2

 悟の声が、顔が、脳裏に焼き付いて離れない。いつもの悟の、ではない。いつもの傲慢で、破天荒で、他人に対して興味もなさそうな無表情の癖に、傑と話す時だけは生き生きとしている悟の表情ではなく、昨日の倉庫での罰ゲームの時の悟だ。
 いつもの悟も勿論可愛いのだが――、いや、何を言っているんだ私は、と、己の思考の暴走に終止符を打とうとする。悟は親友だ。可愛いだなんて、気になる異性に対して使う形容詞だ。呪術界最強と称される男に使う言葉ではない。
 ……とはいえ、悟は可愛い。可愛いと前から思っていた訳ではない。むしろどちらかというと『綺麗』だろう。悟に対して『かっこいい』や『綺麗』と容姿を褒める人はこれまでの任務で出会った人々の中にも大勢いたが、『可愛い』と言う人は見たことがない。だがそれは個々の主観だ。傑の主観では、悟は可愛い。可愛いと気付いてしまった。
 最初は愛想もなくて、顔だけは綺麗だが作り物みたいだと思っていた。仲良く出来ないんじゃないかと不安を覚えた。でも悟はよく喋るしよく笑う。甘い物を食べて幸せそうにしているのも、傑のことだけを慕ってついて来るのも可愛い。その可愛い悟の、今までに見たこともない顔と聞いたことのない声との所為で、平静を保てなくなってしまった。
 昨日の倉庫でのことが、頭から離れない。ほんの軽い気持ちで持ち掛けた勝負と罰ゲームだったのに。あの一件の所為ですっかり寝不足だ。昨夜は流石に気まずかったのか、ほぼ毎日のように傑の部屋に遊びに来ていた悟が部屋に来なかった。部屋に一人でいると余計に記憶を反芻してしまって、その記憶をネタに自慰をした。今までにしたどの自慰よりも興奮した。などということは、死んでも言えない。墓場まで持って行かなければならない秘密だ。
 もはや、思考に終止符を打てなくなっている。寝れなかった所為で早く来すぎた一人きりの教室で、傑は溜息を吐いた。
 悟と会ったら謝ればいいのか、それとも昨日のあれをなかったことにすればいいいのか、分からない。悟の出方次第でこちらの反応も変えるしかないように思われた。そんな臨機応変な対応が自分に出来るのか、自信がない。
 怒っている、だろうか。充分有り得る。悟はプライドが高いから。あんな姿を見られて、屈辱と感じているかも知れない。
 もしかしたら悟のことだから、案外全く気にしていない可能性もある。気にし過ぎて悶々としているのはこちらだけ、というパターンだ。それが一番いい。今まで通り、親友を続けるのだ。昨日の倉庫での件は、互いに二度と話題に出さないようにして、忘れる。
 なかったことにする。一番いい解決策の筈だ。なのに、ずきりと胸が痛んだ。まるでなかったことになんてしたくないみたいに。  がら、と教室のドアが開いた。
「ういーっす……ってあれ? 硝子は?」
「あ、……お早う。硝子はまだ来てないよ」
 ドキッと心臓が派手な音を立てた。動揺を顔に出さないように注意しながら、顔を上げる。教室の入り口に立っている悟を見て、真っ先に可愛いと思った。末期だ、完全に。
 サングラス越しに傑と目が合うと、悟が微かに動揺したような気配があった。ボッ! と音が聞こえそうな程急に悟の顔が真っ赤に染まるのを見て、傑はぽかんと口を開けた。思わずまじまじと悟の顔を見つめるが、悟はさっと視線を逸らしてしまい、傑と目を合わせようとしない。「あ、そう……」と極小さな声で呟くように言って、のろのろと傑の右隣の席に腰掛ける。その間も、悟の顔はやたら赤いままだ。あまりにも予想していなかった悟の態度に戸惑ったまま、傑は謝るべきなのか、普段通りにするべきなのか決めかねていた。気まずい沈黙が漂う。
 怒っている訳ではなさそうだが、悟の態度は明らかにおかしい。やっぱり、昨日のことを気にしている。でなければ彼がこんな風に挙動不審に陥る理由がない。
「……さとる、昨日、」
「あっっっっ! 俺猛烈に腹痛くなってきたからうんこ行くわ!!」
