのは、驚く程に征服欲を満たされた。同時に独占欲がむくむくと育っていく。悟を誰にも渡したくない。絶対に、ずっと自分だけのものだ。
「すぐりゅッ♡らめ、今イッて、ひう゛ッ!?♡」
「手加減すんなって、悟が言ったんだろ」
「あ゛ぁ゛あっ♡や♡待って、無理♡んッ♡あっ♡」
 容赦なく抽挿を繰り返し、ずぷずぷと抜いた勃起をぱちゅっと奥へ捻じ込む。ぎゅうと悟にしがみ付かれながら、悟の鎖骨辺りにキスをするつもりが、がりっと歯を立ててしまった。ビクッ♡と悟が身を竦ませる。痛かった筈なのに、中が媚びるように絡み付いて、きゅんきゅんと収縮する。
 全部、持って行かれそうになる。その場に踏みとどまる為に、悟の首筋にも歯を立てる。歯形がついて、その周辺の皮膚だけ赤く色付いた。所有印みたいでぞくぞくする。
「あ、ッも、噛む、な……ッ♡」
 噛むなと言う癖に歓喜するように身悶えるから、余計に噛みたくなる。こんなこと、今までにはなかった。こんな性癖を開拓してしまうのは、流石に嫌がられるかも知れない。でも、自制出来ない。
「ねえ悟、好き」
 耳元で囁いて、耳朶に噛みつく。それも甘噛みではない。思い切りがりっと噛む。噛むと、中が締まる。熟れて柔らかく育った襞が竿に絡み付いて、精を搾り取ろうとする。眩暈がしそうな程の快感が広がる。
「う、あ……ッ♡おれ、も、すき、っひいッ!?」
 懸命に気持ちに応えてくれるのが嬉しくて、ぐぽりと更に捻じ込んだ。悟の腰ががくがく痙攣して、先端から先走り汁がとろとろと零れる。泣いているみたいに。目の端にも涙が浮いていて、美味しそうだったのでべろりと舌で舐め取った。塩気のある味が舌先に広がる。
「や……ッ♡す、すぐる、舐めんな……ってえ、っひ♡」
 首筋を舐める。悟が身を竦ませる。嫌そうに身を捩るので、また噛むとびくびくと身悶える。
「噛むな、馬鹿ぁ……っ♡」
「悟、全然嫌そうじゃないよね」
「う、るさい……あ゛ッ♡はあッ♡あ゛っ♡」
 ぐぽ♡ぐぷ♡ぐちゅ♡ぬちゅ♡♡♡
 出し入れを繰り返せば、悟の身体は快楽の奔流に呑み込まれたかのように際限なく跳ねる。奥の壁に亀頭で執拗にキスして、張り出したカリで中をしつこく擦りながら抜く。火傷しそうなくらい熱くて、悟の普段決して聞くことのない悦楽に塗れた声が全身を熱くして、さとるを食べたい、と訳の分からない欲望が頭をもたげる。
「すぐ、う……♡お、俺、ずっとイッてう♡♡♡身体、おかしい♡はあ゛っ♡うあ、あ゛っ♡」
 息も絶え絶えで、イき過ぎてどろどろに汚れた性器がぷるぷると揺れる。手を伸ばして触れれば、悟が精一杯身を捩って抵抗する。
「ひ♡う♡だめ♡すぐりゅ……ッ♡あ゛ッ♡それ一緒にするの、らめ♡」
 先端を擦ってやればびゅるりと色の薄くなった精液が飛んだ。中が締まる、その癖奥の口は逆に緩む。そのタイミングでぐっぽりと怒張を捻じ込む。射精したばかりの性器の先から、今度は透明な潮が弧を描いて飛び散った。
「っひ♡あ゛っ♡奥やらあ゛……ッ♡きもちい♡♡♡すぐる、こわい♡やだ♡」
 強過ぎる快感と不慣れな感覚への恐怖が同時に襲って来たみたいに、支離滅裂なことを言いながら悟がえぐ、と顔を歪めて泣く。眉は下がり、目尻に涙が浮いている。傑の背に回した手が汗ばんでいて、爪が皮膚に食い込んでぴりりとした痛みを与えて来る。
 病人相手になんてことをしているのかという罪悪感を抱くより先に、その泣き顔に堪らなく劣情を煽られた。イく前に抜こうと思っていた筈が、その決意も一瞬で砕け散って、傑は悟の中に欲望をぶちまけていた。びゅるびゅると射精しながら、支配欲が満たされていくのを感じる。
「あ゛……ッ♡う、あつ、い……♡♡♡」
 どくどくと注ぎ込まれる熱い体液に、まだ時折びゅる♡と潮を飛ばしながら悟がうわ言のようにあついと呟いた。揺さぶって、精を全て注ぎ込む。孕ませようとでもしているみたいに、しつこく奥に自分の痕跡を残す。
「……っは、」
 爆発するような快感が過ぎ去るとほんの少しだけ冷静になって、今更無意味な罪の意識が芽生えた。無茶をし過ぎた。というか、本能のままに犯していた。剥き出しの雄の欲を隠そうともせずに。
「さ、さとる……ごめん、」
 ぎゅうと悟の身体を抱き締めると、熱い。熱くてぐたりとしている。やっぱりまだ熱があるのだ。
「んー、いいよ……すぐるだから、」
 へら、と悟が気の抜けたような笑みを浮かべる。 「すぐるに、酷くされんの、きもちいい、から……すき」
「さ、悟!?」
