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 悟と(悟に盛られた薬の所為でなし崩し的に身体を繋げてしまい、脅迫される形で)付き合うことになった。

「……」
 先程受信したメールを見つめたまま、かれこれ一分くらい固まっている。朝の一分は貴重だ。その貴重な時間を無駄には出来ないのに、授業に遅れる危険を冒してまでメールを見ている。
『一緒に教室行っていい?俺の部屋まで迎えに来て』
 差出人は、昨日恋人になった男。
 乙女かよ、とツッコミを入れそうになった。部屋はすぐ隣だし、教室も寮から近い。そんな近距離を移動するのもわざわざ迎えに行って一緒にだなんて、まるで初恋に浮かれる女子中学生だ。……そんなギャップが可愛いなどと、思ってしまっていることに軽い眩暈と絶望感を覚えた。
 はあ、と口から溜息が漏れる。何でこんなことに、ともう昨日からかれこれ百回は考えていることを、無意識にまた脳に浮かべている。
 どう考えてもこんなことになったのは悟の所為であり、自分は悪くない筈だ。むしろ被害者はこっちだろう。だが、罪悪感が消えることはない。申し訳なさで胃が捩れそうだ。
 あんなのは、セックスではない。強姦だ。それに多分、悟のあの感じだと初めてだ。初めての行為があんな強烈な形で残るなんてあまりにも可哀想だ。きっと恐がらせた。大事な親友を。なのにその親友は傑に彼氏になれと迫った。まるで、傑のことを好きだったみたいに。
 いや、それはないなと、これも昨日から何回したかも分からない否定をする。
 悟とは一年と少しの付き合いだが、未だに彼のことはよく分からないなと思う。
 確かに気の置けない親友ではあるが、考えていることがさっぱり分からない。破天荒で、無茶苦茶で、周りを振り回してばかりいる。だから傑と付き合うなんて言い出したのも、ただの好奇心かも知れない。だが好奇心だけで男に犯されたいなんて思って、しかも男に犯される計画なんぞ練って実行に移してしまうのだろうか。
 どう考えても常軌を逸している。だが常識では考えられないようなことをしてしまうのが、五条悟だ。となると、やっぱり彼の本心は何度考えても分からない。堂々巡りだ。
 ――まあ、悟がしたいことに、彼が飽きるまでは付き合おうと思った。彼氏になれというのだから彼氏役に徹する。それが罪滅ぼしになるのなら、そうする。その為に、寝るだけの関係だった男達とも関係を断つことにした。連絡先も携帯から消去したので、二度と会うことはないだろう。あれはただのお遊びだった。未練などさらさらない。
「悟、迎えに来たよ」
 恋人の部屋のドアをノックして、名前を呼ぶ。程なくして悟がドアを開けた。いつものサングラスと、高専の黒い制服。見慣れた親友が、傑を見て嬉しそうににぱっと笑う。笑うと花が咲いたみたいに、悟のいる場所だけ明るくなる。
「おはよー傑」
 昨日のアレ以来顔を合わせるのは初めてだ。特に記憶を辿って思い出していた訳ではないが(いかんせん薬の所為でうろ覚えだというのもあるが)、悟の顔を見た途端に昨夜の生々しい記憶が途切れ途切れに脳裏に呼び起こされて、動揺した。
 聞いたことのない甘く上擦った声で喘ぐ悟。白い肌が赤く色付いて、目がとろりと潤んで、涎を垂らして身を震わせる悟。すぐる、と舌足らずに呼ぶ声が耳奥に蘇る。そんな彼を組み敷いて犯しながら、可愛いだとか好きだとか散々口走ったことまで急に思い出して、一気に羞恥が募った。
「……お、お早う」
 顔が熱くなる。狼狽しているのを知られたくなくて、悟から目を逸らした。行こう、と素っ気なく言って、早足に校舎の方へ向かう。心臓が、煩い。今までに関係を持った男は複数いるが、行為の後顔を合わせてもこんなに狼狽えることはなかった。
「傑、待てよ。何慌ててんだよ?」
 隣に並んで歩きながら、悟が怪訝そうに傑の顔を覗き込む。益々取り乱しそうになるが、これ以上悟にみっともないところを見せたくないと思った。
「悟、昨日大丈夫だった?」
「ん? 何が」
 悟が小首を傾げる。「……無理させただろ、」と口籠ると、途端に悟の頬に赤みが差した。昨日のことを思い出したらしい。
「あ、え、えっと、」
 しどろもどろでもごもごと意味を為さないことを喋る。悟を動揺させたことで逆に落ち着いて来た。何だか無性に悟が可愛く見えるのは、昨日の行為の所為なんだろうか。不意に触れたくなった。
 ――抱き寄せたら、拒否されるだろうか。
 悟の気持ちを計りかねて、試すようにそっと手を握ってみた。手だったら嫌がられないかなという姑息な算段があったからでもある。臆病だから、傷付きたくないから、拒絶される可能性が少しでも低い方を選んだ。狡い奴だと自分でも思う。