 意を決して謝ろうと口を開いた途端、悟がガタッと椅子の音をさせて勢いよく立ち上がった。やたらと大声で綺麗な顔におよそ不似合いな下品なことを口にして、傑が止める間もなく大急ぎで教室を出て行く。ドアを開けた途端、危うくまさに教室に入ろうとしていたらしい硝子とぶつかりそうになっている。
「っと、五条?」
「うんこ!」
「……はあ? 失礼だろ」
 悟の宣言に硝子が思い切り顔をしかめた。うんこ扱いされたと勘違いしているらしい。悟は弁明すらせず、猛ダッシュでトイレへと駆けて行った。それを眺めた後、硝子が教室に向き直る。
「何あれ?」
「……さあ」
 昨日倉庫でかくかくしかじかと説明する訳にも行かず、傑はすっとぼけたふりをしようとしたが思わず硝子の鋭い眼光から目を反らしてしまった。多分、眼光だけでなく勘も鋭い硝子に何かがあったと勘付かれてしまった気がする。


 その後も、悟は終始朝と同じ調子だった。ぎくしゃくしていて、傑と目を合わせない。悟と気まずくなるのが嫌だから謝ろうとすると逃げる。
 その日が終わる頃には、硝子だけでなく後輩の七海と灰原にも何かあったとバレてしまった。ただし三人とも全く深刻には考えておらず、七海はまたかとうんざりしたような表情だったし灰原は好奇心丸出しだったし硝子に至ってはにやにや笑いながら「夫婦喧嘩?」などと訊いて来る始末だった。夫婦じゃない。
 とにかくこのまま悟と話も出来ないのは嫌だと思って夜に悟の部屋を訪ねたが、居留守を使われてしまった。徹底的に避けられている。謝ろうにも、その機会すら与えて貰えない。そんなに嫌われてしまったのかとショックで、傑はがーんとなりながらすごすごと自室へと引き上げた。
 悟がいない自室は、悟が自室にいないのが普通の筈なのにがらんとして寂しかった。悟がいるのが当たり前になっていた。いないと、寒々としていた。
 だから、数日後の夜に悟の方から部屋を訪ねて来た時は驚いた。


 部屋で任務の報告書を書いているとノックの音がして、誰だろうと思いながらドアを開けた。次の任務は灰原と一緒の予定だったので、真面目な灰原が任務について質問しに来たのだろうかと思った。が、廊下に立っていたのは悟だった。
「っさ、悟?」
 驚いて声が若干ひっくり返ってしまった。寂しさのあまりついに幻覚でも見たのかと、自分の目を疑ってしまったくらいだ。
 悟が俯きがちに視線を下げて部屋の前に立っている。制服姿ではなく白い半袖とジャージ姿で、入浴から時間が経っていないのか、髪が少し濡れていた。ドライヤーで乾かさないと風邪引くよと何度も注意しているのに、悟は面倒だからと髪を乾かそうとしない。仕方ないから二人とも寮にいる時は傑が乾かしてやっている。傑にドライヤーを当てられている間だけ、悟は大人しく座っている。のだが、何日もまともに話していないのに急にドライヤーを頼みに来たとは考えにくい。
「どうしたの? とりあえず入る?」
 立ち話をしていると灰原に見つかって質問責めに遭うかも知れない。傑は悟の腕を引いて部屋に招き入れた。ベッドに悟を座らせるが、悟は何も言わない。どうしたものかと思いながら、傑はそっと悟の隣に腰掛けた。悟が少しでも嫌がる素振りを見せれば離れようと思っていたが、悟は小さく肩を跳ねさせはしたものの、逃げなかった。
「さとる、どうしたの。何か用があったんじゃないの」
「……」
「……やっぱり怒ってる?」
 相変わらず口を開こうとしない悟の顔をそっと覗き込むが、悟はふいと顔を背けてしまった。あからさまな反応にまたがーんとショックを受ける。やっぱり怒っているのか。でも怒っているなら、何故わざわざ部屋に来るのか。それに悟が頑なにこちらを見ないから、悟の顔も見ずに謝るのは嫌で、謝る機会も永遠に訪れそうもない。埒が明かない。
「飲み物取って来るね」
 苦し紛れにそう言って立ち上がろうとすると、くいと服の裾を引っ張られた。振り返れば、悟は俯いたままでぼそりと何か呟いた。声が消え入りそうな程小さくて、聞き取れない。
「え?」
「……て、」
「ごめん。聞こえない」
