3

 鄙びた旅館の一室で、夏油傑は悶々と延々と考え込んでいた。敷かれた二組の布団のうち、部屋の奥に敷いてある方の上に浴衣姿で胡座をかき、静まり返った部屋の中でじっと虚空を見つめて考え込む。
 親友の、悟のことを。
 悟に避けられている気がするし、そうでもないような気もする。どっちだよ、と自分でも思うが、自分でも分からないから困っている。
 任務中、悟とは今まで通りに息が合っていたと思う。でも話している時に目が合わない。でも悟と別方向を向いていて、不意に悟の方を見ると目が合う。すると悟は目を逸らす。顔を少し赤くしながら。その時の顔が、前にもう一度擽ってとねだって来た時に見せた表情と同じで――
 客室の出入り口のドアが開く音がして、そう間を置かずに悟が引き戸を開けて部屋に姿を表した。日本人離れした容姿をしているのに、この旅館の紺色の浴衣という和装が、悟には驚く程よく似合う。濡れた髪も、上気した肌も、浴衣の合わせ目から除く鎖骨も、何もかも目に毒だ。
「意外にいい風呂だったなー。旅館はボロいから風呂もショボいのかと思ったけど」
 よっこらせ、とおっさんみたいな台詞を吐きながら、隣の布団に腰掛ける。枕元にさっきまで着ていた衣類とサングラスを置いてそのままごろりと横になりそうな気配を察知して、傑は殆ど反射のように腕を掴んでそれを阻止した。ギョッとしたように傑を見る悟の目に、吸い込まれそうだ。
「っえ、何、」
「……髪、乾かしてないだろ」
「……あー。……何、そんなこと? 別に、いいだろ。めんどくさい」
 ふいと悟が目を逸らした。……やっぱり、目が合わない。
 私のこと、好きなんじゃないの。
 とは、訊けない。好きだと、確かに一度言われた。でもあれはなんというか、高揚して思わず口走っただけかも知れない。現にあの後は一度も言われていない。そう口に出したことさえ忘れているかのように。いや本当に記憶にないのかも知れない。
「よくないよ。悟が面倒なら私が乾かすから」
 丁度、悟より先に入浴を終えて自分の髪を乾かし終わったばかりだ。まだコンセントに繋げたままだった旅館備え付けのドライヤーを片手に持って、悟を手招きする。拒否されるかな、と少し不安になった。さっきも、風呂に一緒に入ろうと言うと何故か拒否された。俺は後でいいから傑先に入れ、と。いつもは悟の方から一緒に入るぞと誘う癖に。
 悟は少し迷うように、視線を彷徨わせた。数秒、黙り込む。だが結局のろのろと傑の方へにじり寄って来て、いつもの定位置――傑に背を向けてすぽりと両足の間に収まったので、おやと思う。いつもは傑がベッドに座って、悟が床に座るというドライヤーの定位置なので(ドライヤーをする時以外はこの位置が逆転するが。悟がいつも我が物顔で傑のベッドを占領している所為で、傑は自分の部屋なのに床に座らざるを得ないのだ)、ベッドがないと、悟の頭が高い位置にあってやりづらい。傑は布団の上で膝立ちになった。
 ドライヤーのスイッチを入れると、ブオオ、と温風が悟の白い髪を揺らした。温風を髪に当てながら、髪を手で梳く。いつも通りの行動だが、あれ以来――擽りの罰ゲームをした日から悟の髪を乾かしていなかった。懐かしいような、温風に靡くふわふわに見えて意外とさらさらな手触りが愛しいような気持ちになる。
 髪に指が触れた途端、悟の肩がビクッと跳ねた。気の所為、では済まない程はっきりと。驚く傑に、悟がやけにわざとらしく明るい声で話し掛けた。
「そ、そういやさあ、ロビーの売店に甘そうなお菓子売ってた! 土産に買って帰っていい?」
「そうだな。明日の朝買って帰ろう。悟一人で食べちゃ駄目だよ」
「わ、分かってるよ。俺がそんなことする訳ねえだろ」
 どうだかね、と少し意地悪い気持ちになって答えると、悟の頬がぷっと膨らんだ。ちょっと可愛くて笑ってしまった。
「任務、楽だったね。特級二人もいらないような内容だった」
 顔が見えないのが少し寂しいとはいえ、悟と普通に話せるのが嬉しい。だから何気なく今日の任務について話を振った。あっという間に終わってしまったので、明日の朝には帰宅しなければならない。帰宅したら、悟と二人だけで過ごす時間は終わりだ。それを残念に思っていることに戸惑う。今まではそんなことなかったのに。
「そりゃあそうだろ。ほんとは傑と七海で行く予定だったんだけど、俺が七海に代わってって頼んだから」
「……は?」
 悟からの思いもよらぬ返答に、傑は思わず素の声が出てしまった。悟があまりにも自然にさらっと当たり前の調子で言うから、理解が追い付かない。
「……あ、」
 束の間、悟が固まって、中途半端な声を出した。ブオオ、と煩いドライヤーの音に掻き消されそうな小さな声だったが、確かに傑には聞こえた。余計なことを言った、とその一声から滲み出ている。どういうことだ。七海に代わって貰うなんて。それではまるで、傑について行きたかったみたいに聞こえる。