 もごもご言っていた悟がぴたりと喋るのをやめる。しかし手は振り払われたりしなかった。そっと隣を盗み見る。赤い顔をして、俯いた悟がぎゅうと傑の手を握り返して来た。
 あまりにも可愛くて、キスしたくなった。その衝動に混乱した。
 悟は、まあ確かに顔は可愛いのかも知れないが、そういう意味で可愛がりたいとは今まで思ったことはない筈だ。あくまで彼は親友だ。だが、可愛く見える。――身体を繋げてしまったから、だろうか。そんなことで心境が変化するなんて、まるで下世話な雑誌によく載る『一度ヤッただけで彼女ヅラ』をする女だ。
 動揺を悟られぬよう平静を装い、互いに黙ったままで歩く。足音だけが廊下に響く。いつもなら悟といる時は下らない話ばかりしているのに、今日に限って何も話のネタが思い浮かばない。
 教室の近くで、同じように登校して来た硝子を見掛ける。朝から煙草をふかしながら歩いている姿は、高校生ながら堂に入っている。
 悟が硝子の姿を視界に収め、咄嗟に手を振り解こうとするのを、傑はぎゅうと強く手を繋いで阻止した。混乱したようにこちらを見る悟の視線に気付かないふりで、硝子に明るく声を掛ける。
「お早う硝子」
「おはよ。……え? 何、あんた達……」
 案の定、硝子がドン引きしたように繋がれた手と二人の顔とを見る。隣で悟がまたあわあわと意味不明なことを言い始め、ぶわっと耳まで赤くするのも視界の端に捕えながら、傑は殊更に悟を狼狽させるように、手を解いて悟の肩を抱き寄せた。手を繋ぐだけでこんな可愛い反応をするのだから、抱き寄せても大丈夫だと確信したから。
「ああ、私達、付き合うことにしたんだ」
「は……」
 中途半端な声は、抱き寄せた恋人と同級生の女生徒の二人の口から同時に発せられた。数秒の沈黙の後、手に持ったままだった煙草から灰が落ちそうになっていることに気付いた硝子が慌てて携帯灰皿に灰を受けた。
「そうなの? 五条」
「え!? あ、あ、うん」
 悟は相変わらず挙動不審なまま、普通に冷静に受け入れている硝子からの問いにこくこくと首を縦に振っている。その顔が紅潮して、心なしか嬉しそうだ。恋人だと傑に認めて貰えたことを喜んでいるみたいな健気さがあって……やっぱり可愛いと思ってしまう。
「ふうん。クズ同士で引っ付いたってワケ? 趣味わりー」
「は!? どういう意味だよ!? つーかどっちがクズ!? どっちが趣味わりいの!?」
「どっちも」
 噛み付く悟に硝子が挑発するような笑みを浮かべた。その目がちらりと傑を見る。確信した。硝子は傑の悪癖に気付いている。気付いているから、『どっちも』なのだ。
「……」
 先生に言いつけるつもりなどはないようだったが、居たたまれないので傑は硝子から目を逸らした。悟がのしかかってくる。重いし暑い。
「すぐるう、しょーこが虐めるー」
 よしよしと宥めながら頭を撫でる。髪がふわふわで触り心地がいい。つい指先に髪を絡めて弄んだりし始める傑に、硝子は「きっしょ」と吐き捨てて、さっさと教室に入ってしまった。
 硝子にバレていたのは恐らく問題ないとしても、まずいな、と思う。……親友なのに、抱いてはいけない感情を抱きそうになっている。好きになってしまいそうな自分がいる。
 無論、本気で好きになる訳にはいかない。悟の真意が分からない今は。傑はこう見えて用心深い。実はジョークでした、親友とセックスしてみたかっただけでした、なんて言われたら、きっと立ち直れない。少しずつ慎重に、悟の意図を探っていくしかないと思っている。
 ――好きになったら負けだ。きっと引き返せなくなる。そんな予感がした。


 傑と(傑に薬を盛って強制的に行為に及ばせ、既成事実を作って脅迫する形で)付き合うことになった。

 夜に傑の部屋でだらだらゲームをしたり漫画を読むのはいつものことなのに、傑と付き合う前と付き合うことになった後では、同じことをしていても違った。後者の方が幸福だし、この後傑に強引に押し倒されるかも知れないと期待して、全然落ち着かなかった。
 押し倒されたらキスされて、身体触られて、後ろに傑のちんこ突っ込まれて、とどんどん妄想が広がって、身体の奥が疼く。漫画の文字が一切頭に入って来なくて、そっと傑に目を遣った。悟がベッドを占領しているので、傑はベッドに身を預ける形で床に座り、こちらに背を向けて本を読んでいる。授業や任務の時には見えているうなじが、今は髪をハーフアップにしている所為で隠れている。うなじが見えるのもいいけど、こっちの髪型も好きだなと思う。
 髪に触れたくなってそっと手を伸ばした。と、不意に傑が読んでいた本を閉じた。
「悟、」
「っえ!?」
 ドキ、と心臓が鳴って、上擦った変な声で返事してしまった。完全に行き場を失った手をどうしようかとおろおろしていると、傑が振り返ったのでサッと手を引っ込めた。