 悟の方へ少し顔を近付ける。悟の六眼がおずおずと傑を見た。久しぶりにまともに目が遭って、トク、と心臓が鳴った。思い出すべきではないのに倉庫であったことをまた思い出しそうになって、慌てて記憶を頭の片隅に追いやろうとする。ところが悟自身が、傑のその努力を無駄にするような爆弾発言をした。
「……もう一回、くすぐって……」
「……………………………………えっ……?」
 思わず数秒間固まった後、間抜けな声を発してしまった。聞き間違いだろうか。ついに自分に都合の良い幻聴まで聞こえるようになってしまったのだろうか。だが、悟は恥ずかしそうに頬を赤らめて目を伏せた。傑のベッドのシーツを見つめたまま、目が不安げに揺れる。聞き間違いではないみたいに。
 何で、悟がそんなことをねだるのか。――決まっている。この前のが、気持ちよかったからだ。本能に抗えず、いや抗おうとしてずっと傑を避けていたのに、やっぱり忘れられなくてもう一度して欲しくなったのだ。
 むくむくと胸の内で湧き上がるのは、愛しいだとか可愛いだとかそんな綺麗な感情ではない。前も感じた、醜い激情。悟を、この綺麗な生き物を、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。どろどろに甘やかして籠絡して、もっと、擽られるだけじゃなく、違う種類の快感も教え込ませたい。自分の色に染め上げて……穢してしまいたかった。
 親友に抱くには不健全過ぎる感情に、もはや蓋をしようという気もなく、傑は手を伸ばして悟の頬に触れてみる。頬は熱く、悟はビクリと身を竦ませた。そのままするすると手を耳の方へ移動させ、耳朶をすりすりと撫で擦る。悟は益々顔を赤くして、鼻に掛かったような甘ったるく掠れた声を上げた。
「ん……ッ♡」
「悟さあ、もしかして、ずっと私に擽られたかったの? でもそんなこと頼む勇気がないから、私のこと避けてた?」
 もう一方の耳に、ぬるく湿った息と共に低い声を吹き込む。この前も悟は耳が弱いと思ったが、案の定彼は耳元で喋るだけでビク♡ビク♡と肩を跳ねさせ、耳まで真っ赤にしてぎゅうと皺が寄るくらい強くシーツを握った。シーツじゃなく私に掴まればいいのに、と少し面白くない気分になる。
「ちが、う……っ♡待って、」
「違う? 擽ってって頼んで来たのはそっちだろ。擽られると気持ちいいんだろ?」
「あ゛ッ♡はあ、あ゛ッ♡ひひ、しゅぐ、ッあ♡♡」
 こちょ、と無防備な脇腹を擽ってやれば、悟はびくびくびく♡と身を跳ねさせて悦んだ。軽く肩を押しただけで、あっけなくベッドにどさりと仰向けに倒れ込む。
 敏感過ぎるし、チョロ過ぎる。あまりにも簡単に反応するから、大丈夫なのかと心配になるくらいだ。
「う、あ゛っ♡あひ、ひん゛ッ♡♡や゛……ッ♡すぐりゅ♡ひあ、あ゛っ!」
 悟に覆い被さって、こちょこちょこちょこちょ、と容赦なく脇腹や脇の下を擽る。暴れる悟の身体を押さえつけて、しつこく擽る。悟は壊れた玩具みたいにビク♡ビク♡ビク♡と何度も身体を跳ねさせて、両目の端に涙を浮かべていやらしい声を出している。その声が鼓膜に届く度に腰の奥がじくじくと妖しく疼く。白い肌が上気して、額や首筋に薄らと浮いた汗を舐めたいという衝動に駆られた。
「擽られるのが気持ちいいなんて、悟って実は変態なんじゃない?」
「や♡あ、ちがう、ッん♡あ゛ッ♡」
 擽って欲しいとねだったのは悟の方の癖に、擽られるのが気持ちいいのは認めたくないらしい。強情にぷるぷると首を横に振るから、執拗な擽りで既に緩く勃ち上がっている悟の中心をぐりっと膝頭で擦ってやる。思わず傑の腕に縋り付いて、悟が悲鳴のような嬌声を上げた。
「あ゛ッ♡あーっ♡♡らめ゛♡あ゛ッ♡やだぁ゛……ッ♡♡」
「勃たせてるのに、嘘つくのやめたら」
「んッあ、あっ♡♡♡も、ぐりぐり、らめえ゛♡しゅぐ、ッはひ♡ああ゛っ♡♡」
 これもう声、部屋の外に聞こえてるなと思いながら、ぐり♡ぐりゅっ♡と膝で悟の性器に刺激を与える。性器はあっという間にガチガチに勃起して、硬い感触が膝に伝わる。悟は嫌がるようなことを言う癖に、蕩けたような顔で腰を動かして性器を膝に擦り付けている。説得力ゼロだ。