 なは、とまた変な笑い声を上げたかと思うと、悟はそのまま気を失ってしまった。目を閉じて、その身体が弛緩する。口元は笑ったままだ。安らかな死に顔みたいで物凄く不吉なものを感じて悟、悟と何度も呼ぶが、悟はすやすやと寝息を立て始めた。
「……」
 どっと身体から力が抜けた。  見下ろせば、さっき噛み付いた首筋や鎖骨が赤く腫れている。下半身も、どろどろで酷い有様だ。
 優しくしたい筈なのに、こうやって酷くしてしまう。確かに、人でなしだ。悟以外は、傑の本性を許容してくれないだろう。好きだなんて、言ってくれない。
 ――悟しかいない。悟しかいらない。


 傑が風邪を引いた。

「オマエダッセーなあ! 夏風邪はナントカしか引かねえんじゃなかったのかよ!? ウケる!」
 ベッドの横に座り込んだままげらげら腹を抱えて笑うが、いつものキレのあるツッコミは返って来ない。うーと呻きながら、長身がベッドにうつ伏せに寝そべっている。
 朝、『風邪を引いた。今日は休む』とメールが来たので準備を終えて部屋に来てみるとこのザマだ。顔、枕に埋まってるけどそれ息出来んのかよ、と呆れていると、顔がのそりとこちらを向いた。長い黒髪が顔の半分を覆い隠してはいたが。
「悟の所為」
「はあ?」
 すっかり回復した悟は顔をしかめた。傑はのろのろと顔を隠している前髪を耳に掛けた。少し赤くなった傑の顔なんて、普段見ないので新鮮だ。
「悟とセックスしたから、風邪が移った」
「は……!? オ、オマエが、病人相手に容赦ねえからだろ!」
 途端に、熱がある訳でもないのに顔が赤く染まる自分の反応が嫌だ。せっくす、なんて単語を照れもせずあっさり口に出す傑にもムカつく。ムカつくから、傑から目を逸らした。傑の手が不意に伸びて来て、髪に触れる。
「さとる、」
「っな、何だよ、」
「首、それ隠しとかないとだめだよ」
 傑の少し熱の篭った指先が、首筋を掠める。昨日、歯形を付けられた場所だ。歯形はもう大分薄くなっていたが、寝ている間に吸い付かれて赤く腫れてしまった。所謂、これはキスマークというやつだ。人が寝てる間に何してくれてんだよと思うと同時、傑のもの、というはっきりした証拠が残ったみたいで、ぞくぞくする。
「……見せびらかすんじゃ駄目?」
「うーん……だめ」
「だめなのかよ」
「悟はいつも可愛いけど、私の前でだけは殊更に可愛いと、私だけが知っているのがいい」
 傑が緩く微笑む。可愛いってなんだよ、と腹が立つ筈が、独占されているみたいで嬉しくなっている自分が心底嫌だ。居たたまれなくなって、俺もう授業行くわと言って立ち上がった。さとる、とちょっと気だるげな声に呼び掛けられながら、手を握られる。
「放課後、見舞いに来てくれる?」
 心細そうな声に、何かがくらりと傾いだ。だから、すとんともう一度床に座った。すす、とベッドに身を寄せながら、傑の手をぎゅっと握り返す。
「やっぱ俺も休もうかな」
「え? ずる休み? それはだめだよ。悟はもう風邪治ったんだから」
 さっきまでの心なしか寂しそうな声は何処へやら、傑がまたしれっと正論を吐く。ムカッとした。正論は嫌いだ。ムカついたから、手を振り解いてさっさと立ち上がった。
「あっっっっっっそ!! もうオマエなんか知らねえ風邪悪化させろバーカ!!」
 中指を突き立てる下品な仕草をしながら廊下を駆け抜ける。あ、こういう時、行って来ますのちゅーとかするんだっけ、と一体全体何処で仕入れたのかももはや分からない情報を思い出すが、今更傑のところに戻るのも嫌だったのでそのまま部屋を出て行くことにした。
「さとる、」
 腕を掴まれ、ぐいと引っ張られる。壁に身を押し付けられて、キスされていた。傑の長い髪が頬を掠める。熱の所為で、傑の唇は熱い。服越しに触れている身体も、体温が高い。熱があるのにわざわざ追い掛けて来たのかよと呆れるのに、嬉しい。
「……ねえ、早く戻って来てね」
「……」
 切なげな声に、おねだりされる。触れるだけのキスだったのに、悟は顔を真っ赤にして心臓をどきどきさせながらずるずると壁伝いに座り込んでしまった。遅刻する、と頭の片隅で思うが、不意打ちの所為で腰が抜けて、立てない。
 見上げた先の傑がふっと意地悪く微笑んでいるのを見て、こいつ確信犯かよと内心で毒づく。  普段の傑と同一人物だとはとても思えない昨日の傑の本性を思い出す。病人相手にもまるで容赦がなくて、変態で、ドSで……。
 ――エッチしたい、と言ったら怒られるだろうか。
 朝から盛るなよと自分でも思う。昨日もしたのに。でも、放課後まで熱を持て余したまま耐えられる自信がない。
(終)