「もう遅い時間だし、そろそろ寝よう。部屋まで送るよ」
「へ?」
 間抜けな声を発してしまう。確かにもうすぐ日付が変わる時間だが……抱かれるのを期待していたのに、傑には一切そのつもりがなかったことに困惑する。そして恥ずかしくなる。自分だけいやらしいことを考えて、それしか頭にないみたいに……、いや、それしか頭にないのはその通りなのだが。健全な男子だし。でも自分だけだったことが恥ずかしい。
 傑は本をテーブルの上に置き、さっさと立ち上がるとさぁ立ってと悟にも声を掛けながら悟の腕を取った。
「傑、」
「何?」
「……」
 あんなぶっ飛んだ計画を実行する度胸はある癖に、今ここで「エッチしたい」と言い出す勇気がない。変なところでビビリのヘタレの小心者だ。悟は俯いて下唇を噛んだ。
「どうしたの」
 傑が隣に座ったので、長身の男二人分の体重でベッドが軋んだ。顔を覗き込まれて、心臓のドキドキが煩い。
「あの、……い、一緒に寝たい。……だめ?」
「だめ」
「は!? 何で!?」
 エッチしたいという本音を結局言えない代わりに一大決心して勇気を奮い立たせて一緒に寝たいと言ったのに、すげなく却下されて思わず大声を出した。
 何でだよ、彼氏になるって言っただろ、と、自分が脅迫してそうさせただけの癖に更に言い募ろうとして、ぐ、と顎を掴まれる。何、と目を瞠ったまま固まると、傑の顔が近付いて来て、ちゅ、と唇にキスされた。ぞわりと肌が粟立って、唇の表面が軽く触れているだけなのにぞくぞくぞくっと背筋が痺れた。だが、傑の唇はすぐに離れてしまう。もっと、キス以上のことを期待していたのに、と切なくなる。
「……ッあ、すぐる、」
「悟と一緒に寝たら、寝かせられなくなってしまうから、だめ」
「……え!?」
 さらりと聞き捨てならないことを言った癖に、傑は涼しい顔のままさあ立って、部屋に戻ろうと悟を促した。
 寝かせて貰えなくてもいいのにと、浮かれた頭で考えながらすぐ隣にある部屋まで送って貰って、部屋の前でも額にお休みのキスをされた。浮かれてしまう。俺の彼氏かっこいいだろと世界中に自慢したくなってしまう。硝子や七海が見たら、うわあ……とドン引きしそうだが、そんなことはどうでもいいくらい脳内がお花畑だ。


 と、数日は幸せな気分が続いていた。傑が任務でいない日、硝子相手に散々彼氏のかっこいいところ自慢なんぞして硝子をうんざりさせたりなどもした。ただでさえ暑いのに余計に暑苦しいわ、と悪態を吐かれた。梅雨が明けたのか、夏のきつい日差しが差し込むことが増えた。
 のだが、いつまで経っても傑はキス以上のことをして来ない。そのキスだって、舌を入れたり唾液を絡ませたりする激しいものは全くなしで、触れるだけの軽いキスしかしてくれない。最初は脳内お花畑で傑と一緒にいられて嬉しいと思っていたのだが、次第に軽い触れ合いだけでは物足りなくなってくる。むしろ全然足りない。軽いじゃれ合いをすればする程、傑とエッチしたいという欲望がどんどん膨れ上がる。初めてがあんなけだものじみた行為だった所為で、あの凄まじい快感を忘れられない。
 したい。
 どろどろの激しいエッチをしたいと、日に日にそのことしか考えられなくなっていく。前後不覚に陥るまで傑に抱き潰されたい。なのに傑は手を出して来ない。
 耐え難い喉の渇き、或いは空腹を覚えるように、飢えていた。飢餓。もしくは、クスリが切れたジャンキーの禁断症状に近いかも知れない。重症だ。
 何でだよ、何であいつ俺に手出さねえんだよ、またあいつに媚薬盛るしかねえのか、なんてぶっ飛んだことを考えたりしたが、あれから傑は警戒しているのか悟が手渡した物には決して口を付けようとはしない。用心している相手に薬を飲ませるのは無理だ。
「はー……。傑って俺のこと好きじゃねえのかな……」
「……何? 前はあんな惚気てた癖に」
 机の上にぐでーっと寝そべってぼそりと零せば、硝子が呆れたような目で悟を見た。傑は午後から任務で不在だ。昼休みの時間はまだ少し残っている。傑がいない所為で、傑に関するあれこれ思い悩んでいることを硝子にぶちまけてしまう。硝子にとってはいい迷惑である。
「だって、全然手出して来ねえし」
「お前等クズ二人の夜の事情なんざ知らねえし知りたくもねえよ」
「なあ硝子はどう思う? 傑って俺のこと好きじゃねえのかな?」
「知らねえよ本人に訊けよ」
「何でエッチしてくれないかなんて訊ける訳ねえじゃん!」
「……うぜえ」
 げんなりしたような溜息を吐いて、硝子が悟から目を逸らした。それでも悟はうーだとかあーだとか呻きながらがしがしと頭を掻き毟った。
 傑の気持ちが分からない。勿論脅して付き合わせたのだから、悟のことを本気で好きな訳ではないとは思っていた。のに、手を繋いだり硝子に付き合ってることを言ったり、まるで悟を好きなように振る舞う。だからもしかしてと期待したのに、二回目のセックスはしようとしない。