「さとる、今のって、」
「っち、違う。何でもない、」
 ぶわ、と、悟の頬も耳も真っ赤に染まった。髪も肌も白い所為で、赤く染まるとそこだけが際立ってしまう。だから悟は分かりやすい。
「今の、どういう意味なの」
 ドライヤーをオフにした。悟の答えを聞き逃さないように。
 何でもないと言われてはいそうですかと見逃す程、傑はお人好しではない。殊更、今の台詞は聞き捨てならない。どういう意図で任務を代わって貰ったのかが、激しく気になる。悟が答えたくないと拒否しても、しつこく問い詰めて悟に答えさせないと気が済まない。
「な、何でもな、」
 知られたくなかったことを傑に知られて、というか自分から誤爆して、更にその件について傑に突っ込まれて、悟が傑から逃げようとした。自分の布団の方へ素早く避難しようとするその首根っこを掴めば、頬を真っ赤に染めた悟が、勘弁してくれとでも言いたげな困ったような顔で振り返った。
「――っ、」
 滅茶苦茶にしたくなる。衝動のまま、悟の身体を仰向けにひっくり返した。悟の体重を受け止めた布団がぼふっと鈍い音を立てる。生乾きの白い髪がシーツの上に広がって、引っ張った所為で乱れた浴衣の合わせ目から、白い肌が胸元まで覗く。乳首まで見えてしまいそうで、耳の奥で血液がどくどくと音を立てているのを感じた。
「すぐる、髪まだ乾いてない、」
「いいから」
「……オマエが乾かして寝ろっつったんだろ」
 悟にしては珍しく正論だが、そんな弱い反論で逃げられると思っているのだろうか。そもそもこんな、顔を赤くしてねだるような目を向けて来る癖に、逃げるつもりが本当にあるのだろうか。身の内で飼っている危険なけだものが、むくりと頭をもたげる。このまま一線を越えてしまいたいという衝動と、それはまずいと止める理性とが、鬩ぎ合っている。
「悟、どうして任務、七海と代わって貰ったの」
 答えなんて分かっている癖に、それを悟の口から直接聞きたい。そう思うのは、意地が悪いのだろうか。
「……」
「さとる、」
 目を逸らそうとするから、低い声で名を呼びながら顎の位置を無理矢理固定させた。悟の顔が泣きそうに歪むと、ぞくぞくと背筋に痺れが走った。下唇にそっと指の腹を這わせれば、悟はビクリと身を竦ませる。観念したように目を伏せると、長い睫毛が綺麗な目に影を落とした。
「す、すぐると、一緒にいたくて、」
 緊張しているのか、声が微かに震えているのが可愛い。
 悟からそんな風に甘い言葉を言われたいと渇望する人間はきっと大勢いるのに、悟はそんな人間に全く興味を示さない。にも関わらず、自分にだけは懐いて、心を開いて、身体まで大人しく明け渡すような真似をする。優越感だとか独占欲だとか、そういう歪な感情がどんどん膨れ上がるのを、止められない。
「……この前の、またして欲しかった、から、」

 予想していた答え以上の言葉が返って来て、反応が遅れた。  この前の。この状況で、顔を赤くして恥ずかしそうに小さな声で言う『この前の』に該当するのが、……部屋で、性器同士を擦り合わせたあれのことしか思い当たらない。下腹が鈍く、重く痺れるのを感じた。この前の、だけに留まらず、その先まで、最後までしてしまいそうだ。
 けれど、悟がそれを渇望するのは何故なのだろう。それも、答えは分かりきっている。傑のことを好きなんじゃなくて、気持ちいいからだろう。気持ちいいことが、好きだから。当然だ。嫌いな人間なんていない。だから、悟はそれをねだる。してくれる相手が、傑しかいないから。他の人間でも間に合わせることが出来ると知ったら、きっと悟は自分から離れて行く。  離れて行くと分かっているのに、一線を越えてしまうとどうなるのか。傑の方が、悟から離れられなくなるんじゃないかと恐い。きっとそうなる。辛い思いをしなければならない。
 苦しむと分かっていて、親友と性処理をし合う奇妙な関係を続ける度胸が、傑にはなかった。
「さとる、意味分かってる?」
 すっと身を起こすと、悟はきょとんとした顔で傑を見上げた。意味、全然分かってない顔だ。
「……親友同士で、普通はそんなことしないんだよ」
 自分でも驚く程冷たい声が出た。突き放すような言い方になってしまった。悟は布団の上に仰向けに寝そべったまま固まっている。硬直して、じっと傑を見ている。傑の方から視線を外して、ふいと悟に背を向けた。
「明日、朝早いからもう寝るよ。悟も夜更かしせず早く寝たら」
 怒っている訳じゃないだとか、ごめんだとか、フォローすべきかと思ったが、そうするとやっぱり悟が望んでいるんだからしてもいいんじゃないかと迷いが生じそうだったからやめた。寝て、なかったことにして、そうしたらまた親友を続けられると思った。臆病だから、それしか方法が思いつかなかった。
 自分の布団を捲り上げ、潜り込もうとする。隣で悟ががばりと身を起こす気配がして、振り返った瞬間に悟に掴み掛かられて、今度は傑が布団の上に仰向けに押し倒された。