 口角が持ち上がってしまう。可愛いし、もっと虐めたい。
 声が可愛いから、もっと聞きたいと思う。でも、自分以外には普段の悟と掛け離れたこのいやらしい声を聞かれたくないと思う。でも、聞かせたいとも思う。悟がこんな声を出しているのは自分の所為だと、悟にこんな声を上げさせることが出来るのは自分だけだと、マウントを取りたい。でも同時に誰にも聞かせたくない。でも聞かせたい。困ったジレンマだ。
「すぐ、ッん♡んう、ぐ……ぅ♡♡♡」
 唇を塞いでいる間は誰にも声を聞かれなくて済むかなと思って、キスしてみた。唇が柔らかくて、思った以上に心地良い。驚いたように身を硬直させる悟が目を見開いたままなので、至近距離で思い切り目が合った。柔い唇に軽く歯を立ててみれば、悟の身体から力が抜ける。唇の間に少し隙間が出来たのを見計らって舌を差し込み、悟の舌を絡め取る。ぢゅ、と吸い上げれば、悟はぎゅっと目を閉じて小刻みに身体を震わせた。
 腰の奥が熱くてじんじん痺れる。酒に酔ったみたいに、頭もぼんやりする。キスしながら悟のシャツの下に手を差し入れると、汗ばんだ肌がしっとりと指先に吸い付いた。理性が焼き切れそうだと思った。
「んっ♡う、う、」
 じゅる♡じゅぷ♡と水音をさせて悟の舌を吸い、濡れた舌の粘膜同士を擦り合わせる。唾液が悟の口内に溜まって、口端からシーツへ伝う。自分のと悟のが混じり合った唾液。ぞくぞくした。
「はふ、ッん♡ん゛、」
 悟が苦しげに呻いて傑の肩を何度も叩いた。息苦しさと快感とが混じり合ったような、涙の浮いた目がやめろと訴えている。顔が赤いのは恥ずかしいからだけでなく、酸素を欲しているのかも知れない。鼻で息すればいいのにと思うが、キスの経験もないお子ちゃまにはそれが分からないのだろう。
 仕方がないからキスをやめた。透明な唾液が唇同士の間で糸を引くのに劣情を煽られて、またキスしたくなった。悟が恨みがましい目でこちらを見上げて、でも目が合うとすぐに目を逸らして、困惑した表情で手の甲でごしごしと濡れた唇を拭ってしまう。
「傑……、何で、」
 折角残した自分の痕跡を消されてしまうみたいで気に食わない。だからまたその唇を塞いでしまおうかと思ったが、声も聞きたいと、再びジレンマに陥る。少し迷った末に、悟の剥き出しになった白い首筋に唇を寄せた。汗ばんだ肌に吸い付いて、吸い上げる。悟が微かに痛みを覚える程度には、強く。
「あ、ッ痛い、すぐる、ッあ……っ♡」
 びくりと跳ねる悟の身体をベッドに縫い付けたまま、シャツの中に潜り込ませていた片手で素早くシャツをたくし上げた。唇を首筋に滑らせ、鎖骨の辺りに舌を這わせる。同時に素肌の上で指先に触れたこりっとした小さな粒を、摘まみ上げる。慣れない場所への慣れない刺激の筈なのに、擽られた所為か異様に感度の鋭くなった悟の身体がビクンッ♡と震える。
「――ッや♡あ♡待って、あ゛ッ♡」
 摘まみ上げた小さな乳首を二本の指でこりこりと捏ねる。鎖骨の上の皮膚もじゅるっときつく吸い上げて鬱血痕を残してから、傑は剥き出しになった反対側の乳首にぬろりと舌を這わせた。薄い胸板の上で、薄桃色の小さな乳首が慎ましやかに存在を主張しているのが、卑猥に見える。極小さな粒なのに、ここを開発して大きくしたらどうなるんだろうと考えると、口内に勝手に唾が沸いた。
「す、ぐう♡♡♡あ゛ッ♡ひ♡や、あ゛……ッ♡♡」
 ビク♡ビク♡と腰を跳ねさせながら、悟がいやいやと首を横に振る。けれど、本気で逃げようとはしない。悟はその気になれば、傑を拒むことだって出来る筈だ。無限を発動させればいいのだから。それをしないのは、親友である傑に義理立てしているだけなのか、実は気持ちいいから続けて欲しいのか、――傑には悟の本心が分からない。でも、身体の反応は、止めて欲しくなさそうに見える。
「悟、乳首弄られるのも気持ちいいの? マゾ?」
「やあ゛ッ♡んッ♡ちがう、ってぇ゛っ♡♡あ、あ゛っ♡♡ひい゛ッ♡♡♡♡」