 何で、と同じ疑問ばかりが頭の中でぐるぐるしている。まさかあいつまだ外で野郎とヤッてんのか、としばらく観察してみたりもしたが、その気配はなさそうだ。だが単独任務の時にこっそり遊んでいるとしたらどうだろう。それもない、とは思う。傑の帰宅時間は、いつも予定通りか予定よりも早い。外で遊んでいるとは考えにくい。
 じゃあ何で、あいつ性欲なくなったのか、もしかしてインポか、いやもしや高専辞めて修行僧にでもなるのか、と、思っていることが口に出ていたらしく、硝子がもの言いたげな視線を投げて来る。しかしそこでチャイムが鳴り、先生が教室に入って来たので硝子が何を言いたかったのかは分からずじまいだった。
 明日は傑と任務で、一泊してから高専に戻る予定になっている。ホテルの同じ部屋で、一晩。……傑は、手を出して来るだろうか。傑のことを考えると、体内で熱が燻ってどうしようもなくなる。


 昼間は晴れていて夏の日差しが暑かったが、任務が終わると急に雨が降り出した。それも土砂降りの雨が。傘を持っていなくて、盛大に濡れた。ずぶ濡れの濡れ鼠状態でホテルにチェックインする。
「あー濡れたー。べとべと。傘買う? って訊いたのに傑がすぐ止むなんて適当なこと言うからー」
「確かに私が適当なこと言った所為だけど、何で無下限使わないの。悟は無下限で雨防げるのに」
「傑とオソロにしたかったからー」
「……風邪引くよ」
 はいタオル、と傑が大きめのバスタオルを一枚こちらに寄越す。濡れた髪も服も肌に貼り付いて気持ち悪い。術式使えねえパンピーは大変だなと思いながら、濡れたサングラスを外してそっとタオルで拭う。テーブルの上にサングラスを置いて、それからタオルを頭から被った。
 傑は溜息を吐いて、髪を纏めていたゴムを解いている。濡れた黒髪が肩に掛かる。鬱陶しそうに制服を脱いでワイシャツ姿になると、これクリーニングに出した方がいいかな、とぶつぶつ言いながらハンガーに制服を掛けている。
「悟も服脱いで。着たままだとほんとに風邪引く。というか、シャワー浴びて来たら」
「……傑も早くシャワー浴びねえと風邪引くだろ」
 濡れた服が鬱陶しかったので、制服を脱いだ。そのままベッドに放り出そうとすると、ああもうと呆れた声を出しながら傑が悟の学ランを掴んでハンガーに掛けた。
相変わらず保護者みたいだ。
「私は後でいいから」
 がしがしとタオルで髪を拭かれる。完全に保護者だ。髪から雫が飛ぶ。シャツの生地が貼り付いた傑の腕をそっと掴むと、傑が動きを止めた。
「……風呂、一緒に入りたい」
 口に出した後になって急に恥ずかしくなって、目を伏せた。かあ、と頬に血が集まる。ドキドキと心臓が煩い。傑と一緒に風呂に入ったら、我慢出来なくなってエッチしてくれるかも、とその妄想だけでのぼせてしまいそうだった。
「……だめだよ、それは」
 腕を掴んでいた手をそっと引き剥がされる。優しいが、有無を言わさぬ口調。
 拒絶された。悟から離れて行こうとする傑の腕を、もう一度掴んだ。今度は強く引っ張って、ベッドの上に引きずり倒す。予期していなかったのか、傑はあっけなくバランスを崩してシーツの上に仰向けに転がされた。ぎ、とスプリングが軋んで、すかさず傑の上に乗り上げれば更にベッドが悲鳴を上げる。真新しいシーツに雨の雫を滴らせ、傑を組み敷くような格好になる。
「っさとる、何して、」
 頭に被っていたタオルが床に落ちる。傑の身体を押さえ付けたまま、素早く自分のシャツを剥ぎ取る。ブチッ、とボタンが弾け飛ぶが、構いやしない。
「は? 悟? ちょ、」
 傑の両腕を掴んで、ベッドの柱にシャツで縛って括り付けた。傑は呆気に取られたような顔をして悟を見上げている。存外に簡単に出来てしまったことに自分でも驚いた。緊縛師の才能があるのかも知れない。
 どくどくと心臓が鳴る。どう考えてもこの行動は冷静さを欠いている。しないと言っている相手を無理矢理押さえ付けてするなんて――。だが、もうどうにでもなれという心境だった。傑に拒否されたから。どうせ片思いなんだから、もう嫌われてもいい。タガが外れて、思考がぶっ飛ぶ。
 傑のベルトを外して前を寛げた。濡れたズボンと下着の中に手を突っ込み、萎えている性器を掴む。雨の所為で冷たい。冷たいのに、数日ぶりに触れる傑のものに、ずく、と下腹が熱くなった。
「悟!?」
 傑の声を無視して、下着の中から取り出す。萎えていても太くて、下着まで濡れるような大雨に打たれていた所為で、しとりと湿って指に吸い付く。握って、上下に扱いて強引に勃たせる。数度扱いただけで硬くなり始めるが、傑が身を捩って無駄な抵抗をしようとした。