「っさ、悟?」
 驚いて見上げると、悟は傑の胸元に顔を伏せてしまった。柔らかく、生乾きの髪が開いた胸元を擽る感触にぞわりと肌が粟立つ。ぷるぷると震えながら、悟が喉の奥から絞り出すような声を出した。
「……んで、」
「え?」
「じゃあ何で、この前は親友同士で普通はしないことしたんだよ!?」
 がばっと顔を上げた悟が大声を出しながら傑に詰め寄った。真っ当な反論だ。正論過ぎて、何も言い返せない。悟にねだられたから、なんて言い訳は通用しない。ねだられても今みたいに突っぱねることは出来たのに、傑はそれをしなかった。
「……ごめん」
「俺は、オマエと親友じゃなくなってもいいと思ってる」
 それは、もう絶縁するという意味だろうか。最悪の結果だ。
「さとる、私は、」
「……だから、風呂で準備した」
 せめて弁明させて欲しくて起き上がろうとするが、長身の男に乗っかられている上にその男がやたら赤い顔で熱の篭もった視線を傑に向けながらとんでもないことを言ったので、傑の思考も動きもフリーズした。は? と思いながら悟を見上げていると、悟は傑の上に乗っかったままもぞもぞと身を起こして、浴衣の帯を解いた。はらりと布団の上に帯が落ちて、悟の白い胸と腹とが露わになる。
「俺は、意味分かってたけど、ちゃんと」
 指突っ込んで掃除して、オマエのが挿るように指で解して来た。だってオマエのこと好きだから。でもケツに自分の指突っ込むの、マジ吐きそうだった。
 悟は明け透けに暴露しながら薄く笑みを浮かべた。酷く美しく、目が離せなくなるような笑みだ。挑発するようにぺろりと下唇を舐めながら、傑の帯をするりと解く。余裕の表情を作ろうとして、帯を解く手は微かに震えている。上気した頬も、濡れた唇も、長い睫毛も、睫毛に縁取られた青い目も、そして悟が緊張しているという状況も、悟が傑に抱かれる為の準備をしたという事実も、全部劣情を煽った。
 理性が崩壊する音を、何処か遠くで聞いたような気がした。
 悟の肩を掴んで、布団の上に引き倒す。ぐるっと半回転して、形成が逆転する。自身の長い髪が、悟の頬を掠める。まるで自分と悟だけを閉じ込めたようだった。目を瞬かせる悟に覆い被さるようにして、唇に口付けた。ビクッと悟の肩が跳ね上がる。
「ッん、ん……っ!?」
 抗議の声を無視して舌を口内にねじ込む。無意識に奥へ逃げようとする舌を追い掛けて捕らえて絡め取る。熱くて濡れた粘膜同士を擦り合わせれば、じんと頭の奥も腰の奥も痺れた。
 本能のまま貪ることしか考えられないのに、悟が必死に傑の腕を掴んで引き離そうとする。自分から煽った癖にと思わないでもないが、相変わらずキスが下手くそな悟が呼吸の仕方を忘れたみたいに苦しそうだから、仕方なく口を離した。唾液が糸を引いて、悟の口端から垂れ落ちるのがいやらしい。呼吸を乱した悟の批難するような目に、明らかに色欲が滲んでいる。
「は……♡急に、何すんだ、よ」
「悟が急に準備したとか意味分かってるとか言うからだろ」
 前がはだけて、殆ど裸の悟の腹に指を這わせる。その弱い刺激だけで、悟はびくびくと震えて期待するように甘い声を出す。つつ、と指を滑らせて、下着の薄い布地を押し上げているものの先端に触れる。硬くなったものが既に先走り汁を零しているらしく、布に小さく染みが出来ている。
「っあ……♡すぐる、」
「……準備してきたとこ、見ていい?」
 今度は急に行動せずに、悟に脱がせていいか訊く。土壇場でビビッて嫌だやめろと言うかも知れないと思ったが、悟は大人しくこくんと頷いた。むくむくと湧き上がる性欲と独占欲とをコントロール出来なくなりそうだと思いながら、下着をずらす。臨戦態勢の性器がぶるんと飛び出す光景は、酷く目に毒だ。そこに触れたいのを我慢しながら下着を膝の辺りまでずらして、両足をぐっと持ち上げる。尻の窄まりにそっと指を這わせると、確かに体液ではないとろみのある液体でぬちゅりとぬかるんでいる。
「ッ♡あ、」
 期待するように悟が腰を浮かせるから、窄まりがひくついて指を挿れて欲しそうに見えるから、中指をゆっくりと中に埋めた。くぷ、と第一関節まで差し込んで、悟の様子を窺う。
「痛くない? 大丈夫?」
「だい、じょうぶ……♡もっと、」
 は♡は……♡と熱っぽい息を吐きながら、熱っぽい視線を傑に向けながら、悟が掠れた声を出す。痛がったり嫌がったらやめようと思っていたのに、くぷくぷと根元まで埋める頃にはやめるという選択肢が頭から吹っ飛んだ。悟が苦痛も拒否感も訴えずに、掠れた甘い声を上げるから。中の粘膜がきゅうきゅう指を締め付けて、もっと欲しそうに蠢いているから。頭が沸騰しそうだった。
「あ♡ッあ♡すぐるの、ゆび……♡♡ひ、あ♡あ゛っ……♡♡」