 爪でかりかりと引っ掻いて、ぷくりと膨らんで来た粒を今度は指の腹でぐりっと押し潰す。反対側にも痛みを与えるように軽く歯を立てた後で、舌でぐりぐりと全体を舐め、尖って来たのをぢゅうと吸い上げて更に勃たせる。痛みを与えてから、甘やかす。でも、どちらの刺激を与えても悟の反応は同じだ。どちらだろうと気持ちいいみたいに、悟は快感で蕩けたような顔を晒してビクン♡ビクン♡と悦んでいる。
「あッ♡あ゛っ♡ちくび、らめ゛♡♡はあ゛っ♡んあ、あ゛っ♡♡♡」
 悟が身を捩り、上擦った声を上げながら硬くなった股間を傑の膝に擦り付け始めた。無意識なのだろうが、誘うような仕草の所為で、今すぐに犯したくなる。
 ……それは、流石に越えてはいけない一線だと思う。親友を犯すだなんて……でも、今も既に一線を越えてしまっているんじゃないのかという気もする。だったら、親友とセックスするというのも、何らおかしいことではないんじゃないか。だんだん思考が麻痺して来てありえない方向へ暴走するのは、この場の雰囲気の所為なのだろうか。悟を可愛いとか好きとか思うのも、雰囲気に充てられているだけ、なのだろうか。分からなくなって来る。
「すぐ、る……♡ッあ♡も、もう、」
 何かを訴えるように悟が傑の髪をぐしゃりと掴んだ。纏めた髪が乱れるから、髪を解きながら乳首を舐めしゃぶるのを中断した。ぬらぬらと唾液で濡れ光る乳首がぷくっと勃って存在を主張し、明らかにそこを弄る前よりも色が濃くなっている。
 震える悟の指が傑の黒髪をぎゅっと引っ張る。痛い。思わず引っ張られるままに悟の方へ顔を寄せれば、情欲の色と涙とが浮いた六眼と至近距離で目が合う。
「し、した、も……」
 悟は気まずそうに目を逸らしながら小さな声でねだった。頬が赤い。言いたいことはすぐに分かったが、大人しく彼の要望に答えてやるよりも意地悪をしたい気持ちが勝った。だから、悟が言う場所には触れずに、悟の顎を掴んで無理矢理自分と視線を合わせた。
「さとる、ちゃんとどうして欲しいか言って」
「……、」
 プライドの高い悟のことだから、流石に言ってくれないかも知れないと思った。案の定悟は顔を歪めて黙り込んでいる。だが思い切り反抗的な態度という訳でもない。迷うように視線が揺れ動いて、迷うように唇が少し開いて、また閉じた。言うのは恥ずかしいが、言ったら極上の餌が手に入るのを知っている。これは、あと一押しで簡単に堕ちる顔だ。
「言わない?」
 ぐり♡とまた乳首を捏ねる。ビンビンに勃ったそこをぐり♡ぐりゅ♡と蹂躙する。悟が力が抜けたように傑の髪から手を離した。
「ッあ♡や♡だめ゛……ッ♡♡♡も、ちくび、ばっかやだ♡ちんこも、触ってよぉ……ッ!」
「かわいい」
「くっそ、ふざけんな、ッうあ、あ、」
 思わず口角を上げて口走れば、悟がぎっと傑を睨む。その表情もこちらを煽ることにしかならないと、気付いていないのだろうか。ジャージを膝の上辺りまでずらせば、下着の布地を窮屈そうに押し上げているものが形を主張している。既に下着の生地に染みが浮いて、生地の上から軽く触れただけで、悟はビク♡と物足りないような刺激にも腰を跳ねさせた。
「すぐる♡♡……ちょくせつ、さわって♡おねがい♡」
 待てが出来ない犬のように、悟が切羽詰まった声で急かした。いつからそんな素直になったのか。いつもは喧嘩を売ったりわがままを言ったり反抗的な態度を取る癖に。目の前に餌があると大人しく従順になってしまうなんて、そんなの、……もっと泣かせたくなる。
 蕩けた声で素直にねだられると、こちらもこれ以上待てをさせられない。下着をずらすと、元気に勃起した性器がぶるりと姿を現す。この前は薄暗い倉庫にいた所為で見えにくかったが、蛍光灯の明かりの下で見る悟の性器は、悟の身体の他の部分と同じように色が白くて、露出した薄ピンク色の亀頭から先走り汁をたらたらと零している。まるで使い込まれた様子がない。ギャップにくらりとした。黙って立っていると美しく魅了されるのに、喋り出すと残念で余計に魅了される悟の外見と中身と同じだ。ギャップが酷い。