「悟、やめ、」
「何で駄目なんだよ。俺達、付き合ってんじゃねえのかよ」
「さと、――っちょ、」
 身を屈めて、半勃ちの性器の先端にぺろりと舌を這わせる。少し、しょっぱい。ビク、と傑が身を強張らせた。
「悟、待って、あ、洗ってない、から、」
 慌てた傑の声を聞くのが何だか面白くて、もっと慌てさせたくなってぬろりと口に亀頭部分を含んでみる。微かに雨と、一日活動していたから汗のような味がする。決して美味いとは思わないのに、嫌悪感も躊躇いもない。むしろ興奮した。ずくりと下腹が痺れて、はっきりと下半身が熱を帯びるのが分かる。
「さと、る……!」
 手で根元を柔く扱きながら、竿の部分を舐め上げる。益々硬く質量を増して、亀頭が先走り汁で濡れ始めた。他人の性器なんて舐めたことはないから、多分下手だと思う。その下手な愛撫ですぐ勃つなんて、ヤる気満々じゃねえか、と思わず笑いそうになった。
 口を大きく開けて、口の中に咥え込んでみる。喉奥に亀頭が当たってえずきそうになるのを耐えながら、唾液を絡ませて口で愛撫する。唾液と、傑の先走り汁とが口の中に溢れて、じゅぷ♡と卑猥な音が立つ。傑の腰が震えて、う、と傑がくぐもったような呻き声を出すから、もっと追い詰めたくなる。じゅる、と亀頭を吸い上げて口を離すと、唾液と透明な先走り汁とが糸を引いた。
「なあ、いいだろ。ヤりたい」
 上手く誘惑しようとして、必死な色が滲む声しか出なかった。当然といえば当然だ。誘惑の仕方なんて分からない。
 色気もクソもない誘い方を馬鹿にされるかと思ったが、傑は少し顔を赤くして悟から目を背けた。私も、とかいいよとか、こちらの誘いに乗ることを言わない傑に苛立つ。ちんこはヤる気満々の癖にと、濡れた亀頭に指を這わせると傑の腰がビクッと跳ねた。しかめられた顔から余裕のなさが窺えて、ぞくぞくする。
「……さ、悟、」
「オマエが嫌って言ってもこのままヤるけど」
 一旦身を起こして、濡れたズボンと下着をずり下ろす。露わになる白い太腿と、その間で緩く勃ち上がっている性器とに、傑の目が釘付けになっている。見られて、余計に身体が熱くなった。膝辺りまでずり落ちたズボンのポケットを探って、ローションの小さなパックを取り出す。ズボンは雨に濡れたが、個包装の使い切りの袋の中身は問題ない。
「ちょっと、悟、」
 封を開けて、中身を手の平に向かって傾ける。とろりとした液体は、冷たい。指にローションを絡めてそろそろと後ろへと手を伸ばせば、傑がギョッとしたように目を見開いた。
「さとる、」
「煩い、ちょっと黙れ。――っふ、」
 自棄になって傑に命じながら、ローションを絡ませた指をつぷりと穴に埋めた。冷たい液体が纏わり付いた指の感触に、身体が反射的にひくんと跳ねる。
「っあ……♡」
 ぐぷりと根元まで一気に挿入すると、ビクリと身体が震えた。少しだけ兆していた中心が、ふるんと震えながら天を向く。薄ピンク色の亀頭が露出して、触れて欲しそうにひくつく。そこには触れずに、後ろにもう一本指を挿れる。穴が難無く指を呑み込んで、ローションがぐちゅりと卑猥な音を立てた。指でぐぱりと拡げると、ひくひくと物欲しげに収縮する。
「あ、あ゛ッ♡ひう♡あっ♡」
 ぐちゅ、ぬちゅ♡ぬぷ♡ぬちゅ♡
 ビクッ♡ビクッ♡ビクン♡ビクン♡
 卑猥な音をさせて出し入れを繰り返す。小刻みに身体が跳ねて、先走り汁が亀頭の表面を濡らす。すぐに小さな窪みだけでは受け止め切れなくなって、たらりとシーツの上に垂れて染みを作った。
 薬を盛られた傑に犯されてからというもの、殆ど毎日のように後ろを自分で弄っていた。お陰で今や指を挿れたくらいでは痛みは全くない。むしろ粘膜が指に絡み付いて、そこでの快感を得ようとする。弄れば弄る程に物足りなくて、満たされない。もっと欲しくなる。
 痴態を傑に見られて、いや見せ付けていることに、ぞくぞくぞくっと興奮した。
「っは、あ゛……ッ♡ふあ、あ゛っ♡」
 恥ずかしいことをしているのを、見られたい。恥ずかしい声を聞かせて、自分のあられもない姿を見せて、傑に発情して欲しい。変態じみた願望がどんどん膨れ上がるままに、蕩けた顔で傑の方を見る。
 傑と目が合った。目が合うということは、傑も悟の顔を見ていたということだ。嬉しくなって、挑発するように唇の端を持ち上げる。顔を赤くした傑に即座に目を逸らされてしまったが、ぶわりと大きくなる傑の雄が、彼の興奮を示している。
「っなあ、……遠慮すんなよ。見ろよ、傑」
「……」
 後ろを弄っているのを、指を咥え込んでいる場所を、傑に見られたかった。だが傑には見せてやらない。ざまあみろだ。傑は悟が卑猥な音をさせて後ろを弄りながら、蕩けた顔をしているのだけを見て妄想を膨らませておけばいい。
「すぐる、」
 挿れたいんだろ?