 もう一本、今度は人差し指を窄まりに差し込む。体内の異物の体積が増えて悟が一瞬眉をひそめるが、指は思いの外すんなりと奥まで迎え入れられてしまう。中の具合を確かめるように動かすと、悟の腰が揺れる。準備したという言葉通り、ローションでぬかるんだ穴の中が、指を動かす度にぬちゅぬちゅと卑猥な音を立てる。
「はあ、あ゛ッ♡♡すぐ、ッん♡あ、あ゛ッ♡♡♡」
 吐きそうだったなんて言う割には、悟は蕩けた顔で淫らな声を上げている。ビクビクと腰が揺れ動いて、萎えもせず膨張したままの前からはだらだらと先走り汁が垂れ落ちて、傑の指も、悟の後孔も濡らす。
 この様子だともう一本入りそうだなと判断して、薬指もずぷりと埋め込む。三本の指でくぱりと拡げると、中のピンク色の粘膜がひく♡ひく♡と卑猥に痙攣しているのが鮮明に見えて、下腹が疼く。ここに勃起をねじ込んで奥まで突きたいと、その想像が脳内に広がる。
「や゛……♡待って、拡げるのだめ♡見んな、ッあ゛♡♡♡」
「さっきは見ていいって言っただろ」
「あ♡なか、見られるのやら♡」
 見るなと言われると余計に見たくなるし、余計に辱めたくなる。真っ赤になった顔をまた腕で隠してしまった悟の片足から下着を抜き取り、足をM字に大きく開かせた。僅かに足を震わせて閉じようと抵抗するが、ぐいと強引に開かせると、悟はあっさりと傑の眼前に恥ずかしい場所を曝け出した。嫌というのは口先だけのようだ。
「でも悟、見られて嬉しそうにひくついてるよ。なか、綺麗なピンク色でやらしい」
「う、るさい……♡も、離せ、ッや♡あ、すぐる、」
 指を折り曲げ、悟の腹側を探る。悟が狼狽して思わず顔の前から腕をどかした。困惑した目が傑を捕らえる。
 男同士での経験はないし、悟と一線を越えるのもまずいと分かっていた。にも関わらず、男とセックスする方法を調べていた。一線を越える気が、実は根底にあったから。自分ではそれを否定し、蓋をし、見ないふりをしていただけだ。だから腹の内側ある前立腺を刺激されると快感を得ると、傑は知っていた。前立腺を探し当てられるかどうかは、経験がないので分からない。
「すぐ、る♡……も、もう、ゆび、いいから、」
「……よくないだろ。悟に痛い思いをさせたくない」
 早く挿入をねだるような口ぶりだが、多分悟は早く挿れて欲しい訳じゃなく指で内側を擦られる違和感に耐えられないだけだ。分かっていても理性がぐらつく。必死で下腹の疼きに耐えながら、折り曲げた指で穴の中をぐぷぐぷと探った。
「あ、ッあ……♡♡すぐ、――ッん゛♡あ♡♡待って、」
 こり、と硬いしこりのような場所に指先が触れた途端、ビクッ♡と悟の腰が大きく跳ね、声が裏返る。もしかしてと、しこった部分をこりこりと引っ掻いてみる。何をされたのか分かっていないような顔をして、ビクッ♡ビクッ♡と腰が淫猥に揺れる。どぷっ♡と溢れ出た先走り汁が悟の腹に透明な水溜まりを作った。
「や゛ッ♡あ、あ゛ッ♡♡そこらめ゛♡♡♡やら゛♡♡♡しゅぐう、」
 どう見てもだめではないのに戸惑っていやいやと首を横に振るから、指の腹で思い切りぐりぐりと捏ね回した。何度も、しつこく。指で挟み込み、捏ねる。襞がきゅんきゅんと指に絡み付いて、悟が震える手でぎゅうと傑にしがみつく。
「やだ♡すぐる待って♡♡あ、ッんあ、あ゛ッ♡やだやだ♡♡♡」
 余裕のない顔が、目の端に浮く涙が、嗜虐心を刺激する。身体の反応は気持ちいい時のそれの癖に、初めて前立腺で得る快楽を、快感だと認識出来ずに脳がバグっている。だから直接的な快感を与えてやろうと思ったのと、悟の太股の間で健気にぷるぷる揺れて蜜を零している場所を放置するのが可哀想に思えて、傑は後孔をぬぷぬぷと犯しながら悟の両足の間に顔を埋めた。髪が内股を擽る感触に悟が身を捩って抵抗する。
「すぐる、何、ッあ゛……ッ♡♡♡」
 ぬろ、と舌先を悟のピンク色の亀頭に這わせれば、悟はビクンと身を仰け反らせた。どぷりと溢れる先走り汁を、唾液と絡めて敏感な亀頭に舌で塗りたくる。がくがく身を震わせる悟の後孔に挿れたままの指で前立腺を引っ掻きながら亀頭全体をすぽりと口の中に迎え入れ、とろとろと零れる先走りをじゅる、と吸い上げる。
「あッ♡だめ゛♡らめって、すぐりゅ♡♡あっ♡あ゛ーッ♡♡♡」
 髪を、悟の長い指がくしゃりと掴む。傑を引き離そうとしたのはほんの一瞬で、じゅる♡じゅぷ♡と唾液の音をさせてきつく吸い上げて喉の奥まで咥え込むと、口の中の快感を必死に貪ろうと悟はぐっと腰を前に突き出した。可愛かった。されるがままで、言葉と裏腹にねだっているのが。淫らで可愛くて、自分だけのものにしたい。
 追い打ちを掛けるようにじゅるじゅると吸いながらぐり♡ぐりゅっ♡♡としこりを擦る。指にきゅうきゅうと吸い付く粘膜を撫で、前立腺を虐めながら少しずつ奥まで指の形を覚え込ませる。ビクン♡ビクン♡と悶えながら、悟が今度こそ力の入らない腕に必死で力を込めて傑を離そうとする。
「あひ♡♡♡あ゛ッ♡しゅぐう、も、いっしょにするのらめ゛……っ♡♡俺、もぉ、イきそ、だから、」