「さわってほしい?」
 つつ、と焦らすように竿に指先を這わせる。それだけでどっと透明な蜜が溢れ出て竿を伝った。意地の悪いことを訊いた所為か、悟が耐えかねたようにひぐ、としゃくり上げた。
「さわれって、言ってるだろ! 傑に扱いて欲しい、――ッん♡あ゛ッ♡♡ばか、急に、ッあ゛っ♡」
 泣き顔を隠すように腕で目元を覆ってやけくそ気味に可愛いことを言うから、竿を手で包み込んで垂れた先走り汁を塗り込めるようにして上下にしこしこと扱いてやる。悟は甘く媚びるような声を上げながら身悶えて、どぷどぷと先端から蜜を吐き出した。
「顔見せてよ」
「や、だあ゛♡すぐる♡ひあ゛♡♡♡あ゛ッ♡」
 腕を顔の前からどける。抵抗しようとするから、亀頭に親指の腹を滑らせた。剥き出しになった敏感な神経を直接嬲られるような快感に、悟の身体から力が抜ける。その隙に手首を掴んでシーツに押し付けた。片手で悟の手首をシーツに縫い付けたまま、悟の弱い部分をぐりぐりと執拗に捏ねて追い込んでいく。
「あ゛ッ♡♡だめ、だめぇ゛っ♡やだやだ♡さきっぽやだ♡♡♡」
 ビク♡ビク♡ビク♡と悟の腰が何度も跳ねて、その度に弱い場所を自分から傑の手に押し付けて自分で自分を追い詰めている。勝手に反応する身体の所為でそうなっているだけだと分かっていても、自分からねだっているみたいな淫猥な姿に下腹が痺れる。
「触ってっておねだりしたのは悟だろ」
「もぉ、そこ触んなくていい、んあ♡♡♡あ゛ッ♡やだ、」
「そんなわがままは聞き入れられないな」
 今や悟の先走り汁でべとべとに汚れた指先で小さな穴に蓋をして、抉るように小刻みに揺する。悟が涙を零しながらか細い声ですぐる、と呼ぶから、その濡れた唇にまたちゅ、とキスした。唇を食みながら、不意に手を繋ぎたいなと思ったからシーツに押し付けていた悟の手の指に己の指を絡める。悟の身体は何処もかしこも熱くて、指まで熱い。普段はそんなに体温が高くない、どちらかといえば低い方だと思うのに。こうやっていやらしいことをされている時だけ身体が熱いというのが、余計に興奮した。
「っん♡んん、んう、」
 ちゅう♡ちゅ♡ちゅく♡じゅぷ♡じゅる♡じゅぷっ♡じゅぷっ♡♡♡
 舌に吸い付いて、吸い上げて、唾液を絡めて上顎をなぞる。ぞくぞくした。もっと貪りたくなる。暴きたくなる。くちのなかだけじゃなく、悟の誰にも明け渡したことなどない場所に入り込みたい。自分で一杯にして、他の物が入り込む隙なんて一切なくして、一部の隙もなく満たして埋め尽くしたい。独占欲が膨れ上がって、収拾がつかない。
 貪るようなキスを続けながら悟の性器を擦れば、先走り汁が手の平と竿に擦れてじゅくじゅくと卑猥な水音を立てた。
「ん♡ぐ、う……ッ♡」
 肩を叩いて、押し退けようとする。殆ど抵抗になっていない。キスで力が抜けているだけでなく、本当に抵抗する気があるのか甚だ疑問だ。ただ、髪を引っ張られるのだけは痛くて無視出来ない。仕方なくキスをやめると、悟が必死な色を滲ませて傑を見上げた。
「すぐ、る♡も、イきそ、……っ出そう、」
「いいよ。出して」
 限界が近い悟の声に腰の奥がじくじくと疼くのを感じながら、射精を促すように強く扱く。気持ちよくて仕方ないみたいな顔をして身を仰け反らしている癖に、悟がぷるぷると首を横に振りながら、押さえられているのとは反対の手でまた目元を隠してしまった。
「ッあ゛っ♡♡や♡待って、見ないで、」
「……悟、顔見せて」
 見る、に決まっている。見たいに決まっている。出てるところも、イッてる瞬間の顔も、見たい。悟が見られるのを嫌がれば嫌がる程見たい。でも、片手は悟の片手と恋人繋ぎをしているし、もう一方の手で悟の性器を扱いている。今悟の目元を覆っている腕をどかしたいのにその術がない。
「さとる、」
 呼び掛けが自分でも滑稽に思えるくらい必死だった。勿論必死だ。どうしても顔が見たいから。その顔を目に焼き付けて、表情を記憶して、そしたらそれをオカズに何回でも抜けてしまいそうな気がする。