 囁きながら、空いた方の手の指先で傑の勃起を小さく弾く。ぶるんと震えて、先走り汁がどぷりと零れる。笑みを浮かべながら指を穴から引き抜いて、膝の辺りまでずり落ちていたズボンと下着を脱ぎ去った。全裸で傑の屹立の真上に跨る。貫かれるのを想像しただけで、期待にひくりと喉が鳴った。
「悟、ちょっと待て、ほ、ほんとに、」
 傑の竿を掴んで、指で掻き回していた場所へ誘導する。どくどくと、耳の奥で血が騒ぐ。あ、ゴム、と思ったが、すぐに別にいいやと思った。傑といつセックスしてもいいようにゴムもローションも持ち歩いているが、生で奥まで犯されたいと、それしか考えられない。
「っあ、うあ、あ゛……♡」
 亀頭に触れた粘膜が必死に絡み付こうとするのに任せて、ずぷずぷと腰を沈めた。中の、欲しかった場所を太いものが擦り上げながら奥まで埋め尽くす。みちみちと拡がって、媚肉がきゅん♡と悦びながら吸い付いた。久し振りに得る快感が凄まじく、挿れただけなのにまるで押し出されるようにして射精してしまう。
「あ゛♡は、ッあ♡あ゛ー……ッ!?」
 びゅ♡びゅる♡びゅっ♡びゅっ♡
 精液が迸り、傑の濡れたシャツに飛んだ。身が仰け反って、びくびく跳ねる。腰も、頭の中も、蕩けてしまいそうだった。蕩けてどろどろのぐちゃぐちゃになってしまいそうなくらい気持ちいい。じんじんと舌先まで痺れて、開いたままの口の端から涎が垂れた。涙が出る。両目から溢れて、頬を伝う。
 傑と繋がれて、嬉しい。嬉しいのに、悲しい。セックスしてる筈なのに、セックスじゃないみたいだ。だって傑は動いてくれないし。傑の身体を使ってオナニーしているみたいだ。
「う、……う、あ、」
 涙が止まらなくて、視界がぼやけた。傑の表情もよく見えない。だが傑がたじろぐのは気配で分かった。
「っさとる、どうしたの。……い、痛い? ゆっくり抜いて、」
「やだ」
 心配そうな傑の声に首を横に振る。そっと腰の辺りに手を添えられる。掴まれて抜かれてしまうんじゃないかと思って意地になり、反射的に拒否しながら傑のシャツの裾をぎゅうと掴んだ。俯いて顔を隠しても、涙は止まらない。
 痛くない。きもちいい。奥に埋まったまま、全然萎えていない傑のものでもっと掻き回されたい。中に、精液をいっぱい注ぎ込まれたい。
 欲望には際限がなくて、欲望が募れば募るだけ比例するように虚しさもまた募っていく。だってこれはセックスじゃないから。身体を繋げても、ただ悲しくて虚しくて虚無感だけしか残らない。
「……れる、」
「っえ? 何?」
「わ、わか、れる」
 声に出してはっきり言うと心が張り裂けそうなくらい痛い。いたい。鋭いナイフで切り裂かれたみたいに。物凄くイタイ。
「……それは、どうして?」
「だって、……お、俺のことなんか、好きじゃないんだろ」
「何でそう思うの」
「……だってオマエ、エッチしてくれないし!」
 大声で喚くように言うなんてみっともないと思いながらも自制が利かない。腕で涙を拭いながらうわあああと子供のように泣き喚く悟の腰を掴んだ傑の手に不意に力が篭って、ぐいと腰を上に持ち上げられた。ずろ、と中途半端な場所まで抜けた太い性器が、おもむろに悟の腰を追うようにずちゅっ♡と深い場所へ捻じ込まれる。
「ふあ、あ゛ッ!?」
 不意打ちにビクンッ♡と腰が跳ね上がった。え、何で、と混乱している間にまた抜かれて、下から突き上げられる。強引に奥を暴かれ、身体が何度も跳ねる。すぐに前が硬さを取り戻し、ふるりと震えながら天を向いた。
「す、ぐる、ッあ゛ッ♡なんで、」
 いつの間にか、さっきシャツで縛った筈の傑の腕が解かれている。強く悟の腰を掴んで容赦なく怒張で後孔を拡げながら、傑が顔をしかめているのが目に入る。困り果てているようにも、少し怒っているようにも見える。
「悟、私が悟のこと嫌いだったら、こんな風に悟に襲われて勃たせてる訳が、ないだろ」
「で、でも、ッひ♡あ、あ゛ッ♡らめ゛♡」
 ぐぽ♡ぐぷ♡と濡れた音が繋がった場所から聞こえて羞恥が募る。快感で何も考えられなくなる。そんなの嘘だろ、と否定したいのに、口からは上擦った喘ぎ声ばかりが出る。先走り汁が溢れ出て、鈴口に少しだけ残っていた白濁の残滓と混じり合う。
 きもちいい。ずっと挿れたままにしておいて欲しい。どうかしているとしか思えないような願望に脳を支配されている。
「本当は、好きにならないようにしたかったよ。悟の気持ちを、少し疑ってたから」
 ごめんねと、囁きながら傑が腰を打ち付ける度に悟の白い性器の先からぴゅ♡と透明な汁が飛んだ。傑のことを信じられない気持ちと、奥まで傑に貫かれて嬉しいという気持ちとが混じり合って、頭の中がぐちゃぐちゃだった。本当、なのだろうか。
「ッあ゛ッ♡ひぃ゛っ!? すぐりゅ♡あ゛っ♡」
「でも悟が可愛いから、好きにならないのは無理だった。毎日悟とセックスすることばかり考えてたよ。最初の時に恐い思いをさせたんじゃないかと思って、二回目に踏み出せなかった」