 イくから、出るからフェラをやめろという意味らしい。
 別に、気にしない。むしろ悟のだったら飲みたい。そして飲まれるのを悟が嫌がるから、余計に飲みたい。
 だから悟の訴えを無視してじゅぽじゅぽと下品な音を響かせながら性器を吸い続けた。根元まで咥えて、窄めた唇で竿を擦りながら口から全部出る寸前の浅いところまで出して、また咥え込む。前立腺をぎゅっと押し潰すと、すっかりそこが気持ちいい場所だと覚えてしまった悟の身体が大きく跳ねた。
「や、だ……っ♡も、出る……ッ♡♡」
 熱く粘り気のある白濁がどろどろと口の中に放出された。口一杯に広がる味は苦くて青臭くて、決して美味くはない。だが悟の精液だと思うと興奮する。茹だったみたいにくらくらして、一滴も漏らさず飲みたくなる。
「んッ♡あ、あう♡♡あ゛ッ……♡♡」
 嚥下するとどろどろと喉の奥に貼り付くみたいだった。味も舌触りも不快な筈だが、さとるの、というだけで、味も舌触りも気にならない。量が多過ぎて口の中に収まり切らずにぼたぼた垂れてしまうのが惜しい。
「ば、か……っ飲むな、って、」
 搾り取るようにじゅ、と吸い上げると、悟はぴくぴく震える性器の先から僅かな精液の残滓をぴゅ♡と吐き出させて、ぐたりと弛緩した身体を布団の上に投げ出した。ずろりと口から引き抜くとまた精液が垂れた。三本埋めていた指も引き抜くと、反動のように悟の身体がぴくんと跳ねる。
「大丈夫? さとる」
「……」
 気まずそうに、悟はまた腕で目元を隠してしまう。大事な部分は丸見えなのに。目の方を隠したいらしい。
 少し、ぶっ飛ばし過ぎたかも知れない。勿論下半身はぱんぱんで痛いくらいだが、だからといって身勝手に悟の中に埋めようとは思わない。自分のは勝手に自分で処理するとして、悟にはこのまま寝て貰えばいい。疲れただろうし。
「もう寝ようか。お休み」
「……待てよ、」
「……え?」
 ティッシュで手と口元を拭い、電気を消そうと立ち上がろうとしたところで浴衣の裾をぐっと掴まれた。こういうの、前にもあったな、と既視感を覚える。デジャヴ。
 振り返れば、起き上がる気力もないのかぐたりと寝そべったままの悟の目がこちらを見上げている。気怠そうな表情から、色気がダダ漏れになっている。こんな悟、誰にも見せたくないと強く思った。
「オマエはまだイッてない、だろ」
 怠そうな目が傑の下着を押し上げているものに向けられる。悟の声が掠れているのも、余計に色気を増幅させている。これ以上、その色気で無意識に誘惑しないでくれと思う。
「私はいいから。自分で適当に抜くし」
 苦笑して悟の手を浴衣から外そうと手を伸ばした瞬間に、その手を悟の反対側の手にぐっと掴まれ乱暴に引っ張られた。何処にそんな力が残ってたんだよという力で。不意打ちを食らってバランスを崩すと、また仰向けに転がされてその上に悟が乗っかって来た。何だか、上に乗られてばかりいる。
「挿れろよ。その為に準備したんだから」
 恐ろしく真剣な目が傑を見下ろすから、何も言えなくなる。同時に悟のその台詞の所為で、適当に処理しただけでは収まりそうにない。悟はよく傑のことを誑しだと言うが、悟の方こそ、その台詞は誑しじゃないのか。
「ねえ悟、それ以上煽らないで」
「煽ったらどうなるんだよ?」
 ふ、と悟が妖しく微笑んで、傑の下着に手を掛けた。浴衣は悟が帯を外した所為で、とっくに大きくはだけている。二人とも、浴衣を文字通り『羽織った』だけの状態で、殆ど裸だった。
「……君とセックスしてしまう」
「だから、俺はそのつもりでオマエの任務について来たんだけど」
「本気?」
「マジ」
 疑うのかよ、と拗ねたような口調の悟が傑の下着をずらした。疑っているというか、信じられない。臆病だから。悟はその気になればきっとどんな難攻不落の美女だろうが攻略出来る筈だ。よりによって自分を選ぶというのが、にわかには信じられない。  下着の中から、既に勃起してガチガチのものが飛び出す。竿が太くて血管が浮き出て、亀頭も赤黒くグロテスクだ。この前も見ている筈だが、いざこれを自分のなかに挿れるとなるとやはり臆するのか、悟が一瞬息を詰めた。土壇場になってやめると言い出すのではとまた不安になって、気付いたら悟の身体を押し倒していた。
 半回転して、形勢が逆転。これもさっきと同じだ。デジャヴ。
「……ローションだったら、俺の着替えの中に突っ込んでる」
 何も言っていないのに、悟がこちらの考えを汲んだようにぼそりと言った。自分で枕元に置いた自分の着替えの中に手を突っ込んで、プラスチックの容器を取り出す。大きめの容器に、中身はまだ半分以上残っている。どうやら本当にそのつもりだったようだと、今更ながら悟の本気を感じ取る。
 ん、とこちらに差し出すのを反射的に受け取るが、セックスするにはそれだけでは足りない。
「ねえ、ゴムは?」
「ない」
「は?」