「さとる、ねえ、腕どけて」
「あ、あ゛……ッ♡や、だ、」
 くちゅ♡と、赤くなった亀頭を指先で嬲る。どっと溢れ出た先走り汁が、今や竿どころかシーツにまで垂れて、染みを作っている。ビク♡と震えながら、悟が震える声で嫌だと言う。その癖、腕をそろそろと額の辺りまで移動させてどかせて赤く染まった目元を露わにする。これ、意外におねだりするだけでいけそうだな、と確信を得た。
「さとるのイキ顔、見せて」
 低い声でねだる。困惑した表情でふるりと弱々しく首を横に振りながら、悟は大人しく腕を顔の横に移動させてしまった。行動がまるで噛み合っていなくて、思わずくすっと笑う。悟の気が変わらないうちにと手の平で竿全体を包み込むようにして、上下に擦った。ぐしゅぐしゅと卑猥な音が、腰を鈍く重く痺れさせた。
「は、……嫌、ッあ♡あ゛ッ♡♡♡イ、く、」
 悟が目を見開いて、ビク♡と腰を浮かせた。身を捩って快感から逃れようとするかのような動きをするが、本能が快感を求めているのに抗える筈もなく、蕩けたような顔で傑の手に性器を押し付けて自ずと悦楽を貪る。
 どぴゅ♡どぴゅ♡♡♡びゅっ♡びゅくくく♡♡♡
 濃く粘ついた白濁が悟の性器の先から勢いよく飛んで、悟の白い腹にぼたぼたと落ちた。飛距離があり過ぎて少し頬や唇にまで掛かっている。それすら気付かないかのように放心した顔があまりにも無垢であどけない癖に、あどけない顔に精液を貼り付けているのが物凄くエロい。
「あ、あ♡出て、う♡きもちいい、すぐる♡♡」
 素直なのが可愛い。甘えるように繋いだ傑の手をぎゅっと握り返すのが、可愛い。ビクン♡ビクン♡と腰を震わせながら、最初の勢いのいい射精が終わった後も、時折びゅ♡と精液を飛ばしているのが、可愛い。全部可愛い。
「あ、あ゛っ♡すぐるう、」
 自分の出した物で綺麗な顔を汚す悟の唇がすぐる、と舌足らずな甘い声で自分の名前を紡ぐ度、理性がぐらつく。ぐらぐら揺れて、今まで辛うじて踏み止まっていた場所が、崩れる。
「さとる、」
 駄目だと脳が警鐘を慣らすが、もう身の内に飼っている獣を黙らせるのは無理だった。
 身を起こし、ベルトを緩めて、前を寛げる。少しだけ手が震えた。緊張しているのかも知れない。でも、やめるという選択肢はなかった。
「すぐる、何、……ッえ、」
 傑が取り出したものを見て、ひぐ、と悟の喉の奥から奇妙な声が漏れた。硬直して、半ば恐怖の色が浮かんでいる癖に、そこから目が離せないらしい。
 下着の中から取り出したものはバキバキに勃起して、赤黒い亀頭からたらりと垂れる先走り汁はさながら飢えた獣の涎のようだ。悟のものと比べると、確かにまるで別物だ。
「悟、起きれる? こっちに腰寄せて、」
「なに、ねえ、」
 律儀に上半身を起こそうとするのを手伝って、その腰をぐっと自分の方へ引き寄せた。まだ完全にこの行為の意味も知らないからこその不安と困惑とが綯い交ぜになったような表情の悟の萎えたものを掴んで、自分の剛直を擦り付ける。
「――ッあ♡ちょっと、待っ、」
「っふ、」
 性器に触れる直接の感触に思わず声が漏れた。ビクリと悟の肩が跳ねて、戸惑うような目の奥に微かに情欲の熱が灯る。まるでセックスするように、腰を前後に動かして悟の性器に竿や亀頭をすりすりと擦り付けた。散々嬲って最終的にイかせたので、先走り汁や濃い精液がまだ纏わり付いたままの悟の性器と擦れると、ぬちゅ♡ぐちゅ♡と卑猥な音が鼓膜を犯す。己の先端からも蜜が滲み出て、たらりと伝い落ちて悟の体液と混ざる。悟と交わっているように錯覚して、背筋が痺れた。
「あ゛、ッあ♡すぐる♡♡♡待って、今イッたばっか♡あ゛ッ♡♡」
 射精したばかりで感度が異様に鋭くなっているのか、悟の前はすぐに硬く張り詰めて、とろりと透明な汁を零し始めた。目もとろりと潤んで、縋るように傑を見るのが可愛い。
「かわいい」
「何言って、は♡ひあ、あ゛……ッ♡♡」