 傑が涼しい顔をして隣にいながら、実は心の内ではそんなことを考えていたのかと思うとぞくぞくした。こんな臆病な彼氏で幻滅した? なんて訊かれながら何度も奥を穿たれる。してない、と伝えたくても言葉を喋る余裕がなくて、せいぜい意思表示の為に首を横に振るくらいしか出来ない。
「ッひ、あ、あぁ゛ッ♡すぐ、る♡」
 ずちゅ♡ぬぷ♡と下品な音と、ベッドのスプリングが軋む音と、自分の恥ずかしい声とが木霊する。襞を擦られ、奥にぶつけられ、目の奥で星が明滅する。傑の動きに合わせるようにして自身もいつの間にか腰を振りながら、ぎゅうと傑のシャツの裾を掴んだ。シャツは今や雨と悟の精液と先走り汁とでぐしゃぐしゃになっていた。
「すぐりゅ……♡すき、」
「私も」
 ぐり♡と一際奥へと捻じ込まれた瞬間、また欲を爆ぜさせていた。同時に中の傑のものが震えて、熱くてどろりとした精液を体内に注ぎ込まれる。
「あ゛……ッ♡あ、あひ♡あ゛……っ♡♡♡」
 びゅ♡びゅる♡びゅっ♡と二回目の射精でも濃いままの精液が飛ぶ。あつい、と思った。腹の中も、身体も、頭も。きもちいいのが、ずっと止まらない。
「……は……、絶景だね」
 傑が両目を細めて愉しそうに笑う。言われて急に恥ずかしくなった。傑の上に乗って腰を振りながら蕩けた顔を晒して喘いでいることが。射精の余韻も一気に吹っ飛ぶくらい恥ずかしい。さっきは傑に見て欲しかったのに。見られたくないと思った。
「……っや♡み、見んな、」
 慌てて腕で顔を隠そうとする。傑に腰を掴まれたままで、ぐいと身体を引っ張られてバランスを崩した。
「だめ。見せて」
 低い声で、傑が囁く。
 どさりと仰向けに倒れ込んだ拍子に、奥まで埋め尽くしていた性器がぬぽりと音を立てて中から出て行ってしまった。カリが襞を擦りながら出て行く感触に、イッたばかりの身体がビクリと跳ねる。
「っひ♡」
 空洞が寂しげにひくつく。離れないでと、咄嗟に位置が逆転した傑の腰に足を回してがちりと固める。それでも逃げられてしまうと不安になってぎゅうと肩にしがみ付いたのに、濡れて汚れたシャツを傑が脱ぐから、せっかくしがみ付いた手が肩から滑り落ちてしまった。顔を近付けられて、傑の長い髪が頬を掠めた。傑の視線から逃れるように目を逸らし、腕で目元を覆う。
「悟の全部を見せて」
「や、やだ、」
「ひねくれてるな。見られたい癖に」
「っちが、」
 腕を取られて隠していた場所を暴かれる。その腕をシーツに縫い留められながら、すっかり柔らかくなった後孔にまたぬぷりと雄を差し込まれた。傑の性器は、全然萎えていなかった。
「あ、……すぐる……♡」
 形にすぐに馴染むように、穴がきゅんと収縮する。奥へと誘い込むように絡み付いて、擦られる内壁が、甘く切ないような愉悦を全身へ伝える。またも緩く勃ち上がりかけていた前を傑の手に包み込まれて扱かれて、ビク♡ビク♡と腰が嬉しげに痙攣した。触って欲しくて仕方なかった場所を傑に刺激されて、期待するように喉がひくりと鳴った。
「あ、あ゛ッ♡ひ、あ゛ッ♡」
 すぐに完勃ちした性器が、既に精液と先走り汁でどろどろになった竿を新たな先走り汁で濡らした。指に鈴口を抉られて、身体が壊れた玩具みたいに何度も跳ねる。
「す、すぐる♡あ゛っ♡そこだめ、」
「かわいい、さとる」
「や……♡うるさ、」
「かわいい」
 薬で朦朧としていない素面の傑にかわいいと言われるのは、想像以上に耐え難いレベルで恥ずかしかった。いっそ言わないでくれと思う。言われたら嬉しい癖に。天邪鬼だ。
 顔を背ければ、耳朶をべろりと舐められてぞわぞわした。もういいから、奥に突っ込んでわけ分かんなくなるくらい掻き回して欲しい。そう思うのに、傑は浅い場所で腰を止めて、ずりずりと出口近くばかりを虐める。物足りなくて、じれったい。眉根が寄り、奥にいれてと、恥ずかしい台詞でおねだりしてしまいそうだ。
「傑……っ♡も、はやく、」
 ごりゅ♡と傑の亀頭が腹側にあるしこりのようなものを強く擦った。途端、身体に電気を流されたみたいに痺れて、引き攣れるような痙攣に襲われる。
「――ッあ゛……っ!?♡」
「あ、ここ?」
 さとるのきもちいい場所。
 薄く笑みを浮かべた傑が、そこばかりを執拗に擦る。その表情は普段と違って意地が悪い。ぐり♡ぐりゅ♡としつこく亀頭に蹂躙され、鈍痛にも似た悦楽が、絶えず身体の内側を苛んでいくような感覚に陥る。
「っあ♡や、待って、だめ♡すぐる、」
「ここね、前立腺って言って、悟がだめになるとこ。気持ちいい?」
「わ、わかんな、ッあ♡あ゛……っ♡」
「じゃあここが気持ちいいって、ちゃんと覚えて」
 じわじわと中からじっくり嬲られていくような快感が、腰を、脳を、蕩けさせる。要らぬ知識を吹き込みながら、傑は人の悪い笑みを浮かべている。こりこりと硬くなったしこりを押し潰されながら切なげに蜜を零す前までぐちゅぐちゅと扱かれて、目の前が真っ白になった。
「や、だ……っ♡も、一緒にされるの、やら゛♡♡すぐ、――っひう、あ゛ッ♡」
 ぐり、と鈴口に指をめり込まされて、ビクン♡と身が仰け反った。指と尿道口の間からどっと蜜が溢れ出て、するりとカリへと指を滑り込まされたと同時に、とろとろと勢いのない精液が先端から伝い落ちた。