 そのつもりだったんなら当然それも持っているだろうと訊いたのに、悟は赤い顔でぼそっと、しかし短く簡潔に答えた。唖然とする。流石にここで中断して買いに行く程我慢出来ないし、というかこの周辺に店なんてなかった気がする。  逡巡しているとやや乱暴に悟に後頭部に手を添えられてぐっと引き寄せられた。間近でこちらを見る悟の目元が、いや目元だけじゃなく顔が、赤い。
「ナマで挿れていいから」
 殺し文句だ、そんなの。本当にそのまま挿れてしまいそうになる。
「……っそれは、だめだよ」
「俺がいいって言ってんだからいいだろ、」
「でも、」
「傑」
 いい子ぶるのも大概にしろよ。
 やや苛立ったように、焦れたように悟が囁いた。自ずから足を大きく左右に開いて、後孔を見せつける。薄く笑みを浮かべて、挑発するように手をそこに近付けて、指を差し込んだ。さっきは拡げるなと言っていた癖に、自分の指でそこを拡げて、ひくつく襞を眼前に晒す。中から、さっき散々掻き回したローションがとろりと垂れてシーツに落ちた。
「挿れたいんだろ?」
「……っ、」
 くそ、と内心で吐き捨てた。
 挑発に抗える筈もなく、悟の腕を掴んで指を引き抜く。己のいきり立ったものに悟から受け取ったローションを乱暴にぶちまけた。余裕なさ過ぎだろと悟が呆気に取られているが、どう思われても構わない。余裕なんて最初からない。悟の前で余裕だったことなんて一度もない。余裕がないとバレたくないから平静を装っていただけだ。
 いい子でいるのはもうやめだ。悟とセックスしたい。していいって悟が言うんだから、遠慮なくやる。悟が悪い。こんな、いつ暴発するかも分からない欲望を内に抱えたままだった自分を煽ったのは悟だ。
 腰を掴んでぐっと引き寄せると、己の怒張の先端が、悟の入り口にひたりと触れた。柔く、ローションで濡れている。痺れるような感覚を味わいながら、腰を突き出して性器の先端を穴の中にぐぷっと埋める。やはり狭くて、圧迫感がある。悟も苦しげに顔を歪めている。
「っは、……ッ、」
「……痛い?」
「……っ痛そうだからやめる、なんて言う、なよ……っ」
 やめるべきなのかも知れない。きっとやめるべきなのだ。悟の負担のことを考えると。でも、悟の狭い穴に己の欲望をねじ込んで、みちみちと肉を割り開いて楔を埋めていくのは予想以上に快感だった。狭くてきつくて、ぎちぎちに締め付けられて、思わず感嘆したような吐息が漏れる。それに、悟が苦悶に顔を歪めて少し泣いているのも、征服欲を煽られた。
「っあ、すぐ、る……っ、」
「さとる、力抜いて」
「む、り……ッあ、待って今、ッあ……ッ♡」
 苦しそうだから、ほんの少しだけ勃ち上がっているものに手を伸ばしてやわやわと扱いた。悟はビクッ♡と腰を跳ねさせて、身体を弛緩させた。お陰で、ぬぷぬぷともう少し奥まで侵入を果たすことが出来た。
「はあ、あ゛ッ♡すぐるのちんこ、はいってる……♡♡♡」
 前への直接的な快感に悟の身体は従順に反応を示し、とろりと蕩けたような顔で悟がいやらしい実況をするから、傑の性器は悟の中で余計にぶわりと膨れ上がった。いきなり増した質量と圧迫感に悟が目を見開いて息を呑んだ。
「ちょっ、と、オマエ、縮めろよ……!」
「……それは流石に無理」
 先走り汁を絡めてくちゅくちゅと前を扱きながら、少しずつ悟の内側を暴いていく。反り返ったものの先端で前立腺を探り当て、硬くしこったままのその場所を、亀頭でこりこりと捏ねる。途端、悟の身体がビクンッ♡と大きく仰け反った。
「あ♡や……ッ♡♡しゅぐ、ッあ゛っ♡♡そこ、らめ゛、」
 ごり♡ごりゅ♡と容赦なく押し潰すようにして捏ねながら、濡れた亀頭に指の腹を這わせる。悟は一緒にされるのが好きなのか、とろとろと先走り汁を零しながらぎゅうと傑にしがみついた。中がきゅうっと収縮して、切なげに傑の竿を締め付けている。
「ッあ、あ゛ッ♡すぐ、ッひいッ♡♡♡らめって、あ゛ッ♡」
 膨らんだ場所を執拗に押し潰し、カリ首でずりずりと擦り上げる。腰を動かす度、ローションと内壁と性器とが擦れてぐちゅ♡ぬちゅ♡ぬぷ♡と卑猥な音が耳の鼓膜を犯した。ぴたりと性器に吸い付いて、襞が収縮を繰り返し奥へ誘い込もうとする。その身体の反応を嫌がるように、戸惑うように、悟が弱々しく首を横に振った。
「待って、ッすぐる♡♡俺ぇ、またイきそ、んっ♡あ、あ゛っ♡♡♡」
「イッてよ」
 ぐぐ、と更に奥へと怒張を埋め込みながら、身を寄せて耳元で囁く。悟はひぐ、と息を詰まらせたような音を喉から出しながらぷるぷると頭を振って拒否した。
「や、だあ……ッ♡すぐるも、一緒に、」
 イこ、と酷く甘く切羽詰まった声が悟の綺麗な唇から紡がれる。頭の奥が沸騰して、腰の奥にどろどろと熱いものが溢れる。本能のまま、更に深い場所で繋がれるように腰を前に突き出した。
「あ♡あッ♡♡♡あ゛ー……ッ♡♡♡♡」