 思ったことがそのまま口から出てしまった。悟は益々困惑したように眉根を寄せて、耐えきれないというように傑の肩をぎゅっと掴んだ。無意識に傑の動きに合わせるように自らも腰を振り始めて、擦り合わせる度に響くぬちゅぬちゅという音が腰を重くさせる。
「や゛っ♡あ、らめ♡♡とまんないい、ッあ゛っ♡あ゛ッ♡」
 竿を掴んで扱く。ぐしゅぐしゅと音が鳴って、ビクンビクンと身を跳ねさせながら悟が無防備に白い喉を晒して仰け反るから、その喉元にぬろりと舌を這わせた。それだけでは飽き足らず、軽く歯を立てて、吸う。痕が残るように、わざと。
「しゅぐう、……あ゛っ♡んッあッ♡♡ちんこあつい♡これぇ、きもちいい……っ♡♡♡」
「……っ一緒に扱いて」
「っうえ?」
 戸惑う悟の手を取って、合わさった二つの性器に誘導する。悟の白い手が、傑の色の濃い性器と悟の白い性器とをおぼつかない手つきで握る。二本は太すぎて全て手の中に収まりきらないから、はみ出す部分は傑が握った。倒錯的な光景だった。目が離せなくなるくらいに。
「あっ♡はあ、あ゛……っ♡♡」
 ず♡ずちゅ♡ぐちゅ♡ぬちゅっ♡♡♡
 わざと音が鳴るように悟の精液と、悟のと自分の先走り汁を絡めて上下に扱けば、悟は熱に浮かされたような表情で喘いだ。触れ合っているカリの部分が、竿の部分が、擦れて摩擦を生んで、火傷しそうだ。互いの亀頭から先走り汁がどぷっと溢れ出て、互いの体液が混じって伝い落ちる。
「す、傑……っ♡俺、も、ヤバい……っ♡うあ、あ゛ッ♡♡」
 ぎこちない手つきで傑と一緒に竿を扱きながら、ぶるりと悟が身を震わせた。扱くのを一時悟に任せて、溢れ出る先走り汁を指に絡めて悟の尿道口に蓋をするみたいにして擦り付ける。指と鈴口の隙間から、蜜がどぷどぷと零れる。
「はひ♡それ、らめ゛……っ♡♡も、またイッちゃ、」
 視線を悟の顔に向ける。悟の綺麗な目と目が合った。あどけない顔をしている癖に、どろどろの色情で濡れた目。その目の中に、今この瞬間だけは傑しか映していない。他の者は決して許されることはない程に悟に近付いて、許されはしない場所に触れている。優越感と、独占欲と、可愛いと思う気持ちと、好きだと思う気持ちと、何だか色々がごっちゃになって、収拾がつかない。
「一緒にイこ」
「う、ん……♡すぐると、一緒にイきたい……♡」
 至近距離で囁けば、悟が蕩けたような顔をして素直に頷く。またキスするか噛み付くかしたくなるが、顔も見たいし声も聞きたかったから、その欲望を押し止めた。
 一緒に、悟と擦れ合っている性器を扱く。共同作業みたいで嬉しい。ずちゅ♡ぬちゅ♡という水音の所為で、否が応にも興奮する。追い打ちを掛けるように悟が至近距離で上擦った声で喘ぐから、今すぐに暴発してしまいそうだった。
「あ゛っ♡♡あっ♡すぐる♡きもちい♡♡♡……すぐる、すき……♡」
 聞き間違いかと思った。自分が何を口走ったのかも気付いていないみたいに、悟があまりにも従順に快楽に身を任せるみたいに両目をうっとりと閉じていたから。
 本当にそう言ったのか、口に出していたとして、本心なのか確信が持てない。にも関わらず、すき、というたった二文字を聞いただけで、傑は頭が真っ白になって、欲が爆ぜた。
「……っう、」
 どろ、と濃い精液が零れて、ぼたぼたと滴る。己の亀頭から竿に垂れて、悟の亀頭にもかかる。一拍遅れて、悟の身体が痙攣したかと思うと精液をどろどろと噴き零した。白いものが混じり合って、二本の性器をどろどろに汚す。目を奪われて、目を離せない。
「はひ♡あ、あ……ッ♡♡♡いっぱい出て、ッうあ、あ……っ♡」
 ビク……♡ビク……♡と震えながら、悟の射精は長く尾を引く。傑も同じだった。熱が全然治まらなくて、熱を持て余したままで、――ぎゅ、と悟の身体を抱き締めた。とくとくと悟の心臓の音を間近に感じて、余計に火がついたみたいに、身体の熱が引かない。
 好きだと言いそうになって、下唇を噛んだ。
 言えない。臆病者だから。悟から傑への好意の意味が、傑から悟への好意と別だったら、と思うと恐い。玉砕して終わるだけじゃなく、親友という関係も終わるかも知れない。
 恐くて、一番言いたいことを言えない。