「ひ……♡あ、あ゛、っあ……ッ♡」
 恍惚感に侵されて、震える身体が言うことを聞かない。汗と涙と涎で汚れ、蕩け切った酷い顔を傑に見られたくないと思うのに、異様に熱の篭った傑の視線から逃れられない。逃れる方法を、悟は知らない。蛇に睨まれた蛙よろしく固まったまま、呆然と荒い息を繰り返す。と、しつこく前立腺ばかりを虐めていた傑の太いものが、ぐぷりと音をさせてまた深い場所へと押し進められ、身体が跳ねた。
「や゛……ッ、ま、待って、今、らめ♡」
「だめ。待たない」
「すぐる……!」
 縋るように名を呼ぶ声はあえなく無視されて、片足の膝裏に手を差し込まれたかと思えば高く上げさせられた。ろくに身体に力が入らないままに、足を傑の肩に抱えられるような格好になって、逃げ場がない。これ以上奥になんて入りようもないと思っていた性器が、更に深い場所へと侵入して来る。
「っあ、あ゛、すぐる待って、だめ、あ゛っ♡」
 限界まで埋まった昂りが、一番奥の行き止まりをこつこつと叩く。それ以上入らない筈なのに、何度も叩かれているうちに徐々に緩んでいく、ような気がする。
 まさか、入るのか。ひぐ、と喉から奇妙な悲鳴なのか嬌声なのか判然としない音が漏れた。
「ここ、入ってもいい? いいよね」
 ぐいぐいと押し付けながら、傑が欲に塗れたような声を出す。
「ね、いいよね、悟。この奥、結腸っていうんだけど、そこに挿れられると、物凄く気持ちいいんだって」
「だ、だめ♡そこ、はだめ♡む、無理だから、や゛め、」
 だめだ、と脳が警鐘を鳴らした。それ以上挿れてはいけない。後戻り出来なくなる。何かが壊れる。
 本能的な恐怖に目を見開いて身を捩ろうとした。だが傑に片足を抱え込まれている所為で抵抗はおろかろくに身動きも取れない。いやいやと首を横に振る。獲物を仕留めた肉食獣が餌を前にして興奮しているかのように、傑が下唇を舐める。その仕草にぞわりとした。
「す、ぐう、――ッあぁ゛……ッっ!?♡♡♡」
 ぐぷんっ♡♡♡
 嫌な音と共に、無理矢理こじ開けられた場所に傑の亀頭が入って来る。息が詰まって、初めての感覚に身が仰け反る。目に涙が浮いて、苦痛と紙一重の快感が肌を粟立たせた。
「待、~~~っ無理♡だ、だめ♡あ♡ひッ♡」
「無理なの? 勃ってるけど」
 ねえ悟、ほんとに無理?
 熱を孕んだ声に、無理だ馬鹿今すぐ抜けと言い返したくても言葉を紡ぐ余裕が一切ない。自分でも気付かないうちに勃起していた前を、ゆるゆると扱かれる。反射のように身体がびくびくと跳ねた。中が少し緩んだ隙を見計らったかのように、ずぷりともっと奥へ挿れられる。挿れられた瞬間に、勃ったばかりの前が精液を噴き零した。
「あ゛あッ♡♡♡や、やぇ゛♡らめ♡すぐりゅ♡あッ♡あ゛ッ♡♡♡」
「っすごい、締まる……っ、」
 は、と吐息混じりに笑みを零し、傑が掠れた声で呟く。目に、微かに加虐の色を滲ませて。
 ぐぷ♡ぐちゅ♡と下品な音をさせながら揺さぶられ、身体が蕩ける。ざりざりと擦られて、目の奥で火花が散った。
「あ゛ー……♡♡らめ、ひ♡あッ♡あん゛ッ♡あ゛っ♡」
 勃つ間もなく、性器の先からびゅる♡と透明な液体が飛ぶ。何度も、何度も。ぴゅ♡ぴゅ♡と迸って、飛沫が飛び散る。ぶしゃっ♡と勢いよく噴出して、傑の腹や、悟の顔にまでかかった。精液ではなさそうなさらりとした液体なのに、イッてるような快感が延々と続く。終わりのない地獄みたいに、ずっと続く。或いはこれは天国なのかも知れない。地獄みたいな天国。
「すぐう、ッ♡ら゛めぇ゛ッ♡んッ♡あ、あ゛ぁッ♡イッてる♡♡♡イッてう、からぁ゛っ♡♡♡」
「さとる、……好き」
 ぐぷぐぷと中を掻き回されながら、傑にキスされた。太腿が脇腹につくくらい足を広げさせられながら。口の中に入って来た傑の舌に、粘膜を蹂躙される。ちゅ、ちゅ♡とリップ音と、唾液の音とが鼓膜を犯した。唾液が口内に溜まって、口端から垂れ落ちる。
 息が出来なくて苦しい。腹の中も、苦しい。傑のが入っちゃいけない場所まで来てる所為で、腹が膨らんでる気がする。でも、キスされながら手を繋がれて、そういう苦しさが全部どうでもよくなるくらいの幸福感に満たされる。
 傑の熱い精液が、既に一回目の射精で一杯になっている腹の奥へとまた注ぎ込まれる。どくどくと中で性器が脈打って、種付けするみたいに、びゅくびゅくと大量に中に出されている。
「……ッん♡う、……すぐ、る♡中、あつい、すき♡」
 蕩ける。どうにかなってしまいそうだ。いや、もうどうにかなっているかも知れない。明らかに挿れてはいけない場所にまで突っ込まれて、気持ちよくて潮吹きが止まらないのだから。
 傑の所為だ。だから傑には一生かけて責任を取って貰おうと、意識を手放す寸前の頭で考えていた。
 ――傑は、俺のだ。絶対に、手放してなんかやらない。
 もっとも、傑の本性を知った上でなお好きでい続けられるのなんて、自分くらいだろうと思う。傑は優しそうなツラをして、実は全然優しくない。酷い。そこが好きだ。そしてその本性を知っているのは自分だけだ。
 優越感と満足感とを覚えながら、意識が遠のいていく。