 びゅる♡と悟の性器から白濁が飛ぶ。同時に、悟の中に大量の精子をどくどくと注ぎ込んでしまった。早漏ではないつもりだったが、今までのセックスよりも早過ぎる。濃くて粘り気のある精液が勢いよく出て、しかもなかなか止まらない。
 ビクッ♡ビクッ♡と腰を震わせながら、悦楽に染まった顔で悟がすぐる、と舌足らずに呼んで手を伸ばすから、求められるままにキスをした。精をたっぷり腹の中に注ぎ込みながら舌を突っ込み悟の口内を貪る。まだ微かに悟の精液の味が残っているのを、悟に味を覚え込ませて記憶に刷り込むみたいで興奮した。
 舌を絡ませ、吸い、上顎をなぞる。じゅぷ♡と唾液の音が響くくらい、くちのなかが二人分の唾液で溢れる。
「ん♡ふう、う♡ん……ッ♡」
 ぷは、と口を離せば、悟は息を止めて水の中に潜っていたみたいに荒い息を繰り返した。唾液が糸を引いて唇同士を繋ぎ、悟の開いたままの口の端からつうと垂れた。
「は、あ……っ♡すぐる、すき……♡」
 蕩けたような顔で、譫言のように悟が言う。繋がったまま、己の性器がまたむくむくと頭をもたげる。全然萎えないし、全然足りなかった。汗で濡れた悟の前髪を梳いて、頬を撫でる。イッたばかりで敏感になっているのか、悟は頬に触れただけでもぶるりと身を痙攣させた。
「……私も」
「……すぐるも、俺のことすき……?」
「うん。すき」
 顔を赤くした悟が嬉しそうにへにゃりと微笑む。可愛いし、大切にしたいと思う。それなのに、己の内に飼っている凶暴なけだものが、咆哮を上げている。矛盾した思いを抱えたままで、ちゅ、とまた軽く悟の唇にキスを落とした。
「すきだよ、さとる」
 ずろろ……とゆっくり浅い場所まで引き抜いた性器を、どちゅんっ♡と今入る限界まで一気に突き入れた。てっきり全部抜け出ていくと思っていたのだろう。悟は急に何の前触れもなく襲って来た刺激と強い快感とに、がくんと仰け反って声にならない悲鳴を上げた。
「っあ゛……ッ!?」
 どうやら、悟自身が自分で解したお陰もあったのか、既にこの行為に対して痛みだけではない感覚を覚えているようだ。その証拠に、果てて萎えていた筈の性器が緩く勃ち上がり始めている。
「す、ぐる……ッ♡い、今だめ、ッひ!?」
 思わず口角を吊り上げながら、腰を引いてからまた奥へとずぷりと埋め込んだ。襞を割り開き、絡み付いて来る粘膜をずりずりと竿が擦る。悟は悩ましげに腰を揺らし、精液と先走り汁とでべとべとに汚れた性器の先端にまたたらりと透明な蜜を滲ませた。 「や……ッ♡だめって、ッあ゛っ♡♡ふあ♡あ゛ッ♡あっ♡♡♡」
「ごめんね、さとる。一回じゃ全然満足出来ない。もっといっぱいしたい」
 逃がさないように腰を掴み、ずぷずぷと抽挿を繰り返す。さっき出した精液が中で撹拌されて、粟立った音を立てながら滑りをよくするのにも欲情をより一層煽るのにも一役も二役も買っている。ぞくぞく痺れるような感覚を味わいながら腰を何度も打ち付ける。ぱちゅ♡ぱちゅん♡と濡れた音が、『今悟とセックスしている』という事実を裏打ちするかのように部屋に響いた。
「ひ♡あ、あ゛ッ♡♡すぐ、ッうあ、あ゛ッ♡」
「かわいい、さとる」
 首筋に吸い付く。ビクリと身を震わせる悟の白い皮膚に、赤い痕をつける。刻印。所有の印。雪原に咲く赤い花みたいで、綺麗だ。
「ああ♡う♡しゅぐう、ッあ゛っ♡♡♡」
 ぎゅうと悟が必死にしがみついて来るのが、可愛い。後孔が、きゅうきゅうと性器に絡み付く。離さないとでも言うように。傑の動きに合わせるように拙いながらも腰を振って、ごりっと前立腺を亀頭が掠めたり太いカリ首が出て行く時にずりずりと内壁に引っ掛かる度、先走り汁をどぷどぷと零す。腹の上に卑猥な汁が水溜まりを作っている。
 もう逃げないだろうと予想を付けて、腰から手を離してつんと勃った赤い乳首を指で摘まむ。皮膚の薄くなった部分をこりこりと捏ねれば、悟は喉を震わせてきゅっと後ろを締め付けた。
「あひ♡♡しゅぐる、っあ゛っ♡ちくび、らめ゛♡♡♡こりこり、やらあ……っ♡♡♡」
「……だめじゃ、ないんだろ、さとる」
 その証拠に、胸を前に突き出してもっととねだるような表情をする。ぐりぐりと尖った乳首を押し潰し、後ろに咥え込ませたままの楔で奥をぐりぐりと撹拌する。奥が傑の亀頭を包み込んで、きゅんきゅんと収縮する。搾り取られそうで、くらくらと目眩がした。
「あッ♡♡らめ、じゃない……ッ♡すき♡♡しゅぐりゅのちんこ、きもちいい……♡♡♡」
 綺麗な顔の男が組み敷かれ、涙と涎でべしょべしょになった顔を晒して卑猥なことを口にする。ぐ、と、歯を食いしばった。そうしないと悟の言葉だけでイッてしまいそうだったから。
「……悟さあ、何処で覚えてくるの、そんな台詞」
 快感を少しでも逃そうと詰めていた息を吐くが、殆ど意味を為さない。
「私以外には絶対に言わないでよ」
 悟の片足を持ち上げて、肩に乗せた。そうするともっと深くまで繋がれて、もっと深い場所まで入れそうで、挿れても大丈夫そうかと悟の顔色を窺う。指摘されて相当恥ずかしいことを口走ってしまったと今気付いたみたいに、決まり悪そうに目元を赤くして目を逸らしている。言葉も上擦った声も他人に聞かせたくないが、この表情も絶対誰にも見せたくない。独占欲と、嫉妬でどうにかなってしまうだろうから。
「……んなの、言う訳ねえだろ」
 オマエだけだっつの。
 ぼそりと、聞き漏らしてしまいそうなくらい小さな声で呟く。
 オマエだけ。優越感を覚えるし、独占欲を満たされる甘言だった。全身に行き渡る甘い毒みたいだ。
 自分にだけ、悟はこの行為を許している。受け入れている。そんな健気なことを言われたら、ますます絶対に誰にも見せたくなくなる。――酷くしてしまいそうになる。
「好き。悟」
 これまでで一番深い場所まで勃起を押し込んで、悟のなかを犯す。踏み込んで蹂躙する。高揚感と興奮とが、頭の中でスパークする。
 ごりゅっ♡ごりっ♡ぐりゅっ♡♡♡ぐぷっ♡
「ッあ゛……ッ!?♡はあ、あッ♡♡すぐる♡いく♡いくいく♡♡♡」
 ビクッ♡ビクッ♡ビクッ♡ビクン♡♡♡
 どぴゅっ♡びゅるるるる♡♡♡
 上擦った声でいくいくと宣言しながら、悟が濁った精液を吐き出した。片足を肩に乗せられている所為で、性器の先から飛んだ精液が悟の綺麗な顔にびしゃびしゃと掛かっている。それを見ながら傑も奥にびゅるびゅると精液を注ぎ込んだ。
「あッ♡♡あつい♡腹んなか、あついい……ッ♡」
 譫言のように言う悟の頬や唇に悟自身の精液が貼り付いていて、エロい。綺麗な顔が汚れる様は、きたなくてきれいで、背徳感が溢れていた。セックスする度に悟にセルフ顔射させるという変な性癖に目覚めてしまいそうだ。
「私も。さとるのなか熱くて気持ちいいよ」
 二回出した傑の精液で中がどろどろで、イきながらも後ろまで締め付けていて、抜きたくないなと思ってしまうくらいには、熱くて気持ちいい。でも、射精が終わって少し息を整えてから、ずるりと性器を引き抜いた。
「っあ……♡すぐる、」
 名残惜しげに名を呼ばれるから、甘やかすように頬を撫でた。悟は気持ちよさそうに目を細め、頬を手の平にすり寄せる。気まぐれな猫みたいだと思った。
 ぐたりと弛緩して布団の上に寝そべる悟の後孔は傑の性器によって拡張され、すぐには閉じない。ひくひくと媚肉を蠢かせながら、どろりとした白濁液をシーツの上に逆流させている。それを見ているとまた突っ込んでぐちゃぐちゃに掻き回して何度も種付けしたいという衝動が頭をむくむくともたげて来るが、欲望を押し殺し、このまま寝てしまいそうに両目を閉じた悟の頬から手を離した。
 ティッシュを数枚掴んで、悟の顔に掛かった悟の精液を拭う。
 己の歪んだ願望を全て悟に受け入れて貰おうとは、今は思わない。受け入れて貰えずに手に入れた傍から失ってしまうのは、辛いだろうから。
 その代わり、少しずつ少しずつ、悟も気付かないうちに徐々に外堀を埋めるように受け入れて貰えないだろうかと考える。悟が思っている程、傑は優しくはないし、常識人でもない。仄暗い欲望を抱えたけだものだ。でも今はまだ、常識人のふりをしていないといけない。嫌われてしまうだろうから。
 後で風呂に入らせないとと思いながらはだけた浴衣の前をとりあえず悟に被せて、冷蔵庫の中から飲み物を取ろうと腰を浮かせる。と、不意に腕を引かれて進行を阻止された。振り返れば、寝たと思っていた悟が目を開けてこちらを見ている。
「……さと、」
「なあ、別にもっと酷くしても俺は構わねえんだけど」
「え?」
 寝てていいよ、という言葉は、悟が薄らと微笑んで口にした言葉への衝撃の所為で、喉の奥に押し込まれた。呆然とする傑に向かい、悟はシーツに寝そべったままでゆるりと小首を傾げる。愉しそうに。
「オマエは優等生ぶったクズの癖に、変なとこで臆病だよな。ほんとは俺のこと、ぐちゃぐちゃにしたいんだろ?」
 見透かすような瞳に、妖艶に弧を描いた唇に、理性がぐらつく。
 ――そうだ。悟は親友で、二人合わせて最強で、そして、傑が優等生のふりをしたクズだということは、とっくに悟にバレている。悟はそれも含めて受け入れると言っている。まるで、ぐちゃぐちゃにされるのを望んでいるみたいに。――望んでいる、のだろうか。これまでの悟の態度から推測するに、望んでいる可能性が高い。
 ここで行為を続行するのは、挑発に乗ったみたいで癪だ。でも、悟をぐちゃぐちゃにしたいのは事実だ。
 欲望と理性とを天秤に掛け、理性を取る。冷蔵庫から水のペットボトルを二本取って来て一本を悟に渡すと、悟は「あれ? 意外」と面白そうに言った。
「今は優しくするよ。好きな子に優しくしたい気持ちもあるから」
「『今は』って、物騒過ぎてこええんだけど」
 悟が笑う。優しくされなくなった後を期待しているみたいにも見える。
 今は、理性を取る。優しくした後で酷くする方が燃えるだろうし。
 お楽しみは後に取っておく方が、きっと愉しい。

